今回はいよいよ、第一層ボス戦です。
翌日、第一層の迷宮区に続く森のフィールドを、攻略組は列になって進んでいく。
最後尾にはあぶれ組の四人────ジェネシス・ティア・キリト・アスナの四人パーティが続く。
「よし、今の内に確認しておくぞ?」
キリトが三人に向かって言った。
「俺たちあぶれ組の相手は、ボスの取り巻きの《ルインコボルト・センチネル》だ。俺たちの中の誰かが奴のポールアックスを跳ねあげて、ほかの奴がスイッチしてすかさず飛び込んでくれ」
するとアスナが首を傾げて尋ねた。
「“スイッチ”って?」
キリトはそれを聞いてギョッとした顔になり
「もしかして、パーティ組むの初めてなのか?」
と聞き返す。
アスナは黙って頷き、キリトはガックリと肩を落とした。
すると、ティアがアスナの隣に行き、
「アスナ、スイッチというのは《プレイヤーがほかのプレイヤーと位置を切り替える事》だ。スポーツとかでよく聞くだろう?」
そう説明し、アスナは納得したように頷く。
「大方その通りだ。ただ、このゲームではソードスキルを使うと数秒の硬直時間がある。だからタイミングを間違えると、それこそ命取りになるんだ。スイッチのタイミングは俺が指示するから、みんなはそれに合わせてくれ」
キリトの言葉にアスナとティアは頷いた。
「おっ?流石ベテランゲーマーキリトさんだなぁ〜。頼りにしてるぜ?」
すると、ジェネシスが揶揄うような表情でキリトの肩を組む。
「お、お前なぁ……でも、俺も頼りにしてるんだぜ?お前の事」
「ん?どーいう意味だそりゃ」
キリトの思わぬ発言にジェネシスは怪訝な顔で尋ねる。
「恐らく、この四人の中で瞬間攻撃力が一番高いのは、間違いなくお前だ、ジェネシス。お前の両手剣のパワーと威力があれば……もしもの事があった場合、お前の力が必要不可欠になる」
「もしもの事?」
「ああ……俺たちがボスと直接戦う時だ」
真剣味を帯びたキリトの発言に皆は息を呑んだ。
しばし真顔だったジェネシスだが、すぐに不敵な笑みで返す。
「……はっ、任せとけ。まあ、そんな事は起こらねぇだろうがな」
「ジェネシス、それはフラグだぞ」
ジェネシスの言葉にティアが眉をひそめながら言う。
だがジェネシスは尚も不敵な笑みを崩さずこう告げた。
「……それならそれで、上等ってもんだ」
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数時間後、一行は迷宮区の最上階にあるボス部屋の前の扉に着いた。そこは先程までと比べてかなり薄暗く、明かりは扉の横に設置された松明のみ。扉の荘厳な形状から、その中がただの部屋ではないことを嫌でもプレイヤー達に伝えていた。
ディアベルは扉の前に立つと、プレイヤー達の方を振り返り剣を地面に突き立てる。
「みんな!!ついにここまで来た。
俺から言えるのはただ一つだ……勝とうぜ!!」
ディアベルの言葉にプレイヤー達は各々の武器を掲げながら「おおお!!」と雄叫びを上げる。
キリト達もそれぞれ剣を引き抜き、緊張感を高める。
ディアベルがゆっくり扉を開く。
中は真っ暗だが、辛うじて部屋の奥で鎮座する巨体が見えた。
プレイヤー達はその姿を確認しつつゆっくりと部屋に入っていく。そして全てのプレイヤーが入り終わると、暗かった部屋に明かりが灯る。そしてその巨体はこちらが入って来たのに気づくと、その場から高く跳躍しプレイヤー達の前で着地する。
その瞬間、そのモンスターがボスであることを示すカーソルと名前、四本のHPバーが出現した。
《イルファング・ザ・コボルドロード》。
ボスは『グルルアアァァァ!!!』と高く雄叫びを上げる。そしてその前に三体の取り巻き《ルインコボルト・センチネル》が出現した。
「攻撃ーーー開始!!」
ディアベルの号令と共にプレイヤー達は一斉に突撃した。
遂に、第一層ボス戦が幕を開けた。
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ボス戦開始から数十分が過ぎた。
