「レイちゃん! 遂に始まるのよ、『コアリーグ』が!」
「何その無駄な倒置法」
レツのおじさんの家で調べ物をしていると、帰ってきたマドカがものすごい勢いで入ってきた。
「で、なに? コアリーグ?
「CSほど大きい大会じゃないんだけどね。オダイハマハイパードームを貸し切ってやるらしいのよ! 来月から予選も始まるんだって!」
コアリーグ……ゲームにそんなイベントあったっけな。
あったんだろうな、多分。
もう何年も前のゲームのことだから細かいこと忘れてて困る。
まぁ大会が開催されるというなら出ようかな。
「あれ、来月から予選?てことは」
「そう。予選を勝ち進んだ人だけが本戦に出れるの」
「予選って、どこでやってるの?」
「え? えーっと、確かね……あれ?」
あ、忘れたやつですねこれ。
えーと『コアリーグ』『予選』で検索検索……と。
「地域のショップバトルで優勝したら、本戦出場権が貰えるのね」
「そう! それよ!」
地区予選までのCSじゃんそれ。
「来月のショップバトルイベントだから、チャンスは4回だね。私とレツとコジローと……あとはマドカとワタルで泥沼かな?」
「うっ、そうよね……。私も頑張らないと」
「なんなら4回全部に出場しようかな」
「それは辞めて! 希望がなくなるから!」
「冗談だよ」
さすがにそんな無粋なことはしない。
そんなことしてもレツが強い人とバトルする機会を失うだけだ。
……あれ、そういえば私まだレツとバトルしたことなくない?
「マドカ! レツが今どこにいるか知らない!?」
「えっ! いきなりどうしたの」
私の目的は
そのためにレツにバトスピを教える、レツを強くするために強い人を宛てがう。
そしてレツは強い人と戦って、私とはまだバトルしていない。
いつの間にか手段が目的になっていた。
本来の目的は簡単に達成できたのだ。
「レツなら多分、オダイハマを見て回ってると思うけど……レツは電話持ってないし、どこにいるのかまではちょっと」
「そっか。じゃあ出かけてくるから、お留守番よろしく!」
「え、ちょっと、レイちゃーん!!!???」
マドカに部屋の鍵を押し付けて、私はレツを探しに飛び出した。
◇◆◇◆
「レツ! 私とバトルして!」
「ん? うわっ、レイ? どうした急に!?」
レツはマンションの目の前の「勝利の記念公園」にいました。
すぐ見つかってよかった。
オダイハマ中を走り回るとかあんまりしたくなかったし。
「ほら、ポケモンだって目が合ったらバトルでしょ? だからレツと目が合った、はいバトルね!」
「落ち着けレイ! 言ってること無茶苦茶だぞ!?」
「ええい! うるさいぞ君たち!」
レツにバトルを申し込んでいると声が大きかったのか、金髪のお兄さんに注意されました。
ホントごめんなさい。
「ソウマ殿、気持ちは分からんでもないが少し落ち着いたらどうじゃ。せっかくの茶会じゃし、優雅にの」
「はっ……すいません
(ヒメ様? て確か……)
「あれ、キミってさっきの……」
「また会ったの、レツ」
ヒメと呼ばれる着物をしっかりと着付けた蒼髪の女の子は楽しそうにコチラを見てくる。
確かゲーム内でもトップ3に入る強さじゃなかったかな?
「三葉葵家の風習で、妾達もバトスピに興じておるのじゃが……どうじゃレツ、よかったらそなたもやらぬか?」
「ヒメ様! そんな平民などと戯れずとも、御相手なら私が」
「なに、
おおー、辛辣だねこの姫様は。
思っても口に出しちゃいけないよそういうのは。
「様子見などと言っていつまで経っても攻めて来ない……そんな者に妾の相手が務まろうか。接待はいらないのじゃ」
(え?)
ヒメ様の発言に引っかかるものを感じる。
いつまで経っても攻めて来ない、それはCPUの仕様だ。
そしてそれを接待と言い切った。
それはつまり、ヒメ様はその動きが不自然だと感じている、てこと?
「……ねぇ、ヒメ様。よかったら私とバトルしてくれませんか?」
「レイ?」
気づいたら私はそう言っていた。
さっきまではレツとバトルする気だったが、これは事情が変わってくる。
「ふむ、別に構わんよ。どうやらかなり自信があるようじゃな、楽しみじゃ」
この世界に転生してきた時、考えたことがある。
果たして転生してきたのは私だけなのか、と。
私以外にもNPCに転生した人はいるんじゃないか。
もしかしたらヒメ様がそうなのかもしれない。
そう思ったら、バトルを挑まずにはいられなかった。
「……私は青デッキを使います。新弾のカードを使った、青デッキです。本気で勝ちにいきます」
「それは奇遇じゃな。妾も青デッキを使うぞ。同じく新しいカードを入れた青デッキをな」
ヒメ様も青デッキ。
私の予想が正しければ、多分ミラーマッチだ。
(負けられないな)
◇◆◇◆
新弾が発売された現在のカードプールにおいて「本気で勝つデッキ」と言ったら何か。
制限カードの『大天使ミカファール』それとも『2コスビート』の速攻か。
多分そのどちらでもない。
『栄光の表彰台』これを使ったコントロールデッキだ。
ノーコストでネクサスを配置し、シンボルとコアを増やす。
そして増えたコアで大型スピリットを速攻で出すデッキだ。
そもそも『バトルスピリッツ デジタルスターター』においてプレイヤーが使うデッキは限られてくる。
ライフを減らして『インビジブルクローク』でゴリ押して勝つデッキか、『機動要塞キャッスル・ゴレム』や『神造巨兵オリハルコン・ゴレム』と一度に大量に破棄できるスピリットでLOを狙うデッキだ。
スピリットを沢山召喚したり、一々アタックなんてしてたら処理が重くなってストレスがかかる、という悲しい理由からだけど、まあ最終的には大体の人がこのどちらかのデッキをに行き着く。
現在の環境ではシンボルを2つ以上持つスピリットが少ない。
だから『インビジブルクローク』を使うデッキよりも、青デッキの方を使うプレイヤーの方が多い、と思う。
「さて、では始めるかの。先攻は妾じゃ。ネクサス『栄光の表彰台』を配置、ターンエンドじゃ」
「……メインステップ、ネクサス『栄光の表彰台』。ターンエンド」
やられた。
やっぱりヒメ様もネクサスデッキか。
しかもお互いに初手『栄光の表彰台』それなら先攻のヒメ様の方が展開が早い。
このじゃんけんに勝てなかったのはプレミだ……!
