キリト達から告げられた、99層ボス部屋発見の知らせ。それは、ジェネシス一行に告げられた決戦の合図であった。ここをクリアすれば100層は目前、即ちゲームクリアがすぐそこまで迫った事を意味する。ここまで、長く苦しい戦いを強いられてきた彼らだが、もうじきその戦いも終わる。
だがそれは同時に、これから待ち受ける99層ボスがこれまで以上の難敵であろう事は皆も容易に予想出来た。
「それで、ボスについて何か情報は?」
「それが……済まない。偵察は出来なかったんんだ」
通常であれば、これから戦うボスがどのようなモノなのか、中に入ってその姿形だけでも確認するのだが、どうやらキリト達はそれが叶わなかったらしい。
と言うのも、ダンジョンのトラップを見極めるスペシャリストであるフィリアや、更にこの世界のシステムや仕組みに精通しているストレアが、このボス部屋に入るのを阻止したらしいのだ。このボス部屋は、一度入ったらボスを倒すか全滅するかまで出られないタイプの部屋らしく、キリト達だけでこの部屋に入るのは無謀に過ぎたので、偵察は諦めたそうだ。
「ぶっつけ本番ってことか……参ったなこりゃぁ」
ジェネシスはやれやれと苦笑いしつつぼやいた。
「でも、私たちは行くしかありません。皆さん、可能な限り準備を整えてボス戦に挑みましょう。決戦は、明後日の正午に行います」
攻略組のリーダー的存在であるアスナがそう締めくくり、その日はお開きとなった。しかし、場の空気はとても重い。
彼らを待ち受ける強敵。それに対する不安を抑えきれずにいた。
会議が終わった後、もう夜も遅いので皆は自室に戻って行った。だが、ベッドに横になってもジェネシスは全く眠れなかった。いよいよ目前まで迫った、99層ボス戦。これを乗り切ればSAOクリアがもう目前となる。だが、今回のボス戦は間違いなく過去最高の難易度だ。それを前にしたジェネシスは、プレッシャーや様々な感情が胸中で渦巻き、中々眠れずにいた。
ベッドから徐に起き上がり、少し夜風に当ろうと部屋を出た。階段を降りて食堂に降りると───────
「え、お前ら何してんの???」
ジェネシスは思わず目が点になった。
そこにはティアを始めキリトやアスナ、更にシリカやシノン、サチ、その他仲間達が全員集まっていたのだ。
「あ、久弥おはよう〜」
「おはよう〜、じゃねえよ。まだ深夜だよ」
「お前も寝れなかったんだな」
キリトが苦笑いしながら話しかけ、ジェネシスは「ま、そんなとこだ」とため息を吐きながらティアと同じ席に座り、同じく起きていた食堂のオーナーであるエギルにコーヒーを注文した。
「お前、余計寝れなくなるぞ」
とエギルは呆れつつもコーヒーを即座に作成し、ジェネシスに手渡した。
彼がふと隣を見ると、ラフな格好のティアが自席で自身の刀の刀身を麻の布で磨いていた。ゲームの世界でその行為は果たして意味をなすのか分からない所ではあるが。しかしそうする事で心なしか刀身が美しくなっているように感じられた。
「うん、こんなものかな」
ティアは満足げに頷くと、刀身をゆっくりと鞘に収めた。
その後、ティアは「少し素振りをしてくる」と告げると立ち上がって食堂を後にした。
それを見送ったジェネシスは、ゆっくりと辺りを見回す。少し離れた席ではリーファ・シリカ・サチ・サツキとハヅキ兄妹が談笑を交わし、カウンター席ではシノンが読書を嗜んでいる。そして別の席ではツクヨがフィリアに技の型を伝授しており、その隣でリズベットとヴォルフが明日の営業について話し合っているようだった。
皆、自身と同じくボス戦に対して何かしらプレッシャーや不安を感じているようだが、以前のようにただ怖がっている様子もなかった。不安や恐怖もある中で、仲間と励ましあったり、備えを整えるなど今自分にできる事を模索している。
ジェネシスはそれらの光景を見て軽く笑みを溢すと、自身も夜風に当たろうと食堂を後にした。
扉を開けて大通りに出ると、当然街は真っ暗だった。辺りを照らすのは路上の街頭と、76層の天井に据え付けられた星に似せた光のみだ。
