漫画の主人公になるのは妄想の中だけでいい。   作:ロール

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サブタイトルつけなきゃよかったなって思う次第。
読む側だとあったほうが後で読みたい話を探しやすくていいんですけどね。

評価いただいて日刊に載っているようでありがたい限りです。
もちろんこれまでに評価してくださってる方も、お気に入りしてくださっている方も、感想をくださる方も、読者の皆さんに感謝です。
感謝の更新。


信じること

「俺がボンゴレファミリーの十代目、か」

「あんまり驚いてねェみてーだな」

「まあ、突然ではないから」

 

所変わって綱吉の部屋で、二人は話していた。

ママンこと奈々には、リボーンのことを家庭教師として紹介した。というかそう名乗ったのでその線で通すしかなかった。幸い、リボーンの知力は本物だ。その一端を見せてもらえば、奈々も納得しようものだ。

 

そうして聞かされた話が、「自分は綱吉を立派なボンゴレ十代目として育てるべく送られた家庭教師である」というもの。

 

もちろん綱吉には既知のことだが、それは本来あり得ないこと。だから、この日のためにそれらしい言い訳は考えていた。

 

「4年前、だったかな。マフィアに襲われたことがあるんだ」

 

リボーンは目を細めた。

 

「一度だけ、お前たちにつけた護衛が敵対マフィアによって引き剥がされたことがあると聞いた。その割に何も被害がなくておかしいと本部も訝しんでいたが……襲撃はあったのか」

「ああ。俺が倒した。火事場の馬鹿力みたいなのが出てね」

「それで“死ぬ気弾”も無しに“死ぬ気”が使えるのか」

「ああ、雲雀さんとのやり合いも見てたもんな」

 

リボーンに見せる意味合いがあったことは否定しないが、そもそも鍛えてきた綱吉でも恭弥の相手は全力でないと務まらない。

 

リボーンは瞑目した。そして。

 

「——それでいいんだな」

「っ、ああ。ここまでだ」

 

話せるのはここまで。これ以上は嘘になってしまう。それは出来なかった。

そして真実を話すことも。

 

綱吉はこれまで、原作の改変と呼べることは仲間の強化以外にはやらなかった。それは改変による未来編での予想以上の変化を恐れたからだ。

 

綱吉の最終的な目標である白蘭は、パラレルワールドの自分と知識を共有するという恐るべき異能を持つ。

原作を読む限り余程のことがなければパラレルワールドは生まれないようだったが、原作知識の過剰な開示はその余程のことに当てはまりかねない。

そうして分岐した世界の自分を識った白蘭が未来に飛ぶ若きボンゴレファミリーの対策すら済ませてしまった場合、詰みかねない。

それを考えると何も話せなかった。

 

リボーンは、おそらく隠し事があることを見抜いて、それでも頷いた。

 

「分かった」

「いい、のか……?」

「話せねェんだったら、聞いても仕方ねーだろ。それに、家庭教師が生徒を信じなくてどうすんだ」

 

綱吉は目を見開き、そして頭を下げた。

 

「すまん」

「その代わりオレを騙そうとか考えたら死ぬよりも恐ろしい目に合わせてやるからな」

「んなことしねーよ!」

 

夜は更ける。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

翌朝。リボーンが朝の食卓にいること以外はなんの変わりもなく、日常は流れていく。

 

綱吉は普段通りに家を出る。リボーンは何か用事があるとのことで、朝食を終えるとどこかへ消えていった。

まあ、リボーンが学校についてくると面倒なことが起こされかねない。自分を信じてくれたことには感謝していたが、それはそれ。面倒ごとはごめんだ、と思う綱吉だった。

 

「あ、ツナくん」

「笹川。おはよう」

 

京子は太陽のような笑顔を見せる。

 

もちろん同級生である京子だが、了平がボクシング以外だと盛んに京子の話をするものだから、綱吉にとってもなんだか妹のような感じがしていた。

 

クラスも違うから、こうして話すのは久しぶりだ。二人は並んで学校への道を歩く。

 

