ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

63 / 81
どうも皆さん、ジャズです。
今回、“J”戦がまずひと段落つきます。思いの外高評価な様子で、とても嬉しいです。
では、本編始まります。


六十三話 突入作戦3

部屋に充満した麻痺毒の粉末というトラップにより麻痺状態に陥ったフィリアとツクヨ。

地面にうつ伏せで倒れるフィリアとそれに寄り添うように膝をついているツクヨの2人に、ジョニー率いるオレンジプレイヤーの集団がジワジワと歩み寄る。

 

「キヒヒヒッ、形勢逆転ってやつだなぁオイ!どうだ?希望が絶望に変わった気分はぁ?てめぇらはもうおしまいなんだよ!!!!」

 

ジョニーは勝ち誇ったように高笑いしながらツクヨとフィリアに対して言った。

フィリアは悔しげに下唇を噛み締めるが、ツクヨは特に表情を変えずに聞いていた。

 

「ヒャァハハハハハハハッ!悔しいかそうだろう?!ザマァ見やがれ死神太夫!!俺をコケにしたツケはきっちり払ってもらうぜ…テメェらの命でなァ!!

お前らやっちまえええ!!!」

 

ジョニーの掛け声で周囲のオレンジ達が武器を手に一斉に飛びかかる。フィリアは麻痺で動けず、ツクヨも微動だにしない。

万事休す、もはやここまでかとフィリアは覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………舐められたものじゃな」

 

するとツクヨが呆れたように呟く。

 

そして次の瞬間、フィリア達に襲いかかっていたオレンジの身体に一斉に苦無が投げつけられ、麻痺状態に陥って倒れ込んだ。

苦無術《自来也蝦蟇毒苦無》。相手を高レベルの麻痺状態にするソードスキル。ツクヨは一瞬の動作で大量の苦無を射出し、見事なコントロールでオレンジ達を封じたのだ。

フィリアは信じられない光景を見て開いた口が塞がらなくなった。これだけの数を一瞬で沈黙させたその実力もそうだが、ツクヨも自分と同じように麻痺にかかっていたはず。なのに何故動けるのか訳がわからなかった。

ツクヨは「フウ」と息を吐くと、ゆらりと立ち上がる。

 

「なっ………お前……何で、何で動けるんだよ?!」

 

ジョニーもフィリアと同じことを考えており、目を見開き、思わず後退りしながら問いかけた。

 

「ふん、知れた事。わっちは耐毒スキルをカンストしておるのでな。生半可な毒なぞわっちには通じぬ」

 

「なん……だと……」

 

ジョニーは思わず地面にへたり込んでしまった。

ツクヨはそんな彼に向かってゆっくりと足を進める。

 

「さて……さっきの質問、そのまま返させてもらうとしようかのう。

どうじゃ?“希望が絶望に変わった気分は”?」

 

ツクヨは両手に苦無と手裏剣を持ち、不敵な笑みを浮かべて問いかけた。

最早ジョニーの敗北はここに決定したも同然だった。既に仲間は麻痺で封じられ、しかもツクヨに対してはジョニーが最も得意とする毒が通じない。ただでさえ対人戦闘能力で圧倒的に差があるジョニーの得意分野も無駄となれば、もう打つ手がない。完全に王手、詰みだ。

 

「く……そ………」

 

ジョニーは屈辱とそれに伴う怒りのあまり歯をギリギリと鳴らしながら呟く。右手に持ったナイフが怒りによる震えでカタカタと鳴り響く。

 

「クソがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

逆上したジョニーは毒ナイフを手にすると即座にツクヨに向かって駆け出す。

ツクヨは正面から振り下ろされるナイフを苦無で難なく弾き飛ばす。

そしてそのままツクヨは右足でジョニーの腹部を蹴り飛ばす。

 

「グボアッ………こ、のおぉぉぉ!!」

 

再び立ち上がろうとするジョニーに対してツクヨは苦無を投げつけた。

その苦無はジョニーの両肩、両足に突き刺さり、さらに麻痺状態に陥らせた。

 

「諦めろ。主ではわっちには勝てぬ」

 

ツクヨはそう言ってキセルの煙を「フウ」と吐いた。

 

「ツクヨさん!」

 

すると、麻痺が解けたフィリアがツクヨに駆け寄る。

 

