ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

7 / 81
どうも皆さん、ジャズです。
今回はサチ回ですが……ちょっと急展開を迎えます。


七話 黒猫団

「────我ら《月夜の黒猫団》に乾杯!」

 

「乾杯!」

 

第11層のとある宿にある酒場の一角で、数名の男女が乾杯の音頭を取っていた。

 

「そして、命の恩人の────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネシスさんとティアさんに乾杯!!」

 

彼らの視線は、机の角の方に立つ赤髪の男性剣士と、銀髪の女性剣士の方に向けられた。

 

「あ、ああ……か、乾杯」

 

「え?俺も?……乾杯」

 

二人は戸惑った表情でグラスを掲げる。

 

「ありがとう…本当にありがとう…!凄く、怖かったから……」

 

藍色の髪の少女は目に涙を浮かべながら二人に礼を言った。

彼らがここにいる理由は、数時間前に遡る。

ジェネシスとティアは、自身の剣の強化素材を集めるため11層に来ていたのだが、その帰りにゴブリンの群れに襲われている彼らを見つけ、救助したのだ。

出口まで誘導し、そのまま別れようとしたのだが、あれよあれよと言ううちにここまで連れてこられた。

 

「あの、失礼ですがお二人のレベルはどのくらいなんですか…?」

 

リーダーの少年、ケイタはおずおずと尋ねた。

 

「え、まあ……45、だけど」

 

ジェネシスは戸惑いつつも正直に自分のレベルを伝えた。

ティアも同調しうんうんと頷く。

 

「45?!それはすごいなぁ〜!もしかして、最前線で戦っているのですか?」

 

驚愕の顔で少年は言った。

 

「……ケイタ、敬語は無しにしようぜ?

そうだ。俺たちは最前線で戦ってる攻略組だ」

 

攻略組と言うのは、デスゲームであるSAOで常に最前線で命をかけて戦い続けるハイレベルなプレイヤー集団のことだ。

 

「そうなん……そうか!!

それなら、うちのギルドに……は、無理か流石に。

じゃあ、しばらくでいいからうちのギルドをレクチャーしてくれないか?」

 

ケイタの言葉にジェネシスとティアは面食らった表情を浮かべた。

 

「うちのギルド、前衛ができるのはメイス使いの《テツオ》だけでさ。こいつ、《サチ》って言うんだけど、盾持ちの片手剣士に転向して貰おうと思ってるんだ。

けど、勝手がわからないみたいでさ……少しコーチをやってもらいたいんだ」

 

ケイタは隣に立つサチの頭をポンポンと叩きながら言う。

するとサチが頬を膨らませて

 

「何よ、人を味噌っかすみたいに」

 

「ん?」

 

「だって、いきなり前衛なんて……おっかないよ……」

 

グラスを両手で持って俯くサチ。

そんな彼女に対し、周りは怖がりすぎだの盾に隠れたらいいだろだの揶揄する。サチは「ぶぅ〜」と更に不機嫌になった。

 

「うちのギルド、リアルじゃ同じ高校のパソコン部なんだよね。あ、大丈夫!ジェネシスとティアもすぐに打ち解けるから」

 

周りのメンバーも力強く頷く。

ジェネシスはティアと顔を見合わせる。

 

「……どーする?」

 

「いいんじゃないか?別に私たちはギルドに入ってるわけじゃない。少しの間攻略を休んでも、問題ないだろう」

 

ティアの意見を聞き、ジェネシスは頷いて

 

「……分かった。なら、しばらくの間だがよろしく頼むわ」

 

それを聞いて、皆の顔が明るくなった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その翌日から、ジェネシスとティアによる《月夜の黒猫団》の強化訓練が始まった。

内容は主にサチの片手剣の訓練。彼らは今拠点にしている層から少し上の層で実戦形式でモンスター狩りを行なっていた。

だがサチはモンスターを前にするとろくに剣を振ることができずにいた。

ティアが刀でモンスターの攻撃を弾いてサチを守ると、ティアの合図でテツオのメイスでモンスターを倒させた。

その後ろで、ケイタとジェネシスは様子を眺めていた。

 

「……どうかな、ジェネシス?」

 

ケイタはおずおずと尋ねた。

ジェネシスは腕を組んだまま答えた。

 

「悪い、正直な感想を言わせて貰うとだな……無理、じゃねえかな、サチが片手剣を使うのは」

 

ケイタは少し残念そうな顔で眉をハの字型にした。

 

「ケイタ、そりゃ慣れねえ武器を無理に使わせたら誰だってあんな風になる。俺だってそうなる。

お前の考えも理解はしたが……ケイタ、テメェはサチの意見はちゃんと聞いたのか?」

 

ケイタはその言葉を聞き目を見開いた。

 

「そうか……僕はサチに無理やり……」

 

「おいおい、メンバーの意見をちゃんと聞かねぇとリーダーとして失格だぜ?

