ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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お待たせしました、ジャズです。諸々忙しくて期間が空いてしまいました。ここからはなるべくスパンを短くして投稿できるよう頑張ります。


八十話 紫の巨剣

 第四形態と化した90層ボス、クウガ。重厚な鎧を纏い、身の丈ほどある大剣をゆらりと待ち構えながら歩み寄っていく。対するは、ここまでアインクラッド攻略を支え続けた四天王をはじめとしたトップの実力者プレイヤー達。双方が重々しいプレッシャーを放ちながら徐々に距離を詰めていく。

 

「……行くぞ」

 

 ジェネシスの合図と共に全員が一斉に飛び出した。まずはハルバードを頭上に振りかぶったヴォルフが勢いよく上に飛び上がって、落下の勢いに乗せて叩き下ろす。

 しかし、攻略組の中でも屈指のパワーを誇るヴォルフの全力の一撃を、紫のクウガは大剣を掲げて難なく受け止め、逆に押し返す。その隙をついて、キリトが片手剣スキル『ヴォーパル・ストライク』を発動し、ジェットエンジンのような加速音と共に飛び出して鋭く重い突き攻撃をクウガの胴に目掛けて放つが、その攻撃は分厚く堅牢な鎧に弾かれ、かすり傷を付けた程度に留まった。

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 続けてジェネシスが暗黒剣スキル『ヘイル・ストライク』を発動し、大剣のパワーと破壊力を生かして思い切り剣を振り下ろす。赤黒いオーラを纏った刃をクウガは咄嗟に両手剣で弾くが、ジェネシスは素早く2撃目を下から振り上げて身体を両断するが、その一撃もやはりクウガの鎧の前に火花を散らして終わる。

 

「っ、くそ……硬すぎる……!!」

 

 渾身の一撃を容易く弾かれたジェネシスは、その鎧の硬さに悔しげな顔で一旦距離を取る。そして彼と入れ替わる形で、今度はティアがクウガの背後に回り込む。両足で力強化踏み込み、右手を納刀状態の刀の柄にかけ、抜刀術『蓮華』を発動、青い横一閃の斬撃をクウガの腰部辺りにある鎧の隙間目掛けて放った。

 ティアの一撃は見事にクウガの腰を切り裂き、ようやく最初のダメージを与えることに成功した。

 

「鎧の隙間が弱点だよ!そこを狙って!!」

 

 ティアは戦闘中のメンバーに伝えると、振り返って反撃とばかりに大剣を振り下ろすクウガと鍔迫り合いを起こす。しかし、ティアのパワーでは今のクウガの力には耐えきれず、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 その後、ジェネシスやキリトたちはティアの言葉通り鎧の隙間や関節部分を狙って剣を振るうが、高速で繰り出される攻撃の中でそのような小さな急所を狙うのは至難の業だった。

 

「バアァァァァァァニングッッッ!!」

 

 ジェネシスとキリトの2人とスイッチで入れ替わり、ヴォルフが再びハルバードを下から振り上げてクウガな鎧を叩きつける。ハルバードの刃と分厚い鎧がぶつかり合って火花を散らす。

 

「だったら……鎧ごとぶっ壊せばいいだろう、がっ!!」

 

 ヴォルフは立て続けに重い一撃をクウガの鎧に叩き込んでいく。「バキッ!」「ガゴンッ!」という重々しい金属音を鳴らしながらヴォルフとクウガはぶつかり合い、互いに火花を散らす。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 そこへジェネシスとキリトが再び加勢に入り、3方向から同時にソードスキルを連続で発動する。3人がクウガを必死に抑え込む中、アスナとティア、そしてジャンヌの3人は隙を見て関節部に正確な一撃を加えていく。

 男性メンバーたちがパワーでクウガを封じながら女性メンバーがそれぞれタイミングを合わせて鋭い一撃を与えるこの連携は見事に噛み合い、順調にボスのHPを削り続けていた。だが次の瞬間、クウガは両手剣広範囲スキル『サイクロン』を発動し、紫の突風を発生させて彼を取り囲んでいたプレイヤーを纏めて吹き飛ばす。

 

「くそ、がっ……!」

 

 地面に転がり込んで忌々しげにクウガを睨むジェネシス。直撃は避けたものの、高火力のソードスキルを受けた為にダメージも大きく、彼のHPはすでにイエローゾーンギリギリまで減少していた。そして彼に向けてクウガは大剣を頭上に構えて追撃を仕掛ける。

 

「危ないっ!!」

 

 その瞬間、ティアが刀を逆手に持ってジェネシスの前に割って入りクウガの攻撃を受け止めるが、その勢いを殺しきれず後ろへ吹き飛び、ジェネシスが彼女を慌てて抱き止める。体勢を大きく崩された2人にクウガが追撃を仕掛けるが、それをヴォルフのハルバードが阻んだ。

 

「回復するまで俺が支えるぜ!」

 

「悪い、助かる」

 

