ターン45 かぐや姫の難題
終活。
それは2010年くらいから広く使われるようになった言葉で「人生の終わりのための活動」の略称、らしい。
「婚活」が「結婚活動」の略称なのに対して元が長い。
「結婚のための活動」にしてバランスとろーよ。
えっと、話を戻す。
終活ってのは、例えば生きている内に葬式の手順や墓場を用意するだとか、まあそんな感じ。
やったことないから雑な知識程度にしか知らない。
ともかく終活は自分のためでもあり、そして後に残る人達のためのものでもある。
私の場合は後者がメインの終活になる。
もし私がこの世界から元の世界に戻った時、「水野風花としての私」は元の世界で生きていても、この世界の「氷田零としての私」は死んだことになる。
そうなるとレツやマドカ、コジローやヒメ様に心配をかける。
今回はそれをしないための終活だ。
とはいえ、それにも問題はあるわけで……
(どーやって説明するかよね)
今の状況を説明するとなるとかなり面倒なことになる。
まず私が転生していること。
元の世界より10年以上前のこの世界にはいわゆる「なろう系」の作品が少なく、一から説明するのがかーなーり面倒だということ。
次にここがゲームの世界だと証明すること。
私からすればバトルの流れがおかしいと分かるけど、この世界の人達はそれが普通だと思っている。
「常識とは偏見のコレクションのことをいう」なんて名言があるくらいだし、それを指摘するのは不可能に近い。
(んー、未来の知識はある訳だしいっそ『未来人です。過去に遊びに来てましたが未来に帰ることになりました』って感じで誤魔化そうかな。青い猫型ロボットみたいに)
あれそれはまた戻ってくるんだっけ。
まあいいか。
と、ようやくお客さんが来たね。
「おーレイ、話は聞いたで。お疲れや」
「ごめんね、急に呼び出して」
私がこの世界に来てから関わった人は大勢いる。
ゲームの主要キャラはもちろん脇役まで広く交友がある。
その全員に説明するなんて無理だ。
特に友好の深い人にだけ伝えればいい、と結論づけた。
その1人目に私が選んだのがコジローだ。
「にしても呼び出す場所がこの神社て。懐かしいなー、確かワイとレイが初めて会った場所やろ?」
「あー、確かそうだったね。うんうん」
覚えてないなんて言えない。
コジローと初めて会うのってチカバ町大会じゃなかったっけ?
あ、それは
「あれからまだ1年も経ってないんやな。色々あったわ、ブラックゴート事件にチャンピオンシップ、ワイは行かへんかったがレイは世界大会にも行ったやろ? ほんま濃すぎやで」
「あー、まあね」
そりゃ普通の人生でゲームのような展開なんて起こりえませんし。
ゲームの世界とはいえ、そこの住人がみんな劇的な経験をしているとは限らない。
むしろ主要キャラクター達が特殊なだけ。
「でも、これ以上はないと思うよ」
ゲームのシナリオは終わってるしね。
幕が閉じればもう何もーーあれ。
(世界大会やネオ・ブラックゴートは?)
あれらはゲームシナリオにはない。
完全にオリジナルだった。
でも
「(いいや、深く考えるのはよそう)神社は神の領域とされているし、他人に聞かれずに話をするのにちょーどいいんだよ」
「さよか」
「……コジローと出会ってすぐだったかな。コジローが私に言ったこと、覚えてる?」
「ちゃんと覚えとるで。安心しや」
『言いたくないなら追求はしないが、言いたくなったら話は聞く』
確かそんな感じの内容だったはず。
出会って間もない頃に言われたからかなり印象に残ってる。
つまりこれから話すのは「話したくなったから話す」大事な話。
「かぐや姫って知ってる? あの月のお姫様の」
「なんやいきなり。『竹取物語』やろ、それくらい知っとるわ」
「私、今度月に帰ります」
「ーーーーーー」
コジローは豆鉄砲を食らったような顔でーー真面目な顔に変わりーー最後は哀れみの表情になった。
「いやなんか言ってよ」
「え、あ、いや、いきなり何言うてるんやコイツって思てな。つい」
「……まあ何言ってるのか分からないとは思うけどさ」
「いや、分かるで。言いたいことは」
でも意図は伝わっている……はず。
「(数学以外は私より頭いいからね、コジローは)一応言っておくと冗談ではないよ。私は月に帰ります」
「……ま、色々聞きたいことはあるけども、1つだけ教えてくれや。月の使者はいつ来る?」
「あれ、結構あっさりだね」
「色々聞きたいは聞きたいけどやな、それ聞いても何も変わらんやろ。少なくともワイはそれを聞かんくても戦える」
てっきりもっと追求されると思ってたから、少し拍子抜けした。
まあその方が楽でいいんだけど。
「で、それでいつ来るねんその使者は」
「えーと、使者はいないかな。私が自力で帰るだけ」
「はあ? ほんならなんで帰るねん」
なんで、か。
うーんそうだなー。
「かぐや姫には不死の霊薬を送るほど愛した人がいた。私にはいなかった、その違いかな」
「……ほんなら、レイの難題は何や?」
難題……んー、と。
「『私にバトスピで勝つこと』かな」
「ここに帝はおらんかもしれんが、貴公子はおるんやで。それもとびきりの奴がな」
コジローはドンと自分の胸を叩き笑ってみせた。
目が笑ってないのがなんともいえない。
ふざけてるようでふざけてない。
なるほど、貴公子ね。
というかさっきから返答のセンスよすぎでは?