その路上で、ティアが刀の素振りを行なっていた。両手で刀の柄を握り、両腕を真上に伸ばす。刀身が街路樹を反射して銀色の美しい光を放つ。
それをティアは勢いよく真下に振り下ろした。そして続け様に刀を左腰に溜めると、刀身が真っ赤な光を帯び始める。ティアはそれを引き抜くと同時に前方へ突進しながら多方向に刀を振り抜いていく。炎のエフェクトを放ちながら怒涛の連撃を叩き込む技、『緋吹雪』だ。
真っ赤な火の粉のような残火が周囲を舞い、夜の街をうっすらと照らす中、ティアは刀を右手の中でくるりと回転させると、ティア自身かなり満足のいく仕上がりだったのか、うんうんと頷きながら納刀した。
「やっぱその技、中々チートじゃね?」
一連の動きを見届けていたジェネシスは彼女の方へ歩み寄りながら話しかけた。
「ちょ、久弥見てたの!?」
ティアはジェネシスが見守っていた事に気づいていなかったようで、ビクリと身体を震わせた後ジェネシスの方を向いた。
「全くもう……居たなら声かけてよね」
「そんなタイミング見当たらなかったんだが」
その掛け合いをした後にしばし沈黙が訪れる。2人の間を、ひんやりとした夜風が通り抜ける。
「……勝てるかな、ボス戦」
「さてなぁ……」
不安げに尋ねるティアに対しジェネシスはそう言って天を仰いだ。
「ま、絶対勝てる……とは言い切れねえな、こればっかりは。ま、やれるだけの備えはして、後は全力を尽くすだけだな」
「そっか……そうだよね。今のうちにやれる事、全部やろうきっと勝とうね。勝って必ず、みんなで現実に帰ろうね」
「ああ。たりめーだ」
2人がそうして決意を固めた時だった。
「あの……少しいいですか?」
そこへやって来たのは、彼らの娘であり現在ある“呪い”のようなアイテムを付けられているサクラだった。彼女はかつてSAOにおいて最も強力と言えるスキルである回復スキルを保有する者だが、その腰に巻き付けられた特殊な装置の影響でサクラが暴走する危険性があり、しばらくボス戦から引いていたのだ。
「よう、こんな時間にどうした?」
「無茶であることは承知してます。それでも、お願いしたいことがあるんですーー」
サクラはそこですう、と深呼吸を挟み、ゆっくりと口を開く。
「私を……ボス戦に参加させてください」
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ボス部屋が発見されて1日が経ち、その間参加メンバーは各々が可能な限りの準備を整え、いよいよその時を迎えた。
統率のリーダーであるアスナはこの日、目前まで迫った99層ボス戦に向けて、時間ギリギリまで準備をしていた。具体的には回復ポーションの補充や武器のメンテナンスなどに不備がないか入念にチェックする。
街は同じくボス戦に参加する者たちが戦いの準備を整えるために商店街に集まっており、その人混みの中をアスナはかき分けるように進んでいく。
そんな時だった。
「アスナさんっ!」
彼女を呼び止める女性の声が響いた。アスナはその声に聞き覚えがあり、跳ねるように振り返る。そこには小柄で華奢な体型の、黒のロングヘアーを三つ編みのおさげにまとめ、黒の瞳で眼鏡をかけた少女がいた。
「アキ!!久しぶり!!」
アスナは目をパアッと輝かせてアキと呼ばれた少女に駆け寄った。彼女の名は『アキレア』。血盟騎士団の副団長を務めるアスナの護衛役であり、古い親友の1人だ。75層での大規模エラーが発生してから、長らく姿を見かけていなかった。
「アキちゃんももしかして今回のボス戦に……?」
「ええ。大変な戦いになると聞いて、居ても立っても居られなくなって……」
話を聞くとどうやらエラーにより下層に残されたメンバーをアキレアはアスナに代わって取りまとめており、いつか来るであろう決戦に向けてひたすらメンバーのレベルアップを行なっていた。そして今回99層ボス戦が行われるにあたり、アキレアは残りのギルドメンバーを率いて満を辞して最前線に戻って来たのだ。