ま、とりあえずは本人に聞かねえとな」

 

そう言って、ジェネシスとケイタはサチの方に歩み寄った。

 

「おうサチ。オメェ片手剣はやっぱ全然ダメだな」

 

ジェネシスの厳しい言葉に、サチは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「おい、ジェネシス!サチだって一生懸命……!」

 

メンバーのテツオがジェネシスに摑みかかるが、ティアがそれを制した。

 

「待て、気持ちはわかるぞテツオ。

だが優しさだけでは人は成長しない。厳しいかもしれないがな……ここで優しい嘘を吐いていつまでも成長しないよりはいいだろう?」

 

ティアの言葉でテツオは目を伏せた。

 

「サチ、一つ質問に答えろ。

おめぇ、片手剣なんて使いてぇか?」

 

ジェネシスはサチをじっと見据えながら尋ねた。

サチはしばらく俯いていたが、やがてケイタの方を一瞬見た後、

 

「……ごめん、やっぱり私には…前衛は無理だよ。

片手剣はやっぱり慣れない……」

 

申し訳なさそうに俯きながら答えるサチ。

 

「済まない、謝るのは僕の方だ、サチ。僕は君の意見も聞かずに……」

 

すると、ケイタがサチの方に歩み寄って頭を下げた。

サチはそれを見て驚いた表情をしていた。

 

「…ま、そういうこった。とりあえずサチ、おめぇは今まで通り槍を使って戦ってみろ。慣れた武器なら、少しはまともにやれんじゃねえか?」

 

ジェネシスの提案で、次の訓練でサチは本来の使用武器である槍を使用することになった。

槍は本来、そのリーチの長さから後衛の部隊の人間が使う武器だが、ジェネシスは慣れた武器で戦わせることで少しでもモンスターに対する恐怖心を和らげようと考えたのだ。

 

すると早速、モンスターが目の前に出現した。

サチは槍を構えて早速ソードスキルを発動した。

 

槍ソードスキル《フェイタル・スラスト》

 

五連撃の突きがモンスターに放たれた。

その攻撃でHPは一気に半減する。

 

「……!!」

 

サチは自分のやった事に少々戸惑っているようだった。

他のメンバーも、サチがモンスターに臆さず攻撃した事に驚いているようだった。

ジェネシスはそれを見て満足気に笑い、

 

「おい、テツオ!」

 

「え?あ、ああ!」

 

テツオはすかさずメイスでとどめを刺した。

 

モンスターが消えた後、皆はサチの元に駆け寄り彼女を褒め称えた。

 

「やったじゃねえか!!」

 

「すげぇよサチ!!」

 

「武器を変えるだけでこんなに変わるんだな!!」

 

サチはそれに対して戸惑った表情だったが、徐々に軟化して笑顔になり、

 

「うん…ありがとう」

 

と返した。

ジェネシスもサチの頭を撫で、

 

「やれば出来んじゃねぇか」

 

と笑顔で褒め称えた。

サチはにやけて「えへへ」と言っている。

ティアがそれを見て少しむくれていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

黒猫団にジェネシスとティアがコーチに入って数週間が経った。サチはもう完全に前衛職をこなせるまでに成長し、更にギルド自体のレベルも上がり、最前線まであと数層というところまで来ていた。

その日の前半の特訓を終え、草原で休息を取っていると、ケイタが新聞を広げてつぶやいた。

 

「攻略組が第二十八層を突破か……すげぇな」

 

それを聞いてジェネシスはギョッとした顔になる。

 

「げ……召集があったの完全にシカトしてたわ……あーあ、こりゃあの《鬼の副長》にどやされるわ……」

 

「鬼の副長……?」

 

「アスナだよ。血盟騎士団の副団長」

 

ケイタはそれを聞いて「ああー」と納得した声を出す。

 

「……なぁ、僕らと攻略組との差って、一体なんだろうな?」

 

「情報力、だろうな。俺らは効率のいいクエストとか狩場とかそう言うの押さえてるからな」

 

ジェネシスの答えに、ケイタはうーんと唸り、

 

