ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも皆さん、ジャズです。

今回、かなりトラウマ描写があるかもです。ご注意を。


六十一話 突入作戦

九十五層迷宮区タワーに到着した攻略組。

九十五層は薄暗いフィールドで、迷宮区の中はさらに深い暗闇になっている。

 

洞窟のような道を、攻略組のメンバー達はゆっくり、慎重に足を進めていく。あのジョーカーのことだ、いつどこでどんなトラップを仕込んでいるか分からない。

 

進み続けて5分。その間、幸いにもモンスターや“J”のメンバーと遭遇することはなく、攻略組は順調に進んでいるが、その何事もなさがかえって不気味さを皆に与えた。

するとここで、道が左右に分かれる場所に到達した。

 

「どうする?」

 

攻略組の一人がそう問いかける。

すると、戦闘のアスナが二手に分かれる事を進言し、攻略組は二つのグループに分かれた。

一方はジェネシスやキリト達一行で、もう片方はその他ギルドメンバーなどで固められた。

 

「それじゃアニキ、行ってきますぜ」

 

そう言葉を交わすのは、クラインのギルド《風林火山》のメンバー。

 

「おう、気をつけるんだぜてめぇら」

 

クラインは四人のメンバーと拳を打ち付け合い、そしてそれぞれの道へと歩いていく。

 

二手に分かれ、ジェネシス達は先を急いで進んでいったそのわずか数秒後。

 

「逃げろおぉぉ!!」

 

背後から風林火山メンバーの悲鳴が響き、その直後にクラインの仲間達が進んだ方向から大きな轟音と共に爆発が起きた。

そしてその道は先ほどまでとは打って変わって巨大な炎に包まれている。

 

「なっ……!」

 

「お、お前らあぁぁぁぁ!!」

 

クラインは悲痛な叫びを上げて、仲間達が進んでいった道へと戻ろうとする。

が、その行く手を阻むようにクラインの道の先に隔壁が降り、進めなくなってしまった。

 

「くそっ…トラップか?!」

 

「ちくしょう!!開けやがれこのやろおぉぉ!!!」

 

キリトが悔しげに舌打ちし、クラインは一刻も早く仲間の元へ行きたいためにその壁を無茶苦茶に殴り付ける。

だがその扉は何をやっても二度と開く事はなかった。

クラインは両目から涙を流してその場に崩れ落ちた。

 

「ちくしょう……ちくしょおおぉぉぉ!!」

 

クラインの悲痛な慟哭が迷宮区内に木霊した。

周りの皆はそれをただ黙って見ている事しか出来なかった。

 

「ごめんなさい、クラインさん……私の、私のせいで……」

 

自分の指示でこの事態が起きてしまったと責任を感じるアスナは、クラインの元に蹲み込んでただ謝る事しか出来ない。

 

「アスナのせいじゃねえ………こんなふざけた罠を仕組みやがったジョーカーのせいだ……」

 

「ああ、これ以上犠牲者を増やさないために、なんとしてもジョーカーの暴挙を食い止める!」

 

クラインは首を横に振ってアスナを宥め、キリトも頷いて残ったメンバーにそう鼓舞した。

するとその時だった。

 

「悲しんでるところ悪いけど、噂をすればよ」

 

「ええ……敵が来たわ」

 

イシュタルが前を睨みながら自身の弓である《天弓マアンナ》の掃射準備を始め、さらにティアも左腰から刀を引き抜く。

すると先方から、約20名のオレンジプレイヤーが不気味な笑い声や嬌声を上げながら近づいて来た。

 

「野郎……!」

 

するとクラインは日本刀を抜き、怒りに満ちた視線で彼らを睨んだ。

 

「テメェらだけは……絶対に許さねえぇぇ!!!」

 

憎悪の叫びを上げながら、クラインは真っ先にオレンジの集団に飛び込んで行く。

 

「待てクライン!!」

 

キリトが慌てて背中から左右の剣を引き抜き、追いかける。

他のメンバーもそれに続く。

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

クラインは飛び上がると、そのまま刀を真っ直ぐに振り下ろす。だがその攻撃は、クラインがターゲットに定めていたオレンジには躱されてしまう。

 

