「え、今? なんでこんなタイミングで?」
「ボクに聞かれても……何かきっかけがあったんじゃないか?」
コジローさんとのバトルの後、泣き疲れた私はIBSAの一室を借りて仮眠を取っていた。
瞼を閉じて休んでいると、どこからかそんな声が聞こえてくる。
人が寝てるのに、と薄ら目を開けると、そこにはーー
「えっと、なんですか? ここ」
「あ、起きた」
何もない真っ白な空間に、白い人影。
そして零さんがいた。
「零……さん?」
「うん。今は私が
私は零さんのことを、話や動画でしか見たことがない。
実際の零さんに会ったのは、これが初めてだ。
「とりあえず、自分の体を確認してみたら?
零さんに促され自分の体を動かす。
それはずっと失っていた、私の元の身体だった。
「戻ったの?」
「半分だけね。まあ話をしよう。その前に」
零さんがパン! と手を叩くと、私の前にバトスピのカードと、フィールドが現れる。
「ここはあなたが元いた世界でも、さっきまでいた世界でもない。その境としての世界、それ以外の定義が決まってない世界だよ」
「だからこんな非科学的なことも起こる、と?」
「うーん、そこは気にしたら負けでいいんじゃない?」
零さんとは初めて話すけど、イメージと全く違う。
世界大会での、あのバトルの零さんとはまるで別人だった。
「これまでに何があったか、なんであなたがいるのか。その答え合わせといこーか。バトスピでもしながらね」
「……はい!」
◇◆◇◆
「先攻どーぞ」
「私のターン。ネクサス『光り輝く大銀河』を配置。ターンエンド」
何故私があの世界に行ったのか。
何故私が、『氷田零』として呼ばれたのか。
その答えを、零さんは知っている。
「うーん、どこから話そうかなー。まず、私とアナタが同一人物って話からでいい?」
「はい?」
零さんは、初っ端から爆弾を投下した。
「私の人格って、10年くらい後のアナタがベースなんだよね」
「え、ちょっと待ってください。10年後の私って、それはいくらなんでもーー」
「逆かな。
私には、零さんが何を言っているのかまるで分からなかった。
ただ信じられないような出来事が起こっていることしか、分からなかった。
「私のターン。
「……なんですか? そのカード」
「だから、
「一気に3コアブースト!?」
「このコアは
「2コストで3枚ドローって、えぇ……」
これが未来のバトスピ?
なんかすごい変わっててよく分からない。
でも、何故かこのカードを知っている。
どこか遠くで、使っていたような気がする。
「最初にあの世界に来たのはアナタじゃない。私が先だった」
「えっと、その……私が10年前の零さんだったとして、なんでこんな事に?」
「えー、そこは『未来の私って、世界1位なの!?』くらい驚いてほしかったなー」
「それはーーはい、確かに言われたら驚きましたけど」
「
あの世界が、ゲーム?
「……いや、それはないです。だってレツさんも姫子ちゃんも、みんな人間でした」
「信じる信じないは勝手だから。『天星12宮 樹星獣セフィロ・シープ』を召喚。
……怖い。
零さんの話を聞くのが、怖い。
そして何より
私が零さんの過去だってことも、あの世界がゲームだってことも。
全て本当だと直観してる。
だけど、受け入れるのが怖い。
「で、ゲームのキャラに転生した私はあの世界でもバトスピをしてた。だってバトスピが好きだから。辞めれなかった。……ところで、
「……だから零さんは、対話を辞めたんですよね?」
世界大会決勝でのあの顔は、多分そういうことなんだろう。
そしてコジローさんがそれを否定した要素「1度負けている」。
でも、負けたとしても、その人がゲームのキャラにしか見えなかったとしたら。
人と戦っている感覚がなかったのだとしたら。
「正解。1ヶ月もて気づかなかった? 対戦相手の動きが一定だって。全部プログラミングされた動きなんだよ、あれ」
「……違和感くらいは」
対戦相手の明らかなミス。
