「人間は……ゼツメツすべき!!」
「どうしてそうなったのか教えてもらいたい……ねっ!」
「ッ、ぐあっ!!」
接近し、勢いそのままにドロップキック。
ポーラーフリーザーから冷気を射出し、それをブースターがわりに即座に撤退。
いける。足が動く。
壁や扉を生身で蹴った反動でボロボロの足が、フリージングベアーの能力によって冷却され、癒されていくのがわかる。
「これなら……いける!」
「ウッ、グッ、ウオオオオ!!」
目の前の敵……見た目のモチーフがわからない竜のようなやつは瞬時に加速し、俺の周りを渦巻いた。
捉えられない速度。どこからくる……。
「ハアッ!」
「がっ!?」
背中から……!?
振り向いて手をかざすが、もうそこには敵の姿は無い。
どこに……いづっ!?
「また背中……ちょこまかと……!」
すかさずポーラーフリーザーを発動。
しかし何かに当たった様子はなく、ポーラーフリーザーの内部容量を減らすだけだった。
待っていればすぐチャージされるが、ポーラーフリーザーで一度に冷やせる量には限りがある。
というか飛電はなにをしている!?加勢に来れないのか!
「飛電!」
『ブレイキングマンモスだと周りが危険なんだ!どうにか安全なところへ……』
今更だろう、そんなもの!!
もはや屋敷は半壊、これ以上ひどくなる事があるか。
「使えねぇ!」
「!?」
足音を感じ、目を凝らし、神経を集中させる。
相手の強みはそのスピードだ。だったら、そのスピードという武器を取り上げてやればいい……。
相手のアビリティはなんだ?
チィン!!
「がっ!!」
またしても背中に攻撃。いつまでも考えている時間はない。
一つ。屋敷の二階へ登れる。【跳躍】か、壁に張り付く【吸着】。
二つ。圧倒的なスピード。
三つ。鱗のような体。竜のような退屈。
四つ。…………これは。
賭けになりそうだ。
「ポーラーフリーザー、全開ッ!」
両手からポーラーフリーザーで吹雪を撒き散らす。相手は超速で移動している。どちらにせよ冷気に突っ込むはずだ。
ガクン、と、相手の灰色の体が静止した。プルプルと震え、動きが極端に鈍っている!
「そこかっ!!」
「ガッ……」
動きが鈍ったのなら万事解決だ。
両腕から冷気を放ち、両手両足を広げさせる形に固定させた。
プログライズキーを押し込む!
『フリージング!インパクト!』
高く跳躍。
超弩級の一撃をお見舞いしてやる!
俺と相手の一直線上に、いくつもの氷の膜が現れる。
「はあああああああああああッッッ!!!!」
氷をキックで貫く度に、割れた氷が突き出した左足に纏わりついて氷の刃となっていく。
冷えた空気との摩擦によってスパークが放出され、割る度にそのキックは威力を増して行く。
フ
リ
|
ジ
ン
グ
イ ン パ ク ト
メキ、と軋んだ音がした。
体を貫き、抜き去る。
爆音。
声にならない叫びを上げ、よくわからない敵は爆発した。
上からキーが降って来るのをキャッチする。
「……やっぱり、トカゲか」
トカゲの絶滅危惧種なんてしらないけど、キーの表面には鎌首をもたげた爬虫類のような絵が描かれていた。
トカゲは寒いところでは極端に動きが鈍る。トカゲだったら跳躍も吸着も理解できる。
鱗に霜も降っていたし、今回の判断はそれなりに得策だったのだろう。
と、そんなことをしている場合じゃない。屋敷の消火をしないと……。
「旋人さん!」
『え、ちょっと君!』
ポーラーフリーザーをチャージしていると、俺に影が差す。
慌てるような飛電の声に上を向けば、案の定ヒムカの少女が巨大ロボの手から飛び降りた瞬間だった。
びっくり仰天、咄嗟に両手を広げて受け止めの準備。
