漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。 作:ロール
短いですが。
イタリアから日本への飛行機の中。
一人の赤ん坊が、顔立ちの愛らしさに似合わぬ険しい表情で書類を睨んでいた。
(沢田綱吉、中学一年生。家光の子か)
言わずとしれた
彼はボンゴレファミリー9代目ボスより依頼を受け、10代目候補を育て上げるべく日本へ向かっていた。
(まだマフィアのことは全く知らない、ごく普通の中学生か。哀れっちゃ哀れだが、仕方のねェことだからな)
リボーンは冷酷無比な殺し屋だが、カタギの人間を巻き込んではいけないというマフィアのルールは重々承知している。
ゆえに裏の世界を全く知らない子供を引きずりこむことに僅か哀れみを覚えたが、割り切るのも早かった。
彼は“
運命は既に決まっている。ならばリボーンに出来ることは、ボンゴレのボスとして強く育てることだけだ。
(成績は優秀、そつのない優等生か。つまんねー奴だな。……いや、近年進んで不良に絡みにいく傾向にある、か。悪くねェ)
しかし家光の話では、綱吉は虫も殺さぬ心優しい性格、ということだった。
もちろん思春期ゆえに性格の変化などいくらでもあるだろうが、そう大きく変わるものかとリボーンは首を傾げる。
(まあ、会ってみないとわかんねェな)
そのまま書類を読み進める。目が留まったのは、末尾の一文だった。
『不確かではあるが、既に“ブラッド・オブ・ボンゴレ”に目覚めている可能性がある』
リボーンはスッと目を細める。
“ブラッド・オブ・ボンゴレ”に目覚める。つまり、“超直感”が覚醒しているということだ。
(どういうことだ……?こいつ、ごく普通の中学生じゃなかったのか)
“超直感”、またの名を“見透かす力”。
初代ボンゴレボスの血を引く者に特有の、異常なまでの鋭さを持つ直感力のことだ。
それは日常生活を送るには不都合なほどに鋭く、ボスの座を譲って日本に渡った初代は、己の血に宿る力を封じたという。
以降に生まれた子孫は“超直感”を封じられたまま生まれ、闘争に身を置き“死ぬ気の炎”を燃やすことで覚醒するようになっているそうだ。
家光から聞いた話だから間違いない。
それを、ただの中学生が目覚めさせたというのだ。
リボーンが疑うのも当然の話だろう。
(なんだか面白いことになってるみてェだな)
世紀の天才殺し屋は、ニヤリと笑った。
全綱吉くんは逃げて。
次からはいよいよ原作の時間軸に入っていく、はず。