【ヒメ目線】
「ハッカー。進捗の程はどうじゃ」
「30%って所かな。このまま何も無ければ成功率は100%……! ネオ・ブラックゴートは壊滅する」
「うむ」
レイがネオ・ブラックゴートの幹部と戦っている間、我らは別の手段で奴らを潰そうと動いておった。
「ネオ・ブラックゴートの厄介な所はネット上で完結していることじゃ。ブラックゴートは現実でも暴れておったが、奴らは表に出てこない」
「完全裏の話だからね。彼らが接触してこなかったら僕らはその存在にも気づかなかった」
デパートでレツとレイが襲われた、ネオ・コレクターとの一件。
あれがあるまで我らはネオ・ブラックゴートの存在すら知らんかった。
奴らの裏サイトを見つけ出し、それを白日のもとに晒す。
そうしなければこの事件は解決とは言えまい。
そのために妾はハッカーと協力し、奴らの裏サイトにクラッキングを仕掛けた。
「普段ならもっと苦労するんだけどね。これも氷田零のおかげさ。彼女が幹部達と戦い、いい囮役になっている」
「妾はあんな危険なことはすぐにでも辞めてほしいのじゃが……」
奴らにとってもレイの存在は大きい。
レイが動けば奴らはそちらに注目し、こちらがクラッキングを仕掛けていることに気づかない。
しかし、レイが矢面に立っていることは間違いない。
ただバトスピをするだけならばレイが負けることはない。
妾がレイの敗戦を見たのは1度だけ、世界大会で01デッキを相手にした時だけじゃ。
「バトスピで勝ったとしても、逆上した奴らに暴力で訴えられたら仕方あるまい。バトスピでは最強のレイも、結局は普通の中学生なのじゃからな」
「……ブラックゴートだったら、そんなことは絶対にないと断言できる。僕達は良くも悪くもバトスピ至上主義だったからね。ただネオ・ブラックゴートは金稼ぎを目的にしすぎているきらいがある。安全を確約はできない」
「……やはり、そうよな」
相手は拳銃や毒物を持っている極悪集団。
対してレイは何もない、普通の女子中学生。
相手が紳士に対応している内はいいが、反故にされればすぐに殺される。
「だから僕達は一刻も早く奴らを潰さないといけない。彼女を守る為に」
「うむ」
レイはレイの方法でネオ・ブラックゴートを潰す。
ならば我らは我らの方法でネオ・ブラックゴートを潰し、レイを救う。
「では、ハッカーはそのままクラッキングに努めよ。何かあればまた呼ぶとよい」
「……じゃあ早速いいかな」
「ほう、なんじゃ?」
「今日になってネオ・ブラックゴートのセキュリティプログラムの精度が一気に低下した。裏サイトの管理なんて、組織の中核を担う人物がやるものだ。つまり……」
「レイはもうそこまで進んでいる、ということか!」
「しかもそんな人物が倒されたら、奴らが逆上する確率は高い。90%以上の確率で、逆恨みされる」
「急げハッカー! 1分1秒も無駄にするでない!」
「勿論だよ。1時間以内にケリを付ける」
「30分じゃ」
「分かった。15分でやろう」
きっかり15分後、ハッカーはネオ・ブラックゴートの裏サイトのクラッキングに成功した。
そしてレイが奴らの親玉であるアゲハと戦っていることを知り現地へ急行した我らが発見したのは、左腕に怪我をした1人の女だけで、レイの姿はどこにもなかった。
◇◆◇◆
【ネオ・アゲハ目線】
目が覚めると、そこは知らない部屋でした。
白い壁に白いベッド。
左の腕と手に痛みを感じて確認してみると、私が自分で撃った箇所に丁寧に包帯が巻かれていました。
その時に初めて、ここがどこかの病室なのだと気づきました。
どうして私がここにいるのか。
その経緯を思い出そうとすると、あの人の顔が浮かんできました。
氷田零。
そうでした、私は彼女とバトルをしたんでした。
彼女とのバトルはとても楽しかった。
お互い魂を燃やしたような熱い戦いでした。
命懸けのバトルだったというのに、それを忘れるほどにーーあれ?
(なんで私は生きてるんですか?)
彼女とのバトルに、私は負けました。
あと1歩どころの話ではありません。
彼女は私のずっと先を生き、ずっと広い世界を見ていました。
完敗でした。
そして賭けのルールは『負けたら死ぬ』。
バトルに負けた私がなんでこんな所にいるのでしょうか。
(自殺しようにも銃もありませんし……)
途方に暮れていると病室の扉がトントンと叩かれました。
私がはいと返事をすると、扉の向こうからスーツ姿のおじさん2人が入ってきました。
「どちら様ですか」
「警察の者です」
警察ーーああ、思い当たる節は沢山ありますね。
賭博、銃刀法違反、殺人。
パッと思いつくだけでもこれだけでしょうか。
「なるほど、私を逮捕しにきたわけですね」
「ええと、私達はあなたを逮捕しに来たわけではありません。その腕の銃痕について、お話を聞いてもよろしいですか?」
私を逮捕する訳ではない?