「そうだな…それもあると思うけど、僕は意志力の差、じゃないかと思うんだ」

 

「意志力?」

 

「ああ……」

 

そう言ってケイタは立ち上がり、

 

「仲間を守り、生きて全プレイヤーを助け出そう、って言う意志さ。今は守ってもらってばかりだけど、気持ちでは負けないつもりさ。

勿論、仲間の命も大事だけど……僕らはいつか、攻略組の仲間入りをしたいんだ」

 

そう言いながら空を見上げる。

ジェネシスはそれを見て、

 

「…なら、攻略組のメンバーとして一つアドバイス。

決して焦るんじゃねぇぞ。慌ててやったって、自爆して終わりだからな。まだ二十八層だ、先は長え。うさぎみてぇに焦って途中で潰れるより、亀みてぇに遅くとも地道に進めて行けばいい。

そして何より……俺たちが出血大サービスでてめぇらに教えたんだ、簡単に死ぬんじゃねえぞ?」

 

ジェネシスはケイタをじっと見据えながらそう言った。

ケイタは不敵な笑みで

 

「ああ、勿論だ」

 

と返す。

すると彼の背後から仲間たちがワイワイと騒ぎ立て、話に加わった。

そんな彼らを見て、ジェネシスも自然と笑顔になっていた。

 

「……いいギルドだね」

 

いつのまにかジェネシスの隣に座っていたティアがそう呟く。

ジェネシスもそれに頷き、

 

「……だな。あいつらが来れば、今の殺伐とした攻略組の雰囲気も変わるだろうな」

 

と笑顔で返した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「えーーっと、みんなに報告がある」

 

その日の夜。

黒猫団が寝泊まりしている拠点で、皆がベッドに腰掛ける中ケイタは一人皆を見ながら立っていた。

 

「今回の狩りで、20万コルが貯まりましたー!!」

 

皆は「おおーーっ!」と歓声を上げる。

 

「じゃあ、ギルドのホームを買うのも夢じゃないな!!」

 

「この調子で頑張って行こうぜ!!」

 

そして数時間和気藹々としたあと、皆は寝静まったのを見てジェネシスとティアは静かに宿を出た。

向かった先は、最前線の二十八層。

最近黒猫団に付きっ切りなので、攻略組と差が付けられないようにするのと、自身の体が鈍らないようにするために最近はこの時間になると最前線の層に来るようにしている。

が、この日はどうやら先客がいるようだった。

 

ジェネシスと同じく漆黒の装備に身を包んだ少年。

《黒の剣士》ことキリトだ。

片手剣を手足のように振るい、狼型モンスターを相手している。狼の牙を抑え、そのままソードスキルで押し切り身体を両断する。

モンスターを倒し、キリトは剣を左右に振ると背中の鞘に収めた。

 

「よぉ〜、相変わらず独り身なんだなキリト」

 

ジェネシスがそう発し、キリトはジェネシスとティアに気づく。

 

「ジェネシス、ティア!」

 

「こんばんは、キリト。こんな時間に一人でモンスター狩りか?」

 

ティアも笑顔で手を振り、キリトの方へ歩み寄った。

 

「ああ、まあな。お前らこそ、最近見ないけどどうしたんだ?」

 

「ちょっと野暮用でな。下の層で、ギルドのコーチをやってんだ」

 

「へえ、そうなのか」

 

ふと、キリトが手を打って

 

「なぁ、せっかくだし、パーティ組んでモンスター狩りをやらないか?」

 

と提案する。

 

「おっ、アリだな」

 

「有り寄りの有りだな」

 

「いや何だよ『有り寄りの有り』って…まあいいや。早速やろうぜ」

 

そして三人は早速モンスター狩りを始めた。

ティアが狼を追いかけてキリトとジェネシスの方に誘導し、キリトとジェネシスがタイミングを合わせてモンスターを叩き斬る。

タイミングなども完璧と言って良かった。

 

そうして三人で約二時間ほど狩りをしていた時だった。

ジェネシスとティアにケイタからメッセージが入った。

内容は、サチが居なくなったので探して欲しい、との事だった。

 

「……キリト、済まねえ。少し急用が出来ちまったからもう行くわ」

 

「そうか、分かった。てか、お前らも早く最前線に戻って来てくれよ?お前らが居ないとしんどいんだぜ結構」

 

「ああ、善処する」

 

キリトとジェネシス・ティアはそうやり取りした後別れた。

ジェネシスとティアは黒猫団がホームにしている層に戻り、追跡スキルを使ってサチを捜索した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