「っのやろおぉぉ!!」

 

だがすかさずクラインは刀スキル《旋車》を発動し、周囲のオレンジ達を吹き飛ばす。

だがオレンジ達はそんな攻撃を受けても全く怯む事なく、狂気的な笑みを浮かべたままクラインに襲いかかる。

 

「せいっ!!」

クラインの正面から襲おうとしていたオレンジの四肢が背後から切断された。倒れ込んだオレンジの背後にいたのはキリト。彼が左右の剣で咄嗟に斬ったのだ。

幸い彼が攻撃したオレンジのHPはまだ残っており、死亡には至っていない。

 

「はあっ!!」

 

アスナは速さを活かした刺突攻撃で敵の腕や足を的確に突き、オレンジ達を沈黙させていく。ティアやジェネシス、ツクヨ達も同じで、皆的確に相手の弱点を突いて戦っていた。

だがプレイヤー同士の戦闘に慣れていないシリカ・シノン・リズベット達はかなり苦戦を強いられていた。

 

「……っ!」

 

シリカは実質初めての体験である犯罪者プレイヤーとの戦いで押され気味だった。ナイフを振っても振っても、目の前の人間は不気味に笑いながら突っ込んでくる。

それはシノンも同じだった。武器の性質上彼女は後方支援だが、彼らの狂気ぶりは遠目からでもはっきり見て取れた。

 

「なんなのよ……あいつら……」

 

シノンは愕然とした表情で矢を放った。

彼らのその狂気的な顔を見ていると、シノンの内に存在する忌まわしい記憶が蘇る。

 

「……っ」

 

その時、シノンの背後からオレンジが斬りかかった。

 

「しまっ……!」

 

矢の装填は間に合わない。タイミング的に回避は不可能。

 

「せいっ!!」

 

シノンにオレンジプレイヤーの凶刃が振り下ろされる直前、イシュタルが割り込み掌底でそのオレンジを吹き飛ばした。

 

「あ、あんた……」

 

「ふふん、あたしリアルじゃ太極拳習ってるからね。それに合わせて体術スキルも取ってるってワケ」

 

イシュタルは得意げな顔で言った。

 

「お?マジカル☆太極拳か?」

 

「マジカルって何よ?!!変なのつけないでよね!!」

 

ジェネシスが悪戯な笑みを浮かべながら言うと、イシュタルは顔を真っ赤にして反論した。

そんなやり取りをしていても、オレンジプレイヤーは襲いかかる。

 

イシュタルはマアンナの取り回しの悪さも相まって近接戦闘に持ち込まれたので、太極拳風の体術スキルを用いて応戦する。

その華奢な腕や足に見合わぬ強烈な一撃をオレンジの鳩尾や後頭部、横腹などに直撃させて戦闘不能にしていく。

 

そんな中、リズベットも対人戦の経験がかなり浅いにも関わらず、かなり善戦していた。

それもそのはず、彼女はマスターメイサーだ。メイスの使い方に関してはアインクラッドの中でもトップクラスの技術を持つ。ましてリズベットのメイスともなればそのパワーは語るまでもなく、一撃当てるだけで敵は沈黙する。

 

「ちぇすとぉ!!」

 

リズベットは目の前に近づいて来たオレンジの脳天にメイスを叩き込む。『ゴッ…』と言う鈍い音がなると共にその一撃を受けたオレンジは地面に崩れ落ちた。

だがその背後から別のオレンジプレイヤーが接近する……

 

「どるしえぇぇぇぇぇい!!」

 

けたたましい雄叫びと共に巨大なハルバードがそのオレンジの腹部を打ち、そのままオレンジは数十メートル先まで野球ボールの如く吹き飛んで行く。

 

「後ろは任せてくれ、リズ」

 

先ほどの雄叫びとは打って変わって優しげな声でヴォルフは彼女の背後に立つ。

 

「……ええ!そっちは頼むわ!!」

 

そしてリズベットとヴォルフは背中合わせに立って戦った。

 

 

そうして皆が戦う事数十分。

 

 

ジェネシス達は無事、20名のオレンジプレイヤーの鎮圧に成功した。ジェネシス側に犠牲者は幸いにも出なかった。

が、残念ながら一人も犠牲者を出さずに鎮圧は出来なかった。オレンジの方は3名が消滅した。

 