「わっ!」
「っと……」
まだ幼い少女の体は、変身して強化された俺には軽すぎる。
難なく受け止め、ゆっくりと地面に下ろしてやる。
「セントさん!エルヨはどこですか!探しに行かないと!」
「っ、あぁ」
ハッタは無事に逃げただろうか。それも気になる。
「二階へ登るから、もう一回抱えるけど」
「はいっ」
左手にヒムカの少女を抱え、壁に氷の掴み場を作って右手で登る。
周りが冷却されているから勢いこそ弱まっているが、炎はまだ健在だ。
進路を氷で固め、しっかりと踏みしめていく。
フリージングベアーの脚部装甲なら、滑ることはない。……意図的に滑ることも可能なようだけれど。
しばらく廊下を歩くと、急に火が消えた場所に出た。
……燃え尽きたエルヨが、静かに佇んでいる。
エルヨの後ろから、人影が出てきた。
「針太君」
「……里奈!って、その声、もしかして……」
変身を解き、少女を降ろす。
「ハッタ、なんで逃げなかったのか言って貰っていい?」
「……心配だったんだ。それで、廊下に消化器があったから……」
「……そっか」
この子は強い。
覚悟を瞳に宿している。
「……エルヨ」
少女は、彼女の面影の無くなった鉄塊を前に目を伏せる。
「私、お父様のところへ行きます」
燃え尽きた回路は、火花を散らして機能しない。
その身体のどの機能も、とっくに燃え尽きている。
「エルヨが褒めてくれた絵を、本物にしたいんです。……いえ、まだお父様は描きません。エルヨを描きます。そして、それをお父様に見せに行きます。……エルヨ」
お嬢様は、哀しきメイドに頭を下げた。
「今まで、ありがとうございました」
足下に落ちる雫が、見えない彼女の表情を語る。
遠くから、消防車のサイレンが聞こえて来る。
「旋人!……っと……」
空気読めない。
「消防車は呼んでおいたんだけど」
「ご苦労」
ベアーのキーを投げ渡す。
「わっと……ふう。……その、あのヒューマギアの復元は……」
「多分しないほうがいい。少女にとっては、唯一無二の親代わりだ」
「……そっか」
飛電或人……ゼロワンが、物悲しそうに呟く。
「社長は帰れ。ここは、さすがにお前の出番じゃないでしょ」
「……わかった。でも、早めに脱出するんだぞ」
「わかってるよ」
飛電は後退した。
あとは、本人の決意を確かめるだけだ。
「……お嬢様」
「はい、なんでしょうか」
「一応聞いておくけれど。……これからどうするつもり?」
「……まずは絵を描きます。エルヨの。それで、それを持ってお父様のところへ行くつもりです。そこから先は、まだ何も決まっていませんが……」
「じゃあっ」
ハッタがずいと前に出る。
「俺の家に来いよっ。燃えてるから、その……面倒、見てやる」
「……!はいっ!ありがとうございます!」
少女がハッタに抱きついた。
心からの、安堵の笑みを浮かべている。
「!?!?!?」
……顔を赤くしちゃって。
「どうやら、ヒーローになれたみたいじゃないか?」
「旋人……」
「さ、屋敷を出るぞ。ここから先は大人の仕事だ」
変身こそせずに二人を片腕ずつに抱き上げ、来た道を戻る。
氷は溶けて、湿った木材で道が出来ていた。
窓の下に、消防隊がクッションを開いている。
前方にジャンプして、三人仲良くそこに飛び込んだ───。
◇
「……それで」
事が終わった後、俺は迎えの車で窓の外を眺めていた。
「久しぶりだな。飛電インテリジェンスの通報を受けた。詳しく話を聴こう」
「我が社の機密事項をどうやって手に入れたのか、教えて欲しいんだ」
ただ一ついつもと違うのは、この車がA.I.M.Sのパトカーだという事だ。