プログライズキー作っちゃったお話。   作:翠晶 秋

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たったヒトツの宝物

メイドヒューマギアはすでに成長点にある。

レベルアップできるかどうかは彼女の意思次第だ。

 

「とにかく、まずは渦中のお嬢様のところへ向かうか?」

『……承知いたしました』

 

そうして、一歩踏み出したときだった。

隣の部屋から、爆発音が轟いたのだ。

ぐらぐらと屋敷が揺れる。

 

『お嬢様ッ!』

「ずっと前からなにがどうなってんだ……!」

 

一段飛ばしずつに階段を駆け上がり、扉のノブに手を掛ける。

硬い。ノブは回るが向こうに開かない。

 

「ハッタ!いるか!」

『壁は防音となっています!こちらの声は……』

 

壁に耳を当てる。

チリチリと爆ぜるような音。それと内側から戸を叩く音が聞こえた。

なんらかのハプニングがあったのは明らか。

 

「エルヨは熱源感知はできるか!?」

『私にはラーニングされておりません……。音から推測して火災と判断しました!消防士ヒューマギアへ通報はしてありますが時間予測して十五分ほどの時間がかかるかと思われます!』

「わかった!エルヨ、引いてろ!」

 

ゼロワンドライバーは使っても意味が無い。プログライズキーがないからな。

だが、まがりなりにもキックを主体としたヒーローをしていたからな。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

全力のキックを扉にかまし、片方をぶち破る。

熱ッッッ!!

 

「燃えてる!」

「旋人!げほっ、げほっ……」

「落ちついて、何が起きた!」

 

ハッタは部屋の奥───炎に包まれている奥を指差し、瞳の端に涙を溜めて訴えた。

 

「里奈が奥にいる!窓からへんなやつが入ってきて、リナを奪っていった!」

『お嬢様!!』

「なっ、エルヨ勝手に!!」

 

ヒューマギアといえど熱に強いわけではない。

対炎特化のヒューマギアでさえ、火の中に呑まれれば煙や熱で壊れる。

エルヨは少し前から熱にさらされている。長くは持たない。

追おうにも炎は勢いを増し、変身前の俺では炎の中へ飛び込むことはできない。

 

「なあっ、どうするんだよ、なぁ!!」

「パソコンを持ってこい!」

「パソコン……?」

「でかいDSだ!」

 

ハッタが部屋を飛び出した。

炎の中ではあるけれど、防音できるくらい厚い壁なら配線も生きているはず。

幸い壁は爆発の衝撃で脆くなっている。

本日二度目の全力キック。

 

「ぐっ」

 

さすがに壁は硬く、砕くことはできたが右足に深めのダメージを負った。

剥き出しになった配線に手を突っ込む。

危険だけどしょうがない。緊急事態だ。

配線の先にゼロワンドライバーをくっつける。

電力、衛星回線の接続はできた。

 

「旋人!」

「ありがとう!」

 

帰ってきたハッタからノートパソコンが手渡される。

ゼロワンドライバーに個人認証のパスワードを入れてアクセス。

衛星回線からゼアへとアクセスし、ハッキングを試みる。

 

「ダメでもともととは言え……っ」

 

ゼロワンドライバーという最高のハッキング機材がありながら、ゼアをハッキングすることができない。

だが、必要なものは……手に入れた。

 

「追われてる身としては、一番使いたくなかったんだが……!」

 

ライズフォンに数字を打ち込む。

ゼロワンドライバーがルーターとなり、その通信はすぐに届いたようだ。

 

『……誰だ』

「飛電或人!!!!」

『えっ……旋人!?っお前、どこに……!』

「んなこと言ってる場合か!」

『……ッ』

「お前の大好きなヒューマギアが火の中に飛び込んだ!!その少し前にも爆発事故だ!俺は衛星ゼアに介入した!逆探知で俺のドライバーの場所を見つけろ!!」

 

一度ゼロワンドライバーをルーターとして使ってしまうと、これからずっと俺の居場所は筒抜けになる。

だからこそ最初は家庭回線でのハッキングはしなかったし、念には念を入れて各国の回線からゼアに介入したのだ。

だが、それは居場所を悟られないため。

ゼロワンドライバーは衛星ゼアによって場所を探知され、これからずっと俺のゼロワンドライバーの場所はゼアに追尾されるだろう。

 

「水を持ってこい!切る!」

『ちょっ……』

 

だが、それでいい。

リナは似ていた。

彼女に。未だ目覚めないノアに。

 

『ゼロワンドライバー!!』

 

腰にベルトを巻きつける。

 

「ハッタ」

「…………」

「嘘ついた。俺、ヒーローなんだ」

「……ゆるす。代わりに絶対に里奈を助けろよ」

「承知。……すぐに屋敷から避難しろよ」

 

換装前のまま駆け出す。

炎が肌をチリチリと焼き、瓦礫が障害物となる。

けどまあ、アイツとあったときに、炎には慣れたからね!

