レイちゃんは強いカードバトラーと戦いたい   作:OZo-2

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ターン42 アゲハとのバトル

 

 

「まったくもー。まさかこんなに早く幹部が倒されるなんて、思ってもいませんでしたよ。よくもやってくれましたね」

 

ネオ・アゲハに呼び出されたのは海岸沿いにある倉庫。

次はネオ・アフロとのバトルだと思っていたけど、そこにはアゲハと下っ端が数人いるだけだった。

 

「今日のバトルはアフロとじゃないの?」

「アフロさんはお金を持ってどこかへ逃亡しましたー。つまり敵前逃亡です、死罪です。と言うわけで今日はアゲハちゃんが直々に成敗しますよー、と」

 

敵前逃亡、死罪。

アゲハは軽く言ってるけど、実際は酷いことになってるんだろう。

 

「アナタは逃げないんだ」

「逃げませんよ。私はあなたを殺すことを楽しみにしてたんですから」

 

アゲハは手に持っていた銃を机の上に置き、用意された椅子に座った。

私も同様に腰掛ける。

 

「先に言っておきます。もし私がこのバトルに負けて死んだら、ネオ・ブラックゴートは確実に終わりです。私という屋台骨を失った組織は崩壊します」

 

ネオ・ブラックゴートを潰す。

風花の遺言を成し遂げるまで、あと一勝。

もしかしたらまた新しい幹部が擁立されてるのではーーと考えてたけど、そんなことはなかった。

 

「ハンデとして、私は最初コア8個から始めます。わかりやすいですよね?」

「いいよ。さあやろうか」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「先攻はアゲハちゃんから〜。ネクサス『英雄王の神剣』を配置します。そしてバーストセット! ネクサスの効果で1枚ドローします。ターンエンド」

「ネクサス『彷徨う天空寺院』を配置。バーストをセットして、ターンエンド」

 

お互い最初のターンはネクサスを配置してターンエンド。

アゲハはハンデでコアを多くもらっている。

それでスピリットを並べてくると思っていたけど、あてが外れた。

 

「んー、そうですねえ。『古の獣王ギルガメッシュ』を召喚します。召喚時効果で系統:「覇王」を持つ相手のスピリットを破壊できるのですが、対象がいないので効果は発揮しませんね。ターンエンドです」

 

『古の獣王ギルガメッシュ』はLv2、3になるとリザーブのコア2つをトラッシュに置かないとブロックできなくなる。

面倒なことになる前に破壊したいカードだ。

 

「(この手札なら仕方ないか)『時統べる幻龍神アマテラス』を召喚。召喚時効果でギルガメッシュを破壊する」

「あら、破壊されちゃいましたか。それじゃあバースト、『風の覇王ドルクス・ウシワカ』。アマテラスには疲労してもらいます。そして召喚〜」

「……ターンエンド」

 

『風の覇王ドルクス・ウシワカ』は自分のコアが8個以上ないとバースト召喚できない。

本来なら4ターン目なんて、相手はコア5つしかない。

 

けど、アゲハはハンデでコアを多くもらっているからゲーム開始時点から召喚できる。

 

「『鉄の覇王サイゴード・ゴレム』を召喚します。そしてバーストをセット、1枚ドロー! ターンエンドです」

 

ドルクス・ウシワカはともかく、サイゴード・ゴレムは厄介だな。

Lv3の【大粉砕】を2回使われればそれだけで致命傷になる。

 

「『砲凰竜フェニック・キャノン』を直接合体(ブレイヴ)召喚。召喚時効果で『英雄王の神剣』を破壊する」

「あらら」

「アマテラスをLv3にアップ。アタックステップ、アマテラスでアタック。【激突】」

「では、相手のスピリットのアタックによりバースト発動。ドルクス・ウシワカのコアを使って『刀の覇王ムサシード・アシュライガー』を召喚、このターンの間BP+3000します。『鉄の覇王サイゴード・ゴレム』でブロック」

 

サイゴード・ゴレムを破壊する。

これでアマテラスの条件を満たす。

 

「ターンエンド。ここでアマテラスの効果発揮、赤のスピリットを回復させて、もう一度アタックステップを行う。アマテラスでアタック、【激突】」

「ムサシード・アシュライガーでブロックします」

「ターンエンド」

「今度こそ、私のターンですね! ネクサス『英雄王の神剣』『神焔の高天ヶ原』を配置します。『神焔の高天ヶ原』をLv2にアップ。そしてバーストをセットして1枚ドロー。ターンエンドです」

