おじさんの家にもう一晩泊まり、私は実家に戻ることにした。
元々おじさんに早く会って解決しろと言われてたこともあるし、私もあんな屑のことを引っ張ったまま帰るのはなんか癪だ。
明日はレツと約束した3日目。
今日くらいしかあの人との関係にケリをつけられる日はない。
「お前も大変だな」
「!」
急に後ろから声をかけられてびっくりした。
声の主は昨日研究所であった新人さん。
研究所の外でも白衣なんてやばいな。
「えっと、なんの用ですか?」
「渡雷のおっさんから聞いたぜ。酷い親だな」
「同情するならお金ください」
そんなボケをかましていると、新人さんがまた昨日のようにカメラを向けてきたので手でレンズを隠した。
「つれないな」なんて言われたけど、私は写真が嫌いなんだよ。
「お前を追ってきたのは1つ聞きたいことがあるからだ。お前、この世界で1番輝いている人間に心当たりはないか?」
「輝いている人間?」
「そうだ。芸能でも運動でもなんでもいい。知らないか?」
「知りませんけど」
変な質問する人だな。
いつもカメラ撮ってたり、よく分からないこと聞いてきたり。
研究者ってやっぱりどこかネジ飛んでる人多いのかな。
「……そうか。それならいい」
「えっと、なんで私にそんなことを?」
「そうすべきだと俺が判断したからだ」
「は、はぁ」
昨日から思ってたけどこの人の自信はどこから湧いてるんだろう。
新人なのに偉そうだったり、今もよく分からない理屈で私に絡んできたり。
悪い人じゃないんだろうけど、あまり関わりたいとも思わない人だ。
「まあいい、大体分かった。じゃあな、母親のこと頑張れよ。あ、それと俺からのアドバイスだ。他人じゃなく、自分が納得するように話をしろ。他人の顔を見て我慢するよりよっぽどいい」
「は、はぁ」
新人さんはそれだけ話すとどこかへ行ってしまった。
……結局なんだったんだあの人。
まあ他人じゃなくて自分が納得するようにって言葉は確かにそうだと思うけど……。
「あ、というかあの人が探してるのってレツなんじゃ……
しまったな、テキトーに聞き流さずにしっかり考えればよかった。
あれ、でもそれならなんでわざわざあんな言い方をしたんだろうか。
まるでこの世界に主人公がいると認識しているような言い方を。
(いや、さすがに考えすぎか)
ま、いいや。
考えても仕方ない。
今度会うことがあればレツのことを話そう。
それより今はあの問題児と対面することだけ考えないと。
◇◆◇◆
「ただいま」
玄関のドアを開けて家に入る。
鍵は開いたまま、不用心だな。
あの人の靴はあるが、反応はない。
リビングに入ると案の定母は酔いつぶれていた。
「あ〜おかえり〜。ちょうどよかった、ビール買ってきて〜」
「未成年です、買えない」
何を言ってるんだこの人は。
しかし1日空けただけで部屋がものすごい汚いことになってる。
床はビールの空き缶だらけで、部屋中酒精の匂いが強い。
1番やばいのは台所。
何に使ったのか知らないけど皿や調理器具が乱雑に捨て置かれていた。
まじこの人今までどうやって生きてきたんだ。
「……ねえ母さん」
「ん? な〜に〜?」
目は虚ろ、顔は赤く思考力も低下してる。
どうせこの人は酒に酔っててまともに話もできそうにない。
せっかく私が覚悟を決めても相手がこれでは……ほんと最後までダメな人だったね。
……他人じゃなく私が納得するように、か。
「ねえ、もし私が死んだらどうする?」
「え〜、そうだったらあの人と結婚出来たかもね〜。やっぱり子持ちバツイチってダメよね〜」
「そっか」
その言葉を聞いて、私の中でこの問題は完結した。
せめて少しでも悲しんでくれれば、私も多少は救われただろうに。
13年。
長い間あなたの子供として生きてきたけど、私は最後まであなたを母親として見れなかったよ。
私は自分の部屋に戻ると、携帯である人に電話をかけた。
「あ、もしもし? 私。……うん。ちょっとお願いがあって。……あ、うん。来月以降のお金、振り込まなくていいから。……え? ああ、一応弁護士通して話すべきだったね、ごめん。……大丈夫だよ、それで訴えるとかしないから。……うん。じゃあね、ばいばい」
