まあ短めですが、ご容赦ください。
情報屋のアルゴから提示された衝撃の情報。それはラフコフ以来となる殺人ギルドが出現したと言うものだった。
その名も、《“J”》。
アルゴは更に詳細なデータを伝えるため、ホワイトボードに5枚の写真を貼り付ける。
アルゴはまず左端に貼り付けたフード付きの男の写真を指差す。
「まずはこいつダ……お前さん達も知ってると思うが、かつてラフコフの3幹部の1人だった《ジョニー・ブラック》。
ラフコフが壊滅した後、しばらく消息不明だったんだガ……」
「ジョーカーの下に下った、と言うことか」
キリトの言葉にアルゴは首を縦に振る。
「ま、正直コイツに関してはまだ可愛い方ダ……問題は後の4人」
次にアルゴはジョニーの隣に飾られた写真を指差す。
目がやや飛び出ており、紺と紫のローブを着た不気味な男性。
「『青髭のジル』。近頃、下層で小さい子供のプレイヤーがいなくなるって言う事件が多発していてナ……どうやらコイツが関与してるって話ダ」
『小さい子供を……そんな……』
ジャンヌはかなりショックを受けた様子で、口元を両手で覆いながら呟く。
「でも、小さい子供って基本的に第一層で保護してるんじゃ……」
第一層に行った時に子供のプレイヤーと関わった経験のあるキリトが疑問符を浮かべた。
「残念ながら、第一層の子供が全てじゃなイ。未だにフィールドを彷徨ってる子供が偶にいるらしいんダ。標的になってるのは、そんな子供達サ」
「ひどい……」
サチも震えた声で呟く。
すると、
『……彼は、私が必ず止めます』
ジャンヌが毅然とした表情で告げる。
「ジャンヌ?」
『これ以上、無垢なる子供達を傷つけさせはしません』
きっぱりと決意が固まった様子でそう言う。
「じゃあ、次ダ……《ジェイソン》。見ての通り、馬鹿みたいなパワーが特徴のやつダ。お前さん達は既にやり合ってるんだったナ?」
「ああ。恐ろしいほどの怪力の持ち主だった」
一度戦ったことのあるキリトが彼との戦いを振り返ってそう答える。
「続いて、“J”の実質ナンバーツーの男ダ」
アルゴは更に隣の男の写真を示す。そこには、銀髪で赤い瞳の人斬りが写っていた。
「《ジャック・ザ・リッパー》……これまで何人ものプレイヤーを文字通り切り刻んできた人斬りダ」
その瞬間、ティアは無意識のうちにその写真から視線を逸らす。ティアにとって、ジャックは二度も嫌な経験をさせられた因縁の相手だ。
「そして最後に……この男ダ」
アルゴが最後に示したのは紫のピエロ風マスクの不気味な男。
「“J”を率いるリーダー、そして最悪最狂のプレイヤー……《ジョーカー》。コイツはオレっちから見てもかなりやばいプレイヤーダ。これほどのプレイヤーが今までどこで何をしてたのか、オイラの情報網を駆使してもまるっきり掴めナイ。ホロウエリアにいたってのは知ってるんだが……問題はその前ダ。多分ラフコフにでも居たんだろうが、何一つ情報がナイ」
そこまで説明し終えて、アルゴは一呼吸おく。
「ジョーカー……こやつだけは許さぬ」
被害にあったツクヨが恨みがましい視線でジョーカーの写真を睨む。
「このジョーカーって人、PoHとは違うの?」
サチの疑問に対し、ジェネシスが答える。
「PoHはてめぇらが思ってるような殺人鬼じゃねえ。ありゃあただのアンチや荒らしの成れの果て、俺たち攻略組やキリトを人殺しにしたいだけの小物だ。
だがジョーカーは違う。こいつは根っから狂ってるやつだ。そして何もかもを狂わせることに楽しみを感じてる。人殺しはあくまでその手段でしかねえ」
ジェネシスの言葉にキリトも頷く。
「ああ。俺もジョーカーを一目見ただけで分かった。こいつはPoHよりも遥かにヤバいやつだ。と言うか、何でよりによってSAOにこんな奴がいるんだ……」
キリトもげんなりした顔で呟く。
「さて、とりあえず主要メンバー二関してはこんな所ダ。組織の名前の由来は、この幹部達の共通点が名前の初めに“J”がつく所から取ったんだと思ウ。とはいえ、ここまで聞いたらラフコフと同じだと思うだロウ……だがそんな事はナイ。
