ついに約束の日だ。
「私の世界に追いつく」
レツのその言葉は有言実行された。
レツ達と会う前にテキトーな人にバトルを挑んで確認したけど、CPUの動きでは無くなっていた。
でもまだ通りすがりの人にバトル挑んでOKされる辺り、ゲームの要素は残ってるね。
ともかく、これでこの世界のバグが直り私はバトスピライフを満喫できるーーはずだった。
(レツは世界を変えた。けど)
けど、世界の変化はむしろ私の心に大きな揺らぎをつくった。
レツは世界を変えた。
それと比較して私はーー私は風花だった頃から何も変わっていない。
(今日のバトルで私も何か変わるといいんだけど)
私はレツに呼び出されて学校に来ていた。
なんで休日に学校来ないといけないんだよと思ったけど、逆に休日の学校とか人全然いないからいいかと考え直す。
「あ、レイちゃん! こっちこっち!」
「「「…………」」」
「えっと、はい」
教室に入るといつも通りのマドカと、いつも通りじゃない御三方に迎えられる。
レツ、コジロー、ヒメ様はヤケに険しい顔つきで睨んでくる。
特にコジローはかなり殺気だってる。
ただでさえ不良っぽい格好なのに、これはもう言い逃れできないほどヤンキーだね。
「あ、目の下にクマができてる。えっと、みんな大分疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「もう大変だったんだよー! この3日で何百回もバトルすることになって! 私も実は眠くて眠くて……」
「マドカはまだいいだろ。俺たちはほとんど寝てないんだから」
「え、馬鹿じゃん」
なにやってんの?
徹夜でバトスピ?
なにやってんの?(2回目)
「保健室って空いてたっけ?」
「職員室に行けば開けてもらえるんじゃない?」
「大丈夫だって! バトル1回くらいなら余裕でーー」
「寝なさい」
寝不足の3人を無理やり保健室に連れていってベッドに寝かせる。
最初はぐだぐだ言ってたけど、布団に入るとすぐ寝息を立て始めた。
さすがに寝不足でやばい人とバトスピする趣味はない。
3日という期限を定めた以上、死ぬ気で頑張ったのは伝わるけどそれで体を壊したら元も子もないしね。
「マドカは大丈夫?」
「私も少し寝たいなー。6時間くらいしか寝てないし」
「十分です」
レツ達はとりあえず少し寝かせておいて……4、5時間くらい。
昼すぎまで寝かせておけばいいかな。
「で、何やってたの? ここ数日」
唯一の生存者であるマドカに、この3日の特訓の内容を聞く。
まず私が提案したお互いに手札を見せてバトルする、ということを徹底してやったらしい。
戦っている本人だけでなく、外から見てる人が「こうした方がいいのでは」と助言することで今まで見えなかったものが見えてくる。
岡目八目というように外から見た方がよく分かることも多い。
そしてあとはひたすら数をこなす。
最初は成果が薄かったらしいけど、昨日の夜に急にみんな戦い方が変わって、コジローやヒメ様がレツに勝つこともしばしばあったとか。
それで「打倒レイ」と調子に乗って、気づいたら夜が明けてたという。
「昨日の夜から……その時、レツって何かしてなかった?」
「うーん、何もしてないと思うけど。ずっとバトスピしてただけだし」
ずっとバトスピしてただけ、か。
なんか分かりやすい覚醒イベントがあった訳じゃないのね。 あれ、でも昨日の夜なのか。
確か私が気づいたのも昨日の夜……それまで1回もバトスピしてなかったから分からないけど、結構ぎりぎりのタイミングだったのかな。
ま、どーでもいっか。
「起きるのを待ってても暇だし、バトスピやらない? なんなら駅前のショップにいく?」
「そんな時間はないでしょ。いいよ、ここでやろう」
マドカに誘われて、私達は誰もいない教室でゲームの準備を始めた。
CPUとしてのマドカでなく、人間としてのマドカとバトルするのはこれが初めてだ。
なんか無性に嬉しい気分になる。
ようやくマドカとバトスピができる。
「そういえば覚えてる? マドカがバトスピを始めたばかりの頃、『Xレアが最強だ、Xレアがあれば勝てる』って言ってたの」
「やめて! 覚えてるからやめて! 今思うと本当恥ずかしいから!」
「今から使うデッキ、XレアどころかMレアも入ってないよ」
「えっ!」
あの時はCPU戦前提だったし、赤緑と速攻で決めるデッキだったけど、今回はその前提から違う。
まともに組んだ結果、本当にMレア以上がなくなったデッキだ。
剣刃編の強デッキというと、白紫とか青緑とか、だいたい組むと高くなる。
この世界ではカードはレアリティで値段が統一されてるけど、元の世界ではデッキ1つ組むのにウン万とかザラだ。
そんな剣刃編にも、安く組める強デッキはある。
XレアもMレアもいらないデッキ。
「じゃ、先攻は私ね。ネクサス『鉄壁なる巨人要塞』をLv2で配置。ターンエンド」
「青デッキ?」
それは青強化を軸にしたデッキだ。
青の【強化】は「自分の『相手のデッキ破棄効果』の枚数を+1する」
たかが1枚、されど1枚。
このデッキは一気に十何枚も破棄するデッキじゃない。【強化】でちまちま破棄していくデッキだ。
