ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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昨日・一昨日のSAOアニメとゼロワンを見て衝撃が抜け切れないジャズでございます。

今回はついに、ジョーカーとの決着です。


六十五話 狂気の決着・悪意の胎動

九十五層・ボス部屋

 

本来であればボスがいるであろう広い空間に、2人のプレイヤーが向かい合って立っていた。

 

「待ちくたびれたぜぇ〜、ダークナイトさんよぉ?」

 

ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら言うのは、ピエロ風の化粧を施した男、ジョーカー。

その向かいに立つのは、赤と黒の装備に身を包んだジェネシス。

 

ジェネシスは何も答えずにジョーカーの方を黙って見つめる。

その時、彼が入ってきたボス部屋の扉が閉まり、そして消滅した。ジェネシスはそれを見て少々驚く。

どうやらこの部屋は、七十四層や七十五層の時と同じ、一度入ると退却が不可能な設定になっているらしい。

 

「残念だったなぁ〜、てめぇが入った時点で俺たちのどちらかが死ぬまでこの部屋は開かねえ……

本当ならここにボスもいたんだが、どういうわけか消えちまっててなぁ〜。そういや、スポンサーもその事に気付いちゃいたが、まあ気にするこたぁねえだろ。

大事なのは………てめぇが一人でここにいるって事だ」

 

ジョーカーは懐からサバイバルナイフを取り出し、その鈍色に輝くナイフをギラつかせる。

 

「決着つけようぜぇ〜、今ここでよぉ」

 

「……上等だ、この野郎…!」

 

ジェネシスも大剣を構えて低く唸るような声で答える。

 

そして二人は同時に地面を蹴って駆け出した。

まずジェネシスが大剣を思い切り振りかぶってジョーカーに振り下ろす。

ジェネシスのパワーで勢いよく突き出された大剣の威力のあまりジョーカーは吹き飛ばされるが、空中で身軽に体勢を整えると上手く着地する。

そしてジョーカーは再び駆け出し、ジェネシスももう一度大剣を振るう。が、ジョーカーはその斬撃をナイフ装備の恩恵によるスピードを生かして回避、そのままジェネシスに突っ込む。ジェネシスは大剣の弱点である取り回しの悪さを突かれ、その胴体にナイフを突き立てられた。

 

「っち……!」

 

ジェネシスは左手でジョーカーの腹部を殴りつけて突き放し、自身もそこから飛び退いて一度距離を置く。

 

「ヘヘッ、流石は攻略組最強の一角だぁ…やはり、正面からまともにやり合っちゃ勝ち目は無さそうだぜぇ」

 

息を整えながらジョーカーは楽しげに笑いながら言った。

そしてジョーカーは左手を上げて何かに合図を出す。

 

「出番だぜ野郎共ォ!!」

 

ジョーカーがそう叫んだその時、ジェネシスとジョーカーの周囲にピエロのマスクを被ったプレイヤー達がどこからか出現し、二人を取り囲んだ。

 

「さあ、どうする?《暗黒の剣士》様よぉ〜。てめぇにこいつらが斬れるか?

なに、所詮オレンジだ…纏めて殺っちまえばいいんだよ、ハハハッ!!!んじゃ始めろ!!」

 

瞬間、ピエロマスクのプレイヤー達は一斉にジェネシスに襲い掛かった。

 

「テメェ……ッ!!」

 

ジョーカーのやり口にジェネシスは怒気を孕んだ視線と声で叫ぶと、襲いかかるピエロ達に応戦した。

ジェネシスは大剣のリーチを活かして自身の周りに近づくピエロ達を一斉に吹き飛ばす。

大剣の範囲攻撃スキルを主に使用し、とにかく自分に近づかさせずに応戦する。これだけの数が一気に近づいて来られたら、自身の懐に潜り込まれた瞬間に畳みかけられて終わりだ。

 

「ブァッハハハハハハ!!ところがぎっちょん!!」

 

その時、ジョーカーが自身の履いている革靴の先端部分から小型の刃を展開し、ジェネシスを蹴り飛ばした。

 

