【レツ視点】
バトルスピリッツ世界大会。
その初戦を前に、俺たちは一度誘拐された。
その主犯はフェレンガル王国の代表選手の1人、アバジャイ。
しかしレイ曰く、まだその裏に黒幕がいるらしい。
決勝戦の前にカタをつけようと、俺たちは3人でその黒幕の所へ乗り込むーーはずだった。
「レイは行くな! お主は敵が多すぎる!」
とはヒメの台詞だ。
世界大会で公式に行われているギャンブルの配当で、レイは多くの人の恨みを買ったらしい。
レイを外に出すのは危険だからと、俺とヒメの2人で行くことになった。
「せっかくカッコつけたのにそれはないよー!」とレイは嘆いていたが、ただでさえ危険な黒幕がいる所に乗り込むのに、他の奴らの相手はしてられない。
レイには悪いが、俺とヒメだけで解決した方が良いだろう。
4人のボディーガードを連れて、例の店へ向かう。
珍しいカードを多く扱っていたのは、オーナーが元IBSAの一員で、カードを横流ししてもらっていたかららしい。
ヒメが調べた情報だと、そいつがIBSAを辞める原因があの
過去に何があったのかは知らないが、レイやヒメを危険な目に合わせたことは許せない。
「.......いらっしゃい」
「我らを歓迎してくれるとは、随分優しい悪党じゃな」
「その感じだと、諸々バレちまってるってことか」
店のオーナーである隻眼の男は変わらずそこにいた。
初めて会った時からヤバい雰囲気を感じていたが、まさかこの人が黒幕だったなんて。
「……渡雷烈。前に来た時は白髪の嬢ちゃんに隠れてて気づかなかったが、お前がやってくれたらしいじゃねぇか。あのブラックゴートを壊滅させたんだってな」
「ブラックゴート……じゃと!?」
「お前も、ブラックゴートの仲間なのか!?」
「取引相手みたいなもんだ」
ブラックゴートまで関係してたのか……!
ブラックゴートの本体は潰したが、末端はまだ残っている。
この国にまでその根が広がっていたなんて。
「結構いい金蔓だったんだぜ? そのおかげでこんなリゾートでいい暮らしが出来てたんだ」
「……なるほど。かつてIBSAがブラックゴートに対して何もしなかったのはお主が裏で手を回していたから、という訳じゃな」
「そういうことだ」
そういえば、ヒメはこの隻眼の男が元IBSAのメンバーだとも言っていた。
IBSAがブラックゴートを認知していながら何もしていなかったのは、この男の仕業だったのか。
「ブラックゴートの賭けバトスピをさらに面白いバトルにするために裏Xレアを作って売り捌いた! ……はぁ、あのBFSさえなければ、俺はまだまだ遊べただろうに」
「BFS……? なんでBFSが関係するんだ?」
その質問に答えたのは、隻眼の男ではなくヒメだった。
「こやつがIBSAを解雇された遠因じゃ。自分が作った裏Xレアカードのスピリットを召喚しようとして失敗した。まったく、データベースにないカードなぞ実体化するはずなかろうて……」
「うるせぇ! 自分のスピリットが実体化する! それがどういうことか、お前には分かんねぇだろうな!」
BFSはスピリットを実体化させる夢の装置。
そこで男のスピリットが実体しなかったために全てが露呈し、この男の夢は崩れてしまった。
「結局は逆恨みじゃろ。まともな人生を過ごしておれば、そうはならんかったじゃろうに」
「……逆恨みか、違いねぇ。俺は全てを恨んださ。バトスピも、IBSAも、BFSも! だけどな……カードだけは、スピリットたちだけは恨めなかった」
この男もナナシと同じく、バトスピを金儲けの手段としてしか見てこなかった、はずだ。
でも、そう言葉を綴った男の眼は、なんというか、悲しそうで、嬉しそうだった。
「さて、もういいじゃろう。観念してお縄につけ」
