ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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こんにちは皆さん、ジャズです。
今回からイベントパートに入ります。今回のお話は二本立てになります。
では、本文スタートです。


六十七話 託された想い・息抜き

01 託された想い

史上最悪の犯罪者ギルド、“J”との激闘から一ヶ月。

アインクラッド攻略はそれまでのペースを取り戻しつつあった。

 

「しっかし……やっぱしっくり来ないな……」

 

そうボヤいたのはキリト。

というのも、彼は普段から左右の手で剣を扱う二刀流スタイルを取っているのだが、先の“J”の幹部の一人ジェイソンとの激闘の果てに、左手の愛剣ダークリパルサーが折れてしまい、使用不可能な状態にあったのだ。

 

「でも、キリトなら片手剣だけでも十分強い気がするんだけど」

 

そう口にするのは、愛用のハルバードを肩に担ぐヴォルフ。

 

「いやでもなぁ、ボス戦じゃ流石に片手剣だけじゃ攻撃力が足りないしな。それに、ずっと二刀流で戦ってたからそのクセがついちゃってさ」

 

キリトは持て余した左手を苦笑しながら振るう。

 

「ああ、ボス戦でキリトの全力が出せないのは確かに辛いね。ただでさえ、戦力が下がっちゃってる訳だし……」

 

キリトの言葉にヴォルフは頷く。

先の“J”との激闘により攻略組は大きな犠牲を出した為メンバーが減り、さらにサクラという回復役の戦線離脱によって現在の攻略組はかなりの戦力低下を起こしているのだ。

そんな状況でキリトの全力である二刀流も使用できないとなればかなりの痛手だ。

 

「あのねぇ、だからこうしてわざわざ素材集めに来てるんでしょうが」

 

すると彼らの背後から呆れた口調でリズベットが言った。

 

「はは、悪いな付き合ってくれて」

 

「まあいいのよ、あんたの剣作ってあげなきゃだしね。

にしても、あんたこれで2本目よね私の剣折ったの」

 

「あはは、申し訳ない」

 

ジト目で見ながらいうリズベットに対してキリトは苦笑しながら謝った。

 

「しっかし、本当険しいなここの道は……」

 

ヴォルフはため息を吐きながら今彼らが進んでいる道を振り返って呟く。

今、キリト達3人が進んでいるのは、大きな岩や石ころが道に転がっている凸凹の激しく、傾斜がかなり大きい山道だ。

足場も悪く、3人は転倒しないように慎重に一歩ずつ足を進める。

 

「はぁ……これ下手な登山よりしんどいわね……」

 

「ああ、こんなに険しい道だったなんてな……転ばないように気をつけていこうぜ」

 

リズベットが息も絶え絶えの様子で進み、キリトも同意して皆に注意を促す。

 

彼らはこの険しい道をからこれ二時間近くは進んでいる。しかもその道中には強力なモンスターが出没し、彼らの幾多を何度も阻んできた。

 

「けど、この先にキリトの剣の素材が手に入るんだろう?」

 

「ええ、そうよ。情報によれば、この先のボスモンスターを倒せばかなりいい素材が入るって噂だからね。

何がなんでも手に入れなきゃいけないわ」

 

リズベットは決意のこもった表情で頷く。

 

「今回もよろしく頼むな、リズ」

 

「まっかせなさい!」

 

キリトの言葉に頼もしい笑みを浮かべながら頷く。

すると、ヴォルフが前方を見て「そろそろだ」と告げる。

キリトとリズベット、ヴォルフはいよいよフィールドボス戦ということで気を引き締めて足を進める。

 

すると、凸凹の激しかった山道が終わり、頂上あたりに到着した。

そこは石ころなどは一つもない真っ平な円形のフィールドが広がっていた。直径約200メートルくらいあり、周りは違った岩で囲まれている。

 

直後、彼らの目の前に全長6メートル程の巨人が出現した。

全身は堅固な岩で構成され、右手には巨大な大剣を握っている。

名は、『The Boulder Golem』

 

「こいつか……」

 