「そっか……そうだったんだ……本当にありがとう。アキちゃんがいるなら百人力だよ!よろしくね!」
「そ、そんな!百人力だなんて……でも、必ずお役に立って見せます。必ず勝ちましょうね!!」
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正午・アークソフィア転移門広場
ついに、時は来た。広場にはジェネシスやティア、キリト達四天王を始めとしたメンバーや、アキレアが連れてきた血盟騎士団全軍、その他今回の戦いに参加するハイレベルプレーヤー達が一堂に集まっていた。とはいえ、76層に来た当初に比べればその数は半分以下になってしまっているのだが。彼らは皆それぞれ最終チェックを行ったり、仲間と戦前の他愛のない会話を交わしたりしていた。
「ねえ、あそこにいるのって……アキじゃない?」
そして、アスナと同じく旧友の存在に気づいた者が1人。今やアインクラッド内では最高峰の腕を持つとされる鍛治師のリズベットと、
「あ、本当だ……そっか、彼女も一緒に戦ってくれるんだ」
リズベットの助手のヴォルフ。2人はアキレアの堂々とした佇まいを後ろから見つめ、安心したようなって笑みを浮かべた。本当なら彼女に話しかけたいところではあるが、最早そのような時間は残されていない。
やがて集団の前に、アスナが凛とした面持ちで壇上に上がる。
「では皆さんーーーー行きましょう」
アスナは全員を一度見回した後、静かにそう告げて懐から回廊結晶を取り出し、99層ボス部屋扉前の道を開く。
ゲートを潜った先は、薄暗い神殿のような場所だった。綺麗な形の石レンガで構成された建物の中に、漆黒の鋼鉄でできた高さ5メートルほどの巨大な扉が聳える。これまで見てきたボスの扉の中でも今回のそれは規格外の大きさで、これから戦いを挑む者達にこの先に待つモノがいかに強大な敵であるかを肌で感じさせる。だが、これほどのものを前にしても、誰一人狼狽える者は現れなかった。
再び、先頭に立つアスナが皆の方を振り返る。
「では、最後の確認を行います。と言っても、このボスに関しては殆ど情報がありませんので、ぶっつけ本番になります。ですが、私は信じています。今、ここに集ったメンバーであれば、必ず勝てると。
ーー行きましょう。現実に帰るために」
アスナがそう締めた直後、メンバーからは大きな雄叫びが飛び交った。皆、気合は十分なようだ。アスナもそれを聞いて満足げに頷くと、振り返って巨大な扉に相対する。
そして、その扉を左手でゆっくりと押した。その瞬間、扉は大きな地響きと全身を震わせるほどの轟音を鳴らしながらゆっくり、ゆっくりと開いていく。一堂の歓声は一斉に鎮まり、静かに突入の時を待つ。
「っ、あたし、ちゃんとやれるかなぁ……」
ここで、メンバーの1人であるシリカがやや不安げに声を漏らす。シリカは元々中層ゾーンのプレイヤーで、75層のエラーを聞いて急いで駆けつけた者だ。そのため当初は最前線で戦うには全くレベルが足りず、死に物狂いで鍛錬してようやく追いついた。とは言え、やはりボス戦の経験がジェネシス達に比べて圧倒的に少なく、更にシリカの年齢はまだ10代前半。歳不相応な過重なプレッシャーがシリカの両肩にずっしりとのしかかる。
「大丈夫、きっと大丈夫だよシリカ。もう貴女は十分強い。なんだってやれる。それは一緒に努力してきた私が保証するよ」
そんな彼女を、同じく中層ゾーンから途中参戦したサチが優しく諭す。彼女もまた、シリカと同じく血反吐を吐きそうなくらいの努力を積み重ねて漸く最前線で通用するほどの実力を身につけた。共に頑張ってきた仲間の励ましを受けたシリカは笑みをこぼし、
「ありがとうございます、サチさん。必ず勝ちましょうね!」
「うん、もちろん!」
そう言ってシリカは腰から短剣を、サチは長槍を取り出した。
「ピナもよろしくね?」
『きゅるっ!きゅるるっ!!』
シリカはパートナーであるフェザーリドラのピナにも声をかけた。それに対してピナは得意げな表情で異性のいい声をあげて応えた。