「無事かフィリア、ならばよし。早く此奴らを縛り上げるぞ。麻痺が解けたら面倒じゃからのう」

 

「うん!……あの」

 

するとフィリアは一呼吸おき、

 

「ツクヨさん、すごくカッコ良かったよ!流石私の師匠だね!」

 

フィリアはそう告げると、地面に倒れているオレンジの方へ駆け出した。

ツクヨはしばし呆気にとられてその後姿を見つめていたが、やがて「フッ…」と軽く笑みを溢す。

 

「師匠、か……色々手解きはしたが、よもやそんな風に呼ばれることになろうとはのう……

 

これでわっちも、少しは近づけましたかな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ヒビキさん」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

迫りくる巨大な蛸型モンスターの触手を、ジャンヌ・イシュタル・オルトリアはバックステップで後ろに飛び退いて回避する。

 

「……じゃああんた達、手筈通りに行くわよ!!」

 

『お任せを!』

 

「りょーかいです」

 

3人は目配せしてそう交わすと、その場から飛び出す。

 

イシュタルは懐から金色の水晶玉を取り出し、それを空中に放る。

 

「さあ覚悟しなさい気色悪い怪物!!私の全力の一撃、食らうといいわ!!」

 

金色の水晶玉は空中で弾け飛び、ゴールドのエネルギーがイシュタルの武器《天弓マアンナ》に収束していく。

 

「これが私の、全力全霊!!」

 

イシュタルがマアンナの発射態勢を整えている間、ジャンヌとオルトリアが子供達の前に立った。

 

『大丈夫ですよ、私たちがお守りしますからね!』

 

「安心して、じっとしててください」

 

ジャンヌとオルトリアが後ろの子供達に優しく微笑み、子供達もその言葉に頷く。

 

ジャンヌはそれを見ると数歩前に出て、自身の旗を高く掲げる。

 

『我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!!』

 

ジャンヌの旗が眩い金色の光を放ち始め、さらにイシュタルのマアンナからもゴールドの光が放出され、部屋は明るい金色の光に包まれる。

 

「お、おおぉ………!何と、神々しい光か……!!」

 

ジルはその光を見て驚いたように目を見開いた。

 

マアンナの照射準備が整い、イシュタルは指先を目の前のモンスターに伸ばして照準を合わせる。

 

「打ち砕け!!『山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)』!!」

 

マアンナから極太の熱線が飛び出し、蛸型モンスターを一瞬で呑み込んだ。

威力のあまり猛烈な爆風や衝撃波が発生する。

 

『リュミノジテ・エテルネッル!』

 

ジャンヌの旗から金色のバリアが展開され、背後のオルトリアと子供達を包み込み、守護する。

その直後、『アンガルタ・キガルシュ』による爆風と衝撃波が襲い、ジャンヌのバリア『リュミノジテ・エテルネッル』とぶつかり合う。

 

土煙が晴れると、モンスターはまだ生きていた。とは言えHPは既にイエローゾーンに達しており、身体も半分が消し飛ばされている状態だ。

だがこのままではまた驚異的な回復能力で瞬時に元どおりになってしまう。

 

「んじゃ、無茶はするんじゃないわよ!!」

 

イシュタルはそう言ってその場から離脱した。

ジャンヌはそれに対して黙ってうなずき、左腰の片手剣をスラリと引き抜く。

 

『主よ……この身を委ねます!』

 

ジャンヌがそう口にした瞬間、片手剣の刃から真っ赤な火柱が発生し、巨大な刃を形成する。

炎の勢いが強まるにつれ、ジャンヌのHPが徐々に減っていく。

 

『《ラ・ピュセル》!!』

 

ジャンヌはその巨大な炎の刃を頭上から一思いに振り下ろし、蛸型の巨大モンスターを一刀両断した。

 

身を焼き尽くす炎に包まれ、蛸のモンスターは耳をつんざく絶叫を上げて燃え始めた。

 

「な、なんと……!その炎は正しく聖女を焼いた呪いの火!!何故、何故貴女がそれを使うというのです!!」

 