「……あぁ。今更どうのこうのする気はない」
「よし。じゃあお主ら、捕らえよーー」
「待ってくれ!」
ヒメが使用人に指示を出そうとしているのを止め、俺は隻眼の男の前に立つ。
「俺とバトルしてくれ」
「…………は?」
「あんたが恨めなかった、あんたのスピリット達を見せてくれ」
セントラルタワーでのバトルの後、ナナシは失意のまま建物の崩壊に巻き込まれた。
俺はナナシを救えなかった。
俺は、もう誰にもアイツのようになってほしくない。
救える人は、みんな救いたい。
「頼む。俺とバトルしてくれ」
この人も分かってるはずだ。
ホントはバトスピが大好きなんだって。ただ道を誤っただけだ。
ナナシと同じように。
俺はこの人に、もう一度バトスピの楽しさを思い出させる。
それが、今の俺がやるべきことだ。
◇◆◇◆
「……ホントにやるのか」
「ああ。俺のターンからだ。『ダンデラビット』を召喚。召喚時効果、ボイドからコアを1個リザーブに。ターンエンド」
「『戦竜エルギニアス』を召喚。ネクサス『オリンスピア競技場』を配置。ネクサスをLv2にしてターンエンドだ」
前にこの人がレイとバトルをしていた時は白デッキを使っていた。
しかし今使っているのは青のカードだ。
多分、デッキそのものが変わっているのだろう。
「メインステップ。『アクゥイラム』をLv2で召喚。ターンエンド」
『オリンスピア競技場』の効果で俺は
序盤でコアが足りない今は、スピリットを召喚しても攻められない。
「ネクサス『灼熱の谷』を配置。マジック『サジッタフレイム』を使用。『ダンデラビット』『アクゥイラム』を破壊する。ターンエンド」
『サジッタフレイム』は合計BP5000まで相手のスピリットを破壊できる。
『ダンデラビット』はBP1000、『アクゥイラム』はBP3000。
合計BP4000で破壊できる。
これで俺のフィールドは更地になる。
マジック1枚で戦況をひっくり返された。
「メインステップ。『獅龍皇子レオグルス』を召喚。召喚時効果で『戦竜エルギニアス』を破壊して1枚ドロー」
『獅龍皇子レオグルス』は召喚時BP5000以下の相手のスピリットを破壊し、破壊した時デッキから1枚ドローする。
「ターンエンド」
「ドローステップ。『灼熱の谷』の効果で2枚ドロー……ほぅ」
男の顔付きが変わる。
キーカードを引いたか!?
「そうだったな……俺はお前と共に戦いたいがために破滅した。ならばこのバトルにお前が来るのは必然か。召喚『凶龍爆神ガンディノス』」
「凶龍爆神、ガンディノス……!」
「ターンエンドだ」
これが裏Xレアか!
一体どんな効果が……?
「メインステップ。『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』を召喚。召喚時効果で『刃狼ベオ・ウルフ』を直接
『刃狼ベオ・ウルフ』は
相手のライフを2まで削れば、ベオウルフの
「アタックステップ。『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』でアタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
これで残りライフは3。
あと2回、
だが、問題は相手の裏Xレアスピリットだ。
前のターンは召喚しただけ、まだその脅威は未知数。
「『戦竜エルギニアス』を召喚。さらにブレイヴ『牙皇ケルベロード』を召喚。『牙皇ケルベロード』を『凶龍爆神ガンディノス』に
「BP17000……!」
「ガンディノス……アタック。アタック時効果【強襲】発揮! 自分のネクサス1つを疲労させることで回復する。『オリンスピア競技場』を疲労させることで回復!」
【強襲】!?