不意打ちを受けたジェネシスは地面に倒れ込み、その隙をついて一斉にピエロ達が畳みかけた。

 

「こ……のお!!」

 

ジェネシスは堪らずに暗黒剣ソードスキル《ドレッド・ブレーズ》を発動し、直前まで来ていたピエロ達を纏めて吹き飛ばした。

その攻撃により、何名かのピエロ達がガラス片となって消えた。

 

だがピエロ達は狂ったように、斬っても吹き飛ばしても襲い掛かってくる。

その間、ジェネシスは一心不乱に剣を振り続けた。

 

その間、時折青白いガラス片が飛び散った。

 

出来る限り犠牲は増やさないように気を配るジェネシスだが、それでも敵の勢いに押され、反撃していくうちに何名かのHPが尽きてしまう。

 

するとジェネシスは、押し寄せるピエロ集団を押し除けてジョーカーの方へ一直線に駆け出す。

 

「チョイサー!!」

 

ジェネシスから振るわれた大剣の刃を、ジョーカーは伏せて回避してそのまま足を突き出してジェネシスの右足首を斬りつけた。

 

「っち……!」

 

ジェネシスはその攻撃で仰向けに転倒し、その上からジョーカーが押さえ込んだ。

 

「さぁて、喧嘩はやめにしようぜぇ。

せっかくのお楽しみだ、殺し合いだけじゃあつまらねぇだろつ〜?だからよォ、今から俺とゲームをしようじゃねえか」

 

「ゲームだと…?」

 

「Yeah、俺がテメェと殺し合いだけで終わらせるわけねぇだろうがぁ〜。

おい、アレ持ってこい!!」

 

ジョーカーが手招きすると、部下達が部屋の奥に行き、そして二台のモニターを彼らの元に運び出した。

するとモニターの電源が点き、映像が流れ始めた。

 

映し出された映像には、コンクリート製の二つの部屋があった。まるで独房のような閉鎖的な空間に、それぞれの部屋に10名程度の人間が閉じ込められている。

 

「さて、見ての通り今映像に映っている二つの部屋にはそれぞれ10名、合計20人のプレイヤーが閉じ込められている。

片方は俺たちがこれまで拉致ってきたグリーンのプレイヤー、もう片方は俺たちと同じ犯罪者プレイヤーだ。

それぞれの部屋には爆弾が仕掛けられている。一発で部屋の奴らを全滅させられるほどの威力がある爆弾がな」

 

ジョーカーは映像の方を指差しながらジェネシスにそう説明する。

 

「……何をさせる気だ」

 

「簡単さ。選ぶんだよ。この二つのうちどちらを救うか、をな」

 

するとジョーカーはスーツの内ポケットから二つのスイッチが付いたリモコンを取り出す。

 

「起爆装置はここにある。俺がポチッと押せば一瞬でBOOM!!!

……さあ、お前が選ぶのはどっちだ?何の罪もないグリーンプレイヤー達か、それともてめぇらの安全を脅かす犯罪者共か……?」

 

ジョーカーはニタリと笑いながらそう問いかける。

 

「ブァッハハハハハハッ!!なぁ〜〜んにも悩むこたぁねえよ!!犯罪者共を殺せばいい。こいつらはてめぇらの命を危険に晒す害虫共だ、駆除しなきゃならねえ……

……例えこいつらに現実世界で待たせてる家族があってもよぉ」

 

ジョーカーがジェネシスの耳元でそう告げた瞬間、ジェネシスは目を見開いた。

そうだ。犯罪者プレイヤーといえど、彼らにも家族というものがある。

 

「……ふざけやがって……んなもんてめぇをぶっ倒せば済む話だろうが!!」

 

ジェネシスは起き上がってジョーカーに掴みかかるが……

 

「おおっと〜、怖い怖いィ〜」

 

ジョーカーは素早く反応してジェネシスの右肩に毒ナイフを突き刺す。

麻痺状態に陥ったジェネシスは再び倒れ込んだ。

 

「まあ落ち着けよ。んな事しちゃあゲームにならねぇだろう?