やけに長い部屋だ。瓦礫で直線通路になっているだけで本当は広い部屋なのだろう。

足元に本やおもちゃが散乱している。

 

上から爆発音。

 

「ッ!!」

 

上から瓦礫……っ!

 

『旋人様!!』

「ッ、エルヨ!」

 

瓦礫を、エルヨが柱になって抑えた。

すぐにエルヨの隣に並び、瓦礫を持ち上げようとする。

 

「エルヨ、せーので右側に……」

『大丈夫です!』

「は……」

『後から追いつきます……旋人様は、お嬢様を……!!』

 

エルヨはこちらに微笑みながら、高熱の中瓦礫を持ち上げる。

すでにエルヨの肌は焼け、下地の鉄色が露出していた。

 

「バカかお前!二人でやればいけるんだよ!」

『……重量を計算……旋人様と私の力では、どかすことは困難と判断しました……』

「だからって!」

『賊は!……賊は、お嬢様の命を狙っているのかもしれないのです!早く!』

 

……どうして。

どうしてヒューマギアってのは、こうも頭が悪いんだ!!

 

「エルヨ!」

『早く!』

 

……クソっ。

エルヨを置いて走り出す。

 

「熱ッ……けど!!」

 

エルヨが繋いだこの首は……お前の主を救うことで恩に報いる!

リナがっ、見えた!!

全身を鱗で堅めた人型のなにかに羽交い締めにされている。

 

「リナ!」

「たっ、たすっ……うっ……」

「このロリコンやろうがぁ!!!」

 

三度目、ドロップキック。

渾身の蹴りはリナの顔の横をかすめ、鱗の人物の顔面に直撃する。

ロリコンは窓から落下、リナをこちらに抱き寄せる。

 

「何かされてないね!?」

「あぅ、はっ、はい……」

 

顔が赤い。酸欠と熱か。

この部屋は特に炎の勢いが強い。一酸化炭素も多いだろう。

 

「出るぞ!」

「え、エルヨは……」

「…………ッ!!」

 

思わず後ろを振り向いてしまう。

……それがいけなかった。

遠くに見える彼女の姿は、炎に巻かれ、パチパチと火花を上げていた。

 

リナを抱え、窓から飛び降りる。

さすがに俺でも、この高さから落ちたらひとたまりもない。

けど俺の耳はちゃんと拾っていた。

飛行機が通過するような音を。

 

「来いッッッ、飛電或人!!」

 

体が巨大に包まれる。

灰色の装甲に身を包んだ、災害救助用の巨大ロボット。

 

『ブレイキングマンモス!!』

 

……ゼロワンドライバーの情報を得る際に、ついでに手に入れた情報にあったロボット。

超合金ロボみたいな見た目をしたこれは、普段は衛星ゼアと同化しているが飛行機の形態とロボの形態になることができる。

飛電インテリジェンス本社からここまでは、恐らく遠い。

だから、移動するのだとしたらブレイキングマンモスで来ると予想した。

 

「飛電!水のキーを!」

『……水は無いけど氷なら!!』

「どっちでもいい!」

 

ブレイキングマンモスからキーが転送される。

水色の……クマのキーか?

 

「隣にいるのは一般人だ!内側に転送できるか!」

『わかった!』

「……リナ、ここからは別行動だ」

「……はい」

 

リナの姿がフッと掻き消える。

俺はまだブレイキングマンモスの手の上。

 

『ブリザード!』

「へぇ……確かに氷だ」

『オーソライズ!』

 

ブレイキングマンモスのもう片方の手に水色のクマが舞い降りた。

 

「……変身!!」

『プログライズ!』

『アテンションフリーズ!フリージングベアー!』

Fierce breath as cold as arctic winds(極北の吹雪と同等の激しい吐息).』

 

水色の装甲に俺の体が包まれる。

下地が白いから死ぬほど凍えてそうか見た目だな。

ブレイキングマンモスの手から飛び降り、着地と同時に腕部装甲に内蔵されたポーラーフリーザーから巨大な氷を作り出す。

瞬間的に冷却された空気が屋敷から熱を奪い、炎の勢いが弱まった。

鱗の人物の肌に霜が降りた。

 

「消火は後でする……その前に、お前を倒してからだ」

 

足に氷の刃を作り出し、いつもの構えをとる。

 

「俺は……俺のために戦う!!」


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