場所は変わって、集団の中央部。ここには黒白の兄妹と呼ばれるサツキとハヅキが並んで立っていた。
「はあ……とうとう、ここまで来たんだなぁ」
サツキは1人、ため息を吐きながらそう呟く。思えばここまで本当に色々なことがあった。苦しいことも、辛いことも、逃げ出したくなるような理不尽なことも。
しかしそれらは全て、今こうしてここにいる最愛の妹であるハヅキがいたからこそ乗り切れた。そう思い至ったサツキはここで改めて、必ず妹を守り切ろうと決意を固めた。
「……生きて帰ろう、ハヅキ」
「うん。もちろんだよお兄ちゃん。私たちならきっとやれるよ」
そしてサツキは双頭刃を、ハヅキは弓と一本の矢を取り出して構えた。
そんな兄妹を、暖かい目で見守る人物が3人。ハヅキと同じく妹ポジションであるリーファと、射撃武器使いのシノン、そして救国の乙女の名を持つジャンヌ。
「あーあ、あっちはあっちで仲良さそうでいいなー」
リーファはハヅキの後ろ姿を、羨ましそうな目で見つめながら呟いた。現実では兄であるキリトとは少し距離があり、それでもリーファは敬愛する兄の為にリスクを承知でこのデスゲームに飛び込んだ。今となっては兄妹の仲はかなり良好なものとなったが、それでもリーファにとってはサツキとハヅキこそが理想なのだろう。
「ま、あいつそういうところ鈍いっぽいしね。ジェネシスも似たところはあるけれど」
その隣でシノンは同情と憐れみを込めた表情でリーファを見つめながら言った。
「だからあたし、この戦いも絶対に生き残ります。この戦いも、この次の戦いも生き残って、現実に帰ったらお兄ちゃんにうんと甘えてやろうって思います」
「ええ、そうしてやりなさい。そうでもしなきゃ、キリトみたいな鈍感は気づかないでしょうし。
でも、私もそうね……この世界から出たら、ジェネシスをご飯に誘ってやろうかしらね」
シノンはリーファの決意に便乗してニヤリと笑いながらボウガンを取り出す。シノンはリーファと同じく外部からの参戦だが、リーファと違いエラーで巻き込まれた者だ。
そして幼少期にとある事件に巻き込まれ、それが今でも心の傷となっている。その為、この世界に来た当初は自棄気味に無茶なレベリングなどを繰り返していたが、それをジェネシスが止め、いつしか彼の存在がシノンの支えとなっていた。シノンはそれ以来、少しずつではあるがあのトラウマに向き合いつつある。
「生き残りましょう、必ず」
「はい!」
シノンとリーファは力強く言葉を交わすと、シノンは矢をボウガンにセットし、リーファは片手剣を構えた。
2人を隣から見つめるジャンヌは、優しげな笑みを浮かべて見つめていた。
『強いですね、お二人とも……いいえ、ここにいる皆さんは本当に強い』
ジャンヌはこのゲームにおいてかなり珍しい海外のプレイヤーだ。母国語が通じずほぼ2年余り、たった1人で過ごしていた。
ジャンヌは強靭な精神を持つ人物だが、孤独を感じていなかった訳ではない。むしろ、ジェネシス達と遭遇した時は孤独が限界に達しそうになっていたのだ。
しかしここで漸く言葉が通じるようになり、更にジェネシスやその仲間達は皆気さくで人がよく、直ぐに打ち解けて今となってはかけがえのない親友になっている。
そんな彼らを、ジャンヌは守りたいと感じていた。例えこの身を賭けてでも、自分の孤独や寂しさを埋めてくれた仲間達を失わない為に、ジャンヌはこれまで守護の御旗を振り続けた。そして今日も、ジャンヌは旗を振るだろう。敬愛する仲間達を守る為に。
『主よ……どうか我らをお守りください』
ジャンヌは祈りを捧げると、旗を両手で高く掲げるように構えた。
集団のやや後ろの方で、緊張した面持ちで立つフィリア。そしてその隣には、余裕のある佇まいでキセルを加えるツクヨ。
「そう固くなるでない、フィリアよ。これまでの鍛錬をこなした主に最早越えられぬ壁などありんせん」
「あはは……あの鍛錬はキツかったなぁ……」
フィリアはどこか遠い目で鍛錬の日々を思い出しながら呟く。
「フッ、あの程度の鍛錬なぞ朝飯前よ。わっちの師匠の鍛錬はアレの5倍はきついぞ?」