なんとなくかぐや姫を引き合いに出したけど、それに喩えて返事するのはイケメンすぎるでしょ。
「で早速やる?」
「もちろんや! 龍に向かって矢を射らな、首の珠は取れへん」
……ほんと頭はいいんだよなあ。
真面目に授業やテスト受けてれば学年一位も余裕だろーに。
◇◆◇◆
「じゃあ後攻で」
「ワイのターンからやな。スタートステップ」
実はこの世界で1番バトスピをしている相手はコジローだったりする。
レツはいつもどこにいるのか分からないし、マドカは補習や課題で誘ってはいけない雰囲気があるし、ヒメ様は家の都合で忙しかったりと色々な理由がある。
でもやっぱり、最大の理由はコジローの性格にあると思う。
バトルをしていて気持ちがいい、不快にならない点。
「『闇楯の守護者ナーガン』を召喚や。ターンエンド」
そういえば、ネオ・ブラックゴートとのバトルが決着した辺りからまたバトスピに新弾が追加された。
『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード』や『烈の覇王セイリュービ』を生み出した覇王編は終了し、次の剣刃編に入る。
『森羅龍樹リーフ・シードラ』『黒皇機獣ダークネス・グリフォン』『白蛇帝アルデウス・ヴァイパー』などのスピリットに加え、『黒蟲の妖刀ウスバカゲロウ』『深淵の巨剣アビス・アポカリプス』など強力なカードが収録。
そんな剣刃編、紫の守護者シリーズナーガン。
コスト3以下のスピリットが効果で破壊された時、疲労状態でフィールドに残すことができる効果を持つ。
破壊の赤デッキ使いとしてはかなり鬱陶しい。
「メインステップ、『彷徨う天空寺院』を配置。ターンエンド」
……といっても対象方法はいくらでもあるんだけど。
残りライフ2まで削れば勝手にブロックしてくれるし、BPの高い多シンボルのスピリットで殴り続ければ崩壊する。
「『アメジスネーク』を召喚や。召喚時効果で1枚ドローする。ナーガンにコアを1つ追加してターンエンドや」
「私のターンだね。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。『プロフェット・ドラゴン』を召喚」
『プロフェット・ドラゴン』は召喚時に手札のコスト8以上のスピリットカードを好きなだけオープンして置くことで、その枚数分ドローできる。
私は『十剣聖スターブレード・ドラゴン』をオープンして1枚ドローした。
(本当ならアマテラス・ドラゴンもオープンしたいんだけど……一切の効果を受けない、だからなー)
アマテラス・ドラゴンは強いんだけど融通が効かなさすぎる。
まあこの完全耐性も未来ではリュキオースやトリヴィ・クラマにやられるんだけど……あれ、インフレがやばいな。
「8コスト3軽減、『彷徨う天空寺院』を疲労させることで2コスト支払ったものとして扱って残り3コスト。『十剣聖スターブレード・ドラゴン』を召喚」
『彷徨う天空寺院』の優秀な所は手元からスピリットを召喚する時にもその効果を使えるところだと思う。
似た効果の『十二神皇の社』は手札のカードだけだからね。
「アタックステップ。『十剣聖スターブレード・ドラゴン』でアタック。アタック時効果、最もBPの高い『闇楯の守護者ナーガン』を破壊する」
「ナーガン自身の効果で疲労状態でフィールドに残すわ。アタックはライフで受ける」
「ターンエンド」
紫相手にコア1個だけってのはかなり怖いけど……まあ大丈夫でしょ。
どーせCPUだし。
「メインステップ。『双頭の龍王バイ・ジャオウ』を召喚や。効果で系統:「妖蛇」を持つスピリットに【呪撃】を与える。アタックステップ、『闇楯の守護者ナーガン』でアタック」
「【呪撃】かー、ライフで受けるよ」
「ターンエンドや」
これでお互いライフ4。
バイ・ジャオウはLv2以上だと指定アタックまでしてくるから、このターンになんとかしたい。