この際だからはっきり言うゾ。“J”は恐らくラフコフを遥かに凌ぐ、史上最悪の犯罪者ギルドダ」
アルゴがそう告げると、皆は息を呑んだ。
「コイツらのヤバいところは、部下達もレベルが高いってことダ。ラフコフは部下達のレベルはそこまで高くなかったが、コイツらは違ウ……それこそお前さん達攻略組に匹敵する程の強さがあル。正面から戦おうものなら、こちらも本気で向こうを殺す気でかからないと間違いなく殺らレル」
「嘘でしょ……どうしてそこまで」
アスナがアルゴの説明を受け愕然とする。
「嬢ちゃん、こんな奴らに“何故”なんて聞いても無意味だ。重要なのはどうやってコイツらの暴挙を食い止めるか、だ」
そんなアスナを、年長者であるミツザネが諫めた。
「そこの旦那の言う通りダ。とは言えコイツらは神出鬼没……どのタイミングでどう仕掛けてくるかも全く読めナイ。だから対策のしようもないんダ……」
するとそこへアルゴの元へ一通のメッセージが入る。
「………たった今、“J”に関する新たな情報が入っタ」
皆はアルゴの方に注目してどんな情報が入ったのか聞く。
「ラフコフの元リーダー、PoHが………
……“J”によって殺されたそウダ」
ーーーーーーーーーーーー
時は数分前に遡る。
薄暗い鬱蒼とした森林の中を、1人の男がゆっくりと進む。
真っ黒のポンチョを身につけ、ボロボロの茶色いズボンを履いた男性。
彼の名は《PoH》。かつてラフィンコフィンと言う犯罪者ギルドの長だった人物だ。
「ヘッド」
すると、彼の背後から陽気な男の声が響く。
PoHが振り返ると、そこにはかつて自分の部下だった《ジョニー・ブラック》が立っていた。
「……なんだてめぇか。生きてたんだな」
「まあね!あんなので死ぬわけ無いじゃん!まだまだ俺、人を殺し足りないからさ!!」
楽しげに話すジョニーに対し、PoHは興味なさげに「ふん」と息を吐く。
「ねえ、ヘッドもどうすか?もう一回俺と一緒に人殺しやりましょうよ!!」
「俺はそんなもんに興味はねえんだよ。俺が興味あるのは……《黒の剣士キリト》と《閃光のアスナ》をどうやって殺すかってことだけだ」
PoHの言葉にジョニーは何も答えない。
そんな彼を無視してPoHは踵を返して歩き出す。
「つうわけだ。俺はてめぇらなんざ仲間だとかそんな風に思ったことはねえ。もう俺に関わるんじゃねえ、好きに生きな」
「そっかぁ〜……んじゃあ、そうさせてもらうよ!!」
瞬間、ジョニーは懐から素早く毒ナイフを取り出し、PoHに投げつける。
PoHも素早い反応で腰から《メイトチョッパー》を引き抜き、それらを弾く。
「生憎だがヘッド、俺もアンタに対して何とも思っちゃいない。いや、むしろずっとこう思ってたよ……アンタが死ぬ時、どんな顔をするのかってさぁ!!」
ジョニーはそう言って毒ナイフを手に取って斬り込む。
PoHは短剣でジョニーの突撃を受け止める。
「ほう、上等じゃねえか。だが……」
PoHはその状態からジョニーの腹部を蹴り飛ばしてバランスを崩させ、更に短剣を振り下ろしてジョニーの左腕を斬り落とす。
「残念だったな。俺を殺そうなんざ100年早えんだよジョニー」
と言ってジョニーを見下ろすPoH。
「んじゃコイツはどうだい?」
次の瞬間、背後から別の男の声がし、その背中に投げナイフが突き刺さった。
「ぐっ……!」
そのナイフには麻痺毒が塗ってあり、PoHはその場に崩れ落ちた。
「ふ……ハハッ、ヒャァハハハハハッ!!!」
甲高い笑い声を上げながら軽快な足取りでPoHに近づく紫のスーツの男性。
PoHは唯一動く首でその声がした方を見遣り、そして忌々しげにその名を口にする。
「てめぇ……ジョーカー……!」
ジョーカーはPoHの元にしゃがみ込む。
「よぉ〜PoHさん。どうだい?自分が散々人にやってきた手口を受けるって言う気分は?」
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら問いかけるジョーカーに、歯軋りしながら憎悪の表情を向けるPoH。
「ブァッハハハハハハハハハハハッ!!!いいねぇ〜いいねぇ〜いいよぉ〜!
