「ごめん、この後用事があるから帰るね」
「ん? また別のやつと会う約束してるんか?」
「そゆこと」
あの後コジローと3、4回バトスピをした。
結果は言わずもがな。
だけどコジローだけにいつまでも時間を使える訳じゃない。
「……ほんなら、次はマドカ……いや、ヒメさんか?」
「正解。ネオブラックゴートの後処理で忙しいところを無理やり空けてもらった」
なんでもあの犯罪集団に関わった奴らを全員裁いてやるとかなんとか……まあヒメ様に任せとけば悪いことにはならないと思うし、うん。
ネオネオブラックゴートとかができないことを祈る。
「ほーん。ならレイ、ワイも一緒じゃダメか?」
「え、私は別にいいけど……どうして?」
「ヒメさん相手なら一から十まで説明せなかんやろ。ワイはそこまで気にせーへんけども、詳しく聞けるならそれに越したことはないわ」
「あー、なるほど」
確かにヒメ様はかぐや姫とか言っても通じないね……というかそれを考えるとコジローもよくあの説明で納得したよね。
「じゃあ行こうか。場所はヒメ様の家、三葉葵邸だよ」
◇◆◇◆
「よく来たなレイ、コジロー。大したもてなしはできんが、寛いでくれ」
「お気づかいなく」
三葉葵邸についた私達はヒメ様に迎えられ、値段の想像がつかないソファに腰掛けた。
「それで今日はなんの用じゃ」
「(んー、何から話そうかな)えーっとね」
「レイは別の世界から来た人間らしいねん。それで今度帰るんやと」
どう切り出そうかと言葉を選んでいると、隣に座ったコジローがど真ん中ストレートを放り投げた。
「……コジロー、いい医者を紹介しよう」
「いやなんでワイやねん」
ヒメ様の哀れみの目はよく分かる。
さっき私もコジローにその目をされた。
ま、勢いに乗ったくらいの方が話しやすいか。
「コジローの言ってることは事実だよ」
「なんじゃと?」
ヒメ様の視線がこちらに向く。
そしてコジローは窓の外に目を向けた。
「(わざとか)ちゃんと話すよ。えっと、まず私が異世界から来た人間ってことについて」
私が異世界人であることを示すいい材料が風花だ。
ヒメ様は風花がいた時、ずっと傍にいて話を聞いている。
信じる信じないは置いておいて、風花が異世界の人物だったという話は聞いたはず。
「私の本来の年齢は……向こうの世界だと22だったかな。名前は『水野風花』」
「なるほど、そういうことかいな。にしても年齢については初めてやな」
「コジロー、お主は黙っておれ」
「はっはっは、お断りや」
「……続けるよ」
コジローはこれだけで理解したらしい。
そしてヒメ様は多分……なんとなく理解したけど、詳しくはって感じかな。
「仏教用語に『輪廻転生』ってあるでしょ。死んだ魂が別の世界で新しい魂として生まれ変わる……みたいな」
「ん? 待てやレイ。死んだんやろ? それやったら帰れないんとちゃうんか?」
「話の腰を折らないで。今は私が異世界人だってことを話してるの」
コジローはなまじ頭が回る分、会話が飛ぶことがよくある。
今回はヒメ様に対して話す内容なんだから、そこは留意してほしい。
「『別の世界の水野風花』がなんらかの理由で『この世界の氷田零』に転生した。それが私」
「…………ふむ、荒唐無稽な話じゃの」
「冗談と流してくれないだけで充分だよ。一応、私の発言の裏が取れる結果が残ってたはずだけど」
「む? 結果とな?」
「この世界でも私が水野風花だった時期があったでしょ。その時の調査結果だよ」
私はその時いなかったけど、風花の記憶として残っている。
たしかこの世界にも水野風花はいて、彼女は私よりも知能レベルが低かったはずだ。
「元の世界では22歳の私と、この世界では13の私。ある程度は納得してもらえない?」
「…………しかし、それは」
「
その言葉にヒメ様はカッと目を見開き、コジローは帽子を深く被り直した。
眉唾な話だけど、2人とも本気で聞いてくれている。
「2011年3月11日東日本大震災」
それは太平洋沖を震源とし、津波により死者、行方不明者が無数に出た未曾有の大災害。
この世界でも起こるかどうかは分からない。
でも
「……3ヶ月後か」
どうせそれが起こる時に私はいない。
つまり私は未来を担保に今を信じろと言っている。
「将来出世するから金を貸してくれ」と言ってるようなものだ。
「……分かった、とりあえず今はお主の話を真実と仮定して話をしよう」
「ん、ありがとう」
「その上で問う。
ーーなるほど。
ヒメ様も少し察してたみたいだね。
ヒメ様の性格から、私がこんなことを言ってもふざけるなと話を聞いてもらえない可能性もあった。
だけど今のヒメ様は、半信半疑とはいえ話を聞いてくれる。
それはやっぱり風花のおかげなのかもしれない。
(風花……か)
この世界で現れた風花という精神の誕生はかなり特殊だ。
