ターン1 過去でゲームの退屈な世界
バトルスピリッツ、通称バトスピ。
それはMTGや遊戯王と同じTCGの1つであり、先日10周年を迎えている。
ほとんどのゲームは10年も続けば新しいシステムが追加されたり、「より強いカードを」とカードパワーがインフレを起こしたりする。
そんなパワーインフレの1つ『リバイバル』
初期のカードをイラストそのままに環境に適応したカードにパワーアップさせる、というものだ。
ソウルコア1個で最高レベルの『龍皇ジークフリード』
ライフ回復、BP破壊にハンデスとやりたい放題の『超新星龍ジークヴルム・ノヴァ』etc
これは昔からバトスピをやっていた私にとっては、幼少期を共に過ごした懐かしいカード達と再び出会える機会でもあった。
さて、一度昔を思い出すとそのまま過去に思い馳せてしまうもので……
私はバトスピが大好きだ。
ブレイヴも、バーストも、アルティメットも、ソウルコアも、
私はバトスピが好きだ。
でも、ほんの少しだけ、想ってしまった。
昔のようなバトスピがしたい。
もっとシンプルにバトルがしたい、と。
すると目の前が真っ白になって、気づいた頃には私は過去に囚われていた。
◇◆◇◆
「『巨神機トール』でアタック。マジック『インビジブルクローク』これでトールはブロックされない」
「うーん、ライフで受ける」
「はい私の勝ち」
「えーん、
2010年、私のいた世界で『バトルスピリッツ デジタルスターター』というDS用ソフトが発売された。
内容は名前の通りDSでバトスピができるゲーム。
このゲームには『超星』までのカードしか実装されておらず、そこで時間が止まっている。
けど
それが今の私の名前だ。
ゲームでは白属性中心のデッキを使う、主人公の友人且つライバルキャラ的な立ち位置のキャラだった、はず。
如何せん何年も前のゲームのことなので私の記憶と現在とで多少違いがあるけど、些細な事だ。
転生した直後は慌てたけど、元々あまり深くものを考えないタチなので「悩んでもどーしようもない」と
「ね、もう1戦やろ?お願い!」
「ごめん、この後マドカと約束があるから。デッキ構築について教えてほしいんだって」
「えー!でも先約があるなら仕方ないか。じゃあまた今度やろうね」
「うん、またね」
水色の髪のイツキと別れ、友人のマドカを待つ。
この世界はゲームに関係ない場所は元の世界と変わりない。
だけどゲームが現実になった部分はどうにも違和感があった。
水色の髪とか元の世界ではあまり見なかったのに、ここでは当たり前のように沢山いる。
かくいう私も氷田零の白髪を受け継いでいるし、人のこと言えないが。
イツキと別れてからしばらくして、扉を開けるバンという大きな音と共に私の友人の
「10分遅刻ね」
「ごっめーんレイちゃん、約束すっかり忘れてた(テヘッ)」
「別にいいけど、遅れるなら連絡くらいちょーだい。事故にでもあったんじゃないかって不安になるから」
「いやーほんとごめんなさい」
「今度から気をつけてね。て、レツ? どうしたのそんなところで」
開けっ放しにされた扉の奥から好奇の目を向けてくる赤いバンダナの少年。
彼がこのゲームの主人公、
レツは主人公なのにバトスピをしていない。
オープニングでデッキを貰ってから始めるから仕方ないけど、対戦相手がほしい私としては複雑だ。
「え、いや、俺はその……マドカが急にどこか走っていくから、少し気になって」
「あ、ちょーどよかった! さぁさレツも一緒に」
「一緒に……て何を?」
「(あれ、この会話)もしかしてレツ、バトスピ始めたの?」
私の質問に、そうなの!とマドカが代わりに答える。
詳しく話を聞くと、それはゲームのオープニングで見た話だった。
要約すると「なんか懸賞でバトスピのデッキ貰ったし、夢でバトスピチャンピオンシップ決勝戦で負けたから現実では勝ってチャンピオンになってやるぜー!」とのこと。
「(そこら辺は変わらないんだね)じゃあレツ、私とバトルしようよ」
「いきなりだな!」
「考えてみてよ。私に勝てずにチャンピオンになるなんて、できると思う?」
「確かにそうだな。よし! やろうぜレイ!」
「オーケー、じゃあ」
「ちょっと待ったー!!!」
自然な流れでバトルをしようとしたところで、マドカが口を出てきた。
「なに?」
「レツは始めたばっかりであんまりカードも揃ってないんだから、経験者のレイちゃんといきなりバトルしても勝てないでしょ」
「いや、そうとは限らないんじゃ」
「だからレツ!」
(あ、これ話聞かないやつだ)
マドカはレツの言葉を遮りピシャリと言いはった。
「まずはカードを集めること!レイちゃんとのバトルはそれからよ!」
「お、おう。わかったよ」
その後は2人にデッキ構築の仕方について話しただけで、結局レツとバトルすることはなかった。
◇◆◇◆
「メインステップ、ネクサス『百識の谷』を配置。ターンエンド」
「私のターンね!スタートステップ」
デッキ構築の仕方を教えた後、レツは「カードを買ってくる」とカードショップに直行。
残った私はマドカと2人でバトルしていた。
「『ゴラドン』そして『リザドエッジ』を2体召喚!アタックステップ、『リザドエッジ』でアタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
マドカはスピリットを3体召喚したのにアタックしたのは1体だけ。
私のフィールドにはネクサスのみ。
この頃にワンショットできるカードなんて
「『機人アスク』をLv2で召喚。ターンエンド」
他人のプレイングにケチをつけるなんて、と思う人もいるかもしれないが、その前に私の話を聞いてほしい。
先にも言ったが『バトルスピリッツ デジタルスターター』は古いゲームだ。
十年一昔と言われるように10年も経てば世界は大きく変わる。
特にコンピューターの分野では。
今でこそ人工知能はチェスや将棋で人間を超える知能を持つけれど、10年前、しかも携帯用ゲーム機に使われていたプログラムなんて大したものじゃない。
つまり何が言いたいかと言うと、『バトルスピリッツ デジタルスターター』はNPCがくっそ弱いゲームだった。
「『神機ミョルニール』でアタック」
「ライフで受ける」
例えば、スピリットのアタックは残り2までライフで受け続けるのがセオリー。
そして残り2つまで減ったら逆にスピリットでブロックし続ける。
スピリットにのせたコアを外さない。
レベルが上がらないスピリットに無駄にコアをのせ続ける。
なんなら大量にコアをのせたまま転召する。
そういうプログラムなのだと言われたら仕方ないが、普通の人からしたら明らかにプレミと思う所が多かった。
「『暴双龍ディラノス』を召喚!うーん、ターンエンドかな」
そういったプレイングの差はターンを重ねる毎に大きくなる。
10ターンもすればまず負けないアド差がつく。
あのゲームでNPCに負けることは、一部のイベントを除いてまずない。
「メインステップ『巨神機トール』をLv3で召喚」
そして、今私がいるのは間違いなくあのゲームの世界だ。
普段は勝手に動くくせに、バトスピとなると皆同じ。
ゲームのCPUの動きしかしない。
この世界のカードバトラーははっきり言って弱い。
「『巨神機トール』でアタック。『インビジブルクローク』の効果でトールはブロックされない」
「ライフで受ける! わーん負けたー!!!(泣)」
「はい私の勝ち」
つまらない。
もっと強い人と戦いたい。
プログラムじゃない、意思ある人とバトスピがしたい。
この世界に来てからずっとそう思っていた。
そしてついに今日、レツがバトスピを始めた。
レツはNPCじゃない。
主人公、PCだ。
果たしてレツはどんなバトスピをするのか。
「キャー!またそれーーー!!!???」
マドカに2度目の『巨神機トール』『インビジブルクローク』のコンボを決めながら、私は未来のチャンピオンとの勝負を楽しみにしていた。