「旋人様。今日はどのようなご用事で?」
「親父が手に入れた被験体を見てみたい」
「は、こちらに」
ライズフォンに残されたメッセージ。
『工業島に行ってくるね』という簡素な報告。
その工業島───親父のプライベート島に、俺はやってきていた。
親父は人を進化させる方法を研究している。
人を……ヒューマギアにしようとしている。
それ自体が既に嫌いだったのに、俺のライズフォンのメッセージは3日前のものだ。
そして……親父が小躍りしながらやってきた。
『どうしたんだ』
『聞いてくれ旋人!ヒューマギアボディに一番の適性をもつ理想個体が手に入ったんだ!』
『……またヒューマギアかよ』
『これはいいデータが取れる!理想個体をモデルにしてヒューマギアを複製すれば、革命が起きる!旋人、お前なら理解してくれるだろう?』
『そうやって母親にも逃げられたんだろ。さっさと手を引けばいいのに』
『飛電にもZAIAにも引けを取らない技術だ!俺の野望が、実現する!』
『……チッ、マッドサイエンティストが』
もしかして、その被験体って……。
「旋人様、こちらです」
「ッ……」
思わず歯軋りをした。
探してたんだ、お前を。
なんで、こんなところに。
……いや、理由なんて分かり切ってる。
強化ガラスの向こう。筐体の中の緑色の液体の中に、彼女が眠っていた。
「……名前は?」
「秘匿事項なので、いくら旋人様と言えど教えることは……」
「……そうか。ガラスの向こうには行けるか?」
「え?まぁ、行けますけど……こちらに」
宇宙服のような厚い服を着て、筐体の周りの空間に入る。
彼女の耳にはゴテゴテしたヘッドギアが取り付けられ、マスクのお陰で彼女が息をできていることが分かる。
緊急時に迅速に被験体を取り出すためか、筐体自体はさしも強い素材というわけでは無いようだ。
「どうしてヘッドギアを?」
「ヒューマギアの認知やデータを管理するメモリを取り入れるためです」
「人の脳とは違うのか」
「脳はデータの保存・引き出しではなく体の指示系統に使います。これにより処理速度が上がり、人間とヒューマギア、どちらにも引けを取らない力を持つことができます」
……。
「そのヒューマギア、何に使うんだ?」
「人災救助、レジスタンスの抑制、量産すれば軍をつくり各所に配置して制圧を……」
「なるほどな」
ようは使い潰しってわけだ。
自然と拳を握った。
「帰る。扉を開けてくれ」
「はい」
男が扉を開ける。
俺は防護服の中でほくそ笑むと……振り返り、筐体をぶち割った。
「旋人様ッッッ!!」
鳴り響くサイレン。
漏れ出る液体。
動きを疎外する防護服を脱ぎ、筐体に倒れ臥す彼女を抱える。
「お父様がお怒りになります!」
「知るか!家出でもなんでもしてやる!」
マスクのチューブを引きちぎって扉を通り抜け、研究室Aに隠れる。
鍵をかけて彼女の背中を叩き、割ったときに体内に入った液体を吐き出させた。
そこでようやく、自身の身の回りに気を張る。
研究室とは名ばかりの、ヒューマギア研究の関連物が保管されている倉庫だ。
扉の外を人が慌ただしく走る音を聞きながら、机を漁り、棚を開く。
研究データの大半をホチキスにまとめ、棚から彼女が入っていた液体のサンプルを回収する。
……いま、彼女は瀕死状態にある。この液体が無いと生きていけないだろう。
俺がこいつを守るんだ。
……昔馴染みの、こいつを……
守っ、て……
俺……が……
◇
……………。
最悪の気分だ。
この夢だけは絶対に見たくなかった。
シャツが汗に濡れ、気持ち悪い感覚を胸辺りに伝える。
忘れたくないけど忘れたい記憶。
何を企んでるのか、親父は『その子の鑑賞に飽きたら返してくれよ』とおとがめなしだった。
枕元には……ちゃんとある。
ゼロワンドライバーとクライミングラビット、チェンジングカメレオンプログライズキー。
エラスモマギアのときに不破が言っていた、滅亡迅雷という単語。
ゼツメライズキーを扱っているのが、そのグループなのだろう。
そして、ブランクプログライズキーにライダモデルを取り込む条件。
……たぶん、ある程度の賢さをもった動物の遺伝子。
それをブランクプログライズキーに取り入れること。
ならば、新しいプログライズキーを作る方法はただ一つ。
賢い動物を調べて、その遺伝子を採取する。
衛星ゼアの力があれば、そんなことしなくても手に入ると思うんだけどな……。
衛星ゼアをもう一度ハッキングなんて体力が持たない。
まぁプログライズキーを手に入れる目処が立っただけよしとしよう。
ブランクプログライズキーも追加の分を作っていないし、なんだか今日は制作の気分じゃないし……コンディションは大切だ。
いつもの服に袖を通してから爺を呼ぶ。
「お呼びですか」
「朝食にする。今日は外に出る予定だから適当なものを頂戴」
「畏まりました」
爺は何も知らない。
A.I.M.Sが来た時も、爺が買い出しに出かけている時だったし……まさか、自分の仕えている御坊ちゃまが警察に連れられているとは思いもよらないだろう。可哀想に。
だされたハムエッグを頬張りながらテレビの液晶を見る。空中に投影された液晶は相変わらずデカい。
爺曰く『サイズ調整装置が壊れた』らしい。お前が真夜中に大画面でアメコミ見てるの知ってるんだからな。
ニュース番組のコーナーで、様々な職業を支えるヒューマギアを取り上げているようだ。
お笑い芸人、警備員、寿司職人、声優、教師……etc。
『お次のヒューマギアはこちら!スポーツ選手のサポーターヒューマギアです!今はマラソン選手のサポーターをしているみたいですね!』
「爺、おかわり」「畏まりました」
『こちらのヒューマギアは選手の様々な状態をスキャンして、その日の体調に沿ったトレーニングメニューを組んでくれたり、ペース配分を考えたりしてくれるヒューマギアなんです!』
「お飲み物は……」「昨日飲んだマンゴーのやつ美味しかった」「畏まりました」
『みんな!サポーターヒューマギアのススムです。今、ヒューマギア記念公演でトレーニングをしているから、会いに来てね!』
サポーターヒューマギアか……。
体を動かしたい気分だし、行ってみるのもありかも。