(あー、グランシャリオが欲しい)

 

アゲハのデッキはバーストコン。

しかも見た限りだと覇王(ヒーロー)Xレアが殆どだ。

 

バースト召喚ならノーコストだし、コアが多く使えるハンデも考えると大型スピリットが多くても問題ないってのは分かるけど、相手にすると結構鬱陶しい。

 

「(ま、()()()()()()()、だけどね)『アルマジトカゲ』をLv3で召喚。『アルマジトカゲ』でアタック」

「ライフで受けます。バースト発動、『氷の覇王ミブロック・バラガン』を召喚します」

 

よし、釣れた。

 

「アマテラスでアタック。【激突】」

「ミブロック・バラガンでブロックします」

「ターンエンド。そしてアマテラスの効果でもう一度アタックステップを行う。『アルマジトカゲ』でアタック」

「ライフで受けます」

「アマテラスでアタック」

「それもライフで受けます」

「ターンエンド」

 

バーストコンなんて、NPCが使ってもマトモに機能するはずがない。

実際さっきのターンだって、バーストを発動するのはアマテラスがアタックしてからだ。

普通のプレイヤーならアルマジトカゲのアタックで発動はしない。

 

「これで私のライフは2……うーん、結構まずいですね」

「? 何をーー」

 

 

 

 

 

 火薬が破裂する音が耳を奪い、紅い血が視界を占領した。

 

「え、は、え?」

 

その行動に、私は驚きを隠せない。

 

アゲハは手札を伏せ、机の上に置いた拳銃を取り、()()()()()()()()()()発砲した。

 

「いったーい。あ、誰か包帯持ってきてー」

「は、はい! すぐに!」

「あー痛い。さ、私のターン、ドロー!」

「……飛沫でマーキングとか、してませんよね?」

「大丈夫ですよ。カードにかからないように注意して撃ちましたから」

 

下っ端が包帯を持ってきて、応急処置を施す。

 

「それにしても、やっぱり変わってますねアナタ」

「……何が?」

「普通は『なんでそんなことをしたんだー』とか聞くところですよ? いきなりイカサマかと聞いてきた人は初めてです」

「……何回も自分を撃ってるなら、アナタの方が変わってるよ」

「ふふ、すいません。でもこうし(追い込まれ)ないと私、本気になれないので。ーーメインステップ。『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』『天剣の覇王ジーク・スサノ・フリード』を召喚! バーストをセットして1枚ドロー。ターンエンドです」

 

……本気になれない、ね。

CPUのくせに、何を言っているのやら。

 

「メインステップ、『ワン・ケンゴー』を召喚。アタックステップ、アマテラスでアタック。【激突】」

「『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』でブロックします! BP勝負では破壊されますが、『神焔の高天ヶ原』の効果で私のライフを1つボイドに置くことでフィールドに残します」

 

ただでさえ2つしかないライフを、ここで削るのね。

追い込まれないと本気になれないーーさて、アゲハの残りライフは1。

ここからどうする?

 

「ライフ減少によりバースト発動! 【バースト転召】『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』! ジーク・ヤマト・フリードのコアをボイドに置いて召喚します! トラッシュのコアでライフを5まで回復」

救世主(セイバー)、ね」

「これで振り出しです。さあ、もっとバトルしましょう!」

 

残り1まで減らしたのに一気に5まで元通り。

しかもダブルシンボルのスピリット付、と。

 

「ターンエンド。そしてもう一度アタックステップ、アマテラスでアタック」

「ジーク・スサノ・フリードでブロックします。破壊されますが、ライフのコアを1つボイドに置くことでフィールドに残ります」

「ターンエンド」

 

ボイドにコアを置く効果もハンデでコアを多くもらってるから気にならない、か。

ここまで変則ルールと噛み合ってるデッキを使う相手は初めてだね。

 

「あぁ……イイ……イイですね。やっぱりバトスピも人生も、こうあるべきだと思いませんか?」

 

目を見開き、頬を赤く染め、口角は上がり、呼吸を忘れたように早口に、そんな非常に興奮した状態でアゲハは問いを発した。

 

