漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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日刊に載って色々伸びたので頑張って投稿です。


遥か高みに浮かぶ雲

山本武。

言わずと知れた野球馬鹿である。

 

その類稀な運動神経は、短期間の修行でのちに剣帝を名乗るスクアーロを倒すほどだ。その才能は野球にも遺憾なく発揮され、小学生にして既に中学生顔負けのプレイなのだという。

 

実は綱吉と同じ小学校に武も通っている。二人ともクラスの中心人物であり、お互いに良き友人と認め合う仲だ。

 

しかし、武の野球馬鹿っぷりは綱吉にもどうにも出来ていない。何度となく剣の道に興味を示すように促したのだが、全て失敗だ。本当に野球しか見えていないのだな、と実感させられただけだった。

 

唯一達成できたのは、刀に慣れさせることだ。とある偉大な野球選手の逸話を挙げて「日本刀で素振りをしていたらしい」と綱吉が語ると、武は「家に道場あるから日本刀もあるかもしれねえ」と喜んで帰っていったことがあった。

その後も刀での素振りは続いているらしい。その練習がどう効果あったのかまでは知らないので野球に役立っているかはいまいち分からないが、将来の戦いには多少役立つと思いたい綱吉だった。

 

さて、武の強化が難しい以上、残るのは一人だけだ。

というわけで、綱吉は路地裏で暴れ回っていた。

 

「ふう……この程度だったら、“超直感”だけで倒せるようになったか」

 

腰を下ろし、缶コーヒーを呷る綱吉。その周りには中学生や高校生の不良達が転がっていた。今綱吉が腰掛けているのは、その中のリーダー格だった高校生だ。

 

最近噂が出回り始めたのか、この日のように囲まれることも多くなっていた。中には金属バットなど武器を持つ者も現れ、綱吉の戦闘経験の蓄積に大きく寄与している。

まあいくら数がいようとも、素人がバット振り回す程度ならば綱吉の敵ではない、ということだった。

 

最初の頃は念を入れて“死ぬ気”を引き出していたが、慣れてきた最近ではそれすら無しだ。それでも負けることはおろか危ないと思うことすらなかった。

 

さて、そろそろ夜になってきたし帰るか。綱吉が腰を上げようとした瞬間。

 

「——ねえ。君が最近並盛の風紀を乱しているという子供かな」

 

これまで感じたことのない、圧倒的強者の気配。全力で警戒を促す第六感に従い、すぐさま振り返って身構えた。

 

そこにいたのは、想像よりも少し幼い、でも間違いなく予想通りの人物。

 

「雲雀恭弥」

 

既に並盛の風紀を取り仕切る最強の不良。のちの十代目ファミリー最強の守護者。

 

「そうだね。そういう君は何者だい」

 

雲雀恭弥が、不機嫌そうに目を細めていた。

 

「沢田綱吉です。しかし、風紀を乱していたとは心外ですね。俺が倒したのは不良だけですよ」

「並盛に秩序は二ついらない。君を咬み殺す理由はそれだけだよ」

 

恭弥がトンファーを構える。刹那、綱吉の身体を爆発的な殺気が貫いた。

 

「……さすがは雲雀さんですね。ただ殺気を浴びただけで、全身が戦闘態勢に入った」

 

肩を竦める綱吉の額に、炎が宿る。

 

「“死ぬ気”でお相手しましょう」

 

大空と浮き雲が激突した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

綱吉はこれまでの戦いで、自分の力にかなりの自信をつけていた。磨いてきた“超直感”による先読みは、たとえ相手が雲雀恭弥であろうとも通用するだろうと。ましてや“(ハイパー)死ぬ気”だ。負ける道理がない。

 

しかしそんな楽観的な予測を、恭弥は嘲笑うように覆してみせた。

 

「ははは、めちゃくちゃな動きをしますね!」

 

人の動きには(ことわり)がある。“超直感”が目醒めてからさまざまな動きを学習した綱吉は、そう考えていた。

どんな流派だろうと、どんな武器だろうと、あるいは素人だったとしても、その理からは逃れられない。

 

しかしこの浮き雲は、そんな軛には縛られない。強引に大胆に、そして自分勝手に、理という名の檻を食い破り、自由自在に暴れ回る。無理を通せば道理は後からついてくる、と言わんばかりの予測不能な動きに、綱吉はついていくのが精一杯だった。

 

「ワオ、これにもついてくるのかい?」

 

しかし予想外なのは恭弥も同じだった。

所詮は群れたがる弱い生き物を狩って悦に浸るだけの小型動物だと思っていた綱吉が、並盛で敵無しの恭弥に正面から食いついてくるのだ。

 