ジルが驚愕のあまり狂乱気味に叫ぶ。

その火はまるでフランスを救った聖女を、裏切りの果てに処刑した時の炎。

ジルは訳が分からなかった。何故ジャンヌの名を語るものがその火を使うのか。それは裏切りの炎、尊き聖女を陵辱の果てに焼き尽くした業火。

だがジャンヌはきっぱりとそれを否定する。

 

『これは、呪いの炎などではありません…!』

 

モンスターの体が徐々に焼け落ちていく。

 

『この火は……絶望を切り開き、暗闇を照らす祈りと希望の炎です!!』

 

そして遂に、モンスターのHPが全て消し飛び、蛸型のモンスターは断末魔を上げて爆散した。

ジャンヌのHPは残り1ドットの所で止まっており、技の反動で疲弊したジャンヌはその場に膝をつく。

そんなジャンヌにイシュタルが駆け寄り、慌てて回復ポーションを与えてHPを回復させる。

 

「こ、こんな…ことが………」

 

ジルは声を震わせながら後ずさった。

 

「いえ、いいえ!まだです!!まだ私には、この本が……」

 

ジルは悪足掻きとばかりに先ほどの本を掲げて再び別のモンスターを召喚しようとする。

 

「いいえ、もう終わりですよ」

 

だが彼の腕をオルトリアがビームサーベルで斬り落とした。

そして地面に落ちた本をビーム刃で焼き、破壊する。

 

「そ、そんな……馬鹿な……」

 

敗北が決定し、ジルは膝をついた。

 

その後、ジルを拘束した3人は子供達の方に歩み寄る。

 

『さあ、もう大丈夫ですから安心してください』

 

ジャンヌは子供達の前にしゃがみ込むと、優しく微笑みながら語りかけた。

 

「うん!ありがとうお姉ちゃん!」

 

「すっごくかっこよかった!!」

 

「助けてくれてありがとう!お姉ちゃん!」

 

子供達は満面の笑顔でジャンヌに駆け寄る。

 

『お……お……おねえ、ちゃん……お姉ちゃん、ですか……!』

 

“お姉ちゃん”と言う単語に反応したジャンヌは途端に感激した様子で呟く。

 

「……ねえ、なんかジャンヌ変なものに目覚めてない?」

 

「多分大丈夫ですよ……多分」

 

イシュタルが何か不安げな顔で見つめ、オルトリアも自信なさげに答える。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「はああああっ!!」

 

「ブウゥルルルァアアッ!!」

 

キリトの双剣とジェイソンの巨鉈が激しい火花を上げて衝突し合う。

ゾーンに入ったキリトは瞬発力が上がり、ジェイソンから振り下ろされる鉈に対して的確に反応していく。

 

「ぐぬぅ…!(こいつ………なんだぁ、動きが良ぉくなっていやぁがるぅ……!)」

 

ジェイソンは思わず舌打ちしてしまう。

先ほどまで自分の攻撃に手も足も出ていなかったキリトが、突然上手く対応し始めたのだ。キリトはジェイソンのパワーを正面から受け止めるのではなく、別方向に受け流しているのだ。

 

「この虫ケラがぁ……くたばりやがれえぇぇぇい!!」 

 

ジェイソンは鉈でキリトを下から掬い上げるように振るう。

 

「っぐ……!」

 

キリトはその攻撃を受け切ることができず、そのまま弾き飛ばされて壁に激突する。

 

「ぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

しかしキリトは尚立ち上がり、ゾーンによる速さを生かして突っ込む。

 

「この……余裕かましてんじゃねえぇぇぇ!!!」

 

ジェイソンはキリトに対し鉈を上から振り下ろして叩き潰そうとする。

が、キリトはそれを横方向に飛び退くことで交わし、再びジェイソンに接近していく。

 

「せああああっ!!」

 

そしてそのまま左右の剣を交互に繰り出してジェイソンに斬りかかる。

その間、キリトは以前ミツザネから言われたアドバイスを思い出していた。

 

“バランス型ってのはな、全てを極めてこそ真価を発揮する”

 

「(もっとだ……もっと……もっと速く……)」

 

キリトは極限まで高められた集中力により、ジェイソンの鉈を驚異的な反応速度で弾いていく。そしてそこから、ゾーンによって高められた敏捷性で素早く剣を繰り出す。

 

「もっと強く!!」

 

「こ、いつぅ……!」

 