「……ごめんなさい……ごめん…なさい……ごめんなさっ………」

 

そのうちの一人を殺してしまったのは、シリカだった。

彼女は斬っても斬っても波のように襲ってくるオレンジに押され、遂にパニックになってソードスキルを使って応戦し、それが偶々HPが残り少なかった一人のオレンジプレイヤーに命中してしまったのだ。

斬った当初はそんなことを気にしていられるほどの余裕は無かったが、戦いが終わって目の前で自分のソードスキルによって人が消滅した光景を振り返ると、自分が一体何をしてしまったのか、その事の重大さに段々気づいてしまった。

 

シリカは虚な瞳で地面にしゃがみ込み、自分が殺めてしまった者に対するもう届く事のない謝罪を、泣きながら呪詛のように呟いていた。

戦いの前ジェネシスに言われ、覚悟は決めたつもりだった。

けれど全然足りなかった。そんなものはまだまだ甘かった。

 

「すまねえ、シリカ……」

 

ジェネシスはそんな彼女の元に歩み寄ると、申し訳なさそうに目を伏せて謝った。

あの状況では彼と言えど誰かを守る余裕などなかった。しかしそれでも、シリカのような少女が背負うにはあまりに重いものを背負わせてしまった事に謝らずにはいられなかった。

いや、あるいはあの時の語らいで無理にでも来させないべきだったのかも知れない。こうなる可能性はジェネシスと言えど分かっていた。しかしそれでもシリカならと信じていた。

 

ジェネシスは懐から転移結晶遠取り出す。

 

「シリカ、よく戦った。よく生き残ってくれた。俺はそれだけでも満足だ。おめぇの勇気は、確かに俺たちを救ってくれたぜ」

 

ジェネシスは優しく、そしてわしゃわしゃとシリカの頭を撫で回す。

シリカは堪えきれなくなったのか、「うわあぁぁぁ……!」と両目から大粒の涙をこぼして号泣した。

 

「誰か、シリカを連れて一緒に街まで戻ってくれ。もう、シリカにはこれ以上……」

 

ジェネシスは立ち上がって周りにそう呼びかける。

 

「私が行くわ」

 

するとシノンが歩み出た。

 

「分かった。んじゃシノン、おめぇもそのまま宿でシリカと一緒にいてやってくれるか」

 

「……分かった。任せて」

 

シノンはジェネシスから転移結晶を受け取ると、シリカを抱き寄せて七十六層の街へと転移していった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

シリカとシノンが戦線を離脱したことで、今残っているメンバーはジェネシス・ティア・キリト・アスナ・リズベット・ヴォルフ・クライン・ツクヨ・フィリア・サクラ・ストレア・イシュタル・オルトリア・ジャンヌ・ミツザネの15名。

 

彼らとて本当はこんな戦いなどやりたくはない。

 

だがこれ以上ジョーカーの好きにさせるわけにはいかない。それを許せば被害がますます拡大する一方だ。

残酷だが、彼らは進むしかないのだ。例え何を犠牲にしようとも。

 

「それにしても……何でこんなにモンスターが出ないんだ?」

 

道中、キリトがふと疑問に思ったことを口にする。

確かに、ここは迷宮区。オレンジプレイヤーが占拠していようがいなかろうが、モンスターが全く出ないのはおかしな話だ。

この世界の知識が深いAIであるストレアとサクラにもその原因は分からないようだ。

皆が疑問符を浮かべ、何やら不気味な感覚に囚われている中、ジェネシスには一つ思い当たる節があった。

 

それは以前、シキから言われたこと。

 

アルベリヒ。あのシキがかなり警戒しており、全ての元凶と言わしめた男。ジェネシスの頭には何故か彼の事が頭から離れなかった。

 

さらに奥に進んでいると、一つの大きなドーム状の部屋に到達した。

 

「この部屋は……」

 

一同はそのドーム状の部屋に入ると、辺りを見回す。

彼らが入った直後、彼らがやって来た入り口が突如として閉まってしまった。何かのトラップかと考えた一同は、それを解除するスイッチなりギミックを探すため部屋を調べ回る。