22歳の水野風花が転生し氷田零となり、氷田零が記憶喪失となって13歳の水野風花が生まれた。
「私はこの世界に生まれる前は水野風花だったし、この世界に生まれてからは氷田零だった。ヒメ様達の前に現れた風花は、私の記憶が錯乱して出てきたものだよ」
「えーっと、まず前の世界で大人やった風花が生まれ変わって子供になった。それがレイで、レイはレイとして生きてきたが背中を撃たれたショックで記憶がポーンと抜けた。自分が風花だった頃までな。そういうことやろ?」
「うん。それであってるよ」
「つまり、ワイらと初めて会った時から実はレイは風花やったっちゅーことや」
さすがコジロー。
あの説明でよく分かったなー、私なら半分以上何言ってるか分からなかったと思う。
正直自分の身に起こった事じゃなかったらここまで考えなかったろうし。
「で、ほかに質問は?」
「……いや、レイの言ってることは理解できる。しかし、なんというか、話が現実から離れすぎて飲み込めんだけじゃ」
「ワイもこれまでの所に質問はないな。しかし風花が別の世界の人間っちゅーことは聞いとったし、そこからレイも別の世界の人間っちゅーのもまあ受け入れたけども、そこが同一人物やったっちゅーのは初耳やで」
「別の世界……転生……記憶喪失……まるで小説のような話じゃな」
「やけど、レイが別の世界の人間っちゅー話を聞いて少しは納得できることもあるんちゃうか?」
「……まあ、の」
うーん、よく分からないけど納得してもらえたのかな?
ならここで話は一段落、次はコジローに指摘された点だ。
「で、私はその元いた世界に帰ろうと思ってるの」
「それは……どうやってじゃ?」
「世界を越える方法なんてどこも一緒だよ。境界を越えるだけ」
「???」
あれ、伝わらない。
えーと、なんて言おうか……境の世界とか言っても分からないだろーし……うーん。
「とにかく、帰る手段はもう見つけとる訳やな?」
「あ、うん」
コジローからのパスが入る。返答に困ってたから助かる。
「で、ワイが気になっとるのは戻っても大丈夫なんか、てことや。さっきの話やとレイは元の世界で死んだんとちゃうか?」
「死んでない。輪廻転生は説明のため、実際は魂だけがこの世界に飛ばされたイメージね」
大事なことだけど、私は元の世界で異世界トラックに轢かれただとかビルから飛び降りただとかは一切してない。
気づいたら飛ばされていた。
原因は不明だけど、元の世界に戻れる可能性は高い。
「しかし、それが全て本当じゃったとして、わざわざ帰る理由があるのか? ここではいかぬ理由があるのか?」
「……それは」
それは私がこの世界がゲームだと知っているから。
でも、これは言っちゃいけない。
これをいうと私はこの世界の人達を人間と見れなくなる。
「ヒメさん気ぃ使わせんなや。ワイらは1度もレイにバトスピで勝ったことがない。それがどーゆーことか考えてみぃや」
「なっ……まさか、そのために!? ありえぬ、レイも言っておったであろう! バトスピなんて
確かにそれは私がいった言葉だ。
バトスピは所詮ゲームでしかない。
そんなのに悩む方が無駄だとも言った。
ヒメ様にすれば、それを言った私がゲームのために元の世界に帰ろうとするのが不思議でしかないんだろう。
でも、ヒメ様は勘違いをしてる。
その言葉は、現実を大事にしろって意味じゃない。
「所詮ゲーム、て言葉はね。失敗してもいいから突っ込めって意味なんだよ。立ち止まったり下がったりしないための言葉なんだよ」
ゲームには残機がある。
ゲームにはリセットボタンがある。
ゲームは現実に影響しない。
だから止まるな、引き返すな、進め。
それはそんな意味の言葉だ。
ゲームだから蔑ろにしていいという意味じゃない。
「所詮ゲームというなら、人生だってゲームみたいなもんだよ。
「現実と……現実とゲームを一緒にするでない! 現実では失敗したら死ぬんじゃぞ!」
「生きがいをなくしても人は死ぬよ」
この世界にいても私は死ぬ。
元の世界に戻る途中でも死ぬかもしれない。
でもその死は同じようで全くの別物なんだ。
人間としての死か、生命としての死か。
その2つの選択肢なら悩むまでもない。
「実を言うと、私も怖かったんだよ。ほんとに元の世界に戻れるのか、死ぬんじゃないかってね。でも、ヒメ様のおかげで決心がついた」
私が自分の命惜しさに逃げるような人間なら、私はネオ・ブラックゴートとなんか戦ってない。
私が私でなくなるなら、私がその選択をとるはずがない。
私が死ぬのはどうでもいい。
それよりも私が私でなくなることの方が嫌だ。
怖くても、不安でも、生きるためには前に進まないといけない。
無鉄砲に進まなきゃ勝ち取れない。
『勇者は必ず運命を掴む』
私は運命を掴むために、勇者にならないといけない。