キリトは背中から黒い直剣『エリュシデータ』を引き抜く。

リズベットもメイスを、ヴォルフはハルバードを取り出して戦闘態勢に入る。

 

「中々防御力が高そうだな、一筋縄では倒れなさそうだ」

 

「そうね。だから、よろしく頼むわよ!」

 

リズベットが力一杯ヴォルフの背中を叩く。

 

「いった?!な、何で俺?」

 

「なーに言ってんの。力でぶっ壊すと言ったらあんたの専売特許でしょうが!」

 

「な、成る程……そう言うことなら任せてくれ」

 

ヴォルフは戸惑いつつも、リズベットからの激励を受けて気を引き締める。

 

「よし、それじゃ戦闘開始だ!」  

 

キリトの掛け声で3人は一斉に飛び出した。

 

巨人から大剣が3人に向けて勢いよく振り下ろされる。

 

「バアァァァァニング!!」

 

ヴォルフが威勢のいい掛け声とともに巨人の大剣をハルバードで弾く。

その隙に、リズベットとキリトが左右から巨人の懐に飛び込んで攻撃する。

 

「どっせええぇぇぇい!!」

 

ヴォルフは自慢のパワーを存分に活かして巨人と互角に打ち合いを続ける。

大剣と斧がぶつかる度に凄まじい火花が散り、衝撃波が発生する。

 

「はあああああっ!!」

 

キリトは右手の黒剣にソードスキルを纏わせて巨人の横腹を抉るように斬る。

そして続け様に何も持っていない左手を突き出した。

 

「……あ」

 

キリトはその瞬間ハッとした顔になった。もう長い時間二刀流で戦っていた癖が抜けきれずについ左手が出てしまったのだ。

 

「はぁ……」

 

キリトは思わず苦笑いでため息をつく。

 

「まったく……早くあんたの剣、作ってあげないとね」

 

一部始終を見ていたリズベットは呆れた顔で呟く。

 

そこからの戦闘は順調に運んでいた。ヴォルフが巨人の剣を見事に弾いていき、彼がタンク役を務めることでボスを引きつけ、その間にキリトとリズベットが側面から攻撃すると言うスタンスを貫いていた。

 

「これなら行けるかな……?」

 

リズベットは少し距離をとって巨人を見る。

 

だがその時、巨人が突如リズベットの方に転身し大剣を振り上げたのだ。

 

「えっ……」

 

あまりに突然のことでリズベットは反応が遅れ、回避が出来ずにその場に立ち尽くしてしまう。

 

「リズ!!!」

 

キリトが慌てて駆け出すが、とても間に合う距離ではない。

そしてボスの大剣が勢いよくリズベットに振り下ろされるーーーー

 

「リズ!!」

 

だがその時、ヴォルフがリズベットのもとに駆け寄り、彼女を抱き寄せて、その背中でボスの刃を受けた。

 

「ヴォルフ……?あんた、どうして……?!」

 

ヴォルフはHPがイエローゾーンに陥っていたが、リズベットに優しく微笑んで言った。

 

「君が傷つくのは、見ていられなかったからさ」

 

「あ、あんた……」

 

「ヴォルフ、大丈夫か?!」

 

キリトが駆け寄り、ヴォルフに回復ポーションを渡してHPを回復させる。

ヴォルフは再び笑って立ち上がり、ハルバードを肩に担いで巨人に相対する。

 

「それじゃ、一発仕留めてくるか」

 

ヴォルフはそう言って鬱金色のコートをはためかせて走り出す。

リズベットは地面に座り込んだままの体勢でその後ろ姿を見つめていた。

 

彼女はヴォルフに抱き抱えられた瞬間に、胸の奥が激しく揺らぐのを感じた。

 

彼女はキリトに対して想いを寄せていた。だがヴォルフと再会し、アークソフィアで店を共に経営したり日常を過ごしていくうちに、彼の優しさや強さ、思いやり、慈悲深さ、そして自身の仕事に対する献身的な支えがあって、いつの間にか彼といると自然と心が熱くなっていた。

