ドードーマギアを倒し、数日。
「なんでお前がここにいる……ッ」
「お爺さん、おかわりをください」
「かしこまりました」
「爺、畏まるな!!」
爺からもらった紅茶を体内の処理機で電気に変えているワズがいた。
「爺は俺の専属だと思ってた……」
「お客人には、同じような対応も致しましょう」
「そうか……まぁ、優秀なのに変わりはないんだから良いけど……なんの用があってきたんだ、ワズ・ナゾートク」
ワズはネクタイを結び直すと、眼鏡をくいと上げて人差し指を立てた。
実に人間らしい動き。シンギュラリティに達してから長いのだろう。
「お気づきかも知れませんが。飛電或人社長のシャイニングホッパーは、まだ真の力を出し切れておりません」
爺にこの場から離れることを頼み、ワズの目を見る。
生物らしさを感じさせない球体が、見つめ返してきた。
「というと?」
「おそらく、なんらかの不具合か……データに問題があったのかも知れませんね」
たしかに、ドードーマギアと対峙していた時の飛電は、動きがさほど冴えているようには見えなかった。
強化されたといえば強化されていたが、今の俺にロケットブーツでもつければ、同じ速度で移動できそうなくらい。
衛星ゼアが見繕ったにしては地味なものだと思っていたが……。
「というわけで、そのバグを探しに行きましょう」
「いくって、どこに」
「おや?あなたともあろうかたがまだお気づきにならない?中です、中。シャイニングホッパープログライズキーの、中ですよ」
あっけに取られる。
つまり、プログライズキーをハッキングして内部データを調べろと?
そんなことしなくても、飛電の施設で調べれば良いじゃないか……。
「……ん?まだ何かすれ違いがあるようですね。調べるのは、シャイニングホッパープログライズキー本体ではありません。それに力を与えている、衛星ゼアです」
「はぁ!?無茶を言うな!衛星ゼアのハッキングなんて数秒がいいところ。荒唐無稽にも程があるだろう!大体、調べるなら飛電に頼んでファイアウォールの鍵として認証して貰えば……」
「それでは、望んだ成果は得られませんね」
「……どういうことだ」
「シャイニングホッパープログライズキーは衛星ゼアの中で構築されたプログラム。それが、不具合を起こすなんて……それこそ、衛星ゼアに問題があると思いませんか?」
……もしかして。
滅亡迅雷net.か、そのような団体が衛星ゼアに手を出しているとでも?
だとしたら、真正面から調べると言えば、もちろん犯人は証拠を隠すだろう。
だから、「社長権限」で衛星ゼアを調べられる飛電に頼むと、逆に手がかりを失う、と。
「……わかった。やるだけやる。飛電にはお前から言っておけ。俺は責任は取らないからな」
「既に妹には言ってあります。社長には隠しておけと」
「妹?ヒューマギアなのに妹がいるのか?」
「ヒューマギアにもちゃんと兄弟はいますよ。……そういう意味で妹と呼んだわけではないのですが……それはまた今度」
ワズは俺の目の前に手を差し出す。
要求されているのが何かわからないために眉を顰めると、ワズは諦めて指を空に向けた。
「あなたのゼロワンドライバーには、飛電ゼロワンドライバーに装備されている、「衛星ゼアに接続する能力」「3Dプリント能力」が装備されていませんね?」
「そんなものあるのか?」
「ありますとも。……今回は、私がその役目を果たしましょう。さ、ゼロワンドライバーをこちらに」
その手はベルトを要求していたのか……。
素直にドライバーを渡すと、ワズは二、三回ヘッドギアを光らせてから俺の腰に装着させた。
「それでは行きますよ」
「待っ、何をしたらいいかまったく聞いてな……」
「3。2。1。ジャンプ!」
◇
どうやら今の一瞬で意識が飛んだみたいだ。
辺りを見渡すと、いくつものデータの柱が登った何もない空間だった。
そう。何もない空間。コンソールもなければ出入り口だって見当たらない。
『どうやら、ちゃんとジャンプできたようですね』