さぁて、そんじゃあ選んでもらおうかぁ〜……制限時間は10秒だ。その間にてめぇが選ばなけりゃ、俺が部屋を二つとも吹っ飛ばす。

さぁ、てめぇはどっちを救うんだ?」

 

ジョーカーはジェネシスの目を真っ直ぐにみながら言い放った。

 

ジェネシスは答えられない。

 

犯罪者と一般人。

 

二つの命を天秤にかけろと言うのだ。しかも自分の采配で。

 

「おいおいィ〜、早く選べよあと5秒だぜェ〜〜?」

 

ジェネシスは何も答えない。

そしてジョーカーのカウントは進んでいく。

 

「はぁ〜イ、残り3…………

 

 

2……………

 

 

1……………

 

 

 

 

ZEROオォォォォォ〜〜……!!

 

さぁ!てめぇが選んだのはどっちだぁ???」

 

ジョーカーは左手に持ったスイッチをチラつかせて煽る。

 

「ぐっ……!」

 

ジェネシスは迷いが取れずに答えられない。

 

「ブァッハハハハハハッッ!!ハァーイ残念時間切れだぁ〜!!

てめぇが選ばなかったから俺が決めさせて貰うぜぇ……」

 

そしてジョーカーはスイッチを掲げると………

 

 

「待っ……!」

 

それを両方押した。

 

「BOOOOOOOM!!!」

 

その瞬間、モニターに映る人々が爆発に呑まれ、そして映像は砂嵐になって途切れた。

 

「て、めぇっ……!!」

 

ジェネシスはジョーカーに対して怒気を孕んだ視線で睨み付ける。

 

「オォイ睨むなよォおめぇが選ばなかったから悪いんだぜぇ?

おめぇがどちらかを選んでいれば助かった命もあったのに、それをおめぇはどっちも救いたいが為に両方とも死なせた……

分かるか?

おめぇが、奴らを、殺したんだよ」

 

ジョーカーはジェネシスの眼前まで顔を近づけて言った。

 

「おめぇの事だ、大方“命は平等だ”とか“どっちも救う方法はねぇのか”とか考えてたんだろ。

だが言わせてもらうぜェ……そんなもんはクソ食らえってやつだ。

 

平等な命ィ?命が平等なわけねぇだろうがよ。例えばだ、『マフィアのボスが殺される』なんて言う情報が流れたとしよう………誰も驚きやしねえ。寧ろそれは称賛される事だ。だが一方で、『国の首相が殺される』って言う噂が出たとしよう………誰も彼もが大慌てだ!!国を挙げて首相を守り抜くだろう……

 

な?命が平等なら、マフィアだろうが首相だろうが、死ぬ命があるなら全力で守らなきゃならねえよなぁ?だぁが現実はそうじゃねえ……救われる命もあれば、見捨てられる命だってある……だから言ったんだ、命に平等なんざねぇってな」

 

ジェネシスは何も答えずに、ジョーカーの言葉を聞く。

ジョーカーは語りを続ける。

 

「万人を救う方法?ある訳ねぇよんなもん。万人を救済するなんざ神であっても出来やしねえ。

そもそも、人間一人が救える数なんざ限られてんだよ。世界最高峰の医者が全ての患者の命を救えるか?無理に決まってる。

 

誰かを救うと言う事は、誰かを見捨てるって事だ。稀にいやがんだよ、全ての人間の“正義の味方”になりたいってやつが。バカバカしいとは思わねぇか?正義なんざ人によって様々だ。この世の法こそが正義とする奴もいれば自分自身を正義と断じてる奴だっている。

……俺ァそう言う奴が大嫌いでね。正義の味方を気取ってる奴に混沌を齎すのが楽しくて堪らねえ。

 

そいつの大事なモンをぶっ壊す瞬間の表情が最っ高なんだなァ〜これが!!」

 

ジョーカーは高笑いを上げながらジェネシスにそう語りかける。

 

ジョーカーの言葉はジェネシスの中にすんなりと溶け込んでいく。

 