何より、彼の自身に対する視線が好意的なものである事も気付いていた。リズベットはキリトのように鈍感ではない。

 

そして、キリトとヴォルフの二人に対する想いでリズベットはずっと揺らぎ続けていた。

 

キリトにはもう決まった相手がいる。だからこの気持ちは絶対に届かない。

しかしだからヴォルフを選ぶ、と言うのは彼に対して失礼だ。

 

だから、リズベットは中々彼に対する想いを切り出す事も答える事も出来ず、ずっと平行線の状況が続いていた。

 

しかし、今ヴォルフに助けられた瞬間、リズベットの中で何かが振り切れた気がした。

 

「全く……あんたって人は……」

 

リズベットはやれやれとため息をつきつつも、どこか嬉しそうな表情で立ち上がる。

 

「グウゥゥゥゥゥルルルレエェェイトオオォォォォォーーーー!!!!」

 

ヴォルフはリズベットを救出した後、両手斧を頭上に構えると一気に振り下ろす。斧の刃部分に紫と黒のオーラが発生し、そのオーラを纏ったままボスを頭上から叩き潰す。

両手斧最上級スキル《グラビティ・インパクト》

 

絶大な破壊力を持つ一撃を受けたボスは、身体をガラス片に変えて消滅した。

 

そしてそこに、赤い光沢を放つ美しい鉱石がドロップした。

 

「出て来たわね……『ブラッディ・クリスタルインゴット』…」

 

リズベットはその石を手に取って確認した。

かなりのレア度を誇る鉱石のようだ。

 

「やったな!これで剣が作れる!」

 

「ああ、よろしく頼むぜリズ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

街に戻った3人は、早速リズベット武具店に向かい、今回手に入れた鉱石を窯に入れて準備を整える。

その間、リズベットは赤く煌々と燃える釜をじっと見つめていた。今、彼女の心は正に今目の前にある釜の炎のように燃えている。その炎の正体は、言うなればヴォルフに対する恋心だ。

以前、リズベットはキリトに剣を作ったとき、彼に対する想いを乗せて剣を作り上げた。

けれど今はもう、以前のような感情はない。否、好きではあるがそれは恋ではない。

キリトにはもうアスナという相手がいて、この想いが届くことはないと押し込めていた。

しかしそれでも、残香のようなものは残っている。

だから、この剣にリズベットは全てを懸けるつもりでいた。ここで最高峰の剣を作り上げ、この恋に決着をつける。

 

即ち、ヴォルフに対して想いを告げるということだ。

 

リズベットは集中力を極限まで高め、いよいよ熱せられて赤く光る石を金床に取り出す。

 

キリトとヴォルフが側からそれを見守る。

 

「よし……行くわ!」

 

リズベットは専用のハンマーを両手で構え、ゆっくりと、丁寧に、力強く叩いていく。『キン!キン!』と、甲高い金属の音が部屋中に響き渡る。

一回打つ度に、リズベットは残されたキリトに対する想いを全て載せるつもりで叩いた。

 

「(これで決めるんだ……ヴォルフに気持ちを伝えて、この想いに決着をつける……だから、残されたキリトの思いを、この剣に全部乗せるんだ!)」

 

そんな彼女の想いに応えるように、鉱石が一際眩く輝き始める。時々『バチリ!』と赤い放電現象を伴いながら、長方形の型だった鉱石が十字の形に伸びていく。

 

出来上がった剣は、キリトの使用するエリュシデータ刃をダークリパルサー度ほぼ同サイズの片手剣。

刀身は真紅で金色のラインが入り、十字の真ん中部に水色の水晶のような飾りが付いている。

見た目から明らかに高性能な剣である事は明らかだった。

 

リズベットは恐る恐る、完成した剣のパラメータを鑑定スキルで確認する。

そしてそれを見た瞬間、愕然とした表情になった。

 

「うそ……何これ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……最っ高の剣ができあがったわ!!」

 

