漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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霧、笑う

霧の向こうから現れた六道骸。

綱吉はそれを見て目を細め、不意に身を沈めて後ろ蹴りを放った。

 

そこには三叉槍で蹴りを防ぐ骸の姿が。

 

「おっと、気付いていましたか」

「こちらを舐めすぎだ。あの程度の幻覚で俺を欺けるか」

「クフフ、良いですねぇ」

 

目の文様が「一」から「六」に戻る。

 

「改めて、六道骸です」

「ボンゴレ十代目、沢田綱吉」

 

名乗りをあげた骸は楽しそうに笑う。

 

「いや、ボンゴレの後継者が日本にいると聞いたときには『どんな素人が』と思ったものですが。中々どうして役に立ちそうだ」

「……何を企んでいる。雲雀さんはどうした」

「自信満々に乗り込んできた彼ですか?今はちょっと寝てもらっています。後々会えると思いますよ」

 

眉を顰めた綱吉は、ハッと地面を蹴り転がる。先ほどまで居た場所を、鋼球が唸りを上げて通過する。

 

「なるほど、油断していた。彼の無力化はまだだったな」

「彼は僕の先輩で、ランチアと言うのですがね」

「——北イタリア最強を謳われたマフィアの用心棒だな」

「おや」

 

骸は驚いたように声の主、リボーンの方へ顔を向ける。

 

「貴方も只者ではないと思っていましたが、やはりアルコバレーノですね?」

「お前のことは知らねーな。その若さでこれほどの幻術、マフィアなら名が知れてないわけがねェんだが」

「静かに暮らしていましたからね。それに」

 

リボーンから綱吉に移された視線。その瞳には再び「一」が浮かんでいた。

 

「あの程度の児戯を本気と思われては困りますよ」

 

瞬間、足元に熱を感じて綱吉は思わず跳び退いた。灼炎の柱がその場を貫く。

間違いなく幻覚だ。しかしその圧倒的なリアリティに綱吉は反応せざるをえなかった。

 

「おや、どうしました?ああ、そこには落とし穴があるから気をつけてくださいね」

 

感じる浮遊感。地面は崩れ落ち、どこまでも落ちていってしまうような恐怖感に——

 

「——落ち着け、ツナ」

 

鋭く響く声。ようやく幻術から抜け出せた綱吉は、慌ててその場から退がる。

 

「おっと、逃がしましたか」

 

槍を空振った骸は、しかし余裕の笑みだった。

一度幻術の世界に捕まえられたということは、以降もそうであるということ。

そしてそれは誰より綱吉が分かっていた。

 

「くそっ、呑まれかけた」

「気を付けろよツナ。こいつはやべーぞ」

「分かってる」

 

綱吉は額の汗を拭う。

 

(“超直感”でも見破れなかった……どういうことだ?)

 

(ハイパー)死ぬ気モード”の「沢田綱吉」に幻術は効かない。綱吉が骸と戦う上で立っていた足場が崩れる話だ。これが成り立たないとなると、骸に勝つことは格段に難しくなる。

 

笑う骸がひたすらに大きく見えた。

 

「——焦んじゃねェ」

「リボーン?」

 

ちらりと目を向ける。リボーンは、まっすぐに綱吉の目を覗き込んでいた。

 

「術士である骸を相手に自信も平静も失っちまったら、それこそ相手の思う壺だぞ」

「でも——」

「——それに。お前はこんなもんじゃねえはずだ」

 

何より強く背中を押す言葉。リボーンの強さを知っているから、そして嘘がないと分かるからこそ、その言葉は効く。

立ち上がる綱吉の口元には、笑みが浮かんでいた。

 

「ありがとな、リボーン」

「とっとと片付けてこい。オレは帰って寝てェ」

「はいよ」

 

骸は困ったように笑っていた。

 

「厄介ですね、アルコバレーノというものは。あと一押しで手折れそうだったというのに、完全に立ち直ってしまった」

「言葉の割に困ってはいないようだが」

「僕の幻術は、気の持ちようでどうにかなるものではありませんからね」

「それはどうかな」

「クフフ、試してみれば分かりますよ」

 

浮かび上がる「一」の文字。立ち上がる炎の柱に、しかし今度は綱吉はピクリともしない。

と思うと身を翻して走り出し、拳を振り抜く。

 

「うぐッ!?」

 

呻き声とともに吹き飛ばされたのは、死角から蛇鋼球を放ったランチアだった。

さらに振り向き、何かを掴むように右手を掲げる。

 

「言っただろう、見えていると」

「ええ、そのようですね。全くもって厄介だ」

 

現れたのは、三叉槍を振り下ろそうとする骸だ。その表情は、先ほどよりも少し苦い。

 