「メインステップ、ネクサス『百識の谷』を配置じゃ。『栄光の表彰台』の効果で妾のデッキを4枚破棄することでコストを確保する」
あ、そんなことなかったわ。
ヒメ様もCPUだこれ。
「『調教師ライナ兄弟』を召喚、召喚時効果でボイドからコアを2個、『調教師ライナ兄弟』に置く。ターンエンドじゃ」
頭から熱が引いていくのが分かる。
サウナから水風呂に入ったみたいに、スゥーっと体が冷えていく。
「メインステップ、『栄光の表彰台』をLv2にアップ。『栄光の表彰台』をもう1枚、Lv2で配置。既に配置している『栄光の表彰台』の効果で3枚破棄してコスト確保」
さらに『栄光の表彰台』Lv2効果。
自分がネクサスを配置した時、ボイドからコアを1個リザーブに置く。
「『心臓破りの巨大坂』を配置。2枚の『栄光の表彰台』の効果で2コアブースト」
ヒメ様は『栄光の表彰台』をLv1のまま『百識の谷』を配置した。
Lv2ならコアを増やせたのに。
CPUがスピリット・ネクサスのレベルを上げるのは、手札から出せるカードがない時だけだからね。
あの動きだけで、ヒメ様がCPUだと断定できる。
「『機動要塞キャッスル・ゴレム』を召喚。召喚時効果でデッキを15枚破棄する」
『栄光の表彰台』のおかげで1コストも支払わずに3コアブースト、さらにシンボルを2つ稼いだ。
だからこそ4ターン目と早い段階からこんな大型スピリットを出せる。
「ターンエンド」
「ほほう、やるではないか。『百識の谷』の効果で2枚ドローするぞ。……メインステップ、『ドラグノ祈祷師』を召喚、効果で『機動要塞キャッスル・ゴレム』を手札に戻す。ターンエンドじゃ」
次のターン、私は引いてきたカードは2枚目の『機動要塞キャッスル・ゴレム』
ヒメ様のデッキは残り12枚。
それじゃあさっさと終わらせようか。
「『機動要塞キャッスル・ゴレム』を召喚。召喚時効果で15枚破棄。ターンエンド」
「スタートステップ、デッキ0で妾の負けじゃ」
「はい私の勝ち」
◇◆◇◆
「おお! すげーなレイ!」
「まさかヒメ様が負けるとは……あなたのご友人は、とてもお強いカードバトラーなのですね」
そうだよ、よく考えたら『氷田零』が青デッキ使うって言っても無反応だったし、そもそも
「ふむ、お主はレイと言うのか……覚えたぞ。お主もコアリーグに出るのか?」
「コアリーグ?」
レツが首を傾げる。
まだ聞いてないのかな。
「今度オダイハマで開かれる結構大きな大会だってさ。もちろん私は出るよ」
「そうか。妾がバトスピで負けるなんて、いつぶりじゃろうの。妾もコアリーグに出場する、この借りはその時に返すぞ。そしてレツ、申し訳ないが今日はもう時間がない。レツもコアリーグに出るのなら、そこでバトルしようぞ」
ヒメ様達はそういうと、広げていた荷物を片付けて駅の方へ向かっていった。
そろそろいい時間なので私達も帰らないといけない。
私とレツは、レツのおじさんのマンションに向かって歩き始めた。
「レイって、白以外のデッキも使うんだな。……いや、思い出せばマドカとのバトルでは赤と緑の混色だったっけ」
「1個の色やデッキに固執する気はないからね。その方が楽しいし」
「そっか、そうだよな」
1つのデッキで頑張るのなんて、アニメの世界だけですよ。
普通の人は何個もデッキを持ってます。
私も『白デッキ』『ミカターボ改』『青コン』と3つ持っている。
「俺は、レイが白デッキを使ってる時が1番好きだな。なんていうか、イキイキしてて」
「それ以外は基本殴らないデッキだからね。バトルしないスピリッツになるし。趣味じゃないから」
バトスピに限らず、ゲームは楽しむことが大事だ。
自分と相手がいて双方が楽しめるバトスピ。
それが理想だ。
そう、理想。
現実はそうじゃない。
私はこの世界がゲームにしか見えない。
相手が人間ではなく、CPUとしか感じない。
バトルに、相手の感情を感じない。
そして
私はバトスピが好きだ。
でも、この世界に来てから、昔ほど楽しいと感じていない。
私は、どうしてこんな世界に来てしまったのだろう。
こんなつまらない世界に。
願わくは、この主人公君が退屈を壊してくれることを。