出てきた数値は、これまでリズベットが見てきた剣の中で最高クラスのものだった。正しく、リズベット最高傑作の剣であった。

名前は、『リメインズハート』。

 

キリトも早速出来上がった剣を手に取り、素振りをしてみる。

 

「凄い……すごく手に馴染む……最高の剣だ!」

 

キリトも感激した様子でリズベットに感想を告げる。

 

「や、やったじゃないかリズ!!」

 

ヴォルフが嬉しそうにリズベットの肩を持って飛び上がった。

 

「ええ…ええ!やったわよ、あたし!!」

 

リズベットもヴォルフの手を取って歓喜した。

 

しばし店内は歓喜ムードに包まれ、キリトもそれを優しく微笑みながら見守る。

 

するとリズベットが何かを思い出したようにヴォルフに向かい、

 

「あ、あのねヴォルフ……悪いんだけど、ちょっと二人にしてくれないかしら?」

 

ヴォルフは突然の事で疑問符を浮かべるが、「わかった」と頷いて歩き出す。

店を出る際に、リズベットはヴォルフに河畔エリアで待つように伝える。

 

「どうしたんだ、リズ?」

 

突然の事で訳がわからない様子のキリトに、リズベットは深呼吸して向き合う。

 

「あのね、キリト……聞いて欲しいことがあるの」

 

リズベットは真剣な顔でキリトの顔を見据える。

 

「あたしはね……あんたの事が好きだった」

 

その瞬間、キリトは体が一瞬固まった。

 

「好き……って、それって、え?リズ?」

 

「もう!ほんと鈍感なんだからあんたは!!」

 

リズベットは苦笑しながら言った。

 

「まさか、本当に?そういう、意味なのか?」

 

「ええ、そういう意味よ。それで、あたしの気持ちには答えられないって事もわかってる。今こうしてあんたに告白したのは、あたしにとって一種のけじめみたいなもの。そうでないと………アイツとちゃんと向き合えないから」

 

キリトは漸く全てを察したのか、「あ……」と申し訳なさそうに固まる。

 

「ごめんな、リズ」

 

「いえ,謝らないで!むしろこちらこそごめんね、これはあたしのわがままだから。あたしの気持ちは、もうヴォルフの方に向いてるから。

でも、最後にこれだけ伝えたかったの。あんたの事が好きだったあたしがいたって事、知っておいて欲しかったから。

だから、その剣に全てを込めたの。あたしの想い、全部詰め込んだの。それが、『リメインズハート』よ。だから、忘れないでね」

 

キリトはそれを聞いて『リメインズハート』を握りしめる。

 

「ああ、もちろんだ。この剣を使う度に、思い出すよ。リズが俺を好きでいてくれた事」

 

「ええ、ありがとう。大事に使ってよね?」

 

キリトは黙ってうなずく。

 

『リメインズハート』、「残った心」。リズベットに残されていたキリトへの恋心を宿した剣を、キリトはしっかりと握りしめた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

湖畔エリアにある橋で、ヴォルフは一人待っていた。

 

そこへリズベットが走ってやって来た。

 

「ごめんね!待たせちゃって」

 

「いや、大丈夫だよ。それより、どうしたんだ?急に呼び出して……」

 

リズベットは息を整え、ゆっくりと息を吐くと真剣な面持ちでヴォルフの顔を見る。

 

「あのね、あんたに伝えたい事があるの。

この層に来てあたしの店を手伝ってくれてから、あんたの事すごくいいやつなんだって思ってた。

 

あたしはね、あんたの事が好き」

 

「……え?」

 

「だからぁ!!こういう事!!」

 

リズベットは頬を赤く染めながらヴォルフに抱きつく。

 

「そ、そんな……本当に?」

 

「当たり前でしょう?冗談でこんな事出来るわけないわよ」

 

リズベットは恥ずかしそうに、しかしヴォルフに巻きつく腕の力をぐっと強める。

そんな彼女の肩に、ヴォルフは優しく腕を回す。

 

「こ、こんな僕で良ければ……よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

02『息抜き』

 

 