一方、サチは普段過ごしている層をただ一人当てもなく歩いていた。

ここ最近、いや、彼女はこのゲームが始まってからずっと死の恐怖に抗えずにいた。ひどい時は恐怖のあまりよく眠れないほどに悩まされていた。

ジェネシスとティアがこのギルドに来てから、自身もかなり強くなり少しだけその恐怖心は緩和されたのだが、それでも常に隣り合わせにある死という存在に対する怖さを克服できず、とうとう堪らなくなりギルドの皆に黙って出て来てしまった。

だが出て来たは良いものの行く当ても無い。

どこへ行ってもここはデスゲームの中。死は常に自分のすぐ側にある。

 

サチは途方に暮れ、街の外れの水路に入り込み、蹲るようにして座り込んだ。

 

「……よお」

 

突如聞き慣れた声にビクッと反応し隣を見ると、どうやら先回りしていたジェネシスが自分から少し離れた所で座っていた。

ジェネシスのすわっている所は水路に架かる橋で影になっており、彼の黒い装備と相まって直ぐに気づかなかったのだ。

 

「こんな時間に、しかもこんな寒い時に一人でどこほっつき歩いてんだ?年端もねぇ女の子が一人で夜の街に出歩くなって習わなかったか?」

 

ジェネシスは少し呆れたような目でサチを見ながら言った。

 

「ジェネシス…どうしてここに……?」

 

「てめぇの足跡を追ってたら、どうもてめえこの街を当てもなくフラついてたみてぇだからな。だから多分次はここに来るだろうなと踏んで、待ち構えてた」

 

「そっか……」

 

サチは目を伏せた。

 

「ねぇ、ジェネシス……」

 

「んー?」

 

サチの声にジェネシスは少し目線をサチに向ける。

 

「一緒に、どっか逃げよう?」

 

「何から?」

 

「この街から……モンスターから……黒猫団のみんなから……そして……」

 

そして一呼吸入れ、

 

「ソードアート・オンラインから」

 

そう告げた。

ジェネシスはそれを聞いても顔色一つ変えずに鼻から息を吐き、

 

「……んま、それも有りかもな。別に逃げたって誰も責めねえし、寧ろそうしたくなるのが普通だ。

けどよ……それが出来ねぇから、テメェはずっと悩んでんだろ、サチ?」

 

ジェネシスにそう指摘され、サチは苦笑する。

 

「ふふっ、ジェネシスは何でもお見通しか……。そうだね、うん。その通りだよ。今のは嘘。死ぬのが怖くて怖くて、本当はそんな勇気も無いんだ」

 

そうして言葉を区切ると、再び語り出す。

 

「ねぇ、何でこの世界から出られないの?何でゲームなのに、本当に死ななきゃならないの?こんな事に、何の意味があるの?」

 

声を震わせながらポツリポツリと語った。

 

「……サチ、そいつは多分みんな思ってることさ。俺だって、あれからその事を夜の数だけ考えた……けど、どんだけ考えたって、その答えなんざ出やしねえよ。

当然さ、結局そんな事他人の俺たちが考えたって、本人にしかその本心は分からねえんだ。ましてやこんなふざけた事しでかす茅場晶彦(サイコパス)の考えなんざ、凡人の俺たちに理解出来るかよ」

 

サチはジェネシスの言葉を黙って聞いていた。

ジェネシスはさらに続ける。

 

「死ぬのが怖い、って言ったな?

実は、以前の俺はそんな事無かったんだ」

 

「……え?」

 

ジェネシスの言葉にサチは目を見開いてジェネシスの方を見た。

 

「俺には、現実で待つ家族がいねぇんだ。小せえ頃に二人とも事故って逝っちまった。それ以降はずっと一人で生きて来た。友達とか親友とか、そんなもんも持たずにな…だから帰ったって、どうせ一人だ。俺が死んでも誰一人悲しまねえ……そう思ってた」

 

ジェネシスはそう言いながら少し苦笑して顔を上げる。

 

「けど、そんな俺にも……やっと大事なもんってのが出来たんだ…少し手を貸してやっただけで何を勘違いしたのか、ズカズカと人の中に入り込んで、勝手に俺の居場所ってもんを作って………けど、いつのまにかそれが当たり前になってた。不思議と悪い気はしなかったんだ。いや、寧ろ心地よさすら感じてた。あいつといると、何だろうな……何故か笑う事が多かった。