ただ面倒なことに、バイ・ジャオウは破壊すると手札に戻る効果を持っている。
「(何か来ないかなー)ドローステップーーお。メインステップ、ネクサス『侵されざる聖域』を配置」
最強ネクサス『侵されざる聖域』
これでスターブレード・ドラゴンに【装甲:紫】が与えられる。
「『暗黒の魔剣ダーク・ブレード』をスターブレード・ドラゴンに直接
あ、これ先ドロー警察だ。プレミプレミ。
「アタックステップ、スターブレード・ドラゴンでアタック。アタック時効果でバイ・ジャオウを破壊する」
「バイ・ジャオウは破壊時効果で手札に戻る」
「ダーク・ブレードの
「ナーガンでブロック、そのまま破壊やな」
「ターンエンド」
次のターン、コジローは手札に戻したバイ・ジャガンを召喚して終わる。
手札に戻してもCPUの処理上、次のターンに召喚することが多いからね。
まあこっちはその分ゆっくりできるからいいけど。
私のターン、私はスターブレード・ドラゴンをLv4にしてアタック。
アタック時効果でバイ・ジャオウとアメジスネークを破壊し、ダブルシンボルでコジローのライフを減らした。
「『プロフェット・ドラゴン』もアタック」
「それもライフや」
これでコジローのライフは1。
多分次のターンもバイ・ジャオウ+αを召喚して終わりでしょ。
そして予想通り、コジローはバイ・ジャオウとウィングワインダーを召喚する。
続く私のターン、メインステップは何もせずにスターブレード・ドラゴンでアタック。
効果でコジローのスピリットを破壊して、残り1つのライフを取った。
「はい私の勝ち」
5人の貴公子にも、結局目当ての品を手に入れた人は1人もいなかったしね。
◇◆◇◆
【コジロー視点】
ネオ・ブラックゴート事件が落ち着いた頃、ワイはレイに呼び出されて千樺の神社に来た。
そこでワイは竹取物語に喩えた告白をされた。
つまりレイが
レイのその告白に、ワイの中で何か腑に落ちるものがあった。
レイとバトスピをしているといつも感じていた。
レイはワイと見ている世界が違う、と。
違いっちゅーもんは、それ1つだけ知っとったら生まれへん。
比べて、差異があって初めて分かるモンや。
つまりレイは
思い当たる節はある。
別の世界から来たという水野風花のことや。
水野風花の精神があった時、レイの精神はどこにあったか。
風花もレイに負けず劣らずで強かった。
しかし本人はそんなことないという始末。
もしもレイが、そんな世界の住人だったとしたら?
ワイらはレイが強いと思っとったが、それは逆や。
その事に気づいた時、ワイはレイに対する罪悪感と、
「かぐや姫には想い人がいたけど私にはいない」
その言葉を聞いて、レイが昔言っとったことを思い出した。
「レツがいれば大丈夫だから」
レイは多分、レツに期待してたんちゃうか?
レツなら自分と同等に戦えると。
レツなら
実際レツは強い。
レイに次いで世界大会準優勝者やし、レイがおらへんかったら世界一や。
せやからレイは、月に帰る言うたんや。
(そんなん納得できるかいな!)
レイがこれまで抱えていた悩みは伝わった。
理解できた。
せやかてそれでワイが納得できるかどうかは別や!
「レイの難題は何や」
竹取物語に倣って問いかける。
レイの答えは『バトスピで勝つこと』やった。
その返答で、ワイは自分の考察に丸を付けた。
やけども、それとバトルで勝つかは別の問題や。
結果は残りライフ5-0の大負け。
絶対に勝つと意気込んだのにこれや。
ワイは目当ての品を取ることが出来ひんかった。
「……なあ、具体的にいつになったら戻る、とかあるんか?」
「んー、ここでやることが全て終わったら、かな」
「さよか」
つまりまだ機会はあるっちゅーことや。
諦めるのは簡単。
やけど、ここで諦めたら男が廃る。
「ほんなら今度は糞やのうて、しっかりと貝殻を掴んだるわ」
一度失敗したからてなんや!
かぐや姫を手に入れるまで、立ち止まることなんてできるかいな!