「私のターンね! メインステップ、私もネクサス『黄昏の暗黒銀河』を配置! ターンエンド」
マドカは赤連鎖かな。
相変わらず地竜が好きらしい。
『闇龍ダーク・ティラノザウラー』はライフ貫通効果があるからある程度の余裕をもって戦いたい。
「ネクサス『柱岩の海上都市』を配置」
『柱岩の海上都市』は【粉砕】をもつスピリットが召喚された時、相手のデッキを2枚破棄するネクサス。
そして『鉄壁なる巨人要塞』はLv2だと、自分の闘神スピリットに【粉砕】を与える。
「『光の衛士アドリアン』を召喚。ネクサスの効果で【粉砕】が与えられているので2枚破棄、【強化】込で3枚破棄する」
『光の衛士アドリアン』は1コストで【強化】をもつ青のスピリット。
系統が「闘神」なので召喚した時点で【粉砕】が与えられ、【粉砕】を持つスピリットが召喚されたで2枚破棄。
自身の【強化】でさらに追加で1枚破棄できる。
「続けて『巨人小隊』を召喚。同じくネクサスの効果、強化込で3枚破棄する」
これで6枚破棄。
ただスピリットを召喚しただけでこれなんだから、本当青の【強化】は強いね。
「バーストをセットしてアタックステップ、『巨人小隊』でアタック。【粉砕】と【強化】で2枚破棄」
「ライフで受けるわ」
「『光の衛士アドリアン』でアタック、2枚破棄」
「それもライフで受ける」
「ターンエンド」
先攻2ターン目、既にマドカのライフは3だし、デッキも10枚破棄した。
なんなら低コストのスピリットで特攻してるウチにライフ0なんてこともあるくらいだ。
「『ダーク・ディノニクソー』を召喚するわ。そしてマジック『ジュラシックフレイム』を使用。BP3000以下の相手のスピリットを破壊する! 対象は『巨人小隊』!」
「『巨人小隊』の効果、闘神が破壊された時2枚破棄する。『光の衛士アドリアン』の【強化】で3枚破棄」
「くっ……でも大元を破壊したんだし、これ以上はないわよね!」
「バースト、『双光気弾』。2枚ドローしてフラッシュ効果で『黄昏の暗黒銀河』を破壊。不足コストは『光の衛士アドリアン』と『鉄壁なる巨人要塞』から確保」
「嘘!?」
低コスト低BPのスピリットで殴るデッキなんですし、当然破壊後バーストくらいありますよ。
『双光気弾』はバースト効果で2枚ドロー、フラッシュ効果でネクサスかブレイヴを破壊できる。
元いた世界では解除されてるけど、こっちでは制限真っ只中だ。
「んー、ならマジック『ラッシュドロー』を使用。効果で2枚ドローして、2枚オープン。【連鎖】をもつ『闇龍ダーク・ティラノザウラー』を加えるわ。残った『ピナコチャザウルス』はデッキの上に戻す。ターンエンド」
「私のターン、『鉄壁なる巨人要塞』をLv2に上げて『豪拳のロジャー』を召喚。『豪拳のロジャー』は【強化】持ちの闘神だから、3枚破棄。さらに『重槍巨人ランス』、これも【強化】持ちだから+2して4枚破棄ね。『ストロングドロー』で3枚ドローして2枚破棄する、と」
さて、マドカのデッキは残り11枚。
3、2、2、2、2。ちょうどか。
「『怪力巨人アドルファス』を召喚。不足コストは『豪拳のロジャー』から確保。闘神だから3枚破棄ね。アタックステップ、『怪力巨人アドルファス』の効果、闘神がアタックした時そのスピリットをBP+2000してデッキを1枚破棄する」
「1枚? まあ2コストのスピリットだし、それくらいよね……って待って! それって【強化】も入れると……!」
「『重槍巨人ランス』でアタック。【強化】込の【粉砕】で2枚、アドルファスの効果で2枚破棄。さらにBP+2000されてBP5000だね」
「『ダーク・ディノニクソー』はBP4000だし、フラッシュにもコアが……ライフで受けるわよ!」
「『怪力巨人アドルファス』でアタック。【粉砕】で2枚、アドルファス自身の効果でさらに2枚破棄」
「ライフで受けるー!」
この破棄でマドカのデッキは0。
私はターンエンドを宣言し、マドカのスタートステップにデッキが0で、私の勝ちだ。
「はい私の勝ち」
「あー! 負けたー!」
「6ターン、多分最速レベルじゃないかなこれ。初手にあのネクサスが2枚来たのがよかったよ」
『鉄壁なる巨人要塞』と『柱岩の海上都市』のコンボは前にヒメ様ともやったね。
闘神を召喚するだけで2枚破棄できるのはやっぱり強い。
……あれ、もしかしてわざわざ青強化に拘らなくてもギ・ガッシャループでよかったんじゃ?
「もう1回! もう1回やらせて!」
「あ、じゃあ今度は別の破棄デッキ使うね。今度はさっきほど早くないと思うから」
「今度は負けないわよ!」
マドカとそのまま2回戦目に突入する。
白紫や青緑がトラウマレベルに酷かっただけで、赤連鎖も決して弱くはない。
さっきは私のデッキが上手く機能してたから難なく勝てたけど、今度はかなり悪戦苦闘することになった。
「ねえ、さっきから同じカードぐるぐるしてるけど、いつになったら止まるの? それとどんどんデッキが薄くなっていってるんだけど」
「理論上ずっと続くよ。マドカのデッキが0になったら終わりかな」
「それ私の負けじゃん!」
悪戦苦闘した(ただし負けたとは言ってない)。