キリトはそう連呼しながら、自分が持つ最大限の力でジェイソンに斬り込む。

ゲーム内なので、気合いや気持ちだけでステータスが変わることはない。

しかしジェイソンは、キリトの恐るべき気迫と集中力に、どう言う訳かキリトのパワーが強まっている感覚に陥った。

 

ジェイソンは歯軋りしてキリトを蹴飛ばし、一度距離を置くと再び鉈を頭上から振り下ろす。

 

「今死ね!すぐ死ね!!骨まで砕けルルルルオオオオオオオォォォ!!!!!」

 

先ずはキリトの腹部に膝蹴りを、続けて左拳でキリトの顎にアッパーパンチを、最後に身体を一回転させてその遠心力を最大限に活かしてキリトを吹き飛ばす。

キリトは壁に吹き飛ばされ、土煙を上げて衝突した。

だが……

 

「まだだあああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

キリトは尚も怯まずにジェイソンに飛び込んだ。

HPは既にイエローゾーンだが、それでも気にせず進み続ける。

 

「これでも止まらねぇのかぁ……!!」

 

忌々しげに舌打ちし、突っ込んでくるキリトを迎え撃つ。

 

「なら……こおぉいつでどぅだああああ!!!」

 

ジェイソンは再び巨鉈を頭上に振り上げると、鉈の刃が紫色の光を放ち始める。

そしてキリトが足元まで来たタイミングでそれを勢いよく振り下ろす。

 

「ンマッッッスルウゥゥゥ……ギィィヤァァラクシィィィブウゥゥルルルルレエェイクウゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

上から振り下ろされる超絶なパワーに、キリトはなす術もなく押し潰された。

 

「キリトくんっっ!!!」

 

アスナは悲痛な顔で彼の名を叫んだ。

土煙が晴れた先に、キリトは左右の剣を頭上で交差させる事でその一撃を受け止めていた。膝をついてその衝撃に踏ん張り、巨大なパワーに耐えるその表情は先ほど以上に苦悶に満ちていた。

その腕はギリギリの所で必死に踏ん張っているため小刻みに震え、黒と翡翠の剣はギシギシと音を立てている。

 

「まぁだ踏ん張るかぁぁ……ふん、だがこれで終わりだああぁぁぁ!!!」

 

「っっ!!ぐおおおおおおっ!!」

 

ジェイソンは鉈を握る腕に力を込め、キリトを押しつぶす。

キリトはそれに対して更に踏ん張って抵抗を試みる。

だがその腕は徐々に下に下がり始めた。

 

「ダメ!お願い、負けないで!!キリトくん!!!」

 

その時、アスナの泣き叫ぶ声が響いた。

キリトはその声を聞き目を見開く。

 

“負けるか……”

 

その瞬間、キリトの剣がジェイソンの鉈を押し返し始めた。

 

「な、にぃ……?!!」

 

ジェイソンは驚愕の表情を浮かべた。

焦って更に力を強めるが、尚も逆にジェイソンが押し返される。

それに対してキリトは膝をついていた左足を『ダン!』と地面につけ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「お、おおお……!」

 

腕に、足に、全身に限界を超えた力を込め、巨大なパワーをゆっくりと押し返していく。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーー!!!」

 

次の瞬間、キリトは力強い雄叫びを上げながら、遂にジェイソンの鉈を弾き返した。

その反動でジェイソンは後ろにバランスを崩す。

 

「てめえぇ…!」

 

ジェイソンは反撃を加えようとバランスを整えるが、その前にキリトの追撃が来る。

 

キリトの双剣が青白い光を帯び、ソードスキルが発動する。

 

「《スター・バースト……ストリーム》!!」

 

キリトの最も得意とするソードスキルが放たれた。

左右の剣から繰り出される青白い斬撃が、文字通り流星の如くジェイソンに襲いかかる。

縦に、横に、斜め方向にランダムで発動する剣撃がジェイソンの胴体を斬り刻む。

 

「舐め……んじゃねえぇぇぇ!!!」

 

だがその猛攻の中、ジェイソンは反撃とばかりに鉈をキリトの横腹に叩き込み、腹部を抉る。

 

「っぐうっ…!」

 

キリトの表情が一瞬顰められ、HPがレッドゾーンの直前まで減少する。そしてスター・バースト・ストリームが強制的に中断された。

 

