【ヒメ視点】
その2人のバトルは、あまりに一方的であった。
バトルスピリッツ世界大会、その優勝最有力候補のレツが予想最下位のレイに手も足も出ずに敗北する。
全ては、あのカードによって封殺された。
「スタート、ステップ」
重々しく宣言したレツのデッキは0。
その圧倒的な強さにレツはもちろん、妾まで、彼女に畏怖を感じていた。
◇◆◇◆
時は少し前に遡る。
誘拐事件の遠因となった男を捕らえホテルに戻ったレツは、明日のレイとのバトルに備えデッキの調整を行う。
しかしレイは大会中にも関わらず幾度とデッキを変え、対策しようにもどうすればいいのか皆目見当もつかない。
困ったレツは「もう本人に聞けばいいんじゃね?」と思い立ち、レイの部屋を訪れた。
レイと明日の護衛について相談をしておった妾はそれを聞き、「いっそここでバトルをしてはどうじゃ」と冗談混じりに提案したのじゃが、まさか2人がそれを了承。
決勝戦を前に、2人が戦うこととなった。
さて、2人がバトルすることとなり、レイはレツにある質問をする。
「どのデッキがいい?」と。
レイはデッキを幾つも持っており、そのいずれも桁違いに強い。
様々なデッキを扱えるレイの腕前には感服せざるを得ない。
そしてこれをさも当然のように思っておるのが、レイの恐ろしい所じゃ。
一体どんなバトスピをしてきたらこんな風になるのか。
その質問にレツは「1番強いデッキで」と答える。
するとレイの顔が一気に暗く変わった。
何かあるのかと心配したが、あまり気が乗らないだけで特に問題はないらしい。
思えばこの時、レイはこの未来を予測しておったのかもしれん。
2人のバトルはレイの先攻で始まった。
「ネクサス『明星きらめく花園』を配置。ターンエンド」
レイが準決勝で使っておったカードじゃ。
となるとレイの目的はデッキアウト。
レツは早めに勝負を決めなければならん。
「メインステップ。『アクゥイラム』をLv2で召喚。『アクゥイラム』でアタック」
「ライフで受けるよ」
「ターンエンド」
レツは2ターン目からアタックしてライフを減らしにかかる。
準決勝でレイはこのデッキを使い、8ターンで勝利した。
ゆっくりする時間はないと感じたのじゃろう。
「メインステップ。ネクサス『黄金の鐘楼』を配置。マジック『ハンドタイフーン』を使用、お互い手札を全て破棄して4枚ドロー」
レツの破棄した手札には『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』があった。
これを失ったのは辛いの。
「もう1枚『黄金の鐘楼』を配置。ターンエンド」
『黄金の鐘楼』の効果でレイのネクサスは破壊されぬ。
着々と準備を進めておる。
「メインステップ。『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』を召喚。不足コストは『アクゥイラム』より確保、消滅する。そして『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』の召喚時効果で『刃狼ベオ・ウルフ』を召喚、
レツは早々に
「
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
これでレイの残りライフは2。
もう一度
これは勝負あったか。
「メインステップ。『冥土の魔女ヘレン』を召喚。召喚時効果で手札のマジックカードを3枚までオープンして、オープンしたカード1枚につき1枚ドロー」
レイは『リバイヴドロー』『ルナティックシール』をオープンし、2枚ドローする。
「手元から『ルナティックシール』を使用。デッキの横にコアを3つ置くよ。エンドステップ、デッキ横のコアを1個ボイドに置く。ターンエンド」
『ルナティックシール』初めて見るカードじゃな。
デッキの横にコアを置くとは珍しい。
しかしレイはこのターンで勝負を決めれんかった。
あとはレツの
思えば、レイが負けるのはこれで何度目になるじゃろうか。
予選で一度負けておったが、それ以外で負けた話は聞いたことがない。
本人は数えきれないほど負けていると言っていたが、実際にそれを目にしたことはなかった。
「
「マジック『ルナティックシール』の効果」
ここでさっきのマジックの効果か。
果たしてこの状況を変える効果がーー
「お互いアタックステップは行えず、デッキは破棄されず、ボイド/リザーブからライフにコアを置けない。アタックステップはないから、次のステップを進めて」
「え?」
レイ、お主今なんと言った?
「だから、アタックステップはないんだって。メインステップの次は、エンドステップだよ」
「え、エンドステップ。ターンエンド」
アタックステップを行えない!?
なんて効果じゃ、これではレツはレイのライフを減らせない。
「メインステップ。マジック『ハンドタイフーン』を使用。手札破棄して4枚ドロー。『占いペンタン』を召喚。召喚時効果で『トリックプランク』をオープンして1枚ドロー。アタックステップはないからエンドステップ。デッキ横のコアを1個、ボイドに置く。このコアがある限り、『ルナティックシール』の効果は発揮し続けるよ」
「スタートステップ」
レイのデッキの横にはまだコアが1つ残っている。
このターンも、レツはアタックすることが出来ない。
「『天星龍アポロドラゴン・スピカ』を召喚。……ターンエンド」
せっかくスピリットを召喚しても、アタック出来なければ意味がない。
しかし次のターンには『ルナティックシール』の効果が消える。
その時までに大型スピリットを並べておけばーー
「メインステップ。手元の『リバイヴドロー』で2枚ドロー。そして『ルナティックシール』を使用。デッキ横にコアを3つ置く。エンドステップ、1枚目の『ルナティックシール』でコア1個と、2枚目の『ルナティックシール』でコアを1個ボイドに置く。ターンエンド」
開いた口が塞がらんとはこの事か。
まさか2枚目の『ルナティックシール』とは。
レイのデッキの横には、まだ2個もコアがある。
「射手座の12宮Xレア『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』を召喚。『刃狼ベオ・ウルフ』を『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』に
レツのキースピリット『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』
しかし、それを召喚しても、
「ターンエンド」
アタックステップが行えぬなら何も変わらない。
何も出来ない。
ただレイがあのコンボが揃えないことを祈ることしか、レツに出来ることはない。
しかし、そんな願いも儚く散る。
「メインステップ。『天使アルケー』をLv2で召喚。そして『導化姫トリックスター』を0コスト支払って召喚」
そこからレイの長いメインステップが始まった。
レイは同じ手順を繰り返し、どんどん手札を増やす。
それが一段落すると今度はトラッシュのカードをデッキに戻し、ドローする。
そしてまたトラッシュのカードを戻し、ドローする。
そしてレツもドローし、手札を破棄しを繰り返す。
『ブレイドラ』『武槍鳥スピニード・ハヤト』『サイレントウォール』等々……様々なカードがトラッシュに送られていった。
レツにとってそれは長く、苦しいターンであった。
レツはレイを止める手段を持っておらぬ。
ただずっと同じことを繰り返す、永遠とも思える時間であった。
そしてようやく、レイがターンを終える。
「エンドステップ。デッキ横のコア1個をボイドに。ターンエンド」
レツのフィールドは『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン』『天星龍アポロドラゴン・スピカ』とキーカード達が並んでいる。
しかし、それも無意味。全てはあの『ルナティックシール』に止められた。
ああ、お互いのデッキは破棄されない、との一文は何だったのか。
レツのデッキは、1枚もないというのにーー
「スタート、ステップ」
決勝前夜、レツとレイのバトルは、レイの勝利で終わる。