今の所、特に犠牲者も無ければ苦戦することもなく順調に進んでいた。
ボスのHPも既に三本目を切っている。
その間、ジェネシス達あぶれ組四人は取り巻きのセンチネルを本部隊に近づけさせないよう取り巻きの処理をひたすら行なっていた。
キリトが取り巻きのポールアックスをソードスキルで弾く。
「ーーよし、スイッチ!!」
キリトの掛け声でアスナがキリトの傍から飛び出した。
細剣の刃がグリーンの光を帯び、ソードスキルを《リニアー》が発動される。
「三匹目っ!!」
その突き技はかなり洗練されており、まるで流星の如く繰り出される。
「(初心者とは思えない動きだ……剣先が全く見えない)」
キリトも心の中でアスナの動きを見て絶賛していた。
アスナがセンチネルを片付けたのを見届けると、キリトはすぐ隣で戦っているジェネシスとティアの方に視線を移す。
まず見えたのはティアだった。
ティアは一体のセンチネルを一人で相手取っているようだ。
センチネルが振り下ろすポールアックスを物ともせず、センチネルの攻撃を必要最低限の動きでかわし、隙を見て一撃を当てるカウンタースタイルの戦闘スタイルをとっているようだった。
「ーーふっ!!」
突如ティアの姿がぶれ、一瞬のうちにセンチネルの後ろに回り込んでいた。そしてその直後、センチネルの身体に三つの切り傷が発生し、センチネルはその体を爆散させた。
曲刀三連撃スキル《トレブル・サイズ》だ。
「なっ……?!(何だ今のは?!動きがまるで見えなかったぞ!アスナも中々の速さだったが、ティアはそれ以上だ……)」
キリトはティアが見せた動きに戦慄した。
ティアはジェネシスとコンビを組むにあたって、彼女はとにかく速さを追求した。両手剣使いであるためパワー型のジェネシスは、速さにおいて劣る点がある。ティアは彼のパートナーとして、その速さを補えるよう鍛え続けて来た。
その結果が先ほどの動きだ。アスナが《突く速さ》に特化したプレイヤーとするなら、ティアは《斬る速さ》に特化したプレイヤーと言えるだろう。
「……グッジョブ」
キリトは無意識に笑顔でそう呟く。
が、彼女達に気を取られ後ろから近づくセンチネルに気づくのが遅れた。
「しまった?!」
反応するも迫るアックスが既に眼前に来ていた。
間違いなく直撃する。そう覚悟したその直後。
「うおぉらあ!!」
ジェネシスがキリトとセンチネルの間に割り込み、センチネルを大剣で斬り飛ばした。
両手剣ソードスキル《ブラスト》だ。たった一撃だがそれでもかなりの威力を持つ。センチネルはその一撃で身体を四散させた。
ジェネシスは剣を肩に担ぐとキリトの方に振り向き、悪戯な笑みを浮かべ、
「オイオイ、何美女に気を取られてんだ?」
「ジェネシス!…すまない」
「コラ、こういう時は謝んじゃねぇだろが」
「あ、ああそうだな……ありがとう」
そしてキリトは再び戦闘に復帰した。
そうこうしているうちに、ボスのHPバーが最後の一本、そしてレッドゾーンに突入した。
『グウゥオオオアアアアアア!!!』
大きな雄叫びを上げ、ボスは斧とバックラーを投げ捨てた。
これはもう自分の出番は無いな、とジェネシスは考え、視線を目の前のセンチネルに戻す。
「下がれ!俺が前に出る!!」
するとディアベルの声が響き、ジェネシスは再び本部隊の方を向いた。
見ると、ディアベルが片手剣と盾を構えて部隊の一番前に出ていた。恐らくリーダー自らボスにとどめを刺すつもりなのだろう。
「……ん?」
ふと、ジェネシスはボスの腰にあるものに目がいった。
確か情報では曲刀のタルアールに武器を持ち替えるということだったが、あの形状はどう見ても曲刀では無い。
そしてボスはそれを引き抜いた。
あれは曲刀などでは無い。刃は鋭く銀色にギラつき、その切れ味は世界最高峰と言われる程の刀剣ーー
「ーーありゃあ、刀じゃねえか……!」
直後、同じくボスの武器に気づいたキリトが大声で叫んだ。
「駄目だ!!全力で後ろに跳べえぇーー!!!」