だから、あいつがここに巻き込まれたのは俺の責任なんだ……俺が誘いさえしなければ、あいつまでこんなふざけたゲームに入ることなんて無かった……」

 

ジェネシスはそれを悔やむように握りこぶしを作って苦い顔をする。

 

「そんで決めた。例えこの命に代えても、どんな事をしてでもあいつを現実に返す。それが俺の使命で、贖罪なんだ。

死ぬのは怖い。俺が先に死んだら、俺の決めた使命を果たせなくなるからな。けどだからと言って何もしない訳には行かねえ。だから俺は……俺たちは戦い続けてんだ。いつ死んでもおかしくねえ最前線でな」

 

ジェネシスの話を黙って聞いていたサチは、おずおずと尋ねる。

 

「あいつって……ティアのこと?」

 

「そうだよ。それ以外誰がいんだよ?」

 

ジェネシスはあっけらかんと答える。

 

「凄いなぁ……ジェネシスは大事なものがあるから、戦えるんだ……ねぇ、私にも出来るかな?大切なもの」

 

「…ああ。いつかきっと出来るさ」

 

「……そっか。そうだね///」

 

サチは頬を赤らめながら呟いた。

そしてサチは気づく。いつの間にか、先程まで自分の中に巣食っていた死の恐怖が無くなっていた事。代わりに、何か熱いものが内側から湧き出して来るのを。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

サチを見つけて、ジェネシスとティアは就寝準備に入っていた。

すると、ドアの扉を叩く音が聞こえた。

 

「おう、開いてんぞ」

 

中に入ってきたのは、寝間着姿のサチだった。

 

「こ、こんばんは……」

 

「サチ?どうしたんだよ」

 

「えっと……その……」

 

何故かサチはモジモジとしている。

 

「ご、ごめん…まだ少し怖くて眠れないの……だから、今晩は一緒に寝ていい?」

 

頬を赤らめながらそう頼み込むサチ。

 

「まだ怖いのか?ったく世話のかかるやつだぜ……構わねえよ。寝るんなら、早くこっちに」

 

「ちょっと待て」

 

ジェネシスがサチを促そうとしたのをティアが遮った。

ティアはサチの前に立つ。

 

「悪いな、このベッドは二人用だ。三人だと狭くなる」

 

「じゃあ、今日はティアが私のベッド使っていいよ?代わりに私がジェネシスと寝るから」

 

「何故私がお前のベッドで寝なければならんのだ。いいからもう自分の寝室へ行け」

 

「えー?良いじゃん!さっき言ったでしょ?まだ怖くて眠れないって」

 

「それならケイタとかに頼んで寝てもらえばいいだろう」

 

「他のみんなはもう寝ちゃってるし、ジェネシスしか頼める人がいないの」

 

「だったら勝手に潜り込んで寝たら良いだろう。何故ジェネシスに拘る?」

 

「ティアこそ、いっつもジェネシスと一緒に寝てるじゃん!今日一日だけだからいいでしょ?」

 

「ダメだ!」

 

「何で〜?!」

 

不毛な言い争いを繰り広げる彼女たちを見て、ジェネシスはため息をつき、

 

「わかった、ならこうしよう。

俺がサチのベッドで寝るから今日はこのベッドでお前らが寝ろ」

 

「「だが断る」」

 

ジェネシスの提案に二人は口を揃えて拒絶した。

ジェネシスはそれを見てもう我慢の限界を迎えた。

 

「あーもう!俺は疲れてんだよ!!いいからさっさと寝ろォ!!いい加減にしねぇとマジでぶっ飛ばすぞ!!」

 

「アッハイ」

 

「ごめんなさい」

 

ティアとサチも黙って従い、ジェネシスは部屋を出て行った。

寝室にはティアとサチが残され、しばしお互い沈黙していたが、

 

「……もう寝ようか」

 

「そうだね」

 

二人はそのままダブルベッドに背中合わせで横になった。

 

「……ねぇ、ティア」

 

「……ん?」

 

薄暗い部屋の中、サチが背中越しに尋ねる。

 

「ティアってさ、ジェネシスの事、どう思ってるの?」

 

「どう思ってる?う〜ん………まあ、一言で言うならば……恩人、だな」

 

「恩人?」

 

サチがティアの方を少し振り向く。

 

「ああ。私のこの銀髪はアバターではなく、現実のものなんだ。これが原因で長らくいじめを受けていてな……」

 

「あ……」

 

