プログライズキー作っちゃったお話。   作:翠晶 秋

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おたくのヲタクは記憶が過酷

 

「えー……今日から、飛電インテリジェンスの技術顧問、ヒューマギアなんたら部長になりました、奥義です……よろしくお願いします」

 

話が違う。

 

「彼は俺がスカウトした社員で、測定したらデータ処理速度が並のヒューマギアを超えるとか。そうだよね、イズ?」

「はい。反射神経、脳内処理速度、記憶能力、ともに我が社のヒューマギアを超える数値を出しています」

 

高そうな服を着た明らかにこの会社の重鎮っぽい人たちに挨拶させられてる。

……話が違う。

 

「飛電インテリジェンス副社長の福添だ。正直期待はしていない」

「あぁ、どうも……」

 

もしかして芸人とかやってらっしゃったり……あ、なんでもないです。

……ぽっと出の俺が会社の技術顧問って本気か。

 

「ちょうど技術関係の席が余っててね。その分の仕事はシェスタに頼んで……あっ、シェスタって言うのはね……」

「福社長秘書のシェスタです。奥義技術顧問、よろしくお願いします」

「あぁ……はい」

 

普通はヒラ社員から始まるのではないだろうか。

ヒラから始める社畜生活ではなかったのだろうか。

 

「?」

 

社長の権力ってすごいね……。

ライズフォンに大量の名刺データが転送され、並んでいくヤバそうな名前に辟易していると、一つ、名刺とは違うファイルが送られてきた。

差出人は副添副社長になっている。

 

「お前の職場にデータだ。前任の技術顧問がまとめたデータだがな」

「あざーっす」

「…………」

「ありがとうございます」

「よし」

 

なんだよこの人意外と怖えじゃん。

んじゃ、早速仕事に取り掛からせてもらいますか。

 

「以上、解散!」

「「「「はっ」」」」

 

マニュアルがあるし、一人でやれってことだよね。

 

 

 

 

飛電インテリジェンスは、基本的なヒューマギア製造は工場で行なっているが、有数限定のヒューマギアは本社にある小規模の製造ラインで丁寧に製造されている。

イズやシェスタといったヒューマギアに至っては、社長が秘密裏に作っているとかなんとか……。ま、社長室の壁は明らかに不審だし、大方あそこで作ってるんだろうけど。

しかし……この扉はどうやって入るんだ。

本社の小規模製造ラインの工場に入る扉の前でどうすればいいのかわからず右往左往していると、後ろから声がかけられた。

 

「あのっ、もしかして新しく配属された方ですか???」

「ん?うん、新しく配属された人です」

 

耳にモジュールがある。ヒューマギアだ。

ヒューマギアの少……女?少なくとも17くらいを目安に作られているであろう彼女が、首元の社員証を揺らしながら話しかけてきた。

名前は……『愛 ドール』。……アイドル?

 

眼鏡だし服装も地味だし、アイドルヒューマギアとは思えないけど。

とにかく、不服ではあるが今回はヒューマギアの力を借りるしか入る方法がわからない。

 

「ここの入りたいんだけど、入り方がわからなくて」

「あぁ、それなら名刺をだして、名前部分をスキャンすると入れるよ」

「なるほど」

 

名刺をスキャンすると扉が開く。

謎の可視光線が張り巡らされているようだし、名刺をスキャンしたときに監視カメラでもスキャンされた。セキュリティはバッチリってことか。

ドールも自分の社員証をスキャナーにかざし、可視光線エリアをくぐってこちらにやって来る。

 

「えっと……担当のお仕事はわかる?」

「いや、聞いてないね」

「じゃあ一から説明して、しっくりくるお仕事があったらそこに入ってね!」

「……良いのかな。勝手に決めちゃって」

「私は現在不在の飛電インテリジェンス技術顧問代理もしてるの。だから、次の技術顧問の人が来るまでの簡易リーダーなんだ」

「なるほど」

 

