漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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ご都合主義的な展開を含みます。


霧の中、開戦

三人が向かったのは応接室だった。

 

「これだけの事件だ。おそらく一番情報が集まってるのは風紀委員会だろう。俺たちがこれから情報を集めるよりよほど早い」

 

綱吉の予想通り、風紀委員会には犯人の根城の情報があった。

 

「じゃあ、もう雲雀さんは犯人の下に向かったんですね」

「ええ。我々はつい先ほどようやく居場所を特定したんですが、委員長は独自に突き止めていたようです。報告しようとした頃には、すでに姿は無く」

 

副委員長の草壁がそう答える。恭弥のことを誰より尊敬している草壁は、彼と唯一対等に戦える綱吉にも敬意を払っていた。綱吉が風紀委員に顔が利くのは、彼のおかげといってもいい。

 

「しかし、沢田さんも加勢を?委員長は喜ばないと思いますが」

「いえ、周りに不安がる声もあるので情報だけは集めておこうと。しかし雲雀さんが出たなら安心ですね」

「ええ。有事においてあの方ほど頼りになる方はいません」

 

その場では誤魔化した綱吉だったが、応接室を去るとすぐさま足を目的地——黒曜ランドに向けた。

 

こと単純な戦闘力において、雲雀恭弥の右に出る者はそうない。

しかし六道骸はその格闘スキルもさることながら、一番の武器は類い稀な幻術能力だ。リングを得て大量の実戦経験を積んだ十年後の恭弥は幻術にも対応できたが、今の恭弥はそうではない。負けてしまう可能性も十分にあるだろう。

 

原作でも確か、その幻術能力により——。

 

「完全に忘れていた」

 

綱吉はその足を止めた。

 

「十代目?」

「……いや、なんでもない。急ごう」

 

そう、原作で恭弥は桜クラ病という致命的な弱点を利用されて骸に完封されてしまったのだ。今の今まで忘れていたことが信じられない。

今すぐシャマルを問い詰めるか、と過ぎった思考を振り払い、綱吉は先を急ぐ。

恭弥は既に敵地にいるのだ。今ここで桜クラ病に罹患しているかどうかを調べることに意味はない。

 

原作では死んでいない、ということはなんの安心材料にもならない。

自分の間抜けさを呪いながら、せめて怪我が軽くあれと祈り綱吉は走った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

黒曜ランド、ボウリング場跡。

そこに二人の少年がいた。一人は床に転がり、もう一人は長柄の武器、三叉槍を握り笑みを浮かべている。

 

「ひとつ、君に謝らなければなりません。僕は少々君を見くびっていたようだ」

 

六道骸は倒れ伏し、それでも強い眼光で己を睨む雲雀恭弥に語りかける。

 

「僕ははじめ、君程度の男などいくらでも見てきたと、そう思っていました。しかし、まさか桜に囲まれながらなお僕の“修羅道”を引き出すとは思いもしませんでしたよ」

 

「四」の文字が浮かぶその右目には、藍色の炎が宿っている。

 

「もしあなたが桜クラ病に罹患していなかったら、本命の前に随分と力を消耗してしまったかもしれません。負けることはなかったと思いますがね」

 

ぐっ、と恭弥の身体にわずかに力が戻り、指が少し動く。

 

「おっと、そろそろでしたか」

 

しかしその動きも骸は見逃さなかった。

右目の文字が「一」に変わると、再び恭弥の身体から力が抜ける。

 

「では、続けましょうか。出来ることなら、壊れる前に諦めて欲しいものですがね」

 

鈍い音は、まだ鳴り止まない。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「霧……?」

「なんか、嫌な雰囲気っすね」

 

辿り着いた黒曜ランドは、一帯が霧に包まれていた。

 

「何が出てくるか分からない。気をつけて進もう」

 

綱吉は改めて注意を促し、前へ進む。

 

「リボーン、喉は乾かないかしら。お茶を持ってきたわ」

「ありがとな、ビアンキ」

 

ここにくる途中で、ビアンキも合流した。リボーンが戦場に赴くのに自分がのうのうとしてはいられない、という。

本人は補給担当と主張していたが……そこに頼ることはまずないだろう。綱吉は毒々しい煙を放つ包みから目を逸らした。“超直感”が「あれには手を出すな」と警告を発しているし、そんなものがなくても食べたいとは全く思わない。

 

リボーンはよく生きていられる、と逸れる思考を目の前の戦いに引き戻す。

 

黒曜組の面子は、お馴染み六道骸と城島犬、柿本千種の三人。加えてM・M、バーズとそれに従う殺人鬼二人、そしてランチアの計七人だ。

 

この中で強敵は、言わずもがな六道骸とランチアだろう。それ以外なら十分に対処できる自信がある。

 

ランチアは蛇鋼球という鉄球を武器にする怪力の猛者だ。あの鉄球を受け切れるか、というのが彼との戦いを左右する。

原作では“死ぬ気弾”を受けた「綱吉」は鉄球を受け止め、剰え投げ返してすらいたが。自力で“死ぬ気”を引き出している綱吉は、自分の身体能力が“死ぬ気弾”による“死ぬ気”のそれと同等のものなのかが分からない。

 