だが時すでに遅く、ディアベルののソードスキルは発動状態になっていた。
そしてそれより早く、ボスのソードスキルが発動する。
刀ソードスキル《浮舟》
縦横無尽にボスがフロアを動き回り、ディアベルを一瞬のうちに切り上げた。
「ぐあぁ!」
ディアベルは空中に吹き飛ばされスタン状態となる。
だがボスの攻撃はそれで終わらない。
地面すれすれで繰り出される一撃がディアベルの身体を切り裂いた。
刀ソードスキル《緋扇》
ディアベルはそのまま地面に落下した。
「ディアベル!!」
「おい!」
キリトとジェネシスが慌ててディアベルに駆け寄る。
だが彼らが駆けつけた時には、彼のHPは既に無くなっていた。
「てめぇ……何で一人で突っ込みやがった!」
ジェネシスが険しい表情でディアベルに掴みかかった。
「それは……僕が…元テスターだからさ……」
ディアベルは最後の力を振り絞って言葉を発する。
「ディアベル……お前、LAを狙ってたのか…?」
ディアベルは自嘲気味の笑顔で頷いた。
LAとは、ボスに最後の一撃を与えたものにつけられる《ラストアタックボーナス》の事だ。
「頼む……ボスを………倒してくれ……みんなのために…!」
そう言い残し、ディアベルはその身体を四散させた。
ジェネシスの掌の上に、先程までディアベルの身体だった最後のポリゴン片が落ち、そこで消滅した。
ジェネシスはその感触を忘れないように掌を握りしめた。
「ディアベル……確かに受け取ったぜ、てめぇの意思」
そして、剣を握り直してゆっくり立ち上がり、今プレイヤー達を追い回しているボスを睨みつけた。
「あの世でしかと見届けな……てめぇが守ろうとしたもんを、今度は俺たちが守って見せらぁ」
キリトもジェネシスの隣に立つ。
「ジェネシス……行くぞ」
するとアスナがキリトの、ティアがジェネシスの隣に立った。
「私も」
「頼む」
「ティア……てめぇまで……」
「言ったろう?貴方が戦うなら、私も戦うと」
皆、思いは同じだ。ただ目の前のボスを倒す事のみ。
四人の表情は皆決意と覚悟を決めたものだった。
「……行くぞ!!」
そして、四人は同時に駆け出す。
「手順はセンチネルと同じだ!!」
「「「了解!!」」」
キリトの声に皆は威勢良く答えた。
ボスは彼らの接近に気づくと、すかさず刀を左腰に持ってくる。
居合スキル《辻風》
キリトはソードスキルでその技を弾く。
「スイッチ!!」
すかさずアスナとティアがボスの懐に飛び込む。
が、ボスの方は技後硬直が少なかったため、すぐに追撃に入る。
ボスの刀がアスナをとらえた。
「────伏せろ!!」
咄嗟にティアがアスナの背中を押し込め、自身と共に伏せる。
直後アスナのローブを刀が僅かに掠め、それによってローブが破壊され中の少女の素顔が露わになった。
現れたのは、栗色の長髪の美少女だった。しかも、ローブが破壊された時の粒子がまだ輝いており、アスナの素顔をより美しく魅せていた。
ティアとアスナは間髪入れずにお返しの一撃を叩き込んだ。
細剣スキル《リニアー》
曲刀スキル《レイジング・チョッパー》
二人の攻撃が見事にボスの懐に命中し、HPはかなり削られた。
「次、来るぞ!!」
再び、キリトがボスの前に入り、刀を捌いていく。
だがここで、刀をスキル《幻月》型の発動した。上下ランダムに発動されるスキルで、キリトは読みを誤り防御が遅れた。
「しまっ────!」
「うおらぁ!!」
が、その直前ジェネシスがそれを弾き飛ばした。
「はっ、図体がでかい割にパワーは大したことねぇなあ!!!」
そう叫ぶと、ジェネシスはボスに急接近、白兵戦を繰り広げた。
体格差は圧倒的にジェネシスが不利に見えるが、寧ろ圧倒しているのはジェネシスの方だった。持ち前のパワーとスピードで刀持ちのボスの攻撃をいとも容易く弾いていく。
すると、何かがボスの横腹を切り裂いた。
見ると、ボスのすぐ近くにティアが立っていた。
ジェネシスがボスの攻撃を弾いている間に、ティアが持ち前のスピードを生かして斬り込んだのだ。
「呆れたものだな、刀の振り方がまるでなってない…最初からやり直せ」
