【レツ視点】
バトスピチャンピオンシップ決勝戦。
相対するは黒ずくめの謎の男。
俺は果敢に攻め続けるが、攻撃を上手く躱されて思うように攻められない。
「くっ……まだだ!まだ……」
「終わりだ」
黒ずくめの男がつまらなそうに呟く。
彼が提示したカードはーー
「そ、そのカードは!」
「キミの負けだ」
その言葉を告げられるのと同時に俺は目を覚ました。
この夢が、俺がバトスピを始める大きな契機だった。
◇◆◇◆
「おーいレツー!早く早くー!」
「ちょ、マドカ落ち着けって!転んだら危ないぞ!?」
「急がないでいられますか!ついに始まるのよ、『チカバ町大会』が!」
バトスピを始めてからちょうど一週間。
チカバ町では普段大会は開かれないのだが、今日は珍しくチカバ町ホールで大会をやるのだという。
滅多にない機会に集まったカードバトラーは多い。
「あ、私ワタルにお弁当渡してこないといけないから、ちょっと探してくるね。レツはテキトーに待ってて」
「あれ、ワタルも参加するのか?」
「うん。昨日デッキを新しく組み直してたわ。大会で当たったら優しくしてあげてね。じゃあまた後で」
「手は抜かないぞ。また後でな」
マドカと別れて、特にやることもないので近くの椅子に座って待つ。
ここにはチカバ町のカードバトラー全員が集まっているのか、参加者はぱっと20人はいそうだ。
しかし、
「あれ、レイはどこだ?」
そんなに広くない会場を見渡しても、レイのあの綺麗な白髪は見当たらない。
レイは凄いカードバトラーだ。
まだ戦ったことはないが、多分この町で1番強いだろう。
俺はレイのバトルを隣で見ていくつも学ばせてもらった。
レイは「バトスピの大先輩」と自称していたがそんなもんじゃない。
俺からしたらレイは「バトスピの大師匠」だ。
今回チカバ町大会があると聞いて、レイとのバトルも楽しみにしてたんだが……。
(まあもうすぐ来るだろ)
戻ってきたマドカと一緒に大会の受付を済ませる。
これが俺にとって初めての大会だ、キンチョーするなぁ。
「おいニーチャン。あんま固くなってもエエことないで?飴ちゃん食うか?」
番号札で指定された席に座って待っていると、隣に座っていた金髪の男が早口な関西弁で話しかけてきた。
「き、気持ちだけ受け取るよ。ありがとな」
流石に見知らぬ人にほいと渡された飴を食べる気にはならない。
というかなんだこの飴、イカすスメルスルメ味とか聞いたことないぞ。
あと名前からしてマズそう。
「さよか。まーあんまウマいもんやないからな。ところで、アンタが『レツ』で合ってるか?」
「え?そ、そうだけど」
「そうか!いや人違いやったらどーしよとおもてん。あ、ワイは『難波虎二郎』言います。『コジロー』て呼んでくれてええで。よろしゅうな、レツ!」
「お、おう……」
コジローと名乗る男は饒舌に話しかけてくる。
なんていうか、初対面なのに距離が近くてどう反応していいか分からない。
「えっと、俺の名前知ってるってことは、前にどこかで会ってる、のか?」
「いや初めましてやな。そもそもワイみたいな濃いキャラ、忘れる奴おらへんおらへん」
カカカ、と笑いながらコジローは答えを返す。
「この町で会ったあるカードバトラーに、あんたのこと聞いたんや。ソイツめっちゃ強いネーチャンでな、そんな奴がホの字のカードバトラーなんてごっつ気になるやん」
「(めちゃくちゃ強いカードバトラー……?)なあ、もしかしてそのカードバトラーって」
「『氷田零』て名乗ってたな。知り合いか?」
(レイ!)
どうやらレイの差金だったらしい。
レイの知り合いってことは、多分バトスピもかなり強いんだろうな。
そういえばワタルが関西弁のすご腕バトラーがどうとか言ってたような……。
「そういやあのネーチャンはどこや?前回のリベンジもしたいし、まさか大会に来とらんてことはないわな?」
「レイなら俺も探してたんだけど、今日はまだ会ってないな……。でもさすがにいないってことはないだろ」
「そうか、ならええわ。お互い頑張ろな!」
「おう!相手になったら手加減はしないぞ」
「ハハ、その前に一回戦で負けんようにな。アンタえらい緊張してたみたいやしな。ほな」
コジローはポイと飴玉を投げてきた。
俺はありがとな、とお礼を言ってその飴を口に含む。
「不味っ!!!???」
催してきた吐き気の処理をしてトイレから戻ってくると、ちょうど大会が始まる時間だ。
俺にとって初めての大会が幕を開ける。
◇◆◇◆
「『龍皇ジークフリード』でアタック」
「ああ、ブロックするスピリットがいない。ライフで受けます」
「ありがとうございました」
大会はトーナメント形式で、俺は何とか勝ち進むことができた。
そして次は決勝戦!