 

「…………いるな」

 

すると何かに気がついたツクヨが懐から3本の苦無を取り出し、その場から飛び出す。

向かう先はアスナ。彼女の背後には漆黒のモヤが発生しており、、やがて人の形となると、その手に握られた毒ナイフを突き立てようと振り下ろす。アスナはその事に気付いていない。

 

だが、そのナイフが突き立てられる直前にツクヨが苦無でそれを弾く。

アスナの暗殺を図った男は一旦その場から飛び上がり、ツクヨと距離を置いて相対する。

 

「な、なに?!」

 

「あいつは……!」

 

突然の事で驚くアスナと、ツクヨが睨む先にある人物を見て驚くキリト。

 

「『ジョニー・ブラック』……!」

 

アスナに近づいていたのは、今や“J”の幹部の一人である『ジョニー・ブラック』だった。

皆は一斉に武器を構えてジョニーを睨む。

 

だがツクヨがそれを制した。

彼女は左手に手裏剣を三枚指に挟む形で構える。

 

「主の相手は、このわっちじゃ」

 

鋭い目つきと共に宣言するツクヨ。

 

「チ……死神太夫……!」

 

ジョニーは忌々しげにツクヨの顔を見て呟く。

 

「ツクヨ!」

 

「主らは先に行け。こやつはわっちが引き受ける」

 

ツクヨはジョニーの方を睨んだまま皆に告げた。

 

「……わかりました。ここは頼みます、ツクヨさん!」

 

「ああ……任せよ」

 

アスナはそう言って皆を率いて走り出す。

ツクヨは皆の方に視線を向けると、右手の人差し指と中指を『シュッ』と突き出した。

 

「ツクヨさん、私も!」

 

だがフィリアはツクヨの隣に並び立った。

 

「………そうじゃな、よし」

 

ツクヨは一瞬驚いていたようだが、口元に笑みを浮かべると何やら独り言を言いながら頷く。

 

「フィリア、ここいらで特訓と行くとしよう。奴は主にとっては丁度いい相手になろう」

 

「え、ええ?特訓?」

 

フィリアは突拍子もないツクヨの発言に目を丸くした。

 

「クハハハハハッ!!傑作だ!!アンタ、俺が練習相手だって言いたいのかぁ?!ヒャハハッ、随分と舐められたもんだなぁ!」

 

ジョニーは腹を抱えて狂ったように笑い出すが、ツクヨも「フン」と嘲笑の笑みを浮かべる。

 

「主の方こそ、前回わっちに手も足も出なかったであろう?だからフィリアで十分だと言ったんじゃ………いや、主如きではフィリアにも勝てぬであろうよ」

 

「……テ、メェェェェッ!!!」

 

ジョニーは眉間にシワを寄せて憎悪の表情と叫びを上げると、ツクヨに飛び込んだ。

 

「行くぞ、フィリア」

 

「は、はい!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ツクヨとフィリア達と分かれた一行が進み続けて行くと、再び分かれ道があった。

 

「まーた分かれ道かよ……」

 

ジェネシスがうんざりだとばかりにため息を吐きながら言った。

先ほどのトラップのこともあって皆はより慎重になった。

 

「……もう一回二手に分かれよう。その方が確実だ」

 

キリトがそう提案する。皆も黙ってそれに賛同した。

否、それ以外の選択肢が無いのだ。

チームはジェネシス・ティア・サクラ・イシュタル・オルトリア・ジャンヌと、キリト・アスナ・リズベット・ヴォルフ・ストレア・クライン・ミツザネだ。

 

「んじゃ、死ぬんじゃねえぞ」

 

「ああ、そっちこそな」

 

キリトとジェネシスは互いにそう言葉を交わしたのちに、メンバーを連れて二手に分かれた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー  

 

 

 

 

 

 

チーム・ジェネシス

 

ジェネシス達が周囲に警戒しつつ進んでいると、ティアが何かを見つけた。

 

「あれって……!」

 

前方からふらふらと覚束ない足取りでやってくる小さな人影。

 

それは、小さな子供だった。

 

「まさか……誘拐された子供?!」

 