「ここは『獅龍皇子レオグルス』でーー」
「ガンディノスのアタック時効果はまだある! 『獅龍皇子レオグルス』を破壊して1枚ドローする!」
「えっ、」
ガンディノスはアタック時にBP5000以下のスピリットを破壊することで1枚ドローする。
まさか【強襲】の他にこんな効果もあるなんて。
「ライフで受ける!」
「もう一度アタックだガンディノス。【強襲】発揮、『灼熱の谷』を疲労させて回復」
「フラッシュタイミング、マジック『サイレントウォール』を使用! このバトルが終了した時、アタックステップを終了する。ライフで受ける」
「ターンエンドだ。どうだ? これが俺のガンディノスだ!」
俺のライフは残り1つ。
サイレントウォールがなければ、このままやられていた。
「……強いよ、ホントに強い。でも俺も、まだライフは残ってる」
諦めなければ未来は拓ける。
バトスピCS日本大会の決勝戦、レイが最後のドローでジーククリムゾンを引いたように!
「ドローステップ!」
引いたカードは『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』
ははっ、ここでお前か!
「メインステップ! 射手座の12宮Xレア『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』をLv2で召喚! 更にブレイヴ、『武槍鳥スピニード・ハヤト』を召喚」
「……Wブレイヴか!」
「『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』に、『刃狼ベオ・ウルフ』と『武槍鳥スピニード・ハヤト』を
『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』はブレイヴ2つまでと
トリプルシンボル、BP18000の
「アタックステップ」
アタックステップ開始時、『武槍鳥スピニード・ハヤト』の
「赤」を指定し、このターンの間
「
「ブロックだ! エルギニアス!」
「『戦竜エルギニアス』は赤のスピリットとしても扱う。よって
さらに『刃狼ベオ・ウルフ』の効果、BPバトルで相手のスピリットを破壊した時、相手のライフのコア2個をリザーブに置く。
「
「ガンディノスでブロック!」
「効果で
ガンディノスはBP17000。
「フラッシュタイミング、マジック『ストロングドロー』を使用! ガンディノスのBPを+3000! ガンディノスの勝ちだ!」
「2体のブレイヴはスピリット状態でフィールドに残す」
でも俺のフィールドには、まだスピリットがいる!
「リザーブのコアをトラッシュに置き、『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』でアタック」
相手のライフは残り1つ。
「……ははっ、ハハハハハハハ! 楽しかったぜ、お前とのバトル! そのアタック、ライフで受ける」
男の最後のライフがリザーブに置かれる。
俺は、このバトルに勝ったんだ。
「……終わったかの」
隻眼の男は、これでまたバトスピの楽しさを思い出してくれただろうか。
俺がナナシに出来なかったことが、今度は出来ただろうか。
「さて店主よ。お主に1つ言っておくことがある」
「……なんだ?」
「お主の作った裏Xレアは、IBSAより公式のカードとして認められておる。現に妾の友人にも、ガンディノスを使う者はおるぞ」
「なんだと!?」
なんだって!?
ヒメの友人にガンディノス使いがいたのか!
「何故レツも驚いておる。『凶龍爆神ガンディノス』はマドカが使っておったじゃろうが」
「え……マジで?」
「……たまには身内でのバトルもするがよい」
知らなかった、マドカも裏Xレアを使ったのか。
帰ったら見せてもらおう。
「はは、そうか……俺の、カード達が……」
男の目から涙が伝う。
男はしばらく放心していたが、涙を拭い、俺に1枚のカードを差し出した。
「渡雷烈。お前にコイツを任す」
「ガンディノスーーいいのか?」
「あぁ。是非、BFSで使ってくれ」
BFS。
それは世界大会の優勝者だけが戦える、特別なフィールド。
「ああ。絶対、ガンディノスを召喚してみせるよ」
返事を聞いた隻眼の男は立ち上がり、待ってくれていた使用人達と外へ出ていった。
あの人も、これから罪を償うのだろう。
「さてレツ、約束してしまったな。守れるのか?」
明日は世界大会決勝戦、対戦相手はレイだ。
俺がまだ一度も勝ててない、俺の師匠。
「ああ。……俺は今度こそ、レイに勝って、世界一になってやる!」