サチはしまった、という顔になった。

どうやら地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 

「だが、そんな私を……彼が庇ってくれてな。以降私は、どんなことがあってもあの人について行くと決めた」

 

「えっと……それじゃあ、ティアがこの世界に来たのも?」

 

「当然。あの人は自分が私を巻き込んだと責任を感じているようだが、この世界に来たのはあくまで私の意思だ。あの人の行くところならば、例え地獄だろうが極楽だろうが、どこへだって行く。あの時受けた恩を、まだ返せていないからな」

 

サチはそれを聞いて察した。

ジェネシスとティアはお互いを思い合っているのだと。

そしてこう思った。早くくっ付けよ、と。

だがこうも思った。まだ付き合ってないなら、私にもワンチャンあるかも、と。

だが、この考えがかなり浅はかである事を、サチはすぐに知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、引き続きジェネシスとティアによる黒猫団のコーチングは続いた。

黒猫団のレベルはもうジェネシス達が来る前に比べて格段に向上しており、団員一人一人の動きやパフォーマンスも洗練され、攻略組に居てもおかしくないほどにまで成長していた。

しかしその中でもサチの成長はジェネシス達が来る前と比べるとまるで別人のように進化しており、今となっては一人でも前衛職をこなせるまでになっていた。

 

そんなこんなである日、遂にギルドホームを購入できるまでの金額が貯まったため、リーダーのケイタがホームを買いに、ティアがその家具を見繕いに次の層へと向かった。

 

その間、もう少し金を貯めていい家具を買えるように二十七層に行こうと言うことになり、彼らはそこの迷宮区へと足を踏み入れた。

そこはトラップ多発地帯で、攻略組もかなり警戒している所なのだが、メンバー全員が成長したのとジェネシスが攻略組の実力を遺憾なく発揮しトラップを見分けたのもあり何事も無く進んでいた。

 

するとメンバーの一人が隠し扉を発見し、中を見ると宝箱が置いてあった。

 

「待て!そいつはトラップだ!!」

 

だがジェネシスの制止も虚しくメンバーははしゃいで宝箱を開けた。

するとアラームが鳴り響き、扉が閉められ皆は中に閉じ込められた。

 

「げっ、トラップかよ?!」

 

宝箱を開けたダッカーがギョッとした顔で叫ぶ。

 

「今俺が言っただろうがあぁ!!」

 

ジェネシスがダッカーの頭を叫びながら引っ叩いた。

どうやらここは結晶無効化エリアらしく、転移結晶などのアイテムが使用不可になっていた。

すると壁が開き、中から無数のモンスターが湧いて出た。

 

「うわっ?!やべぇ、なんて数だ!!」

 

メイス使いのテツオがそう叫ぶ。

 

「オラァ!!」

 

するとジェネシスが宝箱を大剣で破壊した。

それによってモンスターが湧く扉が閉められ、モンスターの出現が止まる。

黒猫団のメンバー達は背中合わせに立つ。

 

「くそ……これ何体くらいいるんだ?」

 

ランス使いのササマルが舌打ちして呟く。

 

「ひぃふぅみぃ………〜〜〜やめだ、眠っちまいそうだ」

 

ジェネシスがその数を数えようとしたがあまりの多さに諦めた。

 

「ジェネシス……どうする?」

 

サチが隣に立つジェネシスの方を見て尋ねる。

 

「……よし、いいかおめぇら?絶対に仲間から離れんじゃねぇぞ?落ち着いて、背中は仲間に任せて、てめぇは目の前の敵だけを潰せ。てめぇが倒れねぇ限り、誰も倒れやしねぇ」

 

ジェネシスの指示を聞き、皆は顔を引き締めて武器を構える。

モンスターはジリジリと彼らに近づいてくる。

 

「決して怖がるな、恐れるな。何も考えずに、ただ眼前の敵を斬り伏せろ。大丈夫だ。てめぇはもう十分強い。こんなモンスター如きに簡単にやられる訳はねぇ。それは仲間もそうだ。今までやってきた事を思い出せ。

俺を信じろ…仲間を信じろ……そして何より、自分を信じて……一斉に斬りかかれ!!」

 

ジェネシスの号令で、皆は同時に攻撃を始めた。

ジェネシスの言う通りに、背中は仲間に任せ、ただ目の前の敵に集中して攻撃する。

 