さて、これで全部終わり。
あの人達はどうか知らないけど、私はこの結果に納得している。
……………………
「ただいま」
「おや、まだ全部終わらせてないのにここに来たのかい?」
「別にいいでしょ」
親との関係を終わらせた私は境界に来た。
元の世界に帰るつもりはないが、1人でいても気分が鬱ぐだけなのでヘタレ君に愚痴でも聞いてもらおう、という訳だ。
「明日、レツ達とのバトルもあるし、その前に調整もしたいから。遊びながら話聞いてよ」
「いいよ。あの人も世界が違えば僕の母親だったかもしれないんだからね。僕に君を重ねてる訳じゃないが、僕にもその気持ちは分かるよ」
「……ごめんね」
お互いに4枚ドローしてバトルを開始する。
先攻、私は『プロフェット・ドラゴン』を召喚した。
『プロフェット・ドラゴン』は召喚時にコスト8以上のスピリットカードをオープンして手元に置くことで、オープンした枚数分ドローできる。
私は『時統べる幻龍神アマテラス』をオープンして1枚ドローした。
「私がいなかったら、ヘタレ君があそこにいたんだよね。……私が勝手に居場所を奪っちゃったから」
「いや、いいんだ。僕だったらこんなに上手くいかなかっただろうしね。大事な場面で腹痛さ」
2ターン目。
ヘタレ君は『ボーン・ダイル』を召喚した。
『ボーン・ダイル』はメインステップ中、白のシンボル2つが追加される。
「4コスト3軽減、1コストで『ジャコウ・キャット』を召喚。召喚時効果で『プロフェット・ドラゴン』を手札に戻し、【連鎖】で1枚ドローする。ターンエンドだ」
「それでも、あったかもしれない未来を奪ったのは本当のことでしょ。だからって私に何ができる訳じゃないけど。贖罪の気持ちはあるよ」
「それこそ同情するなら金をくれ、だよ。君だって意図して転生した訳じゃない」
「……そうだね。なら、私は謝らないし悪びれもしない。さて、ここからは普通にやろうか」
私はネクサス『彷徨う天空寺院』を配置してターンを返す。
『彷徨う天空寺院』はコスト8以上のスピリットを召喚する時に疲労させることで2コスト支払ったものとして扱う。
この効果のおかげで次のターン、手元のコスト8のスピリット達を召喚できる。
「ネクサス『水銀海に浮かぶ工場島』を配置。ブレイヴ『スカル・ガルダ』を召喚。召喚時効果で1枚ドロー。そして『ジャコウ・キャット』に
「えっと、手札増えたら破棄だっけ?」
「そうだよ」
『水銀海に浮かぶ工場島』は相手のターンに効果によって手札が増えたらその枚数1枚につき1枚手札を破棄しないといけない。
相手が手札を破棄するんじゃなく、自分がドローするネクサスもあるせいで偶にどっちがどっちか分からなくなるんだよね。
「メインステップ、手元から『時統べる幻龍神アマテラス』を召喚。『彷徨う天空寺院』を疲労させることで2コスト支払ったものとして扱う。召喚時効果で『ジャコウ・キャット』を破壊」
「『スカル・ガルダ』はスピリット状態で残す」
「ターンエンド」
今アタックしてもあんまり美味しくないし、次のターンかな。
『暗黒の魔剣ダーク・ブレード』を引けば確定でエクストラステップもつくし、下手に攻める理由もない。
「メインステップ。『黒皇機獣ダークネス・グリフォン』を召喚。不足コストは『ボーン・ダイル』より確保、消滅する」
「ありゃ」
と思ったらそれかい。
『黒皇機獣ダークネス・グリフォン』は召喚時に相手のスピリット2体までを手札に戻すことができる。
せっかく召喚したアマテラスを手札に戻されるーーと思ったけど、ヘタレ君は敢えて戻さない選択をした。
「【連鎖】効果で2枚ドロー。さらに『スカル・ガルダ』を
召喚時効果で手札に戻さなかったのは、どうせ消滅させられるからってことね。
「アタックはライフで受けるよ」
「これでターンエンドだ」
ダブルシンボルのアタックを受けて残りライフ3。