「ワズか?……その姿は」
『これはどうしようもありません。なんたって私もゼロワンプロジェクトに参加しているヒューマギアですから。バックのデータなんて無いですし、ということは、衛星ゼアを好きに歩き回れるデータ媒体なんてありませんよね』
……?バックアップデータがないから、衛星ゼア内でイメージされるワズの体も無いと言うことだろうか。
よくわからないことを言う蛍みたいな姿のワズは放っておき、今自分にできることを探してみる。
接続できたということは、俺にも何かできることがあるはず。
ハッキングの時とは違って意識がゼアの中に飛ばされているようなので勝手が分からずにいると、ワズが先導するように進んで微発光した。
『やはりキーボードがないと厳しいですか?なら、私がここにキーボードを投影します。その信号を私を通して衛星ゼアに送りますので、あとはプロがやってください』
「……はぁ。わかったよ」
投影されたパネルのキーボードを叩き、シャイニングホッパー……ゼロワンプロジェクトに関するデータを集めて行く。
ゼロワンプロジェクトに関わったヒューマギアからのアクセスなだけあって、検索はサクサク進む。
必要そうな情報はワズが記録してくれるし、調べるのと並行してプログライズキーを調べるソフトも作っている。
やはり、仲間の存在は重要か……っと、集中集中。
ふむ……シャイニングホッパーの組み立て自体は問題無さそうだ。
シャイニングホッパーの力を引き出すためのピースが足りないと言ったところか……?
……いや。
これはそんなものじゃない。データが欠落している?完成形のように見えるフェイク?これでは……十分なスペックなど、披露できるわけがない。このままプログライズキーを作ったらライジングホッパーを少し強化しただけになってしまう。
外部から干渉を受けたログはない。ということは、衛星ゼア自体がこんなプログライズキーを……?
「無理だ。これ以上は踏み込めない」
『そうですか。今のところ、シャイニングホッパープログライズキーに本来の力を出させることはできないようですね」
「……まぁ、やりようはあるだろ。たとえば……」
ワズのゼロワンに関するデータを生贄に、無理矢理シャイニングホッパーを完成させるとか。
「…………」
『どうしました?』
「なんでもない。早くリアルに戻してくれ」
次の瞬間には、俺の目の前には見慣れた風景が広がっていた。
そして、後ろにはワズ。
「なんだか、どっと疲れた」
「お疲れ様です」
「もう今日は帰ってくれ。やりたいことがあるんだ」
「……わかりました。では愛しの妹のところへでも行きましょうかね」
「爺。今日の昼飯はラボの前に置いておいてくれ。親子丼がいい」
「承知致しました」
フラフラと、ラボに戻る。
頭を使いすぎた。どうにも、引っかかる部分がありすぎてよくわからない。
デイブレイク。
あの日、初めて滅亡迅雷.netという言葉が出てきたらしい。あいつらの集まる場所は割れている。さっき非登録ヒューマギアの場所を調べた。
手持ちのプログライズキーはウサギとカメレオンの二つ。動くにはまだ早いか……。
「いつになったらお前を生き返せる?ノア……」
つぶやきは虚しくも溶けて消える。
せめて俺にも、あいつのようにたくさんのプログライズキーが有れば……。
◇
『プログライズキーを、貸してほしい?』
「というより、俺にも使えるようにしてほしい。今は手持ちがなさすぎる」
『そういうことなら……わかった。イズ、頼める?……うん。今、イズに頼んでプログライズキーを持っていっても良いようにしたから。あとそうだ、渡したいものがあるんだけど、次の出勤の日に社長室に来てくれない?』
「明日だろう……わかった。いつでも良いんだな?」
『あぁ。俺は出勤が好きだからね!しゅっきん!しゅきしゅき!ハイッ、アルトじゃぁ〜ないt』
くだらない。
あぁ〜書きたいことはたんまりあるのに時間と文章力が追いつかないんじゃぁ〜