どれもこれも理にかなっており、寧ろ正論を言っているように思われた。

 

命は平等じゃない。

 

自分には万人を救う力は無い。

 

絶対的な正義などこの世には存在しない。

 

ならば、どうするか。

ーー選び取るのだ。自分が守り通すと決めたものを。

ーー自分が愛するものだけを、守り抜くのだ。

ーー仲間達を、自分を信じてくれる者たちを。

 

 

ーー最期まで共にいると誓った、ティアを。

 

 

 

その瞬間、ジェネシスの中で何かが吹っ切れた。

麻痺状態も未だ時間を残した状態でなぜか解除される。

彼の精神が氷のように冷え切り、澄み渡り、再び例の巨大な門ーー『ゾーン』への扉が開き始める。

 

次の瞬間、ジェネシスはジョーカーを突き飛ばした。

 

「……ジョーカー、確かにてめぇの言う通りだ。

平等な命なんてねえし、万人を救う力は俺にはねえ。

 

だったら俺はせめてーー俺が守ると決めたもんは何があっても守り通す…………例え、何を犠牲にしてもな」

 

ジェネシスは両目から真紅の光を発しながら立ち上がり、大剣の切っ先をジョーカーに突きつけて言い放った。

 

「………プッ、ハハッ、フハハハハハハハハッ!!!

ブァッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

いいねぇ〜いいねぇ〜いいよぉ〜!!今のお前、最ッッッ高にCOOOOOLじゃねえかあぁぁ!!!

だったらよぉ、もっと笑えよ《暗黒の剣士》。せっかくいい答え見つけたのに台無しだぜぇ?

 

    “Why so Serious?(そのしかめっ面は何だ)”」

 

ジョーカーの言葉を合図に、周囲で待機していた部下のピエロ達が一斉にジェネシスに飛びかかった。

 

だがジェネシスは先ほどと違い、暗黒剣スキルをお構い無しに発動し、容赦無くピエロ達を葬っていく。

赤黒い渦に斬り裂かれ、貫かれたピエロ達は次々に消滅していき、あっという間に全滅した。

 

「次は………てめぇの番だ」

 

「ヒュウゥ〜…まさかこれほどとはなぁ〜」

 

ジョーカーは口笛を吹きながらジェネシスの戦いぶりを見て感心したように言った。

 

だがその次の瞬間、ジェネシスの大剣から漆黒のオーラが発生し、そしてジェネシスをすっぽりと覆った。

 

『秘奥義、開帳ーー』

 

そして赤黒いエネルギーが大剣の刃に収束し、ジェネシスはそれを上段に真っ直ぐに構える。

 

「『アビス・ディストピア』」

 

直後、赤黒い巨大な斬撃が振り下ろされ、一瞬のうちにジョーカーを吹き飛ばした。

ジョーカーの立っていた場所に大爆発が起き、赤黒いエネルギー波ごと吹き飛ばす。

 

爆発が止むと、端正だったスーツがボロボロになり、地面に力なく横たわるジョーカーの元へジェネシスが歩み寄る。

 

「………終わりだ」

 

「ああ〜……そうみてぇだなぁ〜……ケッ、随分と呆気ないもんじゃねえか……もうちょっと楽しむつもりだったんだがヨォ〜」

 

ジョーカーは全てを悟ったかのような表情でジェネシスを見上げながら言った。

 

「あいつらの未来の為に………お前は邪魔だ」

 

「ヘヘッ、何を犠牲にしても仲間を守る……そりゃ結構な事だ。下手に正義を振りかざすような輩よりはよっぽどマシだ………けど、楽しみだねぇ〜

 

その守るべき仲間から牙を向かれたらどうなるのか?その時テメェはどんな選択をするのか………あっちで見ててやるよ……ふ、フハッ!フハハハハッ!!

ブァッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ───────

 

 

 

 

 

高笑いを上げながら、ジョーカーは消滅した。

 

ジェネシスはそれを見届けた後も、無気力にその場に立ち尽くした。

 

すると、ジェネシスが入ってきた扉が再び出現し、そして大きな音を立てながら開く。

 

「いやぁ〜、実に見事な戦いだったねぇ〜ジェネシス君」

 

パチパチと拍手をしながら中に入ってくる男がいた。

金髪で端正な顔を持った男…

 

「アルベリヒ……?」

 

「まさかあのジョーカーを倒すとは!本当に驚かされたよ!流石は《暗黒の剣士》!因縁の感じる戦いを見事に制した訳だ!!

 

 

……お陰で僕の計画も少し狂わされたよ。その報いは、きっちり受けてもらおうか」

 

突如下衆な笑みに切り替わったアルベリヒは自身の後ろの方へこちらに来るよう指を鳴らす。

 

すると扉の奥から、フラフラと一人の人物が覚束ない足取りでやって来た。

 

それは、ジェネシスもよく知る少女。紫の髪に赤いリボン。桜色のパーカーに白いワンピースを身につけた、彼のもう一人の娘。

 

「サクラ……?」

 

サクラはいつもの彼女とはあまりにかけ離れていた。

サクラは普段の穏やかで優しげな笑みではなく、瞳のハイライトが消えて焦点が合わず、虚な表情だった。

左頬には何やら赤い血のような筋が無数に入っており、それは首を伝って身体の方まで続いている。

そして腰には、今まで付けていなかった奇妙なベルトが巻き付けられていた。黒を基調とした黄色い鍵爪がつき、そこには赤と黒の長方形の物が展開され、気味が悪い寄生虫のようなデザインのマークが入っていた。

 

「ククククッ……さあ、サクラくん。あの男を始末してくれたまえ」 

 

アルベリヒがジェネシスを指差しながらそう言った直後。

サクラはその場から飛び出し、飛び蹴りを放つ。

 

「うおっ?!」

 

ジェネシスは間一髪の所でそれを回避するが、彼の背後から続けてサクラの蹴りが飛んでくる。

 

「何だよ……何がどうなってんだ?!おい、サクラ!!おめぇ一体何があったんだ!!!」

 

ジェネシスはサクラの猛攻を寸前のところで回避しながら、悲痛な顔で呼び掛け続ける。

 

それを側から眺めるアルベリヒは口元を両手で押さえて楽しげに笑っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜数分前〜

 

 

ジェネシスがジョーカーと激闘を繰り広げていたその頃、ボス部屋のすぐ近くにいたサクラは、アルベリヒと邂逅していた。

 

「アルベリヒさん……貴方、一体何をしに現れたのですか?」

 

「いやぁ、ついさっきまで実験を行なっていたのだが、その“被験体”どもが脱走してしまってねぇ〜。ちょうど困っていたとこに君がいるのに気が付いてね。こいつは運がいい……何せ最高の実験体がいるじゃないか!MHCPという人の心に敏感な君がさぁ!!」

 

アルベリヒは口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「実験…?被験体……?どういう事ですか?一体何を言っているのですか?」

 

「ヒヒッ、分からないかい?なぜ彼らがこんな最前線の迷宮区を占拠なんて出来たと思う?

 

………僕が手引きしたからだよ」

 

「なっ………?!!」

 

アルベリヒがそう答えた瞬間、サクラは目を見開いた。

その直後だった。

 

サクラの両足にピンク色の触手が巻きつき、サクラを逆さ吊りにする。

 

「ちょっ……なに、これっ……!」

 

『イヒヒヒッ!捕まえた捕まえたぁ〜!』

 

『おいおい、独り占めはよくねえぞ!俺たちの獲物なんだからよ』

 

すると背後からピンク色の気味が悪いナメクジのようなモンスターが人語を発しながら現れた。

 

『いやぁ〜それにしてもみろよこれ!!この胸!!これ本当にAIなのか〜?』

 

途端、ピンク色の触手がサクラのワンピースの下から入り込み、胸を弄り始めた。

 

「い、いやっ……!!」

 

『うっひょぉおおお!!何だこれ最高じゃねえか!!AIなのにいい声で鳴きやがる!!』

 

『おいおいだから独り占めすんなっての!!』

 