七十五層の騒動があってからもう一ヶ月近くがすぎ、アークソフィアの街は多くのプレイヤーが住みついて人口も増えていた。

今日も1日、気持ちの良い日差しと気温の中、街は多くの人々が行き交い、賑やかな雰囲気を醸し出していた。

 

そんな街に、1人の女性がやって来る。純白の着物を身につけた貴婦人、シキだ。普段、彼女は別の場所からプレイヤーたちを見守っていたのだが、今日は何となく街に降りたった。

 

自分の周りを歩き回るプレイヤー達を見回し、シキは口元に優しげな笑みを浮かべる。

 

シキはゆっくりと足を進め、街をぶらぶらと散策する。

 

ふと、彼女はとある店の前で足を止めた。

『リズベット武具店』。そう言えば武器のメンテナンスを長らくしていなかった事を思い出し、ついでに自身が信頼するプレイヤーであるジェネシスの仲間が経営する店という事もあって、彼女はゆっくりと木製のドアを開ける。

 

「いらっしゃいませ〜!リズベット武具店へようこそ!」

 

中から威勢の良い少女の声が響く。

出迎えたのは、ピンクの髪に赤いエプロンを身につけた少女と、その隣に立つ老竹色のシャツを着た長身の男性。

 

「メンテナンスですか?武器の買取ですか?それともオーダーメイドでしょうか?」

 

男性の問いに、シキは「メンテナンスを…」と応える。

 

「ありがとうございます!早速ですが、武器の方を預からせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

少女がシキに対してそう促し、左腰に帯刀した刀を取り出して少女に渡す。

 

「おおお、これは……!」

 

鑑定スキルを開いて刀を調べた少女が感心したように口にした。

 

「『九字兼定』、これはかなりの名刀ですね〜!」

 

「失礼ですが、どちらでこの刀を?」

 

「う〜ん……ずっと前に、フィールドのボスを倒したら偶々ドロップしたの」

 

男性がそう尋ねると、シキは顎に手を当ててそう答えた。

 

「なるほど、そういう事ですか……けど、かなり傷んでますね〜…ヴォルフ、メタルクラスタインゴットを溶かしといてくれる?

 

ヴォルフと呼ばれた男性は頷いて店の奥に行く。

そして戻って来ると、小さな木箱を手渡した。

 

「あと、これがいるよね?目釘抜き」

 

「そーそー!流石、分かってるじゃない!」

 

「刀は普通の剣と違って柄が別パーツ扱いになってるしね。

目釘抜がいるってわかったんだよ。それじゃ、準備して来るから」

 

そう言ってヴォルフは再び店奥へと戻っていく。

 

「随分と仲がいいのね」

 

シキが何気なしにそう言うと、リズベットは「え?」とこちらを向き、恥ずかしそうに頬を赤く染めて

 

「い、いや〜…ごめんなさい、お恥ずかしい所をお見せしちゃって…」

 

と照れながら言った。

 

「いいえ、仲がいいのはとても良いことだわ。こんな状況ですもの、人と人が支えてあっていくのは、大事なことよ」

 

そしてシキは店内を彷徨いて壁に飾られた商品である武器を見回し、時折手に取ってその感触を確かめる。

 

「貴女、すごく良い腕をしているのね。ここにある武器、どれも素晴らしい出来だと思うわ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ええ。何より……貴女の真剣な気持ちが込められている感じがする。さっきだって、私の刀をすごく丁寧に扱ってくれていたもの」

 

リズベットはシキからそう言われて目を丸くしていたが、やがて嬉しそうに微笑むと

 

「あ、ありがとうございます!」

 

と言って頭を下げた。

するとヴォルフが出て来て、準備ができた事を知らせる。

 

「では、少しの間お待ちくださいね!」

 

リズベットは刀の柄を取り外して刀身を取り出して丁寧に運びながら店の奥に向かう。

 

 

 

〜数分後〜

 

「お待たせしました!」

 

修繕が終わり、リズベットは刀の柄を取り付け、目釘を嵌めて元通りにしてからシキに返した。

 

