「なんで、どうしてーー」
「……何が?」
私は再びこの世界に戻ってきた。
このゲームの世界に。
「あぁ、レイ選手も来ましたね。もう時間ですので、すぐにバトルの用意してください」
「はい」
私はアバジャイの前に座り、バトルの用意をする。
アバジャイは鬼でも見ているような絶望した顔で、震えていた。
「何故だ! キミは、確実にーー」
「そんなことどういいから、早くやろうよ」
私はアバジャイに一度殺されている。
これからのバトルに、慈悲はない。
「先攻か後攻か。どうする?」
「……後攻だ」
「じゃあ私のターンから。ネクサス『星空の冠』を配置。ターンエンド」
「…………」
「早くターンを進めてよ」
「あ、す、スタートステップ」
弱いな。
バトルが始まったというのに、アバジャイはまだ現実が視れていない。
「『ノーザンベアード』を召喚。……ターンエンド」
カードを持つ手が細かく震えている。
目もずっと下を向いてこちらを見ようとしない。
「ネクサス『黄金の鐘楼』を配置。マジック『ハンドタイフーン』を使用。お互い手札を全て破棄して4枚ドロー。ターンエンド」
「……なぜ、キミがここにいる」
「貴方が勝ちたい理由を聞きたいから」
震えた声で、アバジャイは問いかける。
それに私は返事にならない答えをした。
「ボクが、勝ちたい理由……?」
「絶対に勝たないといけないんでしょ? ほら、貴方のターンだよ」
アバジャイが私を殺した理由は「自分が勝たないと行けないから」
それだと弱い。
そんな理由で、納得できるわけがない。
だから聞かせろ。
このバトルで、全てを打ち明けろ。
「メインステップ、『ドルフィング』を召喚。……ターンエンド」
「私のターン。『占いペンタン』を召喚。召喚時効果で『トリックプランク』をオープンして1枚ドロー。ネクサス『明星きらめく花園』を配置。ターンエンド」
パーツは揃った。
これでもう
「『月光龍ストライク・ジークヴルム』を召喚。ターンエンドだ」
わが友さんを召喚したというのに、前みたいな元気はない。
多分、彼は根は善人なんだ。
だから今、罪悪感に押しつぶされている。
でもそんなことはどーでもいい。
「話す気はない、てことかな。ならいいや、そのまま負けなよ。メインステップ、『天使アルケー』をLv2で召喚」
『天使アルケー』Lv2は、手札の黄のスピリットカードと黄のマジックカード全てに黄色の軽減を2つ与える。
そしてネクサス『明星きらめく花園』の効果で、自分が黄のスピリットカードを召喚する時、トラッシュのシンボルでも軽減を満たせるようになる。
つまり、このカードがコスト0で召喚できる。
「『導化姫トリックスター』を召喚。不足コストは『占いペンタン』から確保、消滅。召喚時効果で1枚ドローして、トラッシュの『導化姫トリックスター』を手札に戻す」
あとはループだ。
フィールドのトリックスターを自壊して、2枚目のトリックスターで回収する。
このループを繰り返すことで、デッキ全てをドローできる。
面倒なのは、ゲーム故にループの省略が出来ないことか。まぁ作業だしいいけど。
「これで私のデッキは0……もし私がこのままターンエンドすれば、貴方が勝てるよ」
言外に、このままでは終わらないことを示す。
そして多分、アバジャイも何となく気づいてるはずだ。
既に首元にナイフがあることに。
このままだと負けるのは自分だということに。
「……すいません、撮影を一度止めてもらえますか? トイレに行きたいです」
「OKOK。行ってきて」
「……レイ、裏で話をしよう」
アバジャイはそういうと、部屋を出ていった。
私もその後に続く。
念の為、護衛を1人付けて。
「なぁレイ、キミはこの国をどう見ている?」
この国、か。そうだなーー
「観光客を誘拐したり殺害したりする治安の悪い国」
「それは悪かった。ボクが言いたいのはそういうことじゃない。この国は今、滅亡に向かってる」
滅亡?