ツクヨの言葉にフィリアは「え゛っ ……」と思わず絶句した。
「……一体どんな鍛え方なの?」
「ふむ、それを知りたくば生きて帰って実際に体験してみるほうが早いじゃろう。なに、主ならば必ずやれるとも。
……ともあれ、何よりまずは目の前のボスじゃな。話はそれを終わらせてからじゃ」
「うん!今日もよろしくお願いします、師匠!」
満面の笑顔でいうフィリア。そんな彼女に一瞬面食らったツクヨは目を丸くしていたが、やがて困ったような笑みを浮かべてキセルをひっくり返し、灰を捨てる。
「やれやれ、師匠呼びとはこそばゆいものじゃな」
そしてキセルを懐にしまうと、両手に苦無と手裏剣を取り出し、フィリアは腰からソードブレイカーを引き抜いた。
「はあ……毎回思うんだけど、まさかアンタとこうして肩を並べて戦うなんてすごく変な気分なのだわ」
「それはこちらも同じですよ凛ちゃん」
巨大弓、マアンナの最終調整をしながらイシュタルは呟き、その隣でオルトリアが袋に詰め込んだカステラを頬張りながら答えた。
「待ちなさい、あんたこれから大事な戦いだって時になに呑気にお菓子食べてるのよ」
「これを食べないと私の中のオルトリアクターが不調になるんです。だからこれは必要な燃料補給です」
イシュタルの問いかけに対してオルトリアはなにも悪びれる様子もなく答えた。
「オルトリアクターとかなんだかについてはもう突っ込まないでおくのだわ。それはそうと、私にも一つだけ頂戴な」
するとオルトリアは一瞬「むー……」と頬を膨らませた後、カステラを一個取り出してイシュタルに渡した。
「あら、珍しいじゃない。アンタがタダでお菓子をくれるだなんて」
「これは経営戦略というものです。この戦いが終わったら、私のお店のお菓子沢山買ってください」
「あー、はいはい。山ほど買ってやるわよ。雫と一緒にね」
イシュタルは懐から宝石類を取り出しながら最終チェックを終えた。
「言質は取りましたからね凛ちゃん……」
オルトリアはしめたと言わんばかりの笑みでそう返し、ビームサーベルを展開した。
集団の先頭付近では、やや俯き加減のサクラが1人立っていた。その隣には彼女の姉に当たるストレアが大剣を肩に担いで立っている。
「……サクラも来ちゃったんだね。このボス戦に」
「はい。MHCPの名にかけて、私は皆さんの役に立ちます」
昨夜、ジェネシス達にボス戦参加を願い出たサクラ。当然2人はサクラの身を案じて反対したのだが、彼女が必死に説得した結果ジェネシスが折れて参加を認められたのだ。
「でも……それでも、姉さん。もし私が抑えきれず暴走してしまったらその時は」「やめて」
サクラの言葉をストレアは鋭い声と表情で遮った。
「アタシに……妹を殺させないで。アタシの力はその為にあるんじゃない」
ストレアは両目にうっすらと涙を溜めながら悲痛な声で言った。
「〜〜あーっ!やめやめ!大丈夫、サクラは絶対みんなが助けてくれる。だから安心して、いつも通り笑顔で行こう!」
「姉さん……ふふっ、そうですね。ここには頼れるお父さんやお母さん、そして皆さんがいる。なら、もう余計なことは考えずに全力で行きます」
いよいよ腹を括ったサクラは両手で頬を2、3回叩き、ストレアは大剣を引き抜いて右肩に担いだ。
「ヴォルフさん、リズさん!」
ここでアキレアが旧友のヴォルフとリズベットに気付き、彼らの元に駆け寄った。
「やあ、アキさん」
「久しぶりね、アキ。さっき見かけたんだけど声かけられなくて」
「お二人とも私がいること気づいてたんですか!?なぁんだ、サプライズのつもりだったのに」
アキレアは2人を驚かすつもりだったようだが、それが叶わなかったことに少々肩を落とした。
「積もる話は色々あるけど、それもこの戦いが終わってからだね」
「はい。必ず乗り切りましょうね!」
ヴォルフは背中からバトルアックスを、リズベットは右腰にマウントされたメイスを取り出し、アキレアは左手に持った盾に差し込まれた片手剣を引き抜く。
その時、不意にヴォルフがアキレアに尋ねる。
