私がバトスピを始めたのは小学生の時だった。
きっかけは兄がバトスピのカードを買い始めたことだった。
兄も友人に誘われて始めたらしいけど、当時兄と仲がよかった私もそれでバトスピに興味をもった。
多くないお小遣いでカードを買い、何とか形になったデッキで兄と遊んでいた。
私はどんどんとバトスピにハマっていった。
結局兄は1年足らず辞めてしまったが、小学校にもバトスピをやっていた子がいたのが幸いだった。
放課後に同級生の子達とバトスピをする、そんな小学校生活だった。
でも
きっかけは1回のバトル。
あの子は強かった。
私も何度か負けそうと思ったくらいには。
でも、だから私は全力で戦った。
全力で相手のライフを奪おうとした。
結果は私の勝利。
だけど、バトルの後のその子はひどく怯えた表情で、私はその子に何の言葉をかけてあげればいいのか分からなかった。
その子とはそれきり。
そのバトル以降、その子は学校に来なくなった。
なんでも精神崩壊を起こしてまともに生活できなくなったとか。
私が、あの子を殺した。
その事を聞いたクラスの子はみんな私を避け始めた。
当然だ、人一人を廃人化させた奴に誰が関わりたいと思うか。
私が小学校を卒業する時にはほとんどの子達に無視されるようになっていた。
でも、私はそれでさらにバトスピに熱中するようになる。
バトルをしている時、相手は必ず私を見るから。
たとえ現実で無視されても、フィールド上では相手は必ず私に目を向けるから。
◇◆◇◆
「『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』を召喚! 『彷徨う天空寺院』を疲労させることで、2コスト支払ったものとして扱う」
『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』は一切の効果を受けない。
けど『彷徨う天空寺院』はコスト8以上のスピリットの召喚コストの支払いに対する効果。
問題なく使用できる。
「アマテラス・ドラゴン……初めて見るカードですね。一体どんな効果があるんですか!?」
「アナタをもう一度死地に追い詰めるカードだよ。アマテラス・ドラゴンの召喚時効果、このスピリット以外のすべてのスピリットを破壊する!」
私の『時統べる幻龍神アマテラス』『ワン・ケンゴー』、アゲハの『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』『爆炎の覇王ロード・ドラゴン・バゼル』『天剣の覇王ジーク・スサノ・フリード』は破壊される。
だけど、
「『神焔の高天ヶ原』の効果、私のライフのコア1つをボイドに置くことで『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』は残ります! そしてライフ減少によりバースト発動! 『妖華吸血爪』の効果でデッキから2枚ドローします」
知ってたよ。
でも、ここはそれでいい。
「アタックステップ、『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』でアタック」
『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』にはコアが3個のっている。
今のアマテラス・ドラゴンはBP30000、そして
アゲハは残り3つのライフを守るために、ブロックするしかない。
「『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』でブロックします! 破壊されますが、ライフのコアをボイドに置くことでフィールドに残します」
「ターンエンド」
バトスピを「楽しい」と感じたのはいつぶりだろう。
対戦相手はCPUで、対戦相手の感情とカードの動きがちぐはぐで。
全くバトスピをしている気にならなかった。
でも、今のアゲハは感情とカードの動きが合っている。
アゲハの気持ちが、カードを通じて伝わってくる。
「『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』をLv3に、そしてバーストをセットします! 『英雄王の神剣』の効果で1枚ドローします。ターンエンド」
分かってる。
それがただの偶然だってことも。
アゲハの動きはCPUと変わらない。
だけど、アゲハの手札に来るカードとCPUの動きが奇跡的にマッチしてるいつものちぐはぐさが無くなっている。
普通の人間と戦ってるように錯覚させる。
「ドローステップーーよし」
最高の感覚だ。
楽しんでいるのは相手のデッキだけじゃない。
私のデッキももっと楽しませろと主張してくる!
「メインステップ! 天空寺院を疲労させて『天地神龍ガイ・アスラ』を召喚。そしてブレイヴ、『獣装甲メガバイソン』!」
アマテラス・ドラゴンにコアを2つ追加してBP50000にアップ。
アゲハの残りライフは2、アマテラス・ドラゴンでも
「アタックステップ、アマテラス・ドラゴンでアタック」
「ロード・ドラゴン・セイバーでブロックします! 『神焔の高天ヶ原』の効果、ライフのコア1つをボイドに置いて残します。そしてバースト、『絶甲氷盾』! ライフを回復して、コストを支払ってアタックステップを終了させます」
「ターンエンド」
そうだよね、このバトルがそんなにあっさりと終わる訳がない!