ティアがそう吐き捨てると、ボスの横腹に大きな切り傷が出来た。
ボスはすぐさま刀をティアに向けて振るうが、ティアはその攻撃を上体を僅かに反らす事で難なく躱す。
するとボスの背後から、ジェネシスが背中を斬りつけた。
「おいコラァ!美女ばっかに目が行ってんじゃねぇぞマヨ豚X!!」
両手剣スキル《ファイトブレイド》。
五連撃のソードスキルをボスに叩き込んでいく。
だが大技を発動したため長い硬直がジェネシスを襲った。
ボスはそれを狙ってジェネシスを斬りとばす。
「ーーっぐぁ!!」
「久弥!!」
吹き飛ばされたジェネシスをティアが抱きとめた。
ジェネシスのHPは一気にイエローゾーンまで下がった。
「バカ!」
「済まねえ、ドジった」
ティアがジェネシスの頭を引っ叩き、ジェネシスは苦笑して謝る。
「危ない!!」
キリトの叫び声が響き、ジェネシスとティアが見上げると、ボスが彼らに向けて刀を振り下ろそうとしていた。
「うおおおぉぉぉ!!!!」
直後ティアとジェネシスの頭上を緑の閃光が走り、ボスの刀を弾き上げた。
ボスの攻撃を防いだのは巨漢の男、エギルだった。
「回復するまで俺たちが支えるぜ!」
「おう、また借りができたな……ハゲ」
「へっ、ハゲじゃねえ…スキンヘッドだバーロー!」
エギルは不敵な笑みでそう返すと、彼のチームと共にボスへ飛びかかった。
休む間も無くボスに攻撃が加えられる。
その間にキリト・ジェネシス達四人は回復に専念した。
だがエギル達がボスを取り囲んだ直後、ボスの刀がエメラルドグリーンに輝く。
刀範囲攻撃《旋車》だ。
「不味い!ジェネシス!!」
「おう!」
キリトの声にジェネシスが応じ、二人は同時に飛び出す。
剣を肩に担ぎ、ソードスキルを発動する。
片手剣ソードスキル《ソニック・リープ》
両手剣ソードスキル《アバランシュ》
「届けええぇぇぇーー!!!」
「落ちろおおぉぉーー!!!」
キリトとジェネシスの一撃がボスの背中を打ち、ボスは地面に叩きつけられる。
「三人共!最後の攻撃、一緒に頼む!!」
「分かったわ!」
「了解!」
「おうよ!」
四人は並んで全速力で走る。
まずアスナとティアがボスの両脇を左右から挟撃する。
次にジェネシスがボスの背後に回り込み、両手剣スキルで叩き斬る。
それによってボスは前のめりになる。
「おい!トドメは任せたぜ!!」
「ああ!!」
ジェネシスは最後の一撃をキリトに託す。
キリトはトドメの攻撃ーー右上からの袈裟斬りの《バーチカル》……ではなく、そこからさらに下から切り上げV字に切り上げる二連撃のソードスキル《バーチカル・アーク》だ。
『グウゥオオオアアアアアアーーー!!!』
ボスのHPは遂に無くなり、身体を四散させた。
《Congratulations!》の文字が表示され、ボス戦が終了した事がシステムより通知される。
しばし放心状態だったプレイヤー達だったが、皆歓喜の表情で雄叫びをあげる。
「……や、やったああーー!!!」
ティアも満面の笑みでジェネシスに抱きついた。
「おいおい、こんなとこで……ま、お疲れさん」
ジェネシスは苦笑しながらティアの頭をポンと優しく撫でた。
アスナとエギルはキリトの方に歩いて行く。
「お疲れ様」
「congratulations!この勝利はあんたのもんだ!」
キリトは未だにぼうっとした状態で座り込んでいた。
「おいおい、MVPがそんなんでどーすんだよ?」
ジェネシスがキリトの背中を叩いた。
「ジェネシス……」
「ったく、
ジェネシスは困ったような笑顔でキリトに手を差し出す。
キリトがその手を掴むと、ジェネシスが彼を引き上げて立ち上がらせた。
「てめぇのお陰で勝てたんだ、もっと堂々としてろ。胸張って立ってろ。英雄のお前がそんなんじゃ締まらねーだろうが」
キリトは周りを見渡すと、プレイヤー達は皆笑顔でキリトに賞賛の拍手と声援を送っていた。
「あ…ああ………みんな、ありがとう!今回のボス戦、勝てたのはみんなのおかげだ!!」