えっと……これは早めに言ったほうがいいよね。

頭の隅を探るも、たしかに担当の仕事なんて聞いてない。技術顧問やってくれって頼まれただけだが。

……あ、いや、違うな。わからないならみて学べば良いんだ。技術顧問やら、ヒューマギアなんたら部長のお仕事の内容を。

幸いにも、この子は代理をやっていたらしいし、この子の動きをトレースすればこの仕事もできるようになるでしょ。

 

「教えてもらえないかな。仕事の内容を」

「オッケー、任せて!じゃあ、まずはこの先のレーンから……」

 

俺はドールに簡単な仕事の説明を受けつつ、ドールがどんな動きをしているか観察していた。

どうやら、全般の仕事をある程度やれねばいけないらしい。恨むぞ飛電、こんなめんどくさい役職に就かせおって。

それにしても。

ドールはとても手際の良い仕事ぶりをしている。本職のヒューマギアにも引けを取らないのではないだろうか?

俺は送られた資料の中にあった、社員検索システムにドールの名前を検索する。

あった。アイドルヒューマギア、愛 ドール。

やはりアイドルヒューマギア……彼女が?

付属写真の彼女は全くの別人で、髪の色も、瞳の色も、全てが違う。まさにアイドルといった風貌なのだが……今の彼女はそれらしさを一切感じない。

 

「はい、これで終わり!」

「なるほど、だいたいわかった」

「仕事の内容わかった?じゃあ、今までの中で自分に合いそうだなーって思った仕事を選んで?」

「うーん……ドールの仕事かな」

「え?」

「改めてはじめまして。ドールが代役をやっていた役職に就くことになった旋人だ」

「えっ、えっ?」

「ドールがどんな仕事をしているのかを観察させてもらった。ドールの仕事は、これから俺がやることになる」

「ええええええええええええ!?」

 

オーバーな反応。ここはアイドルらしいというか……男を惹きそうな動きだ。

いかにもアイドルらしい。

 

「えっ、じゃあ私はどうしたらいいのぉっ?」

「え、いやそんなこと言われても。ドールはアイドルヒューマギアなんでしょ?それやればいいじゃん」

「…………アイドルは、もうやめたんだぁ」

 

ほう?

ヒューマギアが無職とな。

しかしなにゆえ。アイドルヒューマギアなんだからアイドルとしてのポテンシャルは最大限に引き出されているはずだが。

 

「理由は?」

「うーん……ファンがいなくなっちゃったっていうか」

 

微妙な反応。

嘘をついている?ヒューマギアが……?

もしかして、この子もシンギュラっちゃってるパターンなのだろうか。

ヒューマギア最近シンギュラりすぎじゃない?

 

「まぁ、わかったよ。それじゃ、しばらくは俺の秘書をしてほしいかな」

「秘書?」

「そうそう。だって仕事の仕方がよくわからないから。教えてくれると嬉しいんだけど」

「あ、はい……わかり、ました?」

 

気の抜けた表情をするドール。

ドールについて、一回調べる必要があるのかも……。

 

 

 

 

愛 ドール

天真爛漫さが取り柄のアイドルヒューマギア。

主に地下、小さな広場などでの活動を行っていて、ファンも多い。

先月、個人リリースの曲、『ミライ・シンギュラリティ』の歌詞の一部が多くのファンを怒らせ、現在はファンの数が一気に減少、ドールも姿を隠すことになった。

現在、彼女がどこでなにをしているのかはわかっておらず、一部では、「もうすでに廃棄されてしまったのではないか」という噂が立っている。

 

 

 

 

「…………」

 

俺はライズフォンを机の上に放り出し、隣にいるドールをなんとなく見る。

やはり、写真の彼女と今の彼女では見た目に差がありすぎる。

引退したアイドルみたいだ。

 

「ドール、髪の毛は染めたの?」

「えっ?あぁ、もともとは茶髪だったんだけどね、アイドルやめたときに染めたんだ」

「目の色は?」

「アレは目のカラー変える装置をつけて貰っただけだから、こっちが本物の色かな」

 

茶髪と黄色い目が特徴の彼女が、黒髪で青目。青い目はヒューマギア全体の特徴だから、道理といえば道理だけれど。

……ふうん。

 

「ドールってどんなとこで活動してたの?」

「えっ、その急になに?ええと、地下……みたいな?」

「地下アイドルか」

 

急にファンがいなくなるのは奇妙なことではない。

ブームが過ぎたら消えていく。それがアイドルだが……。

歌詞の一部に?方向性などではなく、歌詞の一部にファンのほとんどが去った?