(最大まで防御力を上げれば一撃でダウンってこともないだろうから、実際に受けてみてだな)

 

受けられないとなると避けるしかないが、蛇鋼球は纏う乱気流のせいでかなり大きく避けないといけない。やりにくさは格段に変わってくるだろう。

 

(そして、六道骸)

 

いずれも厄介な六つのスキル、そして“憑依弾”。

骸というとどうしてもその優れた幻術能力に目が行きがちだが、三叉槍に傷を付けられた時点で詰み、という条件はかなり厳しい。

 

何年も恭弥を相手にしてきて余程の相手でなければ肉弾戦で引けを取ることはない、という自信のある綱吉だが、傷一つでアウトとなると難易度は格段に上がる。それこそ恭弥でも難しいだろう。

 

(それをひっくり返せる武器が“Xグローブ”なわけだが)

 

綱吉はレオンに目を向ける。繭になって輝きを放っているレオンだが、羽化のタイミングは全く読めない。

 

せめて死ぬ前に間に合ってくれ、と祈ったところで、綱吉はふと異変に気付いた。

 

「リボーン、ビアンキ。皆はどこだ?」

「あん?……こいつはやられたな」

 

たち込めた霧の中に、ビアンキとその肩に乗るリボーン以外の姿が見当たらない。

 

「はぐれてしまったのね。こんな敵地で」

「やべェな。各個撃破されちまったら問題だぞ」

 

リボーンもビアンキも、ここが既に戦場であると認識したのか視線に鋭さが増す。

 

(くそっ、油断した)

 

原作の知識に囚われすぎた。

初めは武が犬と戦い、続いてM・M、バーズ、そしてランチアという流れが当たり前に来るものだと考え、警戒の一切を怠ってしまった。

そもそも、ここに来るまでの過程が原作から外れているのに。

 

個々の実力に不安はない。原作で相手にした犬や千種はもちろんランチアですら打倒しうる。二人はそれだけの力は持っている。

しかしそれでも、骸が相手では分が悪い。

 

(みんな無事でいてくれ……!)

 

祈りながら、綱吉は先に進む。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「あれ、おっかしいな。さっきまで目の前にツナたちがいたんだけどな」

 

武は首をひねる、頭を掻く。

味方とはぐれ、一人になった今も武はまだ落ち着いていた。それは能天気か、それとも自信ゆえか。

 

不意に。

 

「っと、なんかいる」

 

武の纏う空気が一瞬で変わる。刀を抜き、眼光鋭く霧の向こうを睨む。

 

「出てこいよ。いるのは分かってんだぜ」

 

返答は言葉ではなかった。

霧の向こう、わずか見える人影が揺らめく。空気を裂き飛来する何かにすんでのところで気づいた武は、刀でそれを切り払う。

 

「うお、危ねえ。いきなり攻撃とは穏やかじゃねえな」

「随分いい反応だ。めんどいな……」

 

姿を現したのは、ニット帽に眼鏡の華奢な少年。

柿本千種だ。

 

「並盛中学二年A組、出席番号15番。山本武」

「よく知ってるな。お前のことは知らねえけど、その制服にさっきの攻撃。敵ってことでよさそうだな」

 

目を細める武。その殺気に当てられて一瞬気圧された千種は、舌打ちしてずり下がった眼鏡を戻す。

 

「ちょっと腕が立つだけのただの中学生だって聞いてたけど……何でもいいか。消すだけだ」

「悪りいけど、とっととツナのとこに戻んなきゃなんねえんだ。ちょっとの怪我は勘弁な」

 

刀とヨーヨー。相異なる武器を構え、二人は激突した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

そこから少し離れて。

 

「あれ?おかしいな。さっきまで十代目のすぐそばにいたんだが……皆迷ったか?」

 

隼人は首を傾げ、周囲を見渡す。

色濃く取り囲む霧は、その先を見通させない。

 

「——やっと来たか。待ちくたびれたびょん」

「あん?」

 

霧の中から聞こえた知らない声に、隼人は身構える。

 

「全く、なんれこんな奴らに警戒しなきゃなんれーのか分かんないびょん」

 

姿を現したのは——。

 

「人、なのか?」

 

四つ足で唸る、まるで獣のような……しかし風態は人間。

 

「人らよ、半分くらい。グルルル……」

 

カートリッジを切り換えることでそれぞれの動物の力を身に宿す、城島犬。牙を剥く彼が、隼人の相手だった。

 

「びっくり人間って感じだな。そういうUMAとか、普段は大歓迎なんだが……」

 

隼人は鋭い目でダイナマイトを構える。

 

「生憎ここは戦場で、お前は敵だ。とっとと片付けて、十代目のお側に行かなきゃなんねえ。飛ばしていくぜ」

「はっ!それはこっちの台詞らよ!」

 

中距離攻撃を得意とする隼人と、近接戦闘極振りの犬。

二人の戦闘が幕を開けた。




というわけで分断され、それぞれ戦いを始めました。お分かりのとおり骸の幻術によるものです。
リボーンがいて気付かないのか、と思うでしょうが、リボーンに直接作用する幻覚でなければ、周囲の変化を覆い隠すくらいはできる、という判断です。骸は能力全開のバイパーを上回る幻術能力を持ち合わせているわけですしね。

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