キリトの言葉でプレイヤー達はうおおお!!と更に歓声を上げた。
「せっかくだしよ、LAのアイテム見せてくれや」
ジェネシスがそう促し、キリトはメニュー欄を操作してアイテムをオブジェクト化する。
すると、キリトのポロシャツの上に黒いロングコートが現れ、その裾がひらりと舞った。
「いいじゃねえか……さしずめ、《黒の剣士》だな」
「ふ、二つ名とかやめてくれよ……」
キリトは照れたように頭を掻く。
周りのプレイヤー達はキリトに「よっ、《黒の剣士》!」などと歓声を送る。
「なんでや!!」
が、そんな勝利ムードをぶち壊す声がフィールドに通った。
プレイヤー達の視線は後ろの方へ移る。
声を発したのはキバオウだった。彼は地面にへたり込んでいる。
「なんで……なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!!」
「見殺し……?」
キバオウは目に溜まった涙を振り払い、キリトの方を睨みつけ叫ぶ。
「そうやろが!ジブンはボスの使うスキルのことを知っとったやないか!あの情報を最初から知らせとったら、ディアベルはんは死なずにすんだんや!!」
激しい口調でキリトを糾弾するキバオウ。
するとキバオウの隣にいたプレイヤーがキリトを指差し、
「あいつ、きっと元βテスターだ!だから情報を知らせなかったんだ……知ってて隠したんだ!!」
と叫んだ。
するとジェネシスがキバオウの方へ歩いて行く。
「待て待て待て。なんであいつが責められなきゃならねぇんだ?あいつのお陰で俺らは全滅しねぇで済んだんだろうが。そんなボロクソ言われる筋合いはねぇ筈だぜ」
ジェネシスは威圧感のある表情と声でキバオウ達に詰め寄った。
だが、キバオウの隣のプレイヤーは今度はジェネシスの方を睨みつけ、
「お、お前もボスの攻撃を知っていたよな…?ボスと対等に戦ってたよな……まさかお前もテスターか?!そうなんだろ!!」
「……は?」
突拍子も無い発言にジェネシスは目が点になった。
「他にもいるんだろ!!テスターども、早く出てこいよ!!」
男がそう叫ぶと、プレイヤー達は皆周りを疑いの視線で見渡す。「お前もテスターか?」という視線で。
その視線はティアとアスナの方にも向けられ、彼女達は困惑の表情を浮かべる。
「(やべぇな……このままだとこいつらみんなバラバラになっちまうぜ)」
ジェネシスはふとキリトの方を見る。
キリトは何かを決断したのか息をゆっくり吐いて立ち上がる。
ジェネシスはキリトのやろうとしていることを察し、キリトよりも先に口を開いた。
「……元テスターだぁ?はっ、冗談よしてくれや。あんな雑魚どもと一緒にすんなよ」
ジェネシスの声に皆の視線はジェネシスに集まる。
「考えてもみろ、一万人以上いたSAOのβテストに当選した千人のうち、本物のゲーマーが何人いたと思う?
みんな右も左もわからねぇクソ共ばっかだったわ。まだテメェらの方がましなくれぇだぜ……
だが俺は違う。俺はβテストの時、他の誰も到達できない層まで登った!ボスの刀に対処できたのも、上の層で刀を使うモンスターと戦いまくったからだ!
他にも色々知ってるぜ……情報屋なんか目じゃねえくらいになぁ!!」
プレイヤー達の間では騒めきが起きている。
キリトとティアに至っては驚愕のあまり目を見開いてる。
「なんやそれ……そんなん、チートやチーターやん!」
「βテスターでチーター……《ビーター》だ!!」
キバオウの叫びを皮切りに、プレイヤー達は口々にジェネシスを非難し始める。
「へぇ、《ビーター》か…いい呼び名だな、気に入ったぜ。
そうだ、俺は《ビーター》だ!!これからは元テスターごときと一緒にしないでくれ」
ジェネシスは邪悪な笑みを浮かべながらそう叫んだ。
そして、二層に続く階段の方へ進んでいく。
「ど、どこへ行くんだ?!」
「二層の門は有効化しといてやる。死ぬ覚悟があるなら来るんだな。まぁ、二層のことなんも知らねぇてめぇらからすれば、進んでも地獄、ここにいても地獄だろうがなぁ!!