だが攻略組であるジェネシスは兎も角、やはりそれ以外のメンバーはやや苦戦しており、ダメージも徐々に蓄積して行く。しかも回復する暇もろくに与えられず、休む間も無くモンスターが迫ってくるため、緊張感もあって疲労も蓄積していき、集中も落ちてくる。

ジェネシスはそれを察していたため、両手剣の特性を生かしてとにかく範囲技を使いモンスターを一掃して行く。サチも一心不乱に槍を振り続け、とにかく生き残る事を最優先に考えた。

 

だが、黒猫団のメンバーのHPがが遂にレッドゾーンに達し、いよいよ絶対絶命のピンチを迎えた。

 

「テメェら、伏せろ!!」

 

ジェネシスは意を決して叫び、メンバーは全員それに従って地面に伏せる。

それを確認し、ジェネシスはソードスキル《サイクロン》を発動し一気にモンスターを消しとばした。

 

しかしそれによってジェネシスは僅かな硬直に縛られ、その間にモンスターから一斉に反撃を受ける。

 

「ジェネシス!!」

 

サチの悲痛な叫びが部屋に木霊した。

見ると、ジェネシスのHPもとうとうレッドゾーンに達していた。それでもモンスターはジェネシスに群がってくる。先程の範囲攻撃で、ジェネシスはモンスター達のヘイトを一気に自分に集めたのだ。

いよいよジェネシスは死を覚悟するが、それでも生き残るため剣を振り続けた。自分の果たすべき責任を守る為に。

しかしその努力も虚しく、ジェネシスのHPは遂に数ドットまで下がってしまった。

 

ここまでか……そう思い、ジェネシスは目を閉じる。

 

「ジェネシスーーーっ!!(だれか……誰か助けて!!ジェネシスが死んじゃう!!)」

 

サチは槍を振り、ジェネシスに群がっているモンスターを引き剥がそうとするが、それでも間に合わない。

 

その時だった。

 

部屋の扉が一刀両断され、白い閃光が目の前を走り、モンスターを一掃した。

 

棚引く白いマント、ふわりと揺れる銀髪。

右手に持つのは、鋭く銀色に輝く刀。

 

「やれやれ……こんなところで死にかけるなんて、やはり鈍っているんじゃないか?」

 

紛う事なく、ティアだった。

 

「ティア……」

 

サチは両目から涙を流し、彼女の名を口にした。

 

「お前たちはジェネシスを運んでくれ」

 

ティアはテツオ達を呼び、ジェネシスを支えて部屋を後にさせた。

モンスターが逃すまいと彼らを追うが、ティアがそれを斬り伏せ足止めする。

 

「さてお前たち……私のジェネシスによくもやってくれたな?この礼はしっかり返させてもらおう……倍返しでな」

 

ティアは刀を構えて威圧感のある声でモンスターたちに言った。

 

「ティア……」

 

一人部屋に残っているサチはティアを見つめながらそう呟く。

 

「よく見ておけサチ。あの人の隣に立つ者の力をな!」

 

そして、ティアは飛び出した。

だが、ティアの動きが速すぎて、サチにはそれを目で追うことが出来なかった。

あんな動きをするティアは今まで見たことが無い。

次元が違いすぎる。サチは素直にそう感じた。

 

残り数十体はいるはずなのだが、それはみるみるうちに減少して行く。

ティアの無双により、残りのモンスターは全て掃討された。

 

部屋のど真ん中で、刀を左右に振り鞘に収めると、ティアは不敵な笑みでサチの方に振り向く。

 

「ヒロインの座は、そう簡単に譲らんよ?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ジェネシスは結晶アイテムにより回復して事なきを得た。

その後、ギルドホームの購入から戻ったケイタに一連の出来事を説明すると、ケイタは彼らを叱ったものの、涙を流して無事を喜んだ。

そして、ティアがあの場に駆けつけられた理由だが、彼女は家具の購入が意外に早く済んだ為、彼らを追跡スキルで追っていたところ、トラップに引っかかったのを見つけ急いでここへやって来たらしい。

 

彼女が最後に見せた無双劇は、黒猫団の皆に攻略組の実力を思い知らせるには十分すぎるインパクトを与えた。

 

「本当に、行っちゃうのか……?」

 

そして新しく購入したギルドホームの前で、ジェネシス達と黒猫団は向き合って立っていた。

ジェネシス達に次の層のボス戦に参加するよう召集がかかったのだ。

 

「まあな。もうこれ以上攻略をサボるわけにはいかねぇんだわ」

 

ジェネシスは申し訳なさそうに頭を掻きながら言う。

 