既に2位以上は確定だ。
このまま優勝もかっさらってやる!
「レツお疲れー。おにぎり食べる?」
「お、ありがとな。マドカはどうだった?」
「負けましたよーだ。あの関西弁に集中できなくて、ボロボロ」
「関西弁……コジローかな」
やっぱり凄いカードバトラーなんだ。
決勝で戦うのはレイか、コジローか。
コジローの話だとレイの方が強いらしいし、多分決勝戦は俺とレイのバトルになるだろう。
おにぎりを口に詰め込んで、レイのバトルを思い出す。
レイは白デッキ使いだが、赤や緑のカードも入れて予想外な動きをしてくる。
多くのカードバトラーはゆっくりと盤面を整えてから攻撃してくるが、レイは違う。
相手が準備できていないうちからガンガン攻撃してそのまま押し切る。
白よりも赤や緑デッキを使った方が似合うプレイングだ。
しかし白でそれをやっているからこそレイは強いのだと俺は思っている。
いつか俺もあんなふうに……
「……勝てるかな」
「ダイジョーブ!レツならあんな関西弁、ボコボコにできるわよ」
えっ。
「レイじゃないのか?決勝戦の相手は」
「違うわよ?私が負けたのは準決勝だし、レツの相手はあの関西弁のすご腕バトラーよ。『幻龍シェイロン』と『魔界七将デスペラード』のコンボは凄かったわ」
「ちょっと待て!じゃあレイは!?」
「レイちゃん?レイちゃんならさっき『オダイハマシティで遊んでる』て連絡があったわよ オダイハマのショップバトルで優勝したらしいわ。どうせ大会に出るなら、こっちに出ればよかったのに」
マドカの話を聞いて、思わず椅子から倒れそうになる。
レイはいるものだと思って肩透かしをくらった。
そっか、来てなかったのか……。
「レイはオダイハマの大会で優勝してるのか……じゃあ俺も頑張らないとな」
「おらへんおらへん思ったらホンマにおらへんのかいな。あのネーチャンにリベンジするの、楽しみやったんやけどな」
「!アンタは!」
後ろからいきなり声をかけてきたのは関西弁の男、もといコジローだ。
「決勝戦はレツとかいな、よろしゅうな。あと準決勝で戦ったネーチャン、アンタも強かったで。ワイほどやないけどな」
コジローはそう言いながら、マドカに飴を渡す。
やっぱり俺が貰ったのと同じやつだった。
「飯食い終わったなら、はよやろか。時は金なり、金と手札は多いほどええってな」
◇◆◇◆
決勝戦。
相手は難波虎二郎、マドカの話だと紫デッキを使うらしい。
「ほな、よろしゅう」
コジローは先攻『グリプ・ハンズ』を召喚。
効果で1枚ドローしてターンを終えた。
2ターン目、俺はネクサス『命の果実』を配置して『ストームドロー』でドローを進める。
3ターン目、コジローは2体目の『グリプ・ハンズ』を召喚。
スピリットのレベルを上げてアタックせずにターンエンドした。
そして俺の4ターン目。
「『ドラグノ大隊長』を召喚。アタックステップ、ドラグノ大隊長でアタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
コジローのライフを1つ削る。
残り4つ。
「んーせやなぁ。メインでマジック『ポイズンシュート』や。『ドラグノ大隊長』を消滅させる」
「紫のマジック!?」
『ポイズンシュート』は相手のスピリットのコア1個をリザーブに置くマジックカード。
この効果で『ドラグノ大隊長』がLv1コストを維持できなくなり消滅してしまった。
「『グリプ・ハンズ』のレベルを上げて、ターンエンドやな」
「……俺のターン、スタートステップ」
せっかく召喚した『ドラグノ大隊長』が消滅させられたのはかなり辛い。
シンボルがなくなったのに加えて、コジローがアタックしてこないのでコアもあまりない。
「ドローステップ」
引いたカードは『龍皇ジークフリード』
でもまたポイズンシュートを使われたら消滅してしまう。
「メインステップ『メタルバーン』をLv2で召喚。そのままアタック」
「ライフや」
「ターンエンド」
ライフの数は5対3と優位。
しかしコジローは『グリプ・ハンズ』の効果でドローしており、ライフを減らしてコアも確保している。
正直あまりいい予感はしない。
「ワイのターン、ドロー!お、ええヤツが来てくれたな。メインステップ『幻龍シェイロン』召喚や」
『幻龍シェイロン』の召喚時効果で全てのスピリットのコア1個を残して他はリザーブに置かれる。
これで『メタルバーン』のレベルは1に下がる。
「『幻龍シェイロン』をLv2にアップ。アタックステップ『グリプ・ハンズ』でアタックや!」
「ライフで受ける。『命の果実』の効果で1枚ドロー」
「ターンエンドや」
スタートステップ、コアステップ、ドローステップと宣言しながら次の手を考える。
『幻龍シェイロン』はBP8000。
今の手札のカードでは『龍皇ジークフリード』がLv3でないと勝てない。
「『龍皇ジークフリード』を召喚。『メタルバーン』と『龍皇ジークフリード』のレベルを2に上げる。ターンエンド」
「勢いが止まったな。じゃあこっちから攻めさせてもらうわ。『髑髏騎士ズ・ガイン』を召喚して『グリプ・ハンズ』をLv2にアップ。アタックステップ『幻龍シェイロン』でアタックや!」
「ライフで受ける」
Lv2の『幻龍シェイロン』はコアが1個のスピリットからブロックされない。
BPも高いし、このままだとまずい……!