「こう、とは?」

(ライフ)なんてぞんざいに扱うくらいでいい、てことですよ。それだけでこんなに楽しくなれるんですから! メインステップ、『爆炎の覇王ロード・ドラゴン・バゼル』を召喚します。そしてバーストをセット、1枚ドロー」

 

アゲハは再び、今度は自分の二の腕に銃口を付けて発砲した。

床は紅く染められ、再び下っ端達が騒ぎ出す。

 

「負けたら死ぬ、そんなバトルを恐がるだけだなんて勿体ない! ホンッッットに、楽しいですね!」

「止血くらいはしなよ。貧血で倒れられたら中途半端が過ぎる」

「大丈夫ですよ、今度は重要な血管は外しました。こんな楽しいバトルをそんなつまらない終わりで迎えるつもりはありません。……アタックステップ、ロード・ドラゴン・セイバーでアタックします!」

 

大丈夫なわけがない。

手の甲に向かって撃った1発よりも出血が少ないとはいえ、アゲハの顔から血の気が引いてきている。

一種の興奮状態によって意識を保っているだけだ。

 

「楽しい……ね」

 

ふと、口元を手で覆う。

この表情を隠すために。

 

(なんで前の私は諦めたのか)

 

かつての私はこの世界がゲームだと、NPCしかいないと諦めた。

全ての人がプログラミングされた動きを行い、私はそれに合わせて動くだけで絶対に勝てるゲーム。

『やる前から結果が見えるゲーム』なんてやる意味がないと切り捨てた。

 

なら、昔のーーもっと前、元の世界の私は『結果』を求めてバトスピをしていた?

 

違う。

 

確かに、ギリギリのバトルでたった1枚のカードに運命を左右されるあのドキドキ感は堪らない。

どうしようもない場面を運命に任せるあの瞬間は好きだ。

負けることがないこの世界でなら決して味わうことのない喜びだ。

 

でもそれだけじゃない。

 

私が好きなバトスピは、もっと根幹にある。

 

()()()()()()()()()()()()()

この世界はゲームでも、NPCの動きしかしなくても、この世界に生きる人達はれっきとした人間なんだ。

 

「……私はバトスピが好きなんだよ」

「? なんですかぁ、藪から棒に」

「こうやって誰かと対峙してると、その人の感情が真っ直ぐに向かってくるから。他人のことなんてどーでもいいと思ってるけど、私は、バトスピで会話してるこの瞬間が大好きなんだよ」

 

相手は銃で自分を撃つような変人。

(ライフ)を尊重しない、むしろ捨てることに悦びを見出す変態。

 

それでもいい。

それでも彼女は楽しんでいる。

それに私も。

 

(ライフ)を投げて楽しんでいる彼女とバトスピしていることに、ものすごい悦びを感じている!

 

()()()()()()()()()()()()()! もっと楽しもう、アゲハ!」

 

たしかに強い相手と戦いたいという想いはある。

NPCじゃない、普通の相手と戦いたいと思う時もある。

 

けど、それは私がバトスピをする真の目的じゃない。

私は()()()()()()()()()()()()()()()んだ!

 

「ーーーーはい! 『神焔の高天ヶ原』の効果発揮、『アルマジトカゲ』を指定してアタックします!」

 

『神焔の高天ヶ原』はターンの最初に系統:「覇皇」を持つスピリットがアタックした時、相手のスピリットを指定してアタックできる。

Lv1のロード・ドラゴン・セイバーはBP10000。

アマテラスやワン・ケンゴーには届かないが、アルマジトカゲには勝てる。

 

「『アルマジトカゲ』でブロック、破壊される」

「これでターンエンドです」

 

さあ、次は私の番だ!

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップーーッ!」

 

何かを引く予感はあった。

 

自分も、相手(アゲハ)も、フィールドも、この場全てを視ているような感覚があった。

アゲハとのバトルを楽しんでいる今なら「何かある」という直感があった。

そして、その()()に手が届く確信があった。

 

覇王(ヒーロー)は必ず、運命を掴むものだから。

 

「メインステップ!」

 

それは元の世界ではカードとしては使用できないカード。

 

それは元の世界に4枚しか存在しないとされたカード。

 

それはこの世界で初めて生を得たカード。

 

「『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』を召喚」

 


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