もっと楽しませて。
もっと昂らせて。
もっとスピリットの声を聞かせて。
もっと、もっと長くバトルさせて!
「メインステップ、バーストをセットします。ネクサスの効果で1枚ドロー。うーん、そうですねーーーーターンエンドで」
ほんの小さな変化も見逃さない。
今、アゲハは左手の傷跡を庇った。
さっきまでの病的な集中力がなくなってきている。
痛みがアゲハの集中力を奪いにきている。
「もう1発くらい撃っといた方がいいんじゃない?」
「ーーはは、そうですね。いけないいけない、変に考えすぎました」
「
「ひゅー、ものすごい世界に生きてますね。とにかく、1度宣言したものを覆すつもりはありません。ターンエンドです。それに、」
すごい世界?
どうせCPUの動きしかできないんだから、来るカードに全て任せろって言ってるだけでしょ。
「バーストは相手の動きによって動き出すもの。アナタの攻撃を受け続け、かわし続け、何とか耐えきる。それもスッッッゴい楽しいんですよ!」
カードに全て任せてるだけあって、盤面がよく見える。
伏せてあるバーストカードがすごい自己主張してくる。
フィールドのスピリットよりも、アゲハの手札よりも、セットしてあるあのバーストに視線が向く。
それはアゲハが前進するためのカードだ。
防戦から攻撃に転じるための1枚だ。
そんな強いカードだと、カード自身が語っている!
「私も最ッッッ高だよ! メインステップ、アマテラス・ドラゴンに全てのコアを追加、BP120000! アタックステップ」
本来なら、あのバーストを発動させないように動くのが正解なんだろう。
デッキに1枚の『インビジブルクローク』を引くまで待って、ガイ・アスラでアタックすれば終わり。
アタック後バースト以外は何もない。
それが安牌。
でもそうするべきじゃないと私のカード達が言っている。
正面からぶつかって勝てと言っている!
「『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』でアタック!」
「『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』でブロックします! フラッシュタイミング、マジック『絶甲氷盾』!」
私のアマテラス・ドラゴンはBP120000。
アゲハのロード・ドラゴン・セイバーとは文字通り桁が違う。
けど、絶対にこの破壊はアゲハの次の一手に繋がる。
「『神焔の高天ヶ原』の効果、ライフのコアを1つボイドに置くことでロード・ドラゴン・セイバーをフィールドに残します! そしてバースト発動!」
「ーーーーなるほど、その子だったのね」
アゲハのライフは残り1。私のライフは残り5つ。普通に考えたら、ここから私が負けることはない。
だけど、バトスピに絶対はない。
どんな状況でも、逆転の目がデッキに入ってさえいれば可能性は0じゃない。
「『黄金の覇王ロード・ドラゴン・インティ』をバースト召喚!」
ーーまた、予感があった。
その予感は、私にとっては悪い予感なはずだ。
だけど
(難儀な性格してるな、私も)
「『黄金の覇王ロード・ドラゴン・インティ』の召喚時効果発揮! 私のデッキを5枚オープンし、カード名に『ロード・ドラゴン』と入っているスピリットを好きなだけ、コストを支払わずに召喚します!」
1枚目、『烈の覇王セイリュービ』。
2枚目、『英雄皇ロード・ドラゴン・ドミニオン』。
3枚目、『爆氷の覇王ロード・ドラゴン・グレイザー』。
4枚目、『呪の覇王カオティック・セイメイ』。
5枚目、『覇王ロード・ドラゴン・ザ・ワールド』。
「『英雄皇ロード・ドラゴン・ドミニオン』『爆氷の覇王ロード・ドラゴン・グレイザー』『覇王ロード・ドラゴン・ザ・ワールド』を召喚します!」
5枚中3枚が「ロード・ドラゴン」
デッキに何枚入ってるのかは知らないけど、
「さすがだね」
その言葉を私は、心の中で繰り返す。
「『覇王ロード・ドラゴン・ザ・ワールド』の召喚時効果で1枚ドロー。そして『英雄皇ロード・ドラゴン・ドミニオン』の召喚時効果、バーストをセットして1枚ドロー! さらに『英雄王の神剣』の効果でドローします!」
「効果処理は終わったかな。『絶甲氷盾』の効果でアタックステップは終了。ターンエンド」
アゲハのフィールドに並ぶ5体のロード・ドラゴン。
ロード・ドラゴン・セイバーはダブルシンボル、この時点でもう打点は足りてる。
けど、まだ途中だ。
まだ
「……どうせいるんでしょう? あの子も」
「『あの子』が誰か分かりませんがーーいや、分かりました。なるほど、これがアナタ見てる世界なんですね」
アゲハの手札の1枚。
この場に、このフィールドに相応しい1枚が、「早く出せ」と叫んでいる。
アゲハのリザーブにはコアが4つ。
たとえCPUでもそのカードは召喚できる。
「メインステップ! 『英雄龍ロード・ドラゴン』を召喚します!」
それは最初のロード・ドラゴン。
『英雄龍ロード・ドラゴン』『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』『爆氷の覇王ロード・ドラゴン・グレイザー』『英雄皇ロード・ドラゴン・ドミニオン』『黄金の覇王ロード・ドラゴン・インティ』『覇王ロード・ドラゴン・ザ・ワールド』
数多のロード・ドラゴンが並び立ち、呼応し合っている。
アゲハのスピリット達は今、最高に奮えている!