 その後、ヴォルフは持ち前のパワーと思い切りの良さでパワー型のクウガと至近距離で力勝負を繰り広げる。クウガの大剣とヴォルフのハルバードがけたたましい金属の破砕音と火花を散らしてぶつかり合い、フィールド内に衝撃波を生み出す。先ほどと手順を同じくして、キリトやアスナ、ジャンヌ達が全方位からラッシュ攻撃を仕掛けるが、またもクウガは両手剣範囲攻撃で皆を吹き飛ばす。

 

「ぐ、くそっ……!」

 

『明らかに対応してきてる……!』

 

 クウガの一連の的確な攻撃技に皆の心に暗雲が立ち込める。現状、今のクウガに真正面から対応できるのはヴォルフとジェネシスくらいしかおらず、それでも相手の防御力の高さ故にダメージを与えることはできない。だからこそヴォルフとジェネシスがクウガを正面から抑える隙を突いて残りのメンバーがダメージを削るというのがこのような状況での戦術なのだが、おそらくクウガもここにきて彼らの戦術を学習したのだろう、両手剣の範囲技や高火力ソードスキルを用いて彼らに隙を与えない。

 ここまでまともにダメージを削ることが出来ない状況が続いて次第に皆の中に焦りが生まれていき、同時に不安も立ち込め始める。

 

「だったら……っ!!」

 

 瞬間、アスナが立ち上がって自身の鎧を弾き飛ばす。彼女が保有する上位エクストラスキル『神速』を発動したのだ。10秒間のみ許された、システムを超える速さでの行動。

 

『Start Up』

 

 そしてアスナは視認不可能な速度で駆け回り、クウガを翻弄していく。しかし如何に速さを獲得したとはいえ、アスナの攻撃力ではクウガの堅牢な鎧は突破できず、ただ紫の金属に擦り傷をつける程度にとどまる。

 その事で尚冷静さを欠いたアスナは必殺技のクリムゾンスマッシュを発動。赤い円錐状のポインターをクウガに向けて放つが、その直前にクウガは大剣を地面に突き立ててソードスキル『ライトニング』を使い、広範囲の雷撃を発生させてアスナを吹き飛ばす。

 衝撃で地面を転がって壁に激突し、そのダメージで彼女のHPは一気にレッドゾーンまで減少する。

 

「アスナ!!」

 

 キリトやジェネシス達が慌てて駆け出しアスナの救援に向かうが、その間にクウガは必殺技級のソードスキルを発動し、禍々しい紫のオーラを纏ってアスナに止めを刺さんと大剣を頭上に構える。

 

「ごめん、キリトく……」

 

 アスナは自身の最期を悟り、自身に向かって駆けるキリトに向けて謝罪の言葉を述べるが、力無く地面にへたり込むアスナの前に立ちはだかる人影が現れた。

 黒い三つ編みのおさげ髪に眼鏡が特徴的な、血盟騎士団の制服を着た少女。彼女は華奢な腕を正面に構え、クウガの大剣を受け止める。

 

「ア……キ……?」

 

 アスナは目を見開いて自身を庇って前に立った親友、アキレアの名を口にした。

 

「うあぁぁぁーーーーーっ!!」

 

 アキレアは腹底から声を張り上げてクウガの禍々しい大剣を押し留める。凄まじい金属の衝撃音を立ててアキレアの盾と死の刃がぶつかり合う。ほんの数秒間拮抗していた両者だが、やがてアキレアの盾が耐えきれず徐々にひび割れていく。

 ひび割れた盾を剣が貫き、アキレアの細い腕を押しつぶしていく。そして紫の巨剣は、少女のか細い胴体を深々と貫いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ボスの大剣に貫かれ、薄れ行く意識の中でアキレアは自身の行動の理由を思い返していた。これまでの2年間、自分の怖がりな性格を直したいと思って積極的にゲーム攻略に励み、いつしかSAOの中でも最強ギルドと言われる血盟騎士団に入ることができた。

 ギルドに入ってからの任務は、副団長であるアスナの補佐だった。その時アキレアは、初めてアスナの姿を見た時に『綺麗だ』と感じた。もちろん、容姿は数少ないSAOの女性プレイヤーの中でもかなり整っている方だろう。しかし、アキレアが綺麗だと感じたのは、彼女の生き様だった。

 デスゲームと化したこの世界で、死を恐れず果敢に立ち向かい、団員を励まし的確に皆を導いていくその背中に、いつしか惹かれていた。だからこそ、自分はアスナを血盟騎士団の団員としてではなく、1人の女として護りたいと思った。

 

 

 身体を貫かれ、衝撃で身体が壁に叩きつけられる。自分のレベルは今回のボス戦を受けるに十分な高さではなかったのと、ボスの必殺技級の攻撃を直で受けたためにHPはあっという間に消し飛んだ。力なく横たわる自分を、涙目のアスナが抱きかかえる。その直後、これまでSAOを共に冒険したリズベットが駆け寄る。

 

「アキ!アキッッッ!!」

 

