漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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勢いに任せて投稿です。

私の厨二病を育んだのは間違いなくリボーン。


プロローグ

それは、ある寒い日のこと。

少年は熱にうなされていた。

 

「ツっ君、大丈夫?」

「ん……かあさん……?」

 

少年は、呼ばれる声に反応して目を開ける。

ぼんやりした視界に飛び込んできたのは、よく見知った母親(見知らぬ女性)だった。

 

(……ん?)

 

思考回路に異変を感じた。

 

(いや、気のせいか?熱で頭がぼーっとするからかな……)

 

額に乗せられるおしぼりの冷たさを感じながら、少年は懐かしさを感じていた。

 

(母さんに看病されるなんていつぶりだろう。子供の頃はよく風邪をひいていたっけ。大人になったら孝行しようと思ってたのに、その前に亡くなって……ん?)

 

そう、母親は三年前に亡くなったはずだ。

 

背筋に冷たいものを感じて、ガバと身を起こす。

 

「ちょっ、ツっ君、急にどうしたの?」

 

看病してくれている女性はよく見知らぬ自分の母親だ。

ツっ君というのは自分のこと(だれのこと)だ。

 

(待て、落ち着け。これは夢か?)

 

暴走しかかる思考を必死に抑えつける。慌てて何になる、冷静になれと自分に言い聞かせた。

 

「もう、寝ていないとダメでしょう?まだ熱があるんだから」

 

脳は意味不明な状況にフル稼働を続けようとする。しかし発熱している身体は、それについていかなかった。

そのまま少年は意識を手放す。

熱が下がり、目を覚まし、そして現状を把握できたのは明くる日のことだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「家庭教師ヒットマンREBORN!」。

 

勉強もダメ、運動もダメ、何をやらせてもダメダメのダメツナと呼ばれる主人公沢田綱吉のもとに、ある日家庭教師を名乗る赤ん坊リボーンがやってくる。

リボーンはツナを伝統あるイタリアのマフィア“ボンゴレファミリー”の10代目ボスとしてふさわしく育てるためにやってきたと言い、その日からツナのハチャメチャな日々が始まる——。

 

その主人公に憑依してしまったという現実を、少年は3日かけて認めざるを得なくなっていた。

 

住んでいる町は並盛町で、家族の名前も容姿も一致している。

5歳の現時点では他の原作登場人物とは出会っていないが、それでも「自分が沢田綱吉になった」ということを受け入れるには十分だった。

 

違ったらそれはそれでいいのだ。中一の時にリボーンが来なければ、己の杞憂を笑いとばせばいい。そんな痛い黒歴史は墓まで持っていくことになるだろうが。

 

しかし、もし本当に「家庭教師ヒットマンREBORN!」の沢田綱吉になったのだとしたら、それは大変なことだった。

 

原作を思い返してみれば分かる。ただの中学生に過ぎなかったツナは、リボーンの襲来から幾度も命の危機に瀕し、修羅場をくぐり抜け、最後には世界を手中に収めんとする怪物を倒さなければならないのだ。

 

そのツナになったということは、自分の肩に世界の命運が乗っかったに等しい。

元はただの大学生だった彼にとって、それはあまりにも重い責任だった。

 

「……はっ、やってやるよ。やるしかないんだろ」

 

少年は歯を食いしばり、そう宣言する。覚悟を決める。何よりも消え去った“自分”にそう誓う。

 

沢田綱吉6歳。原作開始まで、あと7年。


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