するともう一体のナメクジから別の触手が伸ばされ、サクラの身体を縛り上げ、そして同じように胸を乱雑に弄り始める。

 

「この……さ、わ……るなっ!!!」

 

直後、サクラの右足が赤い光を帯び、クライム・バレエスキルが発動しピンクの触手を斬り裂いた。

サクラは空中で1回転すると地面に着地し、巻きついていた触手を取り払って投げ捨てた。

 

『ギャアアアッ!!切れちまったあぁ!!』

 

「阿呆共が……だから油断するなと……」

 

そんなナメクジ達を呆れた顔で眺めるアルベリヒ。

すると彼は左腰から金色のショートスピアを取り出す。

 

「貴方達……一体何者なのですか?!」

 

「ふん、それに答えてやる義理は……無いね!!」

 

瞬間、二人は同時に飛び出す。

 

サクラはその場で空中に飛び出すと、一回転して踵をアルベリヒの頭に叩き込む。

 

「ギャッ!!」

 

アルベリヒはその場に思わず蹲り、サクラはそこから追撃を与えようと左足を振りかぶる。

 

だがその瞬間、アルベリヒは金色のショートスピアの先端をサクラの腹部に突き立て、そして柄の後ろにあるレバーを思い切り引いた。

 

『Jack Rise!』

 

その瞬間、紫色の光がサクラの腹部に発生し、それがショートスピアに吸収されていく。

それと同時に、サクラは全身から力が抜け、地面に膝をついた。

 

「こ、これは一体……?!!」

 

それに対してアルベリヒは不敵な笑みで立ち上がり、サクラを見下ろす。

 

「君のデータは頂いたよ」

 

そしてショートスピアのグリップにあるトリガーを引いた瞬間、引き出されていた柄の後ろの黄色いレバーが収納される。

 

『Jacking Break!』

 

その瞬間、サクラの使う技と同じような光がアルベリヒの右足に発生し、そしてアルベリヒはサクラを思い切り蹴り飛ばす。

 

「が、はっ……!」

 

サクラはそのまま壁に叩きつけられ、地面に倒れ込んだ。

 

身体に力が入らず、うまく立ち上がれない彼女に向かって、アルベリヒはゆっくりと近づく。

 

「ハン、やっぱりこの僕からすれば君達なんてゴミ同然さ。ましてや人の心を治療する役目を放棄した君達に、最早価値など無い。精々僕の実験のいい道具となってくれたまえ」

 

そしてアルベリヒは腰から黒いドライバー型のアイテムを取り出すと、サクラの髪を引っ掴んで乱暴に立ち上がらせ、それを腰に押し当てる。

 

『Force Riser!』

 

瞬間、黒いドライバー型のアイテムの両側から銀色のベルトが出現し、サクラの腰に巻きつく。その裏には無数のトゲが付いており、腰に巻きつかれると同時にトゲが深々と突き刺さる。

 

「っ!うっ……ぐうぅっ………!!」

 

瞬間、サクラに赤い電流が走り、彼女は苦悶の表情を浮かべる。

 

「君たちが見続けて来た人の悪意……それをもう一度ラーニングするといい」

 

アルベリヒは今度は掌サイズの長方形型のデバイスを取り出すと、そこに付けられているスイッチを押す。

 

『Uncontrolling Parasites Ability 』

 

そしてそれを、黒いドライバーの隙間に差し込む。

すると、何やら警告音やブザーのようにも聞こえる禍々しい待機音が流れ、そしてアルベリヒはそのドライバーのレバーを引く。

 

『Force Rise!』

 

瞬間、サクラの周りに無数の赤黒い蟲が出現し、そしてサクラに襲い掛かるように包み始めた。

 

「あ、ああああ……ああああああああああああアアアアアアーー!!!!」

 

悲鳴を上げる中、サクラの内部に強制的に流れ込むデータがあった。

 

それは、かつて自分が崩壊する直前にモニタリングし、感知していた“人の悪意”。

 