「『命の果実』の効果でドロー」
縋る気持ちでカードを捲る。
引いたカードはーー
「ターンエンド。これでお互いライフ3やな」
「……さあ、どうかな」
俺が引いたカードは『ライフチェイン』。
そして俺のフィールドには『龍皇ジークフリード』がいる!
「メインステップ!『龍皇ジークフリード』をLv3に。そしてマジック『ライフチェイン』を使用!『龍皇ジークフリード』を破壊してコアを6個増やす」
「自分からXレアを破壊!?いや待て、『龍皇ジークフリード』は確か……!」
「『龍皇ジークフリード』の破壊時効果、ライフを1つ回復する!」
『龍皇ジークフリード』は破壊時にボイドからコアを1個ライフに置ける。
これでライフは4対3に戻る。
「『ドラグノ祈祷師』を召喚。召喚時効果でトラッシュの『龍皇ジークフリード』を回収。そして再召喚!」
「おいおいまじかいな……。1ターンでこんなにもやりたい放題やるんかい」
「『龍皇ジークフリード』Lv2でアタック」
「ライフや」
残り、2つ。
「『メタルバーン』でアタック」
「流石にそれはブロックさせてもらうわ。『グリプ・ハンズ』でブロック、破壊される」
「ターンエンド」
『龍皇ジークフリード』に『ライフチェイン』を使うコンボ。
これはレイから教わったモノだ。
おかげで一気に場を持ち直した。
これなら……
「『魔界七将デスペラード』を召喚。去ね『メタルバーン』『ドラグノ祈祷師』」
なんて思っていたら、突然絶望の門が開いた。
「『魔界七将デスペラード』の効果、全てのスピリットのコア1個ずつをリザーブへ送る。この効果で消滅したスピリット1体につき、コアを1個このスピリットに置く。『メタルバーン』『ドラグノ祈祷師』『髑髏騎士ズ・ガイン』で3コアや。『魔界七将デスペラード』はLv2に上がる」
「これが……紫のXレア……!」
前にマドカが言っていた。
「Xレアにはそれ1枚で状況をひっくり返せる力がある」と。
召喚しただけで俺のスピリットは『龍皇ジークフリード』1体だけになった。
さらに相手はコアを3個も増やしている。
「『グリプ・ハンズ』『幻龍シェイロン』をLv2にアップ。ターンエンドや」
でも。
でもレイは言っていた。
「カードの強さはレアリティによらない」って!
「メインステップ!マジック『ダブルドロー』!デッキから2枚ドローする。『ロクケラトプス』『大鎌フール・ジョーカー』をLv2で召喚。『龍皇ジークフリード』もLv2に上げる!」
「来るか!」
「アタックステップ!『大鎌フール・ジョーカー』でアタック、アタック時効果で『グリプ・ハンズ』を破壊」
『グリプ・ハンズ』のLv2BPは3000。
『大鎌フール・ジョーカー』の効果破壊の対象内だ。
「でもまだワイにはシェイロンとデスペラードがおる!『幻龍シェイロン』ブロックや!」
『大鎌フール・ジョーカー』はBP4000。
『幻龍シェイロン』のBPは8000。
「フール・ジョーカーは破壊される。続けて『ロクケラトプス』でアタック」
「特攻かい!そのアタックは『魔界七将デスペラード』でーー」
「フラッシュタイミングで『バインディングソーン』を使用する!効果で『魔界七将デスペラード』を疲労させる!」
「なんやて!」
『バインディングソーン』は緑のコスト2のコモンマジック。
その効果は相手のスピリット1体を疲労させるというシンプルだが強力なモノ。
コジローのスピリットは全て疲労状態、ライフは2。
俺のフィールドにはアタックできるスピリットが2体。
これで、届く!
「『ロクケラトプス』のアタックはどうする?」
「ライフで受けるしかないわ、ドアホ」
「『龍皇ジークフリード』でアタック!」
「しゃーないな。マジック『ポイズンシュート』。『龍皇ジークフリード』のコア1個を外す。……もう何もないわ、ライフで受ける」
コジローの最後のライフがリザーブに置かれる。
その瞬間、俺の中で張り詰めた糸がプツリと切れ、椅子に深くもたれかかった。
こうして俺は初心者ながら、チカバ町大会に優勝したのだった。