……何かがおかしい。彼女のファンはそこまで軽薄なものだったのだろうか。

そもそも、歌詞なんてものは好みがあってしかるべきだ。ちょっと気に食わないからと言ってすぐに消えるのは、不自然としか言いようがない。

 

「ドール」

「?」

「ちょっと、ドールの昔の職場を案内してくれないかな」

 

 

 

 

地下スタジオ「ニシンホウ」。

ここがドールの昔の職場か。

一見なにもないただのスタジオだが……。

 

「ドール、舞台に立ってくれ」

「……?結局なにがしたいのかわからないんだけど?」

「いいからいいから」

 

首を傾げながらドールがマイクスタンドの前に立つ。

ほう。見た目も服装も違うのになかなか様になっている。長年立ってきたから動きが染み付いているのだろう。

現場検証ってわけじゃないけど、個人的にすごく気になるんだ、この事件について。

 

「ドール、歌ってくれる?」

「ちょっ、本当になにをさせたいわけ!?私はもう、新しい仕事を見つけたんだけど……!」

「でもそれでドールは納得してないんでしょ?そんな雰囲気を感じるよ」

「……雰囲気?」

 

機械に雰囲気もなにもない。

俺は気付いている。

彼女がシンギュラリティに到達していることに。

そして今、心から歌いたがっていることに。

 

ライズフォンを音響機材にセットし、楽曲購入で手に入れたオフボーカルの曲を流し始める。

照明もつけちゃおう。ライブスタートだ。

 

「……この曲って」

「一度聴いてみたかったんだよね。歌詞しか調べられてないから」

 

俺のライズフォンには、『ミライ・シンギュラリティ』と書かれた円盤が表示されている。

彼女のトラウマをえぐるような行為だが……俺は一度気になったら死ぬまで気にする。なるべくスッキリさせておきたいのだ。

ドールは流れるイントロの中、俺を見つめ、そしてマイクに視線を移した。

そして大きく、息を吸った。

 

「『遠くで聞こえたその声が』」

 

「『大きく心、揺さぶった……』」

 

「『泣かない、めげない、約束したから……!』」

 

「『きぃっと!あなたにも聞こえてるはずぅ!』」

 

「『揺れる電車のなか、触れる心に!』」

 

「『もっと!(もっと!)強く!(強く!)』」

 

「『意識、芽生えさぁせてぇ〜!!』」

 

「『ミ☆ラ☆イ』」

 

「『シンギュラリティ!星の夜にラブリーぃ!』」

 

「『大切なものはカバンに!詰め込〜んでぇ!』」

 

「『ビューティフルサニーぃ!君に送るメロディ!』」

 

「『見上げた空が!君と!僕を!繋いでるぅ〜か〜ら〜!!』」

 

「『その手を伸ばして!!』」

 

一番だけの曲だが……普通にいい曲じゃないか。

誰かと分かれて旅を始め、空にその人を思い浮かべる……ふむ、どこがダメだったんだろう。

ドールに親指を立てると、慣れた笑顔で手を振ってきた。

……本当に、ファンの好みに合わなかっただけなのだろうか?

と、そんなことを思いながらブースを片付けようとしていると。

 

「ドールちゃん!?」

 

勢いよく、会場の扉が開かれた。




愛 ドールの新曲「ミライ・シンギュラリティ」……いかがでしたかね。
即興で書いたわりにはそれっぽい曲だった気がします。
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