「その……アスナのことは、もういいのかい?」
「……ええ、大丈夫です。だって」
そしてアキレアは先頭の方に視線を向ける。その先には、アキレアが慕うアスナと、その隣に寄り添うように立つキリトの姿があった。
「あの人には、頼れる『黒の剣士』がいますから。あの人の幸せが私の幸せだから……これでいいんです」
集団の最前列でゆっくりと開くドアを至近距離で見つめるアスナ。その隣に、キリトは立った。
「どんな敵が待っていようが、俺は必ず君を守る。必ずだ」
「……うん、信じてる。私も君を必ず守るよ。必ず、勝とうね!」
2人は頷き合うと、それぞれの獲物を引き抜いて構えた。キリトとアスナから少し離れた所に、ジェネシスとティアは立っていた。
「久弥……」
不意に、ティアが口を開く。
「生きて帰ろうね、アークソフィアに……現実世界に」
「……おうよ」
ジェネシスは一言だけそう返すと、背中から大剣を引き抜く。そしてティアも、左腰から白銀の日本刀を素早く引き抜き、両手で構えた。
そんな彼らを、集団の最後尾から見つめる男がいた。ティアの実父、ミツザネ。
彼はこの戦いが始まる前から、今まで感じたことのない違和感を感じていた。それが一体何なのか、彼自身にもよく分からなかったのだが、いざボス部屋の扉を前にした瞬間、それがようやく理解できた。
今、この瞬間ミツザネの本能が警鐘を鳴らし続けている。
───“お前は、ここで死ぬ”────
彼の遺伝子が、心が、直感がミツザネ自身の敗北、そしてここで命が終わることを宣言していた。
しかしミツザネは、右手で自身の股部に手をかける。
「……ガタガタ五月蝿え」
そして右手で自身の金的を思い切り握りつぶした。
「……俺ぁ死ぬのなんざ覚悟の上でここに立ってんだ。この身を犠牲にしようとも……こいつらの未来は守って見せらぁ」
そう言って、ミツザネは指の関節を『ゴキリ』と鳴らす。
全員の覚悟がようやく決まった時だった。部屋の扉が完全に開き切った。
「戦闘ーー開始!!」
アスナの号令が掛かるとともに、攻略組は一斉に部屋の内部へと突入していく。
だが、部屋に入ってそこに待つ主人の姿を目にした瞬間、全員が足を止めた。
そこに居たのは、これまでのような異形のモンスターや巨人などではなく、純然たるヒトの姿だった。全身は真っ黒なタイツに覆われ、胴体や肩には真紅の甲羅のような鎧を纏っており、頭部は遠くからでも目立つ大きな赤い瞳と、頭部にあるクワガタのやうな鋭い2本の角が生えている。
『かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を持った古代の戦士がいた』
その足元に、日本語で記された碑文があり、皆がそれを読んだ瞬間にボスはゆっくりと歩き出す。
頭部にはボスエネミーであることを示す赤いカーソルが灯り、『The Ancient Warrior-“Kuuga”』と表示された。
今、“古代の戦士”と勇者達の戦いの火蓋が、切って落とされた。
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戦いの瞬間を、違う場所から見つめる存在がいた。ここはホロウエリアの管理区。
ここに、真っ白な着物を見に纏った淑やかな女性、『シキ』。彼女は悲痛な表情で戦いの現場をモニタリングしていた。
「どうか……どうか生き延びて」
彼女は両手をぎゅっと握り締めながら願った。
「今回のボスは改変されている……あの男によって。
本当にごめんなさい……もう、私にはどうすることも……!」
シキの手は、悔しさのあまりカタカタと震えていた。
お読みいただきありがとうございます。そして今回、アキレアというしんきゃらが登場しました。こちらはヴォルフくんと同じ巻波彩灯さんから頂いたオリキャラとなっております。巻波さん、本当にありがとうございます。
https://syosetu.org/novel/232879/
作品のリンクはこちらになります。良ければ是非ご覧ください。
それでは、また次回。