漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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勢いで書き上げたので粗は許して。


危機と目醒め

午後5時を知らせる音楽が、並森町に響き渡る。

 

「あ、もうこんな時間なんだ。私、帰らなきゃ。お兄ちゃんが心配して大騒ぎしちゃう」

 

時計を見て慌てる京子。

了平の妹想いは既に発揮されているのだな、と綱吉は笑みをこぼした。

 

「送っていくよ。引き止めてしまったからね」

「え、そんな、悪いよツナくん!」

「こっちの気が落ち着かないからさ。俺のためだと思って、頼む」

「うん……じゃあ、お願いします」

 

家とは逆方向だったが、綱吉は京子に何かをしてあげたい心持ちだった。あるいは、綱吉になって(・・・)から初めて感じたやすらぎをもう少し味わっていたい。そう思ったのかもしれない。

 

手提げのバッグを後ろ手に歩く京子の隣を、同じように後ろに手を組みながら歩く。

 

「なんか、習い事とかの帰りだったの?」

「うん。ピアノのお稽古だったの」

 

京子はほら、と楽譜を見せる。

 

「……フラットがたくさんついてて難しそうだ」

「ふふ、慣れればそんなに難しくないよ」

 

そんな話をしながら歩いて10分ほど。

不意に綱吉は何かを感じた。

 

「止まって」

「……ツナくん?」

 

急に様子の変わった綱吉に戸惑う京子。しかし綱吉は、そんな彼女に気を払うことなく前方を睨みつける。

なんの根拠もない、ただの嫌な予感。しかしけたたましく警鐘を鳴らす第六感を、綱吉はなんの躊躇いもなく信じた。

何故なら彼は、『沢田綱吉』なのだから。

 

「誰だ。出てこい」

 

京子を己の身で隠すように前に出る。

 

「——勘が鋭いな。平和ボケした日本にいるとはいえ、流石にボンゴレの血筋か」

 

現れたのは黒づくめの二人組。傷痕の残る厳つい顔に鋭い眼光。どう考えても真っ当なご職業とは思えなかった。

 

そして何より。

 

(ボンゴレの名を口に出すってことは、親父関連か)

 

「ボンゴレの若獅子」と謳われる、CEDEFのトップ。ボンゴレファミリーのNo.2。それが綱吉の父親、沢田家光の肩書だ。

 

「ボンゴレ?パスタをご所望ならオススメの店を紹介するが」

「父親の仕事も知らないのか?家族に隠しているという話も事実だったのか」

 

綱吉はひとまずとぼけて時間稼ぎを試みる。

 

(勘付いたことを教えたのは失敗だった)

 

お陰で子供のふり、というか事実子供ではあるのだが、無邪気な子供のふりをして油断を誘うことができなくなってしまった。

 

彼らの狙いは綱吉の身柄と見て間違いない。家光に対しての人質として使う気なのだろう。

それがどの程度の効果を発揮するかはさておき、今は捕まらないことに全力を尽くすしかない。

 

(懸念事項は一つ)

 

綱吉は背後で震える少女にちらりと視線を向ける。

たとえ何があろうとも、笹川京子を巻き込むわけにはいかない。

 

叶うならばここから逃げさせたい。目の前の男たちしかいないのであれば迷わずそうさせただろう。

しかし、他に仲間がいる可能性を排除しきれない。捕まってしまったら最後だ。

 

綱吉が悩んでいるうちに、男たちの方が先に口を開いた。

 

「よし少年。両手を上げて、一人でこっちに来な。それでその子には手を出さないでやる」

「……信用できないな。俺を捕まえてからこの子に手を出さない保証がない」

「あん?何を勘違いしてるんだ少年」

 

男は懐に手を入れる。

 

「これは交渉じゃねえ。目の前でその子の身体に穴を開けられたくなきゃ大人しくしろって言ってんだ」

 

出てきたのは間違いなく、ドラマとかでよく見る拳銃だった。その手のものに詳しくない綱吉には種類までは分からないが、彼らが本物のマフィアであることを鑑みると、モデルガンと高を括るのは危険すぎるだろう。

 

「こんな町中で発砲したら、それこそ大騒ぎだろう。脅しにはならない」

「消音器が付いてるから大した音は出ないが……お気に召さないならこっちでも構わねえよ。好きな方を選びな」

 

もう一人の男が出したのは、大振りのナイフ。少女一人に傷を付けるには十分過ぎる代物だった。

 

それを目にした綱吉はいよいよ俯き、肩を震わせた。

 

「クッ、ハハハハッ!!」

 

そうして、両手を上げる。

 

「笑うしかないな、こんなの。大の大人二人がガキ一人攫うために拳銃にナイフだと?恥ずかしくないのかよ」

「生憎銃もナイフもハンカチと変わんねえよ。持ってて当たり前のものでしかねえな」

「そうか。イカれた世界だぜ」

 

吐き捨てるようにそう言うと、綱吉は後ろを振り返る。

京子は腰を抜かして座り込んでしまっていた。それでも潤んだ瞳で綱吉を見上げる。

 

「ツ、ツナくん……?」

「大丈夫だ、笹川。君のことは、誰にも傷つけさせはしないよ」

「そんな、それじゃあツナくんは!?」

「信じて、待っててくれ。絶対動いちゃダメだよ」

「待って、だめ、ツナくん!!」

 