「どうやら、お仲間も到着したみたいですしね」

 

ちらりと骸が向けた視線の先から、人影が現れる。

 

「ツナ!」

「十代目!」

「山本、獄寺」

 

駆け寄る二人には怪我は見られない。

 

「っと、そいつが親玉ですか」

「ああ。本当の六道骸だ」

 

尻尾すら幻視されるような様子だった隼人は、骸の姿に気付いたのか警戒態勢に移る。武も同様に刀を抜いた。

骸は困ったように笑っていた。

 

「困りましたねえ。幻術は通用せず、援軍は到着し。これは今世はここまでですかね」

「てめえ、何を訳の分かんねえことを!」

「ただの敗北宣言ですよ。遺言とも言いますかね」

 

骸は笑顔のまま懐から拳銃を取り出し、頭を撃ち抜いた。

銃声とともに倒れ伏すその姿に、二人は唖然としていた。

 

「なっ……これで、終わり?」

「そんな、自分から命を……」

 

しかし綱吉は、彼だけは分かっていた。知っていた。第二段階が始まったことを。

そして。

 

(今までのは全部時間稼ぎかよ……!)

 

骸の戦略を理解した。

 

「くそっ、先に意識を——!?」

 

憑依される前に意識を刈り取ってしまおう。そう考えて振り返った瞬間、ゾクッと冷気が背筋を通り抜けた。

 

「おや、十代目。どうしました?」

「そんな怯えたような顔をして」

 

動揺する綱吉に首を傾げる隼人と武。その右の瞳には、「六」の文字が浮かんでいた。

 

「——やあ、沢田綱吉。わざわざこんなところまで来たのかい?」

 

弾かれるように振り返る。その先には、ゆらゆらと歩く恭弥の姿があった。

 

「ふふ、貴方は気付いてしまっているようですね」

「勘が良くて面倒なことだ」

 

更に左右から城島犬が、柿本千種が、歩み寄ってくる。

 

「おいツナ、どういうことだ」

「……こいつら、全部骸だ。全員に乗り移ってるんだ」

「なんだと?……おい、まさか」

 

あまりにも異様な光景に声を上げるリボーンは、綱吉の言葉でこの現象を引き起こしうるものに思い当たったようだった。

 

「クフフ、貴方はこれが何か知っているようですね。アルコバレーノ」

「てめえ、どこで手に入れやがった。“憑依弾”は禁弾のはずだぞ」

「どこでも何も、この弾は僕のものですからね。強いて言うならば初めから、でしょうか」

「なるほど、エストラーネオファミリーの残党か」

「物知りな赤ん坊だ」

 

綱吉は総勢五人、いや立ち上がったランチアも含めて六人に包囲される。

 

「形勢逆転、ですね」

 

六道骸は妖しく笑った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「思っていたより粘りますね」

 

骸はダイナマイトを両手に握り、首を傾げる。

その視線の先には、肩で息をする綱吉の姿があった。その姿はボロボロで、大きな傷はないながら小さな損傷をいくつも重ねている。

 

「さすがに六人を制御しきるのはお前でも厳しいらしいな。動きが単調で助かるぜ」

 

そう強がる綱吉は、しかしギリギリのところにいた。

 

確かに動きは単調かもしれないが、それでも六人を相手にするのは非常に厳しい。ダイナマイトは多少の損害を気にせずに飛んでくるから、足を止めた瞬間に爆発の餌食になる。蛇鋼球を放つランチア、毒針を放つ千種もいるのだ。前衛陣も武、恭弥、犬と手厚い。

逆にここまで耐えてきたのが奇跡と言える。

 

原作でも同様の状況はあった。しかしランチアも武もいなかったし、憑依されていた者たちも戦いの中で傷を負い思うように体が動いてなかったはずだ。

しかし目の前の彼らはほとんどが無傷のままここにいる。恭弥は流石に体が重そうだしランチアと犬も多少のダメージは負っているようだが、その程度は動かすには問題なさそうだった。

 

あとは、「契約」を果たせる三叉槍が一つしかないことが救いだろうか。複数あったら捌ききれなかったに違いない。

 

それでも、限界は目の前に迫っている。それは綱吉も、骸も分かっているはずだ。

 

「さて、どう詰めますかね」

 

骸は余裕の笑みを浮かべた。




作中で明記はしてませんが、獄寺と山本の二人が倒す直前に犬と千種は幻術とすり替わっていて、その隙に骸は二人と「契約」を済ませています。
M・Mもバーズもランチアすらも、その準備を整えるための時間稼ぎでしかありませんでした。
全ての準備が整い勝てる算段がたったので、骸は姿を現したわけです。

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