漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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嵐の苦悩

翌朝。いつものように家を出た綱吉は、その場で溜息を吐いた。

 

「おはようございます、十代目!」

「おはよう、獄寺。朝から家の前で頭を下げている必要はないからね」

「いえ、これも十代目の右腕としての仕事ですから」

「何が」

「十代目をお守りしなければなりませんからね!」

 

押し問答の末、迎えに来るのは許す代わりに頭を下げて待っているのはやめてもらった。朝から無駄に疲れた綱吉だった。

 

「御荷物お持ちします!」

「ん、いやいいよ。これは——」

「いえ、十代目に荷物を持たせて自分は手ぶらなんて許せませんから——って重っ……!」

 

綱吉のリュックを預かろうとした隼人は、そのあまりの重さに膝をつく。

 

「な、何が入ってるんですか、これ……」

「トレーニング用に重りをね。40キロくらいだったかな」

「40キロ!?」

 

とても涼しげに背負う重さではない。隼人はもう一度持ち上げようと試みる。

 

「ぬぐッ、なんとか持てなくは……!」

「無理しなくていいよ。というか俺のトレーニング用だからさ」

 

綱吉は隼人の手からリュックを取り、ひょいと背負い直す。

 

「そんな軽々と……流石です」

「まあ、日々の積み重ねだよ」

 

とても重りが入ったリュックを背負っているとは思えない軽やかな足取りに、隼人は黙り込んだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ようツナ、おはよう」

「おはよう山本」

 

 

朝練を終えて眠そうな武の挨拶に綱吉が手を振って応えると、武に猛然と詰め寄る影があった。

 

「テメエ、十代目に馴れ馴れしくすんじゃねえ」

「あん?なんだ、えっと、転校生の獄寺だっけ。馴れ馴れしくすんなって……挨拶しただけじゃねえか。それに、十代目?」

 

唐突な物言いに戸惑う武。頭を抱える綱吉。

 

「ああ、由緒正しきボンゴレファミリーの十代目だ。お前みたいなやつが馴れ馴れしく声を掛けていいお方じゃねえんだよ」

「ボンゴレ、ファミリー?」

「ああ。イタリア最強のマフィアだ」

「マフィア」

 

目をぱちくりさせる武に、綱吉は助け舟を入れた。

 

「という設定だ」

「……ああ、なるほどな。獄寺、お前意外と子供っぽいところあるんだな!」

「うるせ、触んじゃねえ!っていうか十代目?」

「いいから」

 

綱吉は不服そうな隼人を手招きし、そっと囁く。

 

「マフィアのボスってのは裏社会のトップだろ?みだりに表の住人に話すことじゃないよ」

「なるほど、その通りですね。大変失礼しました!」

 

隼人は敬礼すると武に向き直る。

 

「という設定だ」

「お、おう」

 

妙な圧力でそう断言する隼人の変わりぶりに、武は気圧されるように頷く。

 

「そっか、マフィアか。楽しそうだな。俺も入れてくれよ」

「テメエ、そう簡単にボンゴレに入れると——」

「——いいじゃねえか」

「リボーンさん!?」

 

突然の声に三人とも振り向く。そこには机の上にポツンと置かれた花瓶、に擬態したリボーンがいた。

 

「近いうちに山本にも声を掛けようと思ってたんだ。ちょうどいい」

「どうでもいいけど、俺の机の上で花瓶はやめてくれないかな。いじめられてるみたいじゃん」

「どうせ山本以外からは避けられてんじゃねーか」

「地味に気にしていることを……!」

 

それはさておき放課後。

部活はあるがちょっとだけなら、と言う武とそれに噛みつきたくて仕方ない隼人を連れて、綱吉はお馴染み校舎裏に向かう。

 

「さて」

 

待ち構えていたリボーンは、武に何かを放る。

 

「なんだこれは、って刀?」

「山本は剣士なんだろ?」

「剣士ってか、家に剣道場があるからそこで振ったりはするけどよ」

 