それが何度も続けば、さすがに何かおかしいと感じる。
「でも、みんな人間です! ちゃんと生きていて、決してCPUなんかじゃない!」
「私もそう思いたかったんだけどねー。結局、思考停止した人間なんて機械と変わらないよ」
零さんはハッキリとそういった。
その時、零さんは興味ないものを見る子供のように、わかりやすく失望した目をしていた。
「世界大会で優勝して、私は絶望した。その後、背中を撃たれたのがアナタがいるきっかけかな」
「それ、はーー」
「
「つまり、私はただの、零さんが生み出した幻想ーーてことですか?」
「違うよ? というかよく自分のことをそんな酷く言えるね」
「……別に、取り繕わなくていいですよ」
「アナタは『水野風花』私は『氷田零』その差が分かる? 同じ私なのにさ」
……分からない。
私は零さんの幻影だ。
なのに名前の違いなんて、わざわざ指摘する意味も分からない。
「千と呼ばれた千尋は、自分の名前を忘れる。ハクという名前をもらった少年は、自分の存在を忘れる。異世界っていうのは、そういうモノなんだよ。
「……つまり?」
「『氷田零』と『水野風花』は同じ人だけど別人、てこと。千と千尋の関係だよ」
10年後の水野風花は、異世界で「氷田零」となった。
氷田零として生きていく内に、水野風花ではなくなっていた。
「そして『氷田零』はこの世界から出れないけど、『水野風花』なら元の世界に戻れる」
零さんが話しているのは、異世界間のルール。
元の世界に帰るには私が必要だった、ということ。
「……メインステップ。『アクゥイラム』をLv2、『ブレイドラ』をLv1で召喚。『アクゥイラム』でアタック」
「セフィロ・シープでブロック。破壊される」
「『ブレイドラ』でアタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド。……つまり零さんは、自分が元の世界に戻るために私を利用したい、てことですか?」
「いや、だから違うって」
「じゃあ! 私は何なんですか!?」
私は、私が何者か分からない。
零さんが戻るためでもないなら、私はなんのために生まれてきたのか分からない。
「きっかけは現実逃避だったとしても、今そこにいるのは私とは別の人間、水野風花だよ」
「でも……!」
「大事なのは、風花が何をしたいのかだけだよ。風花は元の世界に戻りたい?」
戻りたいか戻りたくないかで言えば、戻りたい。
でも私は零さんの幻影でしかない。
もし元の世界に戻ったら、私はどうなるんだろうか。
「……私のターンだったね。『天星12宮 氷星獣レオザード』をLv3で召喚、
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
考えが纏まらないまま、ターンを進める。
私はマジック『ブレイヴドロー』を使ってデッキから2枚ドロー、オープンした『トレス・ベルーガ』を手札に加えた。
「『アクゥイラム』をLv3にして、ターンエンド」
「さっきも言ったけど、私と風花は同じ人間だけど別の存在なんだよ。それなら私は風花の意志を尊重したいし、そうしないといけない。たとえ後でそれを踏みにじることになろうとも、ね」
「……戻ったら、私はどうなりますか?」
「さあ? そんなの、戻ってみないと分からないよ。メインステップ、『銀河星剣グランシャリオ』をレオザードに直接
零さんは、私に何をしたいのかと聞いた。
零さんの過去としての私じゃなく、水野風花として、私が何をしたいのか。
「レオザードでアタック。【星読】『天星12宮 炎星竜サジタリアス・ドラゴン』を手札に加えて回復する」
「フラッシュはないです」
「じゃあフラッシュタイミングで『天星12宮 炎星竜サジタリアス・ドラゴン』をレオザードに【煌臨】。
「……私は」
そうだ、私のやりたい事。
元いた世界では漠然としか考えてなかった。
けど、この世界に来て本気でそうしたいと思ったこと!