どういうことでしょうか。
私がネオ・ブラックゴートの幹部だと聞いてないのでしょうか。
いやそもそもネオ・ブラックゴートなんて知らない、という風なのでしょうね。
「これは私が自分で撃ったんですよ」
「自分で!?」
警察の方は信じられないといった顔で私をマジマジと見つめています。
まあ、これが普通の反応ですよね。
「えっと、自分で撃ったって……どうしてそんなことを?」
「それで私が生を実感できるからです」
警察の方は、さらに困惑の表情を見せてくれます。
困惑の表情で、私を見ています。
「
「なっ……!」
私が自分を撃てば、みんな私を困惑した顔で見て。
私が誰かを撃てば、みんな私を恐怖の顔で見ます。
私が発砲するだけで、みんな私に注目する。
「……でも、私がもう誰かを撃つことはないと思います」
「……それは?」
「だって、もっと楽しいことを見つけたんですから」
2人のカードバトラーが創るバトルフィールドという世界。
この世界では75億いる人間も、その世界ではたった2人。
自分1人でもダメ、相手だけでもダメ。
それは2人で創り、高め合う最高の芸術作品。
みんなの世界に私を刻むのではなく、私達の世界に自分を刻み続ける。
その鼓動は他人の世界にいつまでも響き渡る。
今の私のように。
(レイ
◇◆◇◆
【レイ視点】
眼前に広がる真っ白な世界。
私はまた「境の世界」に帰ってきた。
「お疲れ様」
「うん」
前に来た時にはいた風花の姿も今はない。
いるのは私とヘタレ君だけだ。
「それにしてもまた死にかけてこっちに来るなんて……大変だったね」
「ま、ボスを倒したらそーなるかもとは思ってたからね。金の成る木を無くした奴らから恨まれるって」
ネオ・アゲハとのバトルの後、私は下っ端達に殴られ蹴られの酷い目にあった。
やばいと思ってすぐにこの世界に逃げてきたけど、向こうにある私の体がどうなってるかは知らない。
想像したくもない。
「まあいいけど……この先へいけば、元の世界に帰ることができる。本当に行くんだね?」
「うん」
私があの世界でやるべき事はもう終わった。
風花との最期の願い、ネオ・ブラックゴートの壊滅。
ネオ・アゲハとのバトルが決着した以上、私があの世界にいる理由はなくなった。
「そういえば、なんで君はそんなにも彼女の願いを重視してたんだい?」
「別にどうでもよくない?」
「いや、気になっただけさ」
「……ま、いっか。私は今の自分は否定しても、過去の自分は否定したくないんだよ」
「え、普通逆じゃないか? 過去よりも今って、ねえ?」
「
「……なるほど」
「逆に過去は変えられない。過去の自分を否定することになんの意味もない。なら
「それで、その選択は正解だったかい?」
「うん」
最後にあの世界で楽しいバトルが出来た。
元の世界でも久しく感じていなかったスピリットと一緒に戦っているあの感覚。
カードが主体となって動くあの感覚。
それだけで、風花の選択が間違いじゃなかったと断言できる。
「……なんで君は、僕に転生したんだろうね」
「根底にあるものが同じだからじゃない?」
「根が同じでも、花は全く違うさ」
「同じだよ、結局は」
そこにあるものは変わらない。
転生してもその部分だけは、変わらない。
「何に対しても逃げ癖があるのが私だからね」
人の本質は危機と相対した時に出る。
戦うか、逃げるか。
私はいつも逃げてきた。
「小学校の時も、中学校の時も、高校の時も、大学に入ってからも、就職してからも、何かあった時はずっと逃げてきた」
「僕も本番だと緊張で腹痛になるからね。僕が『腹痛だから仕方ない』と逃げ道を作るように、君は『自分のせいじゃない』と逃げてきた、てことかな?」
「んー、大体はあってる。正確には『自分で何もしない』ことで逃げてきたんだけどね」
小学校の時も、私は自分から何かしようとはしなかった。
中傷を受け入れてみんなから無視されても、何もしなかった。
この世界に来てからも、私は何もしていない。
ただ適当にその日を過ごし、たまたま手に入れた機会を掴んだだけだ。
「結局ヘタレ君と同じだよ。私はただ逃げてただけ」
「1人でネオ・ブラックゴートを倒したのに、かい?」
「……あれも逃げだよ。この瞬間から逃げるためのね」
この先に向かえば、私は元の世界に帰れる。
そうは分かっていても、「境を越える」という行為は「非常に怖いもの」なんだ。
何があるか分からない、不安が私の足を止める。
「……なら、帰らないのかい?」
「帰るよ。帰る、けど……」
足が前に進まない。
足が石になったみたいに、先に進むことを拒んでくる。
「あ、そうだ。1ついいかな?」
「……なに?」
「いやね、勇気の1歩を踏み出せない
やけに強調した「同類」だった。
そしてその提案は、多分、私に「逃げ道」を作るものだ。
「……聞かないとダメ?」
「聞きたくないのかい?」
それを聞いたら私はそれに逃げてしまいそうな気がする。
もう帰るのだ、聞いてはいけないと言っている自分と、ヘタレ君の提案に期待している自分がいる。
「
「……終活、ね」
正直そこまでいい提案には聞こえなかった。
でも、今の私にはそれで十分だった。
「ま、確かに最後くらいはね」
私は踵を返すと、また来た道を戻っていく。
元の世界じゃない、ゲームの世界に。
「次こそは『やめるやめる詐欺』にならないようにするよ」
「ふふ、そうなることを願っているよ。それじゃ、また会おう」
「うん。それじゃ、また」
「『死』なんて逃げ道には、絶対逃げてくれるなよ」
帰り際、ヘタレ君のそんな声が聞こえた気がした。