緑の戦士へと変貌を遂げた99層ボス、クウガ。その手には射撃兵装であるボウガンが握られ、その銃口がジェネシス達に向けられ、刹那の動作で鋭い弾丸が放たれる。
「それっ」
しかしその弾丸を、オルトリアが咄嗟に弾丸の軌道上に割り込みビーム刃で斬り飛ばした。
「ここからは僕たちが引き受けますね」
「はい。えっちゃんオンステージ、です」
その隣にサツキ・ハヅキがそれぞれの獲物を携えて並び立ち、シノン・イシュタル・フィリア・リズベットが前に出た。
「相手が射撃型なら、こっちも負けてられないわね」
シノンはクウガの方を好戦的な目で見つめると、ボウガンに背中のホルダーから取り出した一本の矢を装填し、照準を合わせる。その間に、クウガを引きつけるべくサツキ・オルトリア・フィリアが飛び出して陽動に出た。
まずサツキが双頭人で片手剣ソードスキル『ソニックリープ』で跳躍し、その背後からオルトリアが片手剣ソードスキル『ホリゾンタル』を発動して同時に挟み込むように切り込んでいく。ボウガンを手にしていることから近接はやはり得意ではないようで、クウガはボウガンでサツキの技は防ぐことが出来たもののその背後から来たオルトリアの技は対処できずに直撃してしまう。
「……そこ!」
その瞬間、シノンはボウガンの引き金を引いた。彼女の手元から青白い矢が真っ直ぐクウガに向かって飛翔し、クウガの右肩に矢が突き刺さる。しかしクウガは瞬時の動作で弓を弾き、カウンターでシノンに棘状の細かい矢を放った。
しかし、その矢は不可視設定になっているようでシノンは一見するとクウガがボウガンの発射モーションを行っただけで、矢は放たれていないように見えた。そのため回避行動が遅れたシノンの右足に命中し、その途端彼女は糸が切れたかのように体の力が抜け、地面に倒れ込む。彼女のアイコンには黄色い電流マークの「麻痺状態」アイコンが出現していた。それも重度の麻痺効果があるようで、アイテムや回復スキルでは解除は不可なようだ。
「あの矢に当たれば麻痺状態になるのか……」
「大丈夫です、某赤い人は言っていました。“当たらなければどうと言うことはありません”」
得意げに言い放つオルトリアはビームサーベルを手にクウガに突っ込んでいく。この時オルトリアを含め全員は「クウガの弓は連射不可」と考えていた。実際、クウガの持つボウガン含め、この世界の射撃武器は基本的にマシンガンのような連射は出来ない。
「矢が見えないなら……撃たれる前にこちらが討つ!!」
双頭刃を頭上に構えたサツキが正面から、逆手に構えた短剣でソードスキル「ラビットバイト」を発動したフィリアが背後から切り込む。
だがクウガは背後から迫るフィリアに気付いていたのか、前後の2人の攻撃が届く瞬間にその場から飛び上がって回避した。2人は攻撃の勢いを止められずそのまま正面衝突してソードスキルがぶつかり合い、お互いダメージでバランスを崩したところにすかさずクウガは麻痺毒の矢を打ち込んで2人を封じ込めた。
「こんのおおおお!!」
イシュタルが宝石を惜しみなく砕き、そのエネルギーを大型弓マアンナに収束させて極太のビーム光線を放つ。だがその攻撃すらも事前に察知していたのか、着地と同時にその場から左に飛びのいてビーム攻撃を避け、そのまま攻撃の反動で一瞬硬直している隙をついて毒矢を放つ。
「ぐ、っ……!」
マアンナで技を出した事で一瞬生じる硬直時間を突かれたイシュタルはなす術もなく毒矢が刺さり倒れ込む。
「まだまだ、ですっ……!」
スタン状態を受けていないオルトリアとハヅキがクウガに食らいつく。ビーム刃を展開させてクウガに接近していくオルトリアに向けて不可視の矢が放たれるが、オルトリアは双頭刃防御スキル「ロー・アイアス」を自身の前面に展開する事で防ぎながら突っ込んでいく。その背後からハヅキが矢を構えて発射態勢をとる。
至近距離まで接近に成功したオルトリアはあえてソードスキルを発動せずにビーム刃で斬撃を繰り出していく。クウガに矢を放つ隙を与えないよう剣を振り続ける。
しかしクウガは一瞬の動作で飛び退いた後に距離を取り、すかさず毒矢を放つ。「しまっ……」と声を上げた時既に遅く、矢は彼女の右肩に突き刺さりオルトリアはダウンしてしまう。そしてその背後で弓を構えていたハヅキはすかさず弓スキル「シングルシュート」を発動。だがそれもクウガの高い反射神経で不発に終わり、さらに麻痺毒の矢を撃ち込まれダウンしてしまった。
仲間たちが立て続けにダウンしていく様に一同は戸惑いと驚きを隠せなかった。彼らは決して弱くはない。否、むしろアインクラッドの中では今となってはトップクラスの実力者と言っても過言ではない。しかしこうも容易く倒された原因は……