武はそう言いながらリボーンの出した刀を手に取る。

 

「へえ、よく出来てんな小僧。まるで真剣だ」

 

(絶対真剣だよなあ)

 

リボーンが刃引きがされた刀を用意するわけがない。ないのだが勘違いしていた方が面倒がないので綱吉は口を噤んだ。

 

「で、こいつで何をすりゃあいいんだ?」

「簡単なことだ」

 

言うや否やリボーンは銃を構える。

 

「おい、ちょっとま——」

 

綱吉が止める間も無く銃声、そして立て続けに金属音が鳴り響く。

 

「おお、びっくりした」

 

息を吐く武の周りには、両断された弾丸が4つ。

 

「まさか、斬ったのか。いきなり4発?」

「思ったよりやるじゃねーか」

「はは、銃弾もまるで本物みたいでびっくりしたぜ」

 

そう笑う武は、今確かにリボーンが一瞬で撃った銃弾を全て綺麗に両断してみせたのだ。しかも全て別の場所に飛んできたものを。

綱吉はかつて銃弾を避けてみせたことがあったが、斬るとなると難易度が跳ね上がる。それを“死ぬ気”無しにやってのけるとは、化け物じみた反射神経と動体視力だ。

 

「試験は合格か?」

「おう、文句なしだ。やったなツナ、二人目のファミリーだぞ」

「よっしゃ。これでツナが俺のボスか。よろしくな」

「ああ、うん。よろしく?」

 

ニカッ、と爽やかに笑う山本は、時計を見ると慌てて部活へと走っていった。

 

「あいつ、誰かに剣を教わったことはないんだろ?」

「ああ。親父さんの道場で一人で振ってるだけと聞いたけど」

「それであれだけの剣捌きだ。山本は天性の殺し屋かもな」

「きょうびの殺し屋は剣を使うのか」

「そういう奴もいる。ボンゴレが誇るプロの暗殺集団には、化け物みてえに強い剣士もいるんだぞ」

「いろんな奴がいるんだな」

 

間違いなくスクアーロのことだろう。綱吉は脳裏に己が知るヴァリアーの面々を思い浮かべ、「暗殺?」と首を傾げた。どいつもこいつも派手な攻撃ばかり持ち合わせている気がする。

 

(だから腕利きの術士がいるのかもな)

 

思わぬところでマーモンの苦労を知った気がする綱吉だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

そうして帰り道。隼人と談笑しながら歩いていた綱吉は、ふと大きく溜息を吐いた。

 

「十代目?」

「いや、うん。ちょっとね。荷物任せていいかい?」

「ええ、もちろ……重っ」

 

どうにか綱吉のリュックを持ち上げる隼人を他所に、綱吉は後ろを振り向いた。

 

「一週間に一度、という約束でしたよね?」

「——何のことかな。僕はたまたまここを通りかかっただけだけど」

 

答えながら姿を現したのは、「風紀」の腕章を掲げる並盛最強の男。雲雀恭弥だ。

その手にはすでにトンファーが握られており、鋭い殺気は臨戦態勢にあることを何より強く伝えてくる。

 

「そんなやる気満々で何を言ってるんですか」

「これは放課後のちょっとした運動だよ」

「ったく、負けたらこうして何度もかかってくるから嫌なんですよ」

 

図星を突かれた恭弥はムッとした顔をする。

 

「……咬み殺す」

「断ってもどうせ来るんでしょう」

 

綱吉も“(ハイパー)死ぬ気モード”に入る。

 

「ちょ、十代目!?そいつは一体なんなんですか!敵ですか!?」

「ああいや、ちょっと気の短い知り合いだよ。大丈夫だからちょっと待ってて」

 

隼人は突然の殺気に驚き、綱吉の敵を前にしているとも思えない態度に戸惑い、荷物を落とすわけにもいかないと狼狽えている。

しかし綱吉は既に全神経を目の前の猛獣に注いでいる。

 