『憎』『恐』『怒』『憤』『怖』『死』『殺』『滅』『亡』『迅』『雷』『悪』『零』『戦』『不』『嫉』『妬』『悲』

『嫌』

 

それだけではない。

 

サクラの頭に直接流れる、膨大な負の感情。

正視できない闇、認められない醜さ。

それはこの世全てにおける、人類の罪状と呼べるべきもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ

 

キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ

 

 

シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ

 

 

 

 

 

「い、いや………」

 

 

この闇に囚われた者は、苦痛と嫌悪によって自分自身を食い潰すーーーー

 

 

「いやああああああああああああああああーーー!!!!!」

 

 

 

 

Break Down

 

 

機械的な音声が流れ、サクラに纏わりついていた蟲達が消える。

代わりに中から現れたのは、虚な表情で立ち尽くすサクラだった。

 

「ヒヒヒヒヒッ!!やったぞおぉー!!実験成功だあぁぁぁ!!ベストマッチきたあぁぁぁぁ!!!」

 

そんな彼女を見たアルベリヒは両手を上げて歓声を上げた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「くそ……っ!!」

 

サクラの猛攻を受けるジェネシスは地面に倒れ込むと、再びサクラの方を見た。

彼女はゆっくりとこちらに向かって距離を詰めてくる。

 

「こうなったら……一か八かっ!!」

 

ジェネシスは彼女が傷つかないよう、かつ彼女を止めるために大剣を握った。

その時だった。

 

「おっと、そうは行かないよ」

 

突如彼の背後にアルベリヒが現れ、彼の背中にショートスピアを突き立てた。

 

『Jack Rise!』

 

「ぐ、おっ…?!!」

 

その瞬間、ジェネシスの身体から力が抜け、地面に崩れ落ちた。

 

「ふん、だから言ったろう。君は何の力もないガキなんだとね」

 

『Jacking Break!』

 

そしてアルベリヒは、ジェネシスが持つ暗黒剣スキル《ヘイル・ストライク》を発動し、ジェネシスを吹き飛ばした。

 

「ぐわあああぁぁぁぁっ?!!」

 

ジェネシスは今まで感じたこともないような衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「フハハハハッ!!どうだい?自分自身の技を受ける感覚は?

君のデータは頂いた。もう君は必要ない。この世界は僕が終わらせる。君はもうお役御免なんだよ。

役立たずのガキはさっさと眠りたまえ」

 

アルベリヒは侮蔑の視線でジェネシスを見下ろしながら言うと、サクラに合図を出す。

 

サクラはドライバーのレバーを一度引き、そして再び展開する。

 

『Uncontrolling Dystopia』

 

すると、赤と黒の触手のようなエネルギーがサクラの右足に収束していく。

 

「亡き者となりたまえ、《暗黒の剣士》」

 

そしてサクラは、それを勢いよくジェネシスに突き出すーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、一筋の白い疾風がジェネシスとサクラの前を通り過ぎた。

 

サクラはその風に巻き込まれてジェネシスの元を離れる。

 

ジェネシスがその方向を見ると、そこには白い着物姿の女性がサクラを抱えて座っていた。

女性がサクラの額に手を当てた瞬間、サクラは糸が抜けたように両目を閉じて気を失った。

 

「お、お前は……!」

 

ジェネシスはその女性を見て目を見開いた。

 

白い着物姿の女性はサクラを横抱きにしながら嫋やかな仕草で立ち上がると、ジェネシスの方に微笑みかける。

 

「遅くなっちゃったわね。怪我は無かった?」

 

そう言って、シキは問いかけた。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

今回、仮面ライダーゼロワンのネタを使ったのをお気づきになられたでしょうか?サクラが用いたプログライズキーは私ジャズが考案したオリジナルプログライズキーです。
『Uncontrolling Parasite』
左のアンコントローリングは暴走状態を意味します。元ネタとしてビルドのハザードフォームと聖杯の影によって支配されている間桐桜をイメージしてます。
そして後半のパラサイト。これは桜に取り憑いている刻印蟲を元ネタにしています。

さて、今回はこのへんで。
次回もよろしくお願いします。
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