「お兄ちゃんが迷惑をかけてない?」

「いや、お兄さんには俺もいい刺激をもらえてるよ。いつもありがとうって言っておいて」

「ほんとに?お兄ちゃん、よくツナくんのことを褒めてるんだけど、二言めには『ボクシング部に入ってくれれば』なんて言うから」

「ううん……まあでも勧誘はしつこくないから、大丈夫だよ」

 

そこだけは唯一迷惑と言えるかもしれないが、あの熱意がなければ笹川了平ではない。仕方のないことだと綱吉も諦めていた。

 

「そう、よかった」

 

安心したように笑う京子。

なにより、彼女の顔を朝から曇らせるのは忍びなかった。

 

「お、京子……と沢田?」

 

取り留めもない話をしながら歩いていると、横から名前を呼ばれる。

京子の親友、黒川花だった。

 

「花!おはよう」

「おはよう京子。沢田も」

「おはよう黒川」

 

挨拶を交わすと、花は珍しい二人組だ、と綱吉と京子を見て悪い笑みを浮かべた。

 

「こんなにかわいいのに浮いた話の一つもないと思ったら、なるほど、もう相手がいたのか。意外と京子も隅に置けないなあ」

「ちょっ、花!違うからね!?」

 

京子は赤くなって花に詰め寄る。花は「はいはい」なんて言いながら、明らかに面白がっている。

綱吉はいかにも中学生の女子らしいやりとりだな、なんて暖かい目で二人を眺めていた。

 

「しっかし、沢田と仲が良いならあれだけ持田先輩に言い寄られてもぴくりとも動かないのも納得だなあ」

「持田先輩?」

 

そろそろ細かい部分は薄れてきた原作知識の記憶にも残っている名前だ。主に可哀想なエピソードとともに。

 

「剣道部の主将だったっけ」

「そうそう。よく京子に声をかけてくるんだけど、全くの脈なしって感じで不思議には思ってたんだよね」

「持田先輩はただ委員会が同じだけで、それ以上のことは何もないからね!」

「そりゃあ、相手が沢田じゃ仕方ないよ」

「俺はどんな評価なんだ」

 

ダメツナなんて呼ばれていないのは流石にわかるが、綱吉は自分の評価を気にしたことがない。

 

「勉強も運動も抜群に出来るんだから良いに決まってんじゃん。それに、なんたってあの風紀委員長と真っ向からやり合える唯一の人間だからね。一目置かれてるってか、ちょっと畏れられてる感じ?」

「それで皆ちょっと遠巻きなのか……」

 

なんとなくクラスメイトに感じていた壁の正体を知る綱吉だった。

 

「——げ、噂をすれば風紀委員じゃん」

「手荷物検査かあ。今日やるって言ってたっけ」

「抜き打ちでしょ?やば、私今日友達に貸す漫画持ってきちゃったんだけど」

 

女子だからそう酷い目には合わないだろうが、没収は免れない。苦い顔をする花に綱吉は手を差し出した。

 

「じゃあ、俺が預かっとくよ。上手いこと言いくるめとくからさ」

「マジ?すごい助かる!」

「休み時間に取りにきてくれ。んじゃ」

 

受け取った漫画を鞄に隠し、綱吉は一足先にと校門へ向かう。

風紀委員長である雲雀恭弥と唯一対等と言える彼は、「委員長が認めている」という理由で風紀委員からも一目置かれている。

案の定、サッと道を空ける風紀委員の前を悠々と通っていくのを眺めながら、花は呟いた。

 

「やっぱり格好いいよね、沢田って。強くて賢くて優しいって、憧れない理由がないわ」

「ちょっと、花?」

「分かってる。京子のものに手は出さないって」

「だから、私のものとか、そういうのじゃないからね!」

「はいはい」

 

花は花なりに、ちょっと、と言えないほどに抜けたところのある天然な親友のことを案じていたのだ。変な男に騙されやしないかと。

 

「その点、沢田は大丈夫そうじゃん?」

 

花の一人言は、周りのざわめきに紛れて消えていった。




忙しい中投稿を始めたので毎度遅くなって申し訳ないです。次も遅いと思います。

あと日常編とかキャラ紹介とか多分さっくり行くと思うのでご了承下さい。早く黒曜編行きたい……。

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