私が私の知る事実を告げた時から、コジローとヒメ様は妙によそよそしくなった。
あのまま三葉葵邸にいられるほどメンタルは強くないので、2人とはそこで軽く挨拶をして別れた。
まあ私の言ってることを真実として受け入れるのが難しいのも分かる。
私が転生者であることも、自分達がいる世界がゲームだってことも。
コジロー達はこれから自分の経験と照らし合わせて私の言葉を信じるか信じないか判断するんだろう。
私を信じて絶望するのか、私を信じないで気楽に生活するか。
でも、そのどっちに転がるとしても、私は最後になんて言って別れればいいんだろう。
言わなければよかった。
そのまま伝えずに、もっと婉曲に伝えて逃げればよかったと後悔する。
だけど、1度放たれた矢は指を離れたらもう2度と戻らない。
祟り神に向かって一矢放ったなら、2本3本射ても同じことだ。
その呪は既に私を蝕んでる。
「ごめーんお待たせ。補習が長引いちゃって」
「いや、いいよ別に」
私が元の世界に帰る話をしたコジローとヒメ様。
そして次はマドカだ。
マドカは転生した当時からの付き合いだし、私が元の世界に帰ると言ったらめちゃくちゃ引き止められそうな気がしたから順番を後に回した。
ホントならレツ→マドカの順番がよかったけど、レツはどこにいるか分からないから……あの主人公、決まった場所に居着かないから探すのも大変なんだよ。
「あ、レイちゃんがネオ・ブラックゴートを壊滅させたって話聞いたよ! さっすがレイちゃん! あんな奴らには負けないよね」
「私よりもヒメ様達の功績の方が大きいけどね。幹部を倒すだけだとブラックゴートの二の舞になっちゃうし」
「でも、レイちゃんが頑張ってくれたから裏サイトも見つかったんでしょ? もっと自慢していいよ」
「んー、まあその話はいいや。で、今日話したいことなんだけどね」
「えー、どんな感じで倒したとか聞きたいのに〜」
本題を切り出すタイミングは1度逃すと中々辛いからね。
もうさっさと伝えることにしよう。
「私は別の世界で生まれ育って、その記憶を持ってこの世界に転生してきたの。前世は水野風花って名前だった」
「……レイちゃん? え、待って。風花って、あの風花ちゃん???」
「そうだよ」
「ごめん、説明してくれる?」
まあこんな反応になるのは分かってた。
そのあとヒメ様達にした説明をそのままマドカに伝えた。
私が転生者であることも、元の世界に帰るということも。
ただしこの世界がゲームで、人がNPCであることは言ってない。
「ほへー、異世界ねー。ホントにあったんだ」
けど、その話を聞いたマドカの反応はとても軽かった。
一応話は信じてもらえたみたいだけど、軽すぎて理解出来てないんじゃないかと不安になる。
「コジロー達もそうなんだけど、よく信じるよね。普通嘘乙で終わらない?」
「? エイプリルフールでもないのに、レイちゃんがこんな嘘吐かないでしょ。え、もしかして嘘だった!?」
「いや、本当の話だよ。でも私がこんな話聞いても信じないよなー、て思っただけ」
マドカから謎の信頼をされてる。
確かに私はあまり嘘吐かないけど、それでもここまで信用されるとかえって不安になるよね。
「そもそもレイちゃんが私に話をするって時点で、私が聞いていいレベルのどーでもいい話か、私に相談しないといけないほど追い込まれてどーしよーもなくなった話って分かるもん。わざわざ呼び出して嘘はつかないでしょ」
「……確かに。私がマドカに話してる時点でホントにどーでもいいことかホントにどーしよーもないことだね」
「でしょ? で、そういう時の話は私が何言っても聞かないでしょ」
「うん」
「だから止めないよ。レイちゃんが決めたんなら、もう殺すくらいじゃないと止まらないしね」
さすがマドカ、私の事よく分かってる。
もう私の中で元の世界に戻ることは確定してるし、今は別れの挨拶をしてるだけ。
この後何を言われても、元の世界に帰ることを中止する気はない。
「昔からレイちゃんって大人びてるなーとは思ってたけど、ホントに大人だったなんてね。あ、ちゃん付けして大丈夫?」
「大丈夫だよ。マドカのは気にならないから」
「そっか。ならレイちゃんのままで!」
「うん」
そんな感じで、1番面倒くさくなると思ったマドカとの会話は1番あっさりと終わった。
思えばマドカとはこの世界に来てからずっとの付き合いだ。
私の予想以上に、マドカは私のことをよく理解してくれた。
「よーし、じゃあレイちゃん! オダイハマに新しくオープンしたカフェに行こ!」