その顔、その表情、最高だぜぇ〜!!おい、ジョニーも見てみろよ!こりゃ傑作だぜハハハハハッ!!!」
更にジョーカーは立ち上がって無抵抗のPoHを何度も踏みつけ、蹴り飛ばす。
しばらく狂ったように笑いながらPoHを蹴り、踏みつけるジョーカー。やがて落ち着きを取り戻し、先払いすると懐からサバイバルナイフを取り出す。
「PoHさんよぉ、アンタの作ったラフコフは楽しかったが……上のアンタは全然ダメ、というかクソだったなぁ。何せアンタの目的はただ攻略組の奴らを人殺しにしたいだけ、取り分け黒の剣士キリトにはご執心のようだったなぁ〜!
そんなんじゃせっかくのあの組織も宝の持ち腐れ、挙句アンタは自作自演であの組織を潰しやがった!俺が考えた楽しいP.A.R.T.Yもオジャンだ」
そして再び蹲み込んで、その顔にサバイバルナイフの刃を近づける。
「俺は違う……そんなんじゃ終わらせねえ。最っ高に楽しい組織を俺は作った。そして俺はコイツらと一緒にこれから祭りを開く」
すると周りから複数のプレイヤーが続々と現れ、ジョーカーの背後からPoHを見下ろす。それは“J”の幹部、ジャック・ジェイソン・ジル・そしてジョニーだ。
「だが残念なことに、その祭りにアンタは不要だ……そういう訳だ、グッバイだぜPoHさん」
そしてサバイバルナイフを直すと、代わりにその口に丸い鋼鉄の物体をねじ込む。
それは、時限式の爆弾。
ジョーカーは立ち上がって、そのまま歩き出す。PoHは口に爆弾を仕込まれているため何も言葉を発せず、ただ憎しみの目でジョーカーを見つめるのみ。
ジョーカー達が歩いてしばらく、遥か後方で爆発音が響く。
爆風が止み、煙と共にそこにはガラス片のような青白いエフェクトが舞っていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「PoHが死んだ?!」
「この人でなし!!……じゃねえや。いやPoHは確かに人でなしなんだがそれはいい。
その情報は本当なのか?アルゴ」
信じられない、とばかりにキリトとジェネシスが問いかける。
「ああ。頼れるやつからの情報ダ。間違い無いと言ってイイ」
アルゴは首を縦に振って断言した。
「まさかPoHが殺されるなんて……」
「普通ならザマァとか思ったりするんだろうが……何か釈然としねえな」
ティアとクラインがそう呟く。
他のメンバーも同じなようで、未だにメンバーの中では騒めきが起きている。
「これから何が始まるのかな……」
「さあな。とりあえず、奴らには十分気をつけねえとな」
ティアの言葉にジェネシスがそう答えた。
ーーーーーーーーーーーー
一方、こちらは“J”のアジト。
「さて、ジョーカーよぉ。俺たちはこれからどぉするんだぁ?」
ジェイソンが首をグリグリと回しながらジョーカーに尋ねる。
「その事なんだがな……スポンサー様からのお達しで、計画を予定より早くスタートさせろ、だとよ」
ジョーカーの言葉に一同は驚く。
「おやおやぁ。では早速、我々は行動に移った方がよろしいので?」
「Yea。そう言う訳だ……早速、仕事に取りかかってくれ」
両目をギョロギョロと回しながら尋ねるジルに、ジョーカーは頷いて皆に指示を飛ばす。
そして一同の表情に不気味な笑みが浮かび上がった。