京子の伸ばした手は届かず。綱吉は歩き始めた。

そうして、ニヤニヤした顔で待つ男たちの目の前に辿り着いた。

 

「ようし、言う通りに来たな?」

 

綱吉は促されるままに両手を差し出し、縄で手荒に縛られる。

 

「約束通りあの子のことは離してもらうぞ」

「おうよ。ニック、適当にやっておけ」

「あいよ」

 

ナイフを振りながら京子に歩み寄る男。

 

「やっておけってのはどういうことだ?」

「あん?言葉の通りの意味だよ。いやあ、残念だったな。俺たちは何もしなかったんだが、そのあと運悪く通り魔に殺されちまったみたいでよ」

 

意味は明白。最初から殺す気だったというわけだ。

 

「……そんなところだろうと思ったよ」

「あん?……ぐあッ!?」

 

顎に下から強烈な一撃を貰い、男は一瞬意識を飛ばす。

両手を縛って完全に油断していたとはいえ、子供とは思えないほどの威力だった。

 

「てめえクソガ——ぐふッ」

 

意識を飛ばしたのは一瞬。しかしその一瞬があれば、綱吉には十分だった。

鳩尾に一撃、頭にもう一撃。男はそれで完全に意識を手放した。

 

荒事に慣れた男を一瞬で叩き伏せた、10にもならない少年。明らかに異常だ。

しかし今の綱吉は、それを当然のものと思わせる空気を放っていた。

 

「銃だのナイフだのが出てきた時点で、こう(・・)ならなきゃ死ぬってのは分かってたんだ。それなのに、お前がそっちに歩き出した途端だ。どうしてだろうな。今まであんなに頑張っても無理だったのに、スっと入れた」

「て、てめえ!何してやが——!?」

 

あっという間に仲間を無力化された男は、怒りのままに喚き散らそうとして——その瞳に呑まれた。

 

全てを見透かす、全てを呑み込む、大空のような瞳。

 

「これが“死ぬ気”だ。——太陽を曇らせるかよ」

 

目の前に立っているのは、間違いなく子供だ。それなのに、マフィアとして命のやり取りをしてきた男が、気圧された。

一瞬にして勝てないと思い知らされた。

 

「——ッ、クソが!!」

 

いくら“死ぬ気の炎”を灯していようと、所詮は戦いを知らない子供でしかない。武器を持っている戦い慣れた自分が負けるはずがない。

 

そう自分に言い聞かせ、男は拳銃を抜く。

 

「お、おい!それ以上近づくな!」

 

しかし少年は全く怯えの色を見せず、歩みをやめない。

 

「そんなに震えた手で、俺に当たるのか?」

 

あまつさえそんなことを言うほど。

 

「舐めやがって……!」

 

その瞬間、男の頭には「人質にするのだから殺してはいけない」などという考えは消えてなくなっていた。

揺れるように歩くその頭に照準を合わせ、震えを抑えて、引き金を引く。

 

パスン、と気の抜けたような銃声が鳴る。

 

少年は、そんな銃声など意にも介さずに歩いていた。

男は自分の目が心底信じられなかった。

 

「バカなッ!有り得ねえ!銃弾を避けただと!?」

 

男はもはや半狂乱になって引き金を引き続ける。その全てが、少年には擦りもしなかった。

すぐに弾が尽きる。カチッ、と弾切れを告げる銃を、男は罵倒と共に投げ捨てた。

 

「クソがッ!」

 

ナイフを手に向かう先は、座り込んで呆然と二人を眺める少女。こうなったら人質を使って捕まえるしかない。そんな思考を、綱吉が読んでいないわけがなかった。

 

「お前ごときの汚い手を京子に触らせるか」

 

鳩尾への肘打ち。顎への拳。延髄への手刀。流れるように一瞬で三発を決められた男は、反応する暇さえ与えられずに地に沈んだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

京子は、急に人が変わったように二人を一瞬で沈めた綱吉を見上げていた。

 

怖かった。

見たこともないような恐ろしい顔の男たちも、彼らが取り出したおもちゃとは思えない武器も、それによって傷つけられることも。

何より、綱吉がどこかへ行ってしまうことが。

 

危機は去ったが、すぐ目の前まで迫った濃密な暴力の余韻はまだ消えない。恐怖は寒気のように身体に残っていた。

 

「大丈夫か、笹川」

 

声を掛けられて、京子は綱吉に焦点を合わせる。さっきまでとは違う、知ってるツナくんだ、と思った。

 

その瞳には、何故か自分に残るそれと同じような感情が見えた。

どうしてだろう、と首を傾げて、その瞳に映る自分の姿を見て、気付いた。

 

(あ……怯えてるんだ。私が、怖がってるから)

 

だから京子は笑顔を浮かべて、言った。

 

「ありがとう、ツナくん」

 

フッと身体の力が抜けた気がした。目の前が暗くなった。

 

(安心して、疲れちゃったのかな)

 

崩れ落ちる自分を、誰かが抱きとめたのが分かった。必死で自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

心の中でもう一度だけ「ありがとう」を言ってから、京子は意識を手放した。




次は影も形もないので本当に未定です。
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