「え、あ、うん」
マドカに手を引かれて歩き出す。
掴まれた手は、振りほどけそうにないほど固かった。
本当、いい友達をもったよ。
13年か……結構長いこといたんだね。
この世界に来て良かったことといえば、マドカと友達になれたことだと思う。
「ありがとね」
無意識に口から出たその言葉はマドカに届かなかったけど、それでも私は妙に満たされた気分だった。
◇◆◇◆
【ヒメ目線】
「ふむ、異世界ですか。確かに存在しますとも」
「それは真であるかゲンジ殿。何か証拠となるものでもあれば、妾も信じるに足るのじゃが」
レイから話を聞いた妾は『超未来技術研究所』を訪ねた。
『超未来技術研究所』はその名の通り、未来を創る革新的な技術を研究する場所じゃ。
前にこの研究所の式典に参加した際に
「『シュレディンガーの猫』という話をご存知ですかな?」
「知っておる。箱の中の猫が生きておるかどうかは開けてみないと分からない、という話じゃろ」
実際はもっと複雑な思考実験じゃが、ここで話に挙げるということはその程度の認識があれば問題ないじゃろう。
中学生相手に理解出来ぬような話をするような人ではない。
「つまり実際に異世界があるかは箱を開けるまで分からんと。妾が聞きたいのはそんな話ではないのじゃが」
「ええ。ですから
「ーーなに」
その後のゲンジ殿の話は眉唾物じゃった。
超未来技術研究所では既に異世界への移動実験を成功させたのだという。
ドローンを数秒ほど転移させただけの実験じゃが、そのカメラが撮った動画はこの世界のどこにも存在しない風景だったという。
「そこに映っていたのは巨大なロボットの姿でした。偶然にも周りに人の姿もあり、そこから大きさを推測するに20メートル近くある人型のロボットです。そんなものこの世界のどこにも存在しておりません」
ゲンジ殿に無理を言って動画を見せてもらったが、それはゲンジ殿の言葉が真実だと分かるだけじゃった。
建物と肩を並べる人型の機械。
なんのために作られたものなのかは分からぬが、この映像がでまかせでなければ確かに異世界の存在の証明になる。
「この世界が、風花のいた世界かもしれんのか」
「おや、何か言いましたかな?」
「……いや、なんでもない。ところでこの世界に行くことは可能か?」
「それは『人間が』ということですかな?」
「うむ」
妾の質問にゲンジ殿はしばらく沈黙してから答えを出す。
「……結論から言えば、可能でしょう」
「本当か?」
「ええ。異世界へ行ける技術がここにあり、そしてそれはまだ法で禁止されていません。しかし私達がこの技術を公表すれば、すぐに規制されるでしょうね」
可能か不可能かで言えば可能。
しかし暗にゲンジ殿は「行ってはいけない」と答えた。
それは技術の不足ではなく、倫理観からであろう。
「あと数十年もすれば地球の資源がなくなる、とまで言われているのです。そんな時に異世界の存在など公表してごらんなさい。資源を求めて世界間で戦争が起こりますよ」
「……うむ」
「異世界はあるかないか、現実的にはあります。しかし私達は『異世界はない』としなければならない。それが科学者の辛いところですね」
「……では、異世界とこの世界、ゲンジ殿はどちらがオリジナルだと考える?」
「オリジナル? どういうことですかな?」
「どちらの世界の方が『真の世界』に近いと思うか、ということじゃ」
レイはこの世界をゲームと言った。
そしてもしレイの言葉が真実ならば、この世界がゲームだということになる。
「真の世界ですか。私はそんなものあると思いませんけどね」
「と、いうと?」
「世界というのは私達の中にあるのです。私達が見て、感じて、認知できる範囲のことを世界というのです。実際、古代ギリシアの言う世界とはヨーロッパの南とアフリカの北と、今の世界よりもずっと狭い世界だったのですよ。それと同じです。外の世界を知ることで、自分の世界が広くなるものです」
「なるほど……」
自分達が知覚できる範囲を世界という、か。
なるほど、面白い考え方じゃ。
「ならばその異世界に行けば、妾の世界も広がるかの」
レイの世界では、この世界はゲームなのじゃろう。
レイは前世でどんなものを見て、感じてきたのか。
それを知ることができれば、妾もレイの世界に近づけるじゃろう。
「ええ、私もそう思いますよ。ですが私の良心が異世界転移の許可を出すことは絶対にありませんけどね」
「……ここまで話してそれはなかろう」