イシュタルが目を見開いて叫ぶ。

それを確認したジャンヌが駆け出した。

 

『大丈夫ですか?!怪我は?酷い事は何もされませんでしたか?』

 

ジャンヌはその子供に優しく、慈しむように保護した。

ジェネシス達も慌てて駆け寄る。

 

「……げ…て……」

 

だがその子供は虚な瞳でジャンヌとその後方にいるジェネシス達を見つめながら小さな声で呟く。

そして自身が来ている上着のファスナーをゆっくりと下ろしていく。

 

その瞬間、ジェネシス達は目を見開き、言葉を失った。

 

 

 

その小さな体には、爆弾が巻き付けられていた。

 

タイマーが表示されており、残りは僅か5秒。

 

「はやく……にげて……!」

 

自身の最期を既に悟っているのか、その子供は掠れた声で、懸命にジェネシス達に訴える。

 

『だ、大丈夫ですよ!直ぐに外します……って、ジェネシスさん?!』

 

ジャンヌが慌ててそれを外そうとするが、ジェネシスは彼女の襟首を掴んで後方に走り出す。皆も既に離脱しているようだ。

 

『ジェネシスさん?!待ってくださいジェネシスさん!!』

 

ジャンヌは必死に彼に訴えるが、ジェネシスは止まらない。

 

ジャンヌは再び子供の方を見遣る。

 

子供は両目から涙を流し、しかし口元には安心したような笑みを浮かべていた。

 

 

“ごめんね”

 

 

 

“ありがとう”

 

 

 

子供がそう口にした直後。

 

 

 

 

子供の小さな身体は、爆発に包まれた。

 

『いやあぁぁぁぁぁっ!!!』

 

ジャンヌはそれに向かって涙を流しながら必死に手を伸ばした。

 

 

爆炎が止むと、もうそこには子供はいなかった。

 

代わりに、青白いガラス片がうっすらと舞っていた。

 

皆の表情は愕然としていた。

 

「………さない……絶対に許さない、こんなふざけた真似をして!!!」

 

イシュタルは思わず壁を思い切り殴りつけた。

 

「……進むぞ」

 

ジェネシスはただ一言、皆にそう言って歩き出した。

 

ジャンヌはしばらく絶望した表情で地面に座り込んでいたが、涙を拭き、そして立ち上がった。

 

その手に握るのは守護の旗。

 

ジャンヌは自身の旗と、その名に懸けて誓った。

これ以上、あのような悲劇は増やさないと。

 

その決意を胸に、ジャンヌはジェネシス達の後ろに続く。

 

 

やがて一同は、先ほどと同じようなドーム状の部屋にたどり着く

 

だがそこには、あまりにも異様な光景が広がっていた。

 

その壁には、沢山の小さな子供達が貼り付けにされていたのだ。

ロープでぶら下げられた子供、手首に釘が刺されている子供、身体を大きな槍で串刺しにされた子供、身体中に切り傷をつけられた子供、中には四肢をもがれていたり、身体を両断されている子供までいた。

 

 

一同は思わず絶句した。

 

「うっ……!」

 

サクラは思わず口元を手で抑えた。

あまりにも惨たらしく、残酷で非人道的な光景だった。

 

 

 

「お気に召しましたかなぁ〜」

 

 

突如、部屋に不気味な男の声が響く。

 

現れたのは、紺色のローブに紫のスカーフを巻き、両眼が飛び出気味の痩体型の不気味な男性。

 

 

「青髭の……ジル!」

 

イシュタルは憎々しげな目で睨みながらその名を口にした。

 

「ホホホォーウ!この私の名をご存知とは喜ばしい限りですなぁ〜!それで、これらはいかがですかな?こちら私の最っ高の芸術作品でございますが」

 

ジルは仰々しく両手を広げながら言った。

 

「黙りなさい!何が芸術作品よ!!」

 

ティアが怒り心頭の様子で叫んだ。

同い年くらいの娘がいる彼女にとっては、否、そうでなくとも許しがたい行為だった。

 

「やはり貴方がたはご理解頂けませんかあ〜、残念ですなぁ私の渾身の自信作であったのですが……ってちょっと?!」

 

直後、ジルは驚愕の表情で壁を見つめた。

 