ーーーーーーーーーーーー
〜一ヶ月後〜
現在、最前線は95層。
あれ以降、“J”の勢いはどんどん増していった。
殺人の被害者はもちろん、行方不明者が増加しているのだ。
しかしそんな中でも、最前線の攻略は続く。
その日はサチ、サツキ、ハヅキ、リーファ、エギルの5人が迷宮区に出ていた。
「ふう……こんなところかな」
「お疲れ様です、サチさん」
モンスターを撃破したサチが槍を振り払い、彼女をサツキが労う。
「…もう夕方の5時か……よし、そろそろ戻ろうぜ。夕飯の支度をしなくちゃならんしな」
「そうですね、それじゃ帰りましょうか」
時間を確認したエギルがそう提案し、ハヅキも同調して頷く。
「じゃあ、皆さん帰りましょう!オレンジに遭遇しないように気をつけて」
リーファがそう口にした時だった。
「なぁにに気をつけるってぇ〜?」
後ろから威圧感のある間延びした声が響く。
その声に聞き覚えのあるリーファとサツキは反射的に後ろを振り向く。
そこには、エギルよりも高く、筋肉質な大男が立っていた。
「じ、ジェイソン……!!」
「おぉ、覚えてくれてるたぁ嬉しいねぇ〜。だが悪いんだけどなぁ、ちょいと大人しく捕まってくれねぇかぁ〜?」
ジェイソンがそう言った直後、彼らの周りに多数のオレンジプレイヤー達が出現し、取り囲んだ。
「まさかこいつら……」
「みんな“J”のプレイヤー?!」
ーーーーーーーーーーーー
「待たせたな諸君!!」
オレンジプレイヤーが多数集う中、ピエロ顔の男、ジョーカーが通り抜ける。
そして彼らを一望できる少し盛り上がった場所に登り、彼らの方を向く。
「今晩、18時を以て────P.A.R.T.Yを始めるぞぉ!!」
ジョーカーが高らかにそう叫んだ直後、オレンジ達の間で歓喜の雄叫びが上がり始め、場のボルテージが高まる。
「聞きましたか同胞達よぉ〜!!遂に機は熟しましたぁぁ!
惰眠を貪る者達に我らの力、存分に示しましょうぞおぉぉ!!!」
オレンジの男達に向けてジルがそう鼓舞した事で更に場が盛り上がる。
ーーーーーーーーーーーー
七十六層アークソフィア
「遅いな、リーファ達……」
その頃、キリト達はアークソフィアの宿屋でリーファ達の帰りを待っていたのだが、中々帰って来ず心配そうに座る。
メッセージを飛ばしても、何も反応がない。
「ま、ちょいと寄り道でもしてるんじゃない?」
イシュタルが軽く笑いながら告げる。
しかし皆の表情は深刻な面持ちだ。ただでさえ“J”の暗躍が続く中、攻略に出た面々の帰りが遅いとなると心配にもなる。
その時、皆の元に一斉にメールが届く。
彼らがそのメッセージを開いた瞬間、皆の目が衝撃で見開かれた。
「嘘よ……」
「……冗談でしょう?」
そのメッセージには、こう書かれていた。
「“J”による人質篭城事件発生……
迷宮区タワーが……
占拠されただと?!!」
お読みいただきありがとうございます。
そしてこれがやりたかった!!
はい、今回起きた『迷宮区タワー占拠事件』と言う前代未聞の事件は、ジャズが前々からずっとやろうと思ってた事なんです。いろんなSAOの二次創作がありますが、こんな事やってるの自分くらいじゃないですかね?
では、次回もよろしくお願いします。
評価、感想などお待ちしております。