「アタックステップ! 『英雄龍ロード・ドラゴン』でアタックします!」
「『天地神龍ガイ・アスラ』でブロック!」
ガイ・アスラには【超覚醒】がある。その回復効果を使えば、相手が何体いようと対処できる。
ただ問題は、アマテラス・ドラゴンは「このスピリット以外の一切の効果を受けない」
「(【超覚醒】は使えない)ガイ・アスラの方がBPは上だよ」
どくん、と心臓が鳴る音が聞こえた。
その音はどんどん大きく、早くなって、ただアゲハが次の宣言をするまでの短い間なのに、私には、とても長く感じられた。
「相手による自分のスピリット破壊により、バースト発動します!」
どうせいつかは踏まないといけないバーストだ。
だったら今やるのも後でやるのも、なんの違いもない。
なのに、何故か
私はロード・ドラゴンに注目しすぎて、バーストに無関心すぎた。
死角から飛んできた弾丸は、私の盾を吹き飛ばした。
「『太骨望』! バースト効果は
(しまった!)
2ターン目に私がセットしたバーストは『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』。
アマテラス・ドラゴンからは【超覚醒】でコアを外せないが、ジーク・ヤマト・フリードからは外せる。
どうせバースト効果でスピリットを破壊するからと、気にせずブロックしたのが間違いだった。
それだったらガイ・アスラは疲労しておらず、破壊されていない。
「ーーはは」
ほんの少しのミスで、一気に状況がひっくり返る。
たった1枚のカードで、一気に勝利に近づく。
「さあ! 次はどの子!?」
「『英雄皇ロード・ドラゴン・ドミニオン』でアタックします!」
「ライフで受ける!」
「『黄金の覇王ロード・ドラゴン・インティ』でアタックします!」
「ライフで受ける! ここでバースト、『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』! 『超覇王ロード・ドラゴン・セイバー』を破壊して召喚、Lv4!」
「……! ターンエンドです」
ーー楽しかった。
お互いにネクサスを配置し合ったことも。
アマテラスでギルガメッシュを破壊したことも。
ドルクス・ウシワカで返されたことも。
アゲハのライフを1まで減らしたことも。
ロード・ドラゴン・セイバーでライフが回復したことも。
アマテラス・ドラゴンを召喚したことも。
何体ものロード・ドラゴンが召喚されたことも。
ガイ・アスラが破壊されたことも。
このバトルの、全てが楽しかった!
「メインステップ、バーストをセット。アタックステップ、『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』でアタック。アタック時効果で『覇王ロード・ドラゴン・ザ・ワールド』を破壊する」
「『爆氷の覇王ロード・ドラゴン・グレイザー』でブロックします!」
Lv1のロード・ドラゴン・グレイザーはBP6000。
Lv4のジーク・ヤマト・フリードはBP20000。
「ロード・ドラゴン・グレイザーは破壊されます」
これでブロックできるスピリットはいなくなった。
そして、今度は読み間違えない。
今、アゲハにこのアタックをしのげるカードはない!
「『絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン』でアタック!」
ーー楽しかった刻も、遂に終わりを迎える。
お互いにフラッシュがないことを確認して。
アゲハは最後の宣言を行った。
「ライフで受けます」
「……ありがとうございました。いいバトルでした」
バトルが終わり気を失った彼女に、私は私が知る限り最高の賛辞の言葉を送った。