一同がその視線の方向を見ると、オルトリアが壁を走りながら次々と子供達の束縛を解いていたのだ。

それを見た瞬間、ティアも走り出した。

縄を、身体を貫いていた槍や釘を次々と破壊し、子供達を解放していく。

 

「この匹夫めがアァァァァァ!!!なぁぁにをやっているのですかぁぁぁぁぁぁ?!!こら、やめ……やめなさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいい!!!」

 

ジルは耳をつん裂くような奇声を上げながら叫ぶが、ティアとオルトリアは止まらない。

 

ものの数秒で、すべての子供が解放された。

 

「おのれ………おのれおのれおのれおのれおのれえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!よおおぉぉぉくもわたくしの作品をおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「悪いな、アンタと俺たちとでは住む世界が違うみてえだ。見てるだけで吐き気がするくらい最低なモノだったんでな」

 

ジェネシスがジルの方を睨みながらそう告げた。

 

「さて、覚悟してもらいましょうか……あたし今最っっ高に頭に来てんのよ。骨も残らないと思いなさい!」

 

イシュタルもマアンナの掃射準備を整え、構えた。

 

『ジェネシスさん、ティアさん、サクラさん。御三方はどうぞ先へ』

 

「ジャンヌ?」

 

ジャンヌは旗を構えると、ジェネシス達に言った。

 

「こいつはあたし達でぶっ潰すから。あんた達は先に行きなさい!」

 

「私もここに残ります。怖い思いをした子供達にお菓子をあげないといけないので」

 

イシュタルも強気の口調でいい、オルトリアも左右の手にビームサーベルを展開してそう言った。

 

「……分かった、ここは任せる」

 

そしてジェネシス達は走り出した。

 

『青髭のジル。貴方のような人間に、これ以上無垢なる子供達を傷つける訳には参りません』

 

ジャンヌは旗を展開し、ジルに対して力強く告げる。

 

『主の名の元に……貴方を止めます!』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

キリトチーム

 

一方こちらはキリトチーム。

キリト達も、爆弾やその他危険なトラップが無いか慎重に進んでいた。

 

すると、彼らの背後からオレンジの集団が現れた。

キリト達が気づけないレベルの潜伏スキルで隠れていたのだ。その数は、約20人。対するキリト達は8人。

 

「がき共、てめぇらは先に進め」

 

するとミツザネがオレンジ達の足止めを名乗り出た。

 

「ミツザネさん?!そんな、無茶です!いくら貴方でも、一人でそんなの……」

 

アスナがそう叫ぶが、ミツザネは「はっ」と軽く笑う。

 

「バァカ、俺がどんだけの修羅場を潜り抜けてきたと思ってる。てめぇら若造共に心配される程まだ落ちぶれちゃいなぁんだよ。

さっさと行きな」

 

ミツザネは拳を構えて戦闘態勢に入りながら言った。

 

「……分かった。ここは頼みます!!」

 

キリトはそう言って駆け出した。アスナ達もそれに続く。

 

「俺も付き合うぜ、旦那」

 

するとクラインが彼の隣に立った。

 

「仲間の仇……まだ取れてねぇんでな」

 

刀を引き抜き、鋭い目つきと声色で言った。

 

「そうかい……ま、程々にな」

 

そして、二人の男は同時に飛び出す。

 

 

一方キリト達は、ミツザネとクラインの奮闘を無駄にしないよう、必死に走り続けた。

と、その時だった。

 

「ブゥルルルルァァァア!!」

 

突如上から雄叫びを上げて巨大が降りてきた。

キリト達は慌ててその場から飛び退き、何とか直撃を避ける。

 

「よぉ〜〜、まぁた会ったなぁ〜?」

 

仮面を付けた凶悪な悪魔が、その奥にある双眸でキリトを睨み付ける。

 

「じ……ジェイソン……!!」

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

如何だったでしょうか?“J”のプレイヤーの狂気ぶりは。
この“J”のコンセプトが、『ラフコフを凌ぐ凶悪なギルド』ということですので、少し過激かつ残酷なシーンを入れました。

次回はそれぞれの幹部戦をお送りしたいと思います。

では、次回もよろしくお願いします。
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