「そうか……なら、仕方ないな」

 

ケイタは残念そうに目を伏せた。

 

「おいおい、何そんな顔してんだよ。これっきりじゃねえよ。それに、テメェらが攻略組に来たら毎日会えるさ」

 

「そうそう。お前達なら、直ぐに追いつける」

 

ジェネシスの言葉にティアも同調して頷く。

 

「ああ、そうだな。きっと追いついてみせる。だから待っていてくれ」

 

「おう。来いよ、高みへ」

 

ジェネシスとケイタは固く握手を交わした。

 

「ねぇジェネシス、ティア……」

 

すると、サチが彼らの方へ歩み寄り、そして頭を下げた。

 

「ありがとう。私に、剣の使い方を、戦い方を、勇気を、そして…大切なものを、教えてくれて」

 

ジェネシスはふっと軽く笑い、

 

「礼はいらねぇよ。その代わり、ぜってぇに忘れんなよ、俺たちが教えた事」

 

「うん!」

 

ジェネシスとサチも握手を交わす。

そしてサチはティアの方を見遣る。

 

「ティア……私…私ね……」

 

深呼吸し、そして意を決したように目を開き、

 

「私、負けないから!!」

 

と告げた。

一瞬面食らった顔をしていたティアだが、すぐに不敵な笑みに変え、

 

「…いいだろう。受けて立とう」

 

と返す。

その後、彼らは転移門に立ち、笑顔で手を振りながら最前線へと戻っていった。

黒猫団は各々ホームへ入って行く中、サチはメインメニューを操作し、とあるアイテムを見た。

 

それは『記録結晶』。音声や写真を文字通り記録出来るアイテムだが、サチはこれに自身の遺言を入れてあった。

クリスマスの頃にジェネシス宛に届くように。

だがサチは、そのアイテムを消去した。もう必要ないから。もう、死ぬ事など無いから。

 

「ジェネシス、待ってて……いつかきっと、振り向かせてみせるから……!」

 

サチが見つけた大切なもの。それは、ジェネシスに対する『恋心』だ。これがある限り、サチは絶対に死ぬ事など無い。

サチは決意の表情とともに彼らのいるであろう上の層を見上げてサムズアップをし、ホームへと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その夜、最前線のとある宿。

ジェネシスとティアは一つのベッドに背中合わせで寝ていた。

 

「なあ、ティア……」

 

「ん……?」

 

ふと、ジェネシスが口を開いた。

 

「ありがとな、助けてくれてよ」

 

ジェネシスは今日のことの礼を述べた。

 

「ううん、気にしないで…って言ったら嘘になるね」

 

ティアは後ろからジェネシスに抱きついた。

 

「本当に……本当に、心配したんだから……凄く怖かったんだから……」

 

「ああ、悪い。埋め合わせはなんでもする」

 

「なんでも?ふふっそれじゃあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と付き合ってよ」

 

「……へ?」

 

ティアの言葉にジェネシスは耳を疑った。

 

「だからぁ〜!私と付き合ってよ…久弥」

 

「えっと、その……付き合うって言うのは、買い物とかじゃなくて……?」

 

ジェネシスは戸惑いながら尋ねる。

 

「もう!この鈍ちん!!とーへんぼく!!

そうじゃなくて……こっち、向いて?」

 

ジェネシスは言われたままにティアの方を向く。

 

 

 

ちゅっ

 

 

 

二つの唇が重なる音が、寝室に響く。

 

「……こう言う、事だよ……///」

 

ティアは頬を真っ赤にしながら言った。

ジェネシスは一瞬放心状態だったが、

 

「あ、あー……えっと、その、だな……わかった。こんな俺で良ければ……これからも、よろしく頼むわ」

 

「っ、うん!!」

 

この日、後に《黒の剣士》と《白夜叉》と呼ばれる最強カップルが誕生したのだった。

 

 

 

 

 




祝え!ジェネティアカップル誕生の瞬間である!!

はい、ジェネシスとティアが結ばれました。理由としては、まあサチがジェネシスに恋したのをティアが気づいて、先回りしておこうと告白したら両思いだった、と言う事です。サチからの宣戦布告受けといてもうゴールするとかティア最低だなとか言わないであげて。原作アスナもリズに似たようなことやってるから。

そして、サチ生存ルートに入りました。まあ、自分サチも結構好きなので、死ぬのはやっぱり辛いです本当に。

さて、ジェネティアカップルが誕生したところで今回は終わります。お読みいただきありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。