さっさとダークネス・グリフォンは処理したい。
「メインステップ。『真・裁きの神剣トゥルース・エデン』を召喚。召喚時効果、手札の「剣使」スピリットと「剣刃」ブレイヴをコストを支払わずに好きなだけ召喚する。『龍輝神シャイニング・ドラゴン・オーバーレイ』と『深淵の巨剣アビス・アポカリプス』を召喚」
『深淵の巨剣アビス・アポカリプス』には召喚時効果があるけど、『真・裁きの聖剣トゥルース・エデン』の効果で召喚したカードは召喚時効果が発揮されない。
そして相手は召喚時バーストじゃなかったみたいだね。
「『龍輝神シャイニング・ドラゴン・オーバーレイ』は自身の効果でブレイヴ2つまでと
ついでにバーストをセット。
そしてアタックステップに入る。
「『龍輝神シャイニング・ドラゴン・オーバーレイ』でアタック。まずは『真・裁きの聖剣トゥルース・エデン』の効果でバーストを破棄する」
破棄したバーストは『絶甲氷盾』。
「バーストを破棄したので相手のスピリット1体を破壊する。もちろん対象はダークネス・グリフォンだよ」
「うっ、バースト破棄した上にスピリットを破壊か。これはピンチかも……」
「さらにシャイニング・ドラゴン・オーバーレイのアタック時効果、BP10000以下の『スカル・ガルダ』を破壊する。【強化】もあるけど関係ないからいいや」
「トリプルシンボルか……ライフで受ける」
「ターンエンド」
これでライフの数は3対2、そこだけ見れば逆転した。
でも白紫相手ならこれだけで安心できないんだよなあ。
「うーん、このターンで決めないとな。『旅団の摩天楼』を配置。配置時効果で1枚ドロー。『スカル・ガルダ』を召喚、効果で1枚ドロー。『冥府三巨頭ザンデ・ミリオン』を召喚」
おっとまじか。
『冥府三巨頭ザンデ・ミリオン』はダブルシンボルのスピリット。
『スカル・ガルダ』が
しかもそれだとバーストの『絶甲氷盾』で耐えられない。
ほんとギリギリだった。
「アタックステップ、『冥府三巨頭ザンデ・ミリオン』でアタック」
「いやー、一手間違えてたら負けてたね。マジック『双光気弾』。『スカル・ガルダ』を破壊する。アタックはライフで受けて、バースト『絶甲氷盾』を発動ね」
『双光気弾』をセットしてたら負けルートだったね、危ない危ない。
使えるコアが4つしかなかったからバーストに『絶甲氷盾』を選んだけど(アタック後のフラッシュタイミングに手札から使用するとオーバーレイを消滅させる必要がある。ライフ減少時バーストで使用すると減ったライフのコアの分、オーバーレイは消滅しなくて済む)、もう1個コアが多ければどっちをセットしてたか分からない。
「ターンエンド。先に言っておくと何も無いから、アタック宣言だけでいいよ」
「そう? じゃあメインステップは何もせず、アタックステップで『龍輝神シャイニング・ドラゴン・オーバーレイ』でアタック」
「ライフで受ける」
「はい私の勝ち」
ヘタレ君のライフは0。
これでゲームエンドだ。
「あー、やっぱりこういうバトルはあの世界では出来なかったからねー。久々にやるとかなり新鮮だよ」
「それはよかった。まあゲームの世界だからね。……ところでさ」
「ん? なに?」
「君の記憶だと僕もゲームのキャラクターだろ?
「!」
ヘタレ君の言ってることはもっともだ。
それは
「なん、で……?」
「僕にも分からないけど……ふふ。とにかく、明日のレツとのバトルが楽しみだね」
予感はあった。
レツが主人公のこの世界で、レツが望めばどんな事だって起こりうると、そんな気はしていた。
でも、まさか、本当に、レツには世界を変えてしまう力があるの?
「ーーははっ」
これまでのことが走馬灯のように思い出される。
レツがバトスピを始めた日のこと。
レツとチャンピオンシップで戦った。
レツやヒメ様と一緒に攫われたこともあった。
そしてレツと世界大会で戦い、諦めた。
風花に戻り、レツと何度も戦った。
レツを無視してネオ・ブラックゴートと戦い続けた。
「最後の最後、レツは輝夜姫を守る帝になれるのか。今から楽しみだね」