ま、どうするかはてめぇらに任せるぜ……
精々、地獄を楽しみな!!」
ジェネシスはプレイヤー達の方を振り向き、親指を下に向けてそう言った。
ジェネシスは再び前を向いて階段を上って行く。
ティアは彼を追って走って行く。
「おい!あんなやつほっとけよ!」
「そうだそうだ!あんなビーターと一緒にいたっていいことなんかねぇよ!!」
プレイヤー達は皆ティアを引き留める。
が、ティアは鋭い目つきでプレイヤー達を睨んだ。
「貴様ら……誰のお陰でこの層がクリアできたと思っている…あの人が臆せず戦ったからだろうが!!それなのに貴様らは……」
ティアはそう吐き捨て再びジェネシスの方へ駆け寄った。
キリトとアスナもそれに続く。
ーーーーーーーーーーーーーー
これでいい。これでプレイヤー達はバラバラにならずに済む。
ジェネシスは階段を登りながらそう考えた。
ジェネシスの先ほどの言動は勿論演技だ。彼はボスの知識など持っていないし、そもそもβテスターでもない。
だが、あのまま行けばキリトが同じ行動に出ていただろう。それはダメだ、あってはならない。なぜなら、キリトは皆の……
「おい、ジェネシス!」
キリトが階段を登るジェネシスを呼び止め、ジェネシスが振り返る。
「お前……なんであんな事……!」
ジェネシスはしばらくキリトの方を見つめた後、ふっと軽く笑い、
「この世界にはな……みんなの希望が…ヒーローが必要なんだよ。ディアベルが死んだ今、あいつらの希望はテメェだ、キリト。なのにテメェが悪役を演じたら、この世界に希望が無くなるだろうが。んなもんダメに決まってんだろが。てめぇはあいつらの光であり続けろ」
「だが、それはお前だって!」
「俺はヒーローじゃねえ。ヒーローじゃねえし、それになるつもりもねぇ。てめぇが光なら俺は影でいい。
俺は《
「ジェネシス……」
キリトは申し訳なさそうな顔で俯く。
「そんな顔すんなよ。てめぇが気に病む必要はねぇ。嫌われんのは慣れっこだし、あんな奴らの言動なんざ知った事じゃねえ。俺は俺で好きにやるさ。
これっきりってわけじゃねえ。俺でよけりゃ、またパーティ組んでくれ」
「ああ……済まない…いや違うな……ありがとう、ジェネシス」
そうして、二人の《黒の剣士》は硬い握手を交わし、別れた。
その横に、ティアが続いた。
「……なんで来た?」
「言ったでしょ?私は貴方と一緒にいるって」
「……俺と一緒にいたら、また周りから色々言われんぞ?」
「あら?それを止めてくれたのは、どこの誰だったかなー?」
そう言って、ティアはジェネシスの手を握った。
「それに、久弥が言ったんだよ?私を守ってくれるって。なら、これからも守ってよ。私と、一緒にいてよ……?」
そして、目にうっすらと涙を浮かべながらジェネシスを見上げた。
ジェネシスはそれを見てため息をつき、
「……分かった。なら、行くぜ」
「うん!」
そして、二人は第二層の門を開け、その扉をくぐった。
お読みいただきありがとうございます。
ティアの戦闘スタイルは、仮面ライダーカブトのスタイリッシュな戦い方を思い浮かべてくれたらいいと思います。
ダークヒーロー……この言葉が似合うSAOキャラは、ジェネシスを置いて他にいないと自分は思います。特に、ホロリアでのジェネシスはまさにダークヒーローそのものでしたしね。ちなみに本編だと多分エイジがダークヒーローに相当するかな。
では、次回はいよいよサチ回です。
ジェネシスの存在で生存ルートに入るのか……??
では、評価・感想などお待ちしております。