 アスナが必死に自分の名を呼ぶ。自分はもう死亡判定となっているため、如何なる回復手段はもう受け付けられない。

 

「いやだ……お願い!死なないでアキ!!」

 

 徐々に自分の身体が青白く光り始める。程なくして自分はこの世界から消えるのだろう。

 

 あぁ……せめて最期に伝えたかった。自分の、これまで内に秘めていたこの想いを。貴女のことを思い続けている人がここにいるということを、知っていてほしかった───

 

 

 

 

────いや……

 

「これで……いいん、です……これで……」

 

 そう、これでいい。アスナにはもう、大切な人がいる。もうすぐ死にゆく自分が想いを告げたら、彼女を一生苦しめることになる。だから、この想いは内に秘めたまま消えてしまおう。

 

「────さよなら」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 アスナの腕の中で、リズベットと2人に看取られてアキレアは消え去った。先ほどまでアキレアのアバターを構成していた青白い破片が、粒子となってフィールド内を舞う。

 

「ああぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!!」

 

 アスナの慟哭がエリアに木霊する。親友の死に、これまで誰も見たこともないような悲痛な顔で泣き叫ぶ。

 

「く、そおおおおおおおっ!!!」

 

 彼女の、友の死を嘆く声にキリトの剣に力がこもる。アキレアが青白い粒子となって消える瞬間を見たキリトの中に湧き上がったのは、後悔の念。自分が護るべきだった。あの時、アスナの前に立つべきは自分でなければならなかった。

 なのに、自分の動きが遅れたせいで、彼女を死なせる結果となった。

 

「おおおおおおおおおおっっっ!!」

 

 だから今、彼は自身の剣に怒りを乗せてボスにその刃をぶつける。救うべき命を救えなかった、不甲斐ない自分自身と、彼女を死なせたボスへの。

 

「こ、のやろおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

「待て!落ち着けキリト!!」

 

 しかし今の彼の剣は、感情に任せすぎで正確さが全くと言っていいほど無くなっていた。それを感じ取ったジェネシスは、キリトに踏みとどまるよう呼びかける。しかし、彼の暴走は止まらない。

 

 それでも、キリト渾身の斬撃はすべてクウガの鎧の前に弾かれる。その事で更に冷静さを欠いたキリトは我武者羅に左右の剣を振りかぶる。

 

 やがて、下らないとばかりにクウガは剣を軽く振るってキリトを吹き飛ばす。しかし尚も食い下がろうとするキリトの肩を、何者かが掴んで止めた。

 

「見ちゃいれねぇな。そんな死に急ぐような戦い方してんのは」

 

 冷ややかな目で見下ろすのは、ミツザネ。

 

「今のお前のやり方は、たった今死んだあの嬢ちゃんを侮辱する行為だ」

 

 キリトは「何を……!」と不服の表情で抗議するも、彼は意に介さず続ける。

 

「……まさかお前、こんな長ぇ時間この世界で過ごして置いて、“頑張ればみんな生きて帰れる”とか思ってんじゃねぇだろうな?そんな甘っちょろい考えなんが持ってるんなら今すぐ捨てちまえ。ここはもうゲームどころか、常に死と隣り合わせの戦場なんだよ」

 

 彼の言葉を聞いて、キリトは乱暴に彼の手を振り解く。

 

「人ひとり死んで一々悲しんでる暇なんざねえ。そんなことより、今は自分が生き残る事だけを考えろ。よく覚えとけ、戦場じゃ後悔なんて錘を背負う奴から……真っ先に死んでいくんだ」

 

「……っ」

 

 ミツザネは小さく、しかし威厳と凄みのある声でキリトに言い放つ。そしてその声は、アキレアが死んだ場所で蹲るアスナにも届く。

 

「分かったら一度深呼吸して冷静になれ。相手をよく見て観察しろ。突破口は……必ずある。

……嬢ちゃんも、いつまでもメソメソ泣いてねぇで、さっさと立て。前を見ろ、剣握れ。死んだ嬢ちゃんの命を……無駄にすんな!」

 

 彼の叱咤を受けて、アスナはゆっくりと細剣を掴むと、それを支えにゆらりと立ち上がる。涙で真っ赤になった顔を上げ、ボスをキッと睨みつける。

 

「……アスナ」

 

 一度ボスと距離を取ったジェネシス達。そしてティアが、心配そうに彼女の顔を覗き込む。

 

「もう一度……ボスに一切攻撃を仕掛ける。反撃の隙を与えず、なるべくディレイの短いソードスキルを繋げて、連続攻撃で沈めるわ」

 

 アスナが考案した戦術を聞き、今一度気を引き締めるメンバー達。ここから、彼らの反撃が始まる……。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
まさかのアキレアさん……退場。そして今回のボス戦、ちょっと長くなりそうだったので、この辺で一旦切りました。次回で決着をつけたいと思います(ひょっとすると次は短くなるかも……)
では、次回もよろしくお願いします!
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