刀の刀身は、修繕する前よりも一層美しい銀色の光を放ち、波紋がくっきりと映し出されていた。

手に取ってみると、刀が更に良く手に馴染み、かなり扱いやすくなっており、リズベットの鍛冶師としての腕前の高さをこれでもかとシキに感じさせた。

 

「流石ね……やはり、貴女に任せて正解だったわ」

 

「そ、そこまで言っていただけるなんて……光栄です!!」

 

そしてトレード画面で代金を渡すと、シキは店を後にしようとするが……

ふと、足を止めて一点に注目する。

 

そこにあったのは何の変哲もない短刀だった。

シキは何故だかわからないが、この短刀を手に取ると懐かしい感覚がした。まるで、昔から自分専用の武器だったような、そんな感覚。

 

「せっかくだから、これも貰っていこうかしらね」

 

「ほ、本当ですか?ありがとうございます!!」

 

そしてシキは再びトレード画面で売買を済ませるとその短刀を懐にしまう。

 

「ふふ、また来ようかしらね」

 

「ええ、是非!これからも、リズベット武具店をご贔屓に!!」

 

リズベットが笑顔で見送る中、シキは優しげな笑みで会釈すると店を後にした。

 

道中、広場で2人の女性がトレーニングをしているのが見えた。

1人は真っ黒の着物を身につけた女性、もう1人はオレンジの髪に青いポンチョを纏った少女。

 

「では次じゃ。今からこの苦無と手裏剣を大量に投げる。主はそれを目隠ししたまま全て避け、わっちに一撃当てて見せよ」

 

「いやそれは流石に無茶苦茶すぎるよツクヨさん?!」

 

「では行くぞ!!」

 

「ちょ、ちょっと待っ……」

 

少女の制止も聞かずに、ツクヨは両手から苦無と手裏剣を大量に投げつけた。

そのうち5本の苦無が少女に突き刺さる。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アーーー!!!」

 

少女の絶叫が響く中、シキは苦笑しながら歩いて行く。

 

次にやって来たのは、路地裏にある和菓子店。

この世界では滅多にない和菓子に興味を持ったシキはゆっくりとドアを開ける。

 

「いらっしゃいませー」

 

中からのんびりとした少女の声が響く。中は焦げ茶色の木製の板で構成され、明かりはやや薄暗くミステリアスな雰囲気だった。

そしてカウンターにはガラスケースに飾られた沢山の和菓子があり、その奥に店員とみられる薄い金髪の大人しそうな少女がいた。カーソルの名前は、『オルトリア』とあった。

 

「へえ、どれも美味しそうな見た目ね」

 

「ええ、全て私の自信作ですので」

 

シキの言葉に、オルトリアは変わらない表情で、しかしそれでいて自信ありげな声色で答えた。

 

「ふふ。では、店長さんのおすすめの品を教えてくださる?」

 

「はい。当店でしたらこちらの鯛焼きや最中なんかが美味しいですよ」

 

オルトリアの示した先にある二つの和菓子。

鯛焼きは薄暗い部屋であるにも関わらず茶色い生地が際立っており、まるで自ら光を発しているようだった。

最中は餡子がたっぷりと詰められて、手のひらサイズであるはずなのにかなりボリュームがあるように見えた。

 

「なるほど……ではこの二つを頂こうかしら」

 

「ありがとうございます〜」

 

シキはおすすめの二品、更にドリンクとして緑茶を購入し店を後にした。

広場に出て、日陰のテーブル付きの椅子に座ると早速買ったお菓子をオブジェクト化する。

 

「へえ…やっぱり美味しそうね」

 

シキは感心したように呟くと、鯛焼きを早速頬張る。

かじった瞬間に、茶色く焼けた生地が一瞬『パリッ』と音を立て、その直後に甘い味わいが広がった。

しかしシキはここで疑問符を浮かべる。鯛焼きと言えば餡子が定番だが、この味は餡子ではない。

切り口を覗いてみると、中は餡子の紫ではなく、薄い黄色のクリームのようなものが詰められていた。

 