しかも鋼鉄製のトンファーを素手で捌き、いくつか入れた胴体への攻撃も衝撃を逃していたとはいえほとんどダメージを負っていないという、規格外の頑丈さ。

 

戦闘狂の気が大いにある恭弥は、当初の目的を忘れて随分と楽しくなっている。彼にとって綱吉は、初めて出会った「いくら殴っても壊れない、頑丈な玩具」だった。

 

そんな規格外な綱吉にも、すぐに限界は来る。そもそも“死ぬ気”は火事場の馬鹿力のようなものだ。無理やりに身体の出力を上げているのだから、完全に素の状態で戦う恭弥より先に力尽きるのは当然と言えた。

 

(賭けに出るしかないか)

 

徐々に身体が悲鳴を上げるのを感じながら、綱吉は踏み込む。

ここまで一度も攻撃に出なかった綱吉の、初めての攻勢。

しかしそれは当然代償を伴う。

 

「うぐッ」

 

これまで攻撃しなかったのは、恭弥の猛攻を捌くので精一杯だったからだ。無理やり踏み込んだら一撃貰うのは当然のこと。覚悟していたとはいえ重い一撃に顔が歪む。

 

しかし、覚悟していれば一撃は耐えられる。腹に完璧な一撃を入れてもなお倒れないことに目を瞠る恭弥に、綱吉はお返しとばかりに渾身の一撃を放った。

 

それはいつか公園で了平が見せた、空を裂く拳。体重を乗せ、防御に回す方を最低限にしてまで“死ぬ気の炎”を集中させた一撃。

 

綱吉の知る最高の攻撃は、恭弥を直撃。その身体を大きく吹き飛ばした。

 

そこまでが限界だった。

 

「……くっそ、痛ってえ」

 

綱吉は脇腹を押さえ膝をつく。恭弥の攻撃を貰ったダメージとしては少ない方かもしれないが、消耗した体力を鑑みるともう戦えそうにはない。

一方、吹き飛ばされた恭弥は。

 

「随分と良い攻撃だったよ」

 

のそり、と立ち上がる。その足取りにダメージは感じられない。

 

「はは、あそこから反応しますか」

 

苦笑する綱吉の言葉通り、恭弥は完全に不意を打ったはずのカウンターにも反応し、後ろに跳んで衝撃を逃していた。

捨て身の賭けは失敗に終わったわけだ。

 

勝負は決した。

さてどうしたら最小限のダメージで帰れるか。綱吉がそんなことを考えながら様子を伺っていると、恭弥は目を細めてから後ろを向いた。

 

「次は無いよ」

 

それはつまり、今回は見逃すということ。

 

「……いいんですか?」

「僕の気が変わらないうちに早く帰ったほうがいい、沢田綱吉」

 

それは多分、恭弥が綱吉を認めたということだ。

 

「来週の同じ時間、またここに来ます」

「この僕に喧嘩を売っているのかい?」

「雲雀さんも飢えているでしょう。自分と戦える相手に」

 

恭弥は振り返り、綱吉を見る。

 

「その全てを見透かすような眼が気に入らないな」

「……今日はこれ以上は無理ですよ」

「知ってる」

 

恭弥は再び綱吉に背を向ける。そして今度は振り返ることなく、路地裏から去っていった。

 

「……ははは。いや、強くなったつもりだったけど、俺もまだまだだ」

 

浅瀬で潮干狩りをしているうちに海の全てを分かった気になっていた。

“超直感”と“死ぬ気”があっても今の綱吉が敵わない相手なんて、きっと大勢いる。

雲雀恭弥はまあ規格外だろうが、そもそもこれから綱吉が相手をすることになるのは全員が規格外だ。最後は世界を手中に収めんとする怪物だし。

 

「強く、ならないとなあ」

 

綱吉は、拳を強く握りしめた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

路地裏を出た恭弥は、そっと壁にもたれかかった。

 

最後の一撃。全く効いていないかのように装っていた恭弥だったが、実際はそこそこのダメージを負っていた。もちろん戦えないほどではないが、それでも雲雀恭弥が過去に受けたダメージの中ではかなり上位に来る。ここ最近では覚えがないほどの衝撃だった。

 

「沢田綱吉、か。まさかこの並盛に僕と戦える者がいるなんてね」

 

殆どが一閃すれば終わりの恭弥の攻撃を何度も捌き、食らっても踏ん張り、一撃入れてみせすらした。

そこに自分の知らない何かを感じた恭弥は、綱吉に強く興味を抱いた。

 

「良い砥石が見つかった」

 

雲雀恭弥は、心底楽しそうに笑った。




雲雀さんが一番好きです。
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