「……目で捉えられない麻痺毒の矢に、超感覚による攻撃察知能力か。奴め、見た目以上に中々面倒な絡めてを使いおる」
少し離れた場所で冷静に戦いを見ていたツクヨがキセルの煙を吹かしながら分析する。彼女の言う通り、緑のクウガは正攻法で戦うにはあまりにも厄介な能力を持っており、例え99層まで戦ってきた歴戦のプレイヤーでも相性が悪かった。
「ツクヨ……頼めるか」
腕を組んで険しい表情をしていたジェネシスが問いかけると、ツクヨはキセルの雁首から灰を落として懐に仕舞い込むと、両手の指で苦無を掴みとり、
「……請け負った」
と一言返し、地面を蹴って一気に駆け出し、そのまま苦無術「疾風打ち」で4本の苦無を射出。しかしこれも事前に感知していたクウガは身を仰け反らせてかわし、反撃に不可視の毒矢を彼女に向けて放つ。
しかしツクヨは発射の瞬間に全神経を研ぎ澄ませて全ての感覚器官を活性化させる。そして僅かな空気の澱みのような波動を感じ取ると、ツクヨは左に方向を転換し毒矢の回避に成功した。システム外スキル『超感覚』を使用できるツクヨにとって、不可視の矢など見えているも同じ。
“とはいえ、距離を取ればまたあの矢がくる。こちらの飛び道具もやつの超感覚の前では当てるのは至難の業……ならば”
ツクヨは腰に携帯していた鍔の無い黒刀を引き抜き、一瞬の動きでクウガとの距離を詰めて接近戦に持ち込む。オルトリアと同じように硬直時間の発生を防ぐためソードスキルを用いずに斬撃を繰り出して斬り込む。
そして彼女の狙い通り至近距離まで詰められているためクウガはボウガンを使用できず防戦に持ち込まれている。ツクヨが振るう刀をボウガンで凌いでいくが、それでも全ては捌き切れず刃が緑の装甲を抉り切る。
たまらずクウガはその場から後ろに飛び退いてそのままボウガンの弦を弾き矢を放つ。対するツクヨも手裏剣術「桜吹雪之舞」で無数の花弁のような手裏剣を放ち、毒矢を相殺してそのままクウガに手裏剣の雨を浴びせる。超感覚を持つクウガといえど、この量の手裏剣は回避できず全身に手裏剣が突き刺さる。
「ついでじゃ、返礼としてこれも受け取れ!」
怯んだクウガに向けて続けてツクヨは状態異常効果を持つ苦無術「自来也蝦蟇毒苦無」をクウガの胴に叩きつけた。今回ツクヨが仕込んだ毒は「酩酊の毒」。対象の感覚神経を麻痺させて行動を鈍らせる効果があり、こと今回のクウガには抜群の効果を発揮する。
腹部に毒の苦無が刺さったクウガはその場でふらつき気味になり、ヨロヨロと覚束ない足取りで2、3歩よろめく。
「これで終いじゃ」
刀を逆手に掴んでゆっくりとクウガに歩み寄り、そのまま通り過ぎた後刃をゆっくりと鞘に収めていく。
「零次元・真」
チン、と納刀した瞬間にクウガの体に「プシュウゥッ!!」と出血のエフェクトと共に大きな切り傷が走り、HPが全て尽きた。
「さて、これで終わりでは……ないのじゃな」
ツクヨが振り返ると、緑のクウガに紫の禍々しいオーラが纏わり付き始めていた。「ゴオオオォ……」という突風を巻き起こしながら、巨人の咆哮のごとくサウンド共にクウガの体が重厚な装甲で覆われ、瞳は紫色に染まる。
「わっちの役目はここまでのようじゃな。では、後は頼むぞ……お前たち」
ツクヨと入れ替わるように、5人の戦士がゆっくりと前に出る。
鬱金色のコートを羽織ってハルバードを肩に担ぐ長身の男性、ヴォルフ。
白と赤の装備に身を包んだ、細剣を引き抜き優雅に歩み出る栗色の髪の少女、「閃光」アスナ。
背中から赤と黒の剣を左右の手に持ち、黒のロングコートを翻しながら進む「黒の剣士」キリト。
左腰からスラリと刀を引き抜き、銀色の髪をたなびかせて鋭い剣気を放ちながら獲物を睨む「白夜叉」ティア。
「あぁ……後は任せろ」
そして、赤黒い大剣を手に不敵な笑みを浮かべて頼もしくツクヨに答えながら5人の先頭に立つもう1人の「黒の剣士」ジェネシス。
アインクラッド最強の戦士たちは今、「紫の巨人」へと変貌を遂げたクウガに挑む。
お読みいただきありがとうございます。
今回、ペガサスクウガには本作オリジナルの「毒矢」能力を持たせました。まあ流石に元ネタそのままで戦わせるには些か弱いかなと思いましてこのようにアレンジを加えてみましたが……書いてみると予想以上にYABEEEEEEEEEI‼︎なことになって困惑してしまいました()
それはさておき、次回はいよいよジェネシスたちが本格的に出番となりますので、より力を入れて書いていきたいと思います。では、今回も読了ありがとうございました。また次回!