「その減らず口を黙らせてあげる」

「そこそこに相手してあげますよ」

 

そうして二人は激突した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

ただ取り残された隼人は、目の前で繰り広げられる激戦に目が釘付けだった。

 

「——どうだ、これがツナの本気だぞ」

「リボーンさん」

 

その隣に突然現れたのは、今日も黒いスーツを決めた赤ん坊。リボーンだ。

 

「正直驚きました。流石十代目、俺と戦った時は全然本気じゃなかったんすね」

 

称賛の言葉とは裏腹に、隼人の表情は浮かない。

 

「自分だけ劣っているように感じるのか?」

「それは!……そう、ですね」

 

耳に痛い、リボーンの言葉。

隼人は一瞬声を荒げ、しかし俯くように頷いた。

 

「俺、ずっと一匹狼で。庇われたのって初めてだったんです。だから、一生この人についていこうと思って。向こうではそれなりにマフィアとしてやってきましたから、お役に立てるつもりでした。でも」

 

綱吉の周りにいる人間は、皆中学生としては異常な程に強い。綱吉当人はもちろん、目の前でやり合っている恭弥はもちろん、武や昼休みに見た了平も自分より上だ。

 

「自信を失った、っていうか。お役に立ちたい思いはあるんですが、このままだと足手纏いのままだ。でも、十代目はきっと俺がピンチに陥ったら助けにきてしまう。迷惑をかけてしまう。だったらもう離れた方が、なんて今日はずっと堂々巡りです」

 

リボーンは腕を組み、隼人を見上げる。その視線は強く、優しかった。

 

「オレは、ツナの周りにいる人間のことを把握した上でお前を呼んだんだ。役に立てないなんてことはないぞ。自分の長所はなんだ?」

「俺の長所……近接攻撃以外の手段があること、ですか」

「賢いことだ」

「はあ」

 

唐突な言葉に、隼人は首を傾げる。

 

「山本や了平はもちろん、ツナだって勉強こそそこそこできるが地頭はそこまで良くはねェ。ちゃんと頭がいいのはお前だけだ。その頭脳は勉強にしか使えねーのか?」

 

その言葉が「考えろ」と言っているように感じて、隼人は黙り込んだ。

 

「もちろん、唯一の中距離支援っていう理由もある。だが、そんだけでお前を呼んだわけじゃねェんだ。自分に何ができるか。何がツナのためになるのか。その頭を使って考えろ」

 

その目に光が戻ったのを見てとって、リボーンは唇の端を上げた。

 

「頭を使えっていうのは、お前個人の戦い方に関してもだぞ。工夫と努力を重ねれば、お前はもっと強くなれる。自分の全部を使って戦え」

「はい!」

「いい返事だ」

 

リボーンはニッと笑うと今なお激戦を続ける二人の方をアゴでしゃくった。

 

「んじゃ、早速あいつらを止めてこい。そろそろ飯の時間だ。オレは腹が減った」

「ちょっ、リボーンさん!?……くそっ。獄寺隼人、参る!」

 

隼人はなんとか二人を止めたが、恭弥の不機嫌を買うという最悪の事象を引き起こした。儚い人生に合掌。




というわけで獄寺強化フラグでした。
おそらく次はかっ飛んで黒曜編です。多分。


以下作者の言い訳なので「そんなもん読んでられるか」って方はスルーでどうぞ。

正直、隼人はこうやって劣等感を感じたら無言でがむしゃらに修行するタイプな気がします。結構不器用。
しかしせっかくダイナマイトという戦略性の高い武器だし、本人の知力も高いので、もっと相手の動きを手玉にとってほしい。そんな願望からこんな展開になりました。
原作の良さをなるべく失わないまま、右腕らしい活躍もさせたい。未来の作者の腕に期待ですね。今の作者はとにかく前に進むのみ。
以上、「こんなの獄寺じゃない!」という批判が怖い作者の言い訳でした。

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