「私は、バトスピがしたい。バトスピが強くなりたい。
「……それが風花の願い。じゃあ、私にも負けないでね 。フラッシュタイミング、『超神光龍サジットヴルム・ノヴァ』をサジタリアス・ドラゴンに【煌臨】。
私のフィールドにはまだ『ブレイドラ』がいる。だけど、
「まだ、フラッシュがあるんですよね?」
「『創界神ダン』の
やっぱり『ブレイドラ』を破壊してきた。
このアタックを受ければ残りライフ1、そしてサジットヴルム・ノヴァはーー
「先に言っておくけど、サジットヴルム・ノヴァはアタック時に効果で相手のライフを減らせる。これが最後のフラッシュタイミングだよ」
「知ってます! マジック『デルタバリア』! このターンの間、相手の効果とコスト4以上のスピリットのアタックでは、私のライフは0にならない! アタックはライフで受けます!」
「ターンエンド。さあ、これが最後のターンだよ」
次のターン、零さんはサジットヴルム・ノヴァでアタックするだけで勝利が確定している。
今度は『デルタバリア』を使うタイミングもない。
「ドローステップーーーー」
引いたカードに思わず笑みを浮かべる。
『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』私のキースピリットだ。
「ははっ、やっぱり私だ。その顔を見れば、だいたい分かるよ。運命が応えてくれた時って、1番嬉しいよね」
「はい! メインステップ、『ブレイドラ』『戦竜エルギニアス』を召喚します! さらにブレイヴ『トレス・ベルーガ』『輝竜シャイン・ブレイザー』を召喚!」
『光り輝く大銀河』の効果で手札の『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』はコストは5になる。
「召喚! 『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』! 5コスト4軽減、1コストで召喚!」
「ブレイヴが2体。しかも『輝竜シャイン・ブレイザー』と『トレス・ベルーガ』なんて、ホント好かれてるよ」
「『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』に『輝竜シャイン・ブレイザー』と『トレス・ベルーガ』を
「
私が勝つ条件はあと1つ、大きな壁を越えないといけない。
それでも、私は零さんに、未来の自分にも勝ってみせる!
「アタックステップ!
1枚目、『砲凰竜フェニック・キャノン』
2枚目、『カメレオプス』
3枚目、『サイレントロック』
4枚目、『リバイヴドロー』
5枚目、『バーニングサン』
残り1枚ーー!
「大丈夫だよ。勇者ってのは、必ず運命を掴むものだから」
6枚目、『金牛龍神ドラゴニック・タウラス』
系統:「光導」を持つカードだ!
「
「『超神光龍サジットヴルム・ノヴァ』でブロック。一応だけど、BPは34000だよ」
「フラッシュタイミング、『光り輝く大銀河』のLv2効果を発揮! 手札の『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』を破棄することで
「2枚目を引いてた、てことね」
これは最後のドローで引いたサジット・アポロドラゴン。
あのドローで、私の
「『超神光龍サジットヴルム・ノヴァ』は破壊される」
「『輝竜シャイン・ブレイザー』の効果、BP8000以上のスピリットを破壊したのでライフを1つリザーブに置く」
「これで私のライフは残り3。綺麗に決まったね」
零さんはそう言うと手札を伏せた。
私は、最後のアタックを宣言する。
「
「そのアタックは、ライフで受ける」
零さんのライフが全てリザーブに置かれる。
と同時にフィールドが消え、また真っ白な空間に戻った。
「水野風花。これが私の知ってる、これまでの経緯。それを聞いてアナタは、どっちを選ぶ?」
バトルの後、零さんは私にそんなことを聞いてきた。
「どっちって?」
「元の世界に戻るか、戻らないか。一応言っておくと、『名』というものは戻るための十分条件でしかない。それがある限りはいつでも戻れる。
「なんで、そんなことを言うんですか?」
「別にー? 私は風花に、知ってる情報を教えただけだよ?」
意地悪な人だ。
私が悩んでるのを知ってて、答えはくれないんだから。
「別に私はどっちでもいいんだけどね。自分の知らないところで死ぬ人のことなんて」
「いいんですか? 私のせいで死ぬことになっても」
「風花こそ考えなよ。『ライフで受ける』なんて言ってる私達だよ? カードバトラーってのは総じてマゾヒストなもんだよ」
「すいません、謎理論に巻き込まないでもらえます?」
相変わらずこの人の思考が分からない。
レツさん達をCPUと断じるくせに、過去の自分である私には、普通の人間として接している。
「零さんからしたら機械でも、私からしたら大事な友達なんです。……結局、バトスピで勝てばいい。それなら私は、誰かが殺される前に戦います」
「……はは、私にもこんな頃があったんだなー。嬉しいような、悲しいような」
私の進む道は決まった。
もう悩まない。
私は私の意思で戦う!
「私はあの世界に戻る。そしてネオ・ブラックゴートをぶっ潰す!」