「もしかしてこれって……鳴門金時?」

 

鳴門金時とは日本の四国・徳島県辺りで生産される薩摩芋の事で、とある地方ではそれを餡子状にすりつぶして鯛焼きに詰めるものがあるらしい。

 

「へえ〜、中々マニアックだけれど、粋なことをするのね」

 

シキは「ふふっ」と楽しげに笑うと、鯛焼きを再び頬張った。

最中の方も、パリッとした生地にたっぷりと挟まれた餡子がとても良く合っており、非常に美味だった。

 

「これは中々……癖になる味ね」

 

シキは満足げな笑みで呟くと、白い湯呑み茶碗に注がれた緑茶をゆっくりと啜る。

 

和菓子を堪能したシキは再び街を歩き回る。次はどこに行こうか。道中、喫茶店で優雅に読書をしているクールな雰囲気の少女や、右肩に水色の子竜を乗せた少女、仲睦まじい様子の黒と白の兄妹や小さな子供たちを連れて街を散策する白い聖女と女神風の女性とすれ違う。

 

そのままシキは街にある草が生い茂った広場に出た。

そこには、黒いロングコートを着た少年が白と赤の装備に身を包んだ栗色の長髪の少女に見守られながら昼寝をしていた。今日は外で過ごすには快適な気温と日照設定だからそうしているのだろう。シキはそんな彼らを微笑ましい視線で見つめたのちに再び歩きだす。

 

「……ん?」

 

すると栗色の髪の少女、アスナがたった今目の前を通り過ぎようとしているシキに気づく。

 

「ね、ねえねえキリトくん……あの人……」

 

「ん〜〜……どの人〜〜?」

 

キリトは寝ぼけた様子で起き上がって、目を擦りながら問いかける。

 

「ほ、ほらあそこ!今そこを歩いてる白い女の人!」

 

アスナが指差した先をキリトは瞬きをしながらみる。

 

「あの女の人が…どうしたんだ〜…?」

 

「この間見たお化けにすっごく似てると思うんだけど……」

 

「……気のせいだろ……こんな真っ昼間にお化けが出歩いてるわけないじゃないか……」

 

キリトはそう言うと再び地面に寝そべった。

 

「そ、そうだよね!こんな明るいのにお化けがいるわけ無いよね!!」

 

アスナは冷や汗をかきながらうんうんと頷く。

 

 

当のシキはアスナからそんな視線を受けていることに気づかずにどんどん歩いて行く。

人々の活気溢れる街を眺めながら、シキはゆっくりと足を進める。

 

「凄いわね……デスゲームであるこの状況でも、人々は希望を捨てずに毎日を生きている。

人と言うのは、不思議な生き物だわ」

 

シキは遠くを見つめながらそう呟く。

するとその視線の先に、自身とも関わりのあるプレイヤーであるジェネシスが、白無垢の女性ティアと笑顔で楽しそうに話しながら宿に入って行くのが見えた。

 

「ふふ。貴方たちなら、本当にこの世界をクリアできるかもしれないわね。楽しみにしているわ」

 

そう微笑みながら言うと、シキはくるりと反転して別方向へ歩いて行った。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
そしてついに、リズベットとヴォルフが結ばれました。
長かったような…早かったようなそんな気がしますが、何はともあれリズベットもこれで『MORE DEBAN』にならずに済むかと思いますw

因みにこれは宣伝になるのですが……
ヴォルフくんとリズベットの関係についてもっと詳細に描かれている作品がございます。
ヴォルフと言うオリキャラを下さった巻波彩灯さんの『ソードアート・オンライン〜巨狼、虚現に生きる〜』と言う作品です。表現力がとても素晴らしく、読んでいて自然と引き込まれる作品です。また、ヴォルフとリズベットの出会いと四十八層での日常が描かれています。是非、ご覧いただければと思います。

https://syosetu.org/novel/232879/

↑に作品のリンクを貼っておきます。
では、次回もよろしくお願いします。
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