「ぐ、おおおおおおお!!」

 

しかしキリトはそこから二刀流最上級スキル《ジ・イクリプス》を発動する。

並大抵のボスモンスターならばこの技だけで消滅させられる程の破壊力を持つ技。先程の技よりも更に眩い青白い光が発せられ、フレアのような強烈なエネルギーを纏った剣戟が繰り出される。

先ほどよりも速く、更に強いパワーで放たれる攻撃を、ジェイソンはここに来て恐るべき反射神経で捌いていく。直感でこの技だけは受けてはならないと分かったのだ。

だがそれでも相手は二刀、こちらは一刀、手数では明らかに不利。キリトの一撃が何度か自身を掠め取り、その度にHPがあり得ない程削られていく。

 

「こぉぉんんのガキがあああぁぁ!!オレ様をおおぉ……舐めんじゃねええぇぇぇぇえええ!!!!」

 

するとジェイソンの鉈に真紅の光が放たれ始め、そしてその鉈とキリトのダークリパルサーがぶつかり合う。

数秒間そのまま鍔迫り合いを起こすが、次の瞬間。

 

ダークリパルサーの翡翠の刀身に『ピシリ』とヒビが入ったのだ。

キリトの目が見開かれ、その一瞬が命取りだった。

 

「ブゥルルルゥアァァァァウ!!」

 

ジェイソンが左拳でキリトの頬を殴りつけ、そのまま右足で思い切り蹴飛ばしたのだ。

 

「ぐっ…は……!」

 

そのままキリトは数メートル転がり、膝立ちで立ち止まる。

既に彼のHPはレッドゾーンに達していた。そしてダークリパルサーもほぼ使えない。次に使ったが最期、この剣は真っ二つに折れる事だろう。

 

それを見越したジェイソンは、鉈を振りかぶってキリトに突進する。

 

「こいつでえぇ……終わりだああああぁぁぁぁぁあ!!!」

 

ジェイソンの鉈から漆黒のオーラが出始め、そしてそれがジェイソンをすっぽりと覆い尽くす。

ジェイソンの巨大も相まって、漆黒のオーラに包まれたその姿は正に“闇”そのもの。見ただけで、その技がジェイソンの持ち得る最強の技であることは明白だった。

 

キリトは膝をついたまま、黙ってダークリパルサーを見つめていた。

この剣はリズベットが彼の為に鍛えた剣。そして彼女と交わした、この世界を終わらせるという約束の象徴。

 

“ごめんな、リズ”

 

キリトは心の中でリズベットに謝罪した。

最早この剣が折れるのは必至。あの約束は、守れそうもない。

 

“だからせめて……あいつを倒して……俺はみんなを守る!”

 

キリトはそう決意して立ち上がる。思い浮かべるのは、もう一人の黒い背中。

これまで皆を守り、導いてきた《もう一人の黒の剣士》。

 

「いつまでも、守られっぱなしじゃかっこつかないからな……!」

 

届くことのない言葉を、キリトは一人呟く。

 

そして右手のエリュシデータと、左手のダークリパルサーを前で交差させる形で構える。

二振りの剣が、彼の決意と覚悟に応えるように眩いゴールドの光を放ち始める。

心なしか、左手のダークリパルサーが最後の力を振り絞っているのか、エリュシデータよりも明るく発光しているように見えた。自身の最期を、ここで飾る為に。

 

キリトはその光を見て、ゆっくりと目を閉じる。

 

『────秘奥義開帳

是は星々の躍動ーー彼方より来る星々の煌めき────』

 

その詠唱の直後、キリトの剣から発せられる金色の光が彼の身体に伝い始める。

ゴールドの光に包まれたキリトの姿は、正しく絶望の中に立つ希望の象徴。

 

キリトはその光を纏いながら、闇のオーラに包まれたジェイソンに斬りかかった。

 

『《ネビュラレイド・エンプレス》』

 

ゴールドの光を纏うキリトの剣が、ジェイソンの鉈とぶつかり合う。

 

キリトが求めた、最も速く最も強い一撃。それを、この技は体現していた。一撃一撃がジェイソンの攻撃よりも速く繰り出され、更にジェイソンのパワーをはるかに上回る。

左手のダークリパルサーの刀身が、ジェイソンの鉈と打ち合うたび無数のカケラを飛散させて砕け散っていく。

それでも尚、ダークリパルサーはまだ折れなかった。

 

「だああああぁぁぁぁぁあ!!!」

 

気合の叫びを上げながら、キリトは左右の剣を振るった。

この一撃、この技で決める為、全てを賭けた。

 

「オオオォォォォォラアアアァァァァァァーー!!」

 

対するジェイソンも今までとは比較にならないほどの気迫で向かい合った。

何度も何度も、互いの武器が火花を散らして衝突する。

 

永遠に続くかのように思われた攻防。

アスナ達はただ、それを見守るだけだった。

不安ではあった。何せこれだけの数をたった一人で圧倒した男だ。そう簡単には勝てそうもない。

 

しかし一方で信じていた。彼の……キリトの勝利を。それだけは後にも先にも疑うこともなかった。

何故なら彼は、アインクラッドの《黒の剣士》。自分たちを救い、守り、そして共に戦ってきた仲間だからーー

 

 

その次の瞬間だった。

 

キリトのダークリパルサーが『バキィン!!』という音を立ててーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーージェイソンの鉈を半ばから叩き折ったのだ。

 

「なん……だとぉ……?!!」

 

ジェイソンの目が驚愕のあまり見開かれる。

 

「行け………

 

 

行っけえええぇぇぇぇーーー!!!キリトくーーーーーん!!!」

 

アスナが涙目になって力一杯叫ぶ。

 

「ううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

アスナの声を受け、キリトは更に声を張って叫ぶ。

その思い、その気合い、その熱意に応えるかのように、左手の剣ーーダークリパルサー(闇を斬り払う者)が最期の輝きを放つ。

 

翡翠の切っ先がジェイソンの胴体を捉える。

 

そしてその名の通り、巨大な闇そのものであったジェイソンを斬り裂いた。

 

「ぐううぅぅぅおおおおおおおおおおおぉぉぉ………」

 

ジェイソンは胴体を一刀両断され、その場に立ち尽くす。

そのHPは、完全に尽きていた。

キリトはそのままジェイソンと入れ替わる形で止まった。

 

「な、何故だ………俺の方がぁ、遥かに強ぇ力を持ってた筈だ………なのに……この差は、なんだ……」

 

ジェイソンはゆっくりと顔を後ろに立つキリトに向ける。

 

キリトは振り返らずに背中を向けたまま答える。

 

「……俺には守るべきものがあって、お前にはそれが無かった。

それだけの事だ」

 

キリトはゆっくり直立の体勢に戻り、左手のダークリパルサーを軽く左右に振るう。

 

同時に、ジェイソンの身体が青白い光に包まれ、そしてガラス片となって消滅した。

 

 

 

キリトは左手のダークリパルサーの方にもう一度視線を移す。

 

その瞬間、ダークリパルサーの刀身のヒビが大きくなり、そして半ばから折れ、切っ先から半分が地面に『カラン』と音を立てて落下した。

 

「………ごめんな。

そして………ありがとう」

 

キリトは悲しげな笑みを浮かべながら、役目を終えたもう一人の相棒()に謝罪と感謝を述べた。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
これにて、“J”編幹部戦が終わりました。
次回からはいよいよ、クライマックスへとなります。
次のお話はティアの戦いをお届けしようと思います。
ティアに立ちはだかる敵は、あの男ですーー!!

そして今回、ツクヨさんの師匠が明らかになりました。その名は、《ヒビキ》。
いや、銀魂を知ってる方なら「なんで地雷亜じゃねえの?」と思う方もいるかもしれません。自分も当初はそれを考えてて地雷亜編やってツクヨさんをジェネシスのヒロインにしようとか考えてたんですが……
地雷亜編、やるタイミングを見失っちゃったんですよね。
なのでどうしようかと考えた際、もう師匠変えちゃおうとなりまして。で、思いついたのがヒビキさんです。元ネタは仮面ライダー響鬼からになります。ご存知の方なら、「まあ悪くない…?」と思ってくださるかと……

では、長くなりましたが今回はこの辺で。
昨日から8月となりました。暑い日々が続きます。コロナもそうですが、何より熱中症にも十分気をつけてください。
それではまた次回。評価、感想など良ければお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。