「キミは別に強くない。むしろ弱い。こんな世界で強いって言っても、所詮井の中の蛙なんだよ」
「巫山戯るな! ボクは……ボクは強い! お前なんかに、負けない!
人気のない通路で、私は彼とバトルしていた。
彼の声から伝わってくる憎悪や怒りの感情。
彼は本気で私を倒しにきてる、本気で殺しにきてる。
でも、なんて虚しいことだろう。
彼の
◇◆◇◆
ヒメ様と出会ってから1ヶ月。
コアリーグの予選が終わり、私とレツ、コジロー、マドカが本戦出場権を得た。
最終週は、やはりマドカとワタルが泥仕合をしたらしい。
その間にレツやコジローがあの黒い山羊のマークの男達と会ったり、そいつらを他の場所でチラホラ見かけた等の話を聞いたが、まあ些細な事だ。
そんなこんなあったが、無事コアリーグ当日を迎えた。
「セクシー!!!」
「「「ノー! ギャラクシー!!!」」」
バトスピ界のカリスマ、ギャラクシー渡辺の進行でコアリーグは進められる。
初戦は謎の洋館の美人メイドのイズミさんが相手だった。
ゲームやってた頃は、「仕事のできる女性」って感じがして好きだったんだよね。
イズミさん×カガミ君で妄想拗らせてた時期があったなあ(遠い目)。
ま、結果は言わずもがな。
憧れの人でもCPU相手に負けるわけがない。
コアリーグは昼前から始まり、一回戦が終わったら休憩が入る。
チカバ町組で勝ち残ったのは私とレツだけだ。
初戦がレツVSコジローで、コジローは敗退した。
マドカはまぁ……うん、頑張ったよ。
そして、事件が起こったのはまさにその昼休憩の時だった。
(うっわまたアイツらいるよ)
売店を見て回っていると、柱の陰にどこかで見たキャップとフードの男たちがいた。
(この大会で『品定め』ってことかな。まったくご苦労なことで)
前に会った黒い山羊のマークの集団。
彼らについて調べはついている。
違法賭博集団『ブラックゴート』
ゲームで何度も戦ったはずなのに何故か名前が思い出せなかった人達だ。
分かりやすく「○○団」とかにしろよ。
彼らはバトスピの試合をネットで中継、その勝敗を賭けの対象にして荒稼ぎしている。
彼らの面倒なところは、試合を盛り上げるために強いカードバトラーを勧誘。
それを断ると粘着して、バトスピを辞めさせられた人もいるとか。
しかも警察が動いても一向に逮捕の兆しがないという。
裏で大きなお金が動いているとかいないとか、色々な噂がある。
(しかもそこそこ大きい団体だから、末端を潰したところでトカゲのしっぽっぽいのがまた……さっさとボスに接触出来たら楽なんだけど、
まぁ彼らについては
そう思って、下っ端ブラックゴートを無視して進もうとした私だが、その時聞こえた声に思わず彼らの方を二度見した。
「お前ら、引き上げるぞ」
「もう? まだ一回戦しかーー」
「いくぞ。ボスからの命令だ」
フードとキャップの男に指示を出していたのは蒼髪の少年。
(
彼は私やレツの同級生だ。
クラス内に1人はいるような、根暗で目立たない子。
しかしその正体はブラックゴートの裏ボスなのだから笑えない。
ゲームの記憶で彼のことを知ってる私は昔から彼にちょこちょこアプローチをかけていたのだが、あまり効果はなかった。
「ねぇ、七篠……いや、ここではナナシの方がいいか。こんな所で何やってるの?」
「! ……ビックリしたな。レイさんはこの後試合じゃなかったっけ? 行かなくていいの?」
私が話しかけると、彼はナナシではなく七篠正人として返事をした。
まったく、マスクを被るのが好きなようで……
「ねぇナナシ、私とバトルしない? ルールは貴方がライフ8、手札8、初期手札固定でいいよ」
「……!」
『ブラックゴート』の賭けバトスピには、特殊ルールがある。
明らかに実力差がある2人がバトルする時、片方にハンデをつけてバトルをすることで、オッズが偏らないようにするためらしい。
まぁゲームではただのハンデマッチに成り下がっているが。
ちなみにさっきの条件は『ラスボス:ナナシ戦』でのハンデ内容だ。
「おい、あんたコアリーグに出場してた氷田零だよな? なんだか知らねーがツレに手を出そうってんならただじゃおかねえぞ」
「そうだぜ。イチャモン付けようってんなら、それなりの覚悟はできてんだろーなー!?」
「黙ってろよお前ら」
絡んできたフードとキャップの男に、ナナシは静かに、はっきりとそう言った。
「お前らは戻ってろ。あとはボクが何とかする」
「いや、でもーー」
「いいから散れ。2度はない」
ナナシがそういうと、2人はしぶしぶ引き下がった。
んー、思ったより物分りがいいな。
話が早いのは大好きだよ。
「まったく……変則ルールのことまで知ってるなんてね。一体どこまで知ってるの?」
「キミがブラックゴートの裏ボスってことと、ブラックゴートを創った理由。それくらいかな」
「ははっ、そこまで……! ……で、どーするの? 警察に突き出す?」
「まさか、さっきから言ってるじゃん。バトルしよう、てさ」
「ボクとバトル、ねぇ」
「うん。だってナナシ、バトスピ
「……どういう意味だ?」
「あれ、君がバトスピだけは強かったから、それで優越感を得ようと仲間が欲しくて出来たんだよね?ブラックゴート結成の理由、そんなんじゃなかったっけ」
「……なんで、それを……!」
予想外に驚いた反応をされた。
確かゲームでそんな感じのことを言ってたと思うんだけど……あっ。
もしかして、知りすぎてた?
そうだよ、よく考えたらそんな理由で違法賭博集団結成なんてふざけてるし、きっとナナシは耳障りのいいことを仲間に言ってたはずだ。
「ふふ……本当に知ってるんだね。……いいよ、バトルしよう。それでキミは何を望む?」
「望み?」
望みなら、強い人とバトルすることかな。
その点、自称強者のナナシとバトルすることは望みを叶えてると言える。
「バトスピは賭けだ。賭けなら、勝者には賞品を与えないといけない。それでキミは何を望む?」
「あぁそういうこと。別に何もいらないよ。私が勝っても、ナナシたちはそのまま活動すればいい」
「? ならキミはどうしてーー」
「だからさっきから言ってるじゃん。私はナナシとバトルがしたいってさ」
「ふふっ、ハハハ! ……本気で言ってるの? それ」
「本気だよ。そのためだけに声をかけた」
だって、この機会を逃したら
「そっか、分かったよ。じゃあこっちからも1つだけ。……ハンデはなしだ。賭けじゃないなら、ハンデをつける意味がない。ただの遊びだ」
「……へぇ。別にいいよ。ナナシとバトルできれば」
意外な提案だった。
まさかハンデをなしにするなんて。
ハンデ前提だったから元々『青コン』で戦うつもりだったけど、これは……
どうやらナナシにはナナシで譲れない信条があるらしい。
なら、私も私の信条を以て応えるのが礼儀だ。
「じゃあやろうか。楽しもうね、バトスピを」
◇◆◇◆
「先攻はボクだ。スタートステップ」
建前は『遊び』となっているが、実際は違う。
これはナナシの大切なものを賭けたゲームだ。
ナナシは『他はダメだがバトスピだけは強かった』男だ。
彼にとってバトスピで負けるとは、そのアイデンティティを失うことに等しい。
「『ヘルスコルピオ』をLv1で召喚。さらにネクサス『藍紫の虚空』を配置。ターンエンド」
対して私は失うものは特にない。
ナナシだけがベットをしている、もはや賭けとも言えない何かだ。
人は大事なものを賭けていると手が縮む。
普段のように平常心で戦うことはできない。
「『機人エムブラ』をLv2で召喚。アタックステップ、『機人エムブラ』でアタック」
「ライフで受ける」
でもナナシは私にハンデをつけなかった。
いや、つけられなかった。
何故なら『ハンデを付ければ自分の方が劣っていると認めることになる』から。
ブラックゴートのルールが、彼を縛った。
だからナナシはこの勝負に勝たないといけない。
ハンデなしで勝って初めて「心境的不利を覆せる強さがある」と誇示できる。
「ネクサス『緑眼の虚空』を配置。そしてマジック『ストームドロー』を使用。『ヘルスコルピオ』をLv2にして、ターンエンド」
「