「国中をリゾート化、なんて言っても、裏で困るのは一般市民だ。知ってるか? リゾート化政策のために土地を追いやられた人がいることを」
あぁ、あの貧民街のことか。
普通貧民街は地方の貧乏人が高給の仕事を求めて都会に集まり、金がないために街の周りで生活することで出来る。
こんな狭い島国で、本来貧民街なんてできるはずがない。
ビルやらホテルやらを建てるために、土地を奪われたのだろう。
「それで? 今の話と、貴方が勝たなければならない理由が繋がらないんだけど?」
「……国防はどうなってると思う? 徴兵もできないんだ、この国は。一般市民を追いやり、どこへ行ったかも分からない。戸籍なんてものも意味を成していない」
戦争か。
軍隊を持たない、リゾート地という観光資源がある国。
そんなもの、誰だって欲しい。
「国は兵士を雇ってはいるが、所詮外国人。この国のためにマトモに働くとは思えない」
「うん。それで? まだ話が繋がらないんだけど」
「
BFSーースピリットが実体化するバトルフィールド。
私の夢であり、この大会の優勝者はそこでバトルができる。
「BFSに使われている希少な金属は、この国付近の海溝でしか取れないんだ。それを口外したら確実に戦争が起こる。そうなったら、この国は……!」
「すいません。今聞いた事、忘れてもらえますか?」
ついてきてもらっていた護衛の人に、そう頼む。
護衛の人はクルリと背を向け、口笛を吹き始めた。
どうやら聞かなかったことにしてくれるらしい。
「ボクの目的はBFSを破壊することだ。そのためにボクは優勝しないといけない」
「別に破壊が目的なら優勝する必要はないんじゃ?」
「IBSAに忍び込めとでも? 無理だよ、あそこの警備は固すぎる。チャンスはこの大会中しかないんだ……!」
BFSが実用化されれば、その利益は幾らになるだろうか。
何億か、何兆か。
そしてそれを作るのに必要な材料が、この国でしか取れないと知れたら。
ただでさえ多くの観光資源を持つのに、さらに国の価値を上げる。
それが彼には、とても危険なことに見えているのだろう。
……まったく、この男は国連を何だと思っているのか。
「そんな馬鹿なことのために、犯罪に手を染めたの?」
「馬鹿!? ボクは、この国を想ってーー」
「この国に侵略を仕掛けるアホはいないよ。それは明確に国連安保理による集団的措置の発動要件だから」
「……え?」
「よーするに、侵略行為なんかしたら国連に加入してる全ての国から制裁をくらう、てこと。メリットよりデメリットの方が大きいし、余程の馬鹿か拒否権を発動できる常任理事国でもない限り誰もやらないよ」
「国連……制裁? 何を言ってるんだ……?」
あー、さすがリゾート地とはいえ発展途上国ですわ。
そういうのを勉強する機会がなかったんだね。
「でも! あの人が、戦争が起こるって!」
「ハメられたね。誰なの? その嘘の情報を流したのは」
「……あるショップのオーナーだ。元IBSAの人で、ボクにバトスピを教えてくれた人でもある」
「調べれますか?」
「はい。すぐにでも」
黒幕の捜索を頼むと、護衛の人はすぐに何処かに連絡を入れた。
多分ヒメ様だろう。
「さて、じゃあ戻って続きをやろうか。といっても、貴方がすることは何もないけどね」
◇◆◇◆
姫ループは『ハンドタイフーン』を使った
これの強い所は「破棄」でなく「ドロー」でデッキを無くすことにある。
『鳳翼の神剣』などのカードに触れずにデッキを狙える、ということだ。
まずは『天使アルケー』で軽減を増やし、『導化姫トリックスター』を2枚使って自分のデッキを0にする。
次に『トリックプランク』を使ってトラッシュのトリックスター3枚と占いペンタン2枚をデッキに戻す。
そして『ハンドタイフーン』を使用。お互い手札を破棄して4枚ドロー。
トリックスターの召喚時効果で『トリックプランク』と『ハンドタイフーン』を回収し、『占いペンタン』の召喚時効果でマジックを手元に置く。
フィールドのトリックスターと占いペンタンを自壊し、『トリックプランク』で再びデッキに戻す。
そして手元から『ハンドタイフーン』を使い、4枚ドロー。
これをループする。
すると相手は『ハンドタイフーン』による4枚ドローを繰り返し、10回ループすれば40枚引いたことになる。
バトルスピリッツの敗北条件は「自分のライフが0になること」と「自分のスタートステップで自分のデッキが0である」こと。
姫ループは自分のデッキも0になるが、ルール上自分が負けるよりも先に相手が負ける。
ループが揃うまで時間がかかるが、そのために『巨人港』や『ルナティックシール』などの遅延カードを採用する。
これらが禁止カードとなったのは、ゲーム時間が長くかかりすぎることが原因だった。
まあとにかく、部屋に戻った私たちはゲームを続け、上で述べた通りのループを使い、アバジャイのデッキが0になり、私は勝負に勝った。
バトル後にアバジャイからは何度も謝られたが、その謝罪を受け取った上で普通に警察に突き出した。
誘拐と殺人未遂の現行犯で、数年は刑務所から出られないだろう。
そして、世界大会もあとは決勝戦だけ。
相手はもちろんレツだ。
けれどその前に、私たちには行かないといけないところがある。
アバジャイが言っていた「ショップのオーナー」は、やはりというか貧民街の隻眼の男だった。
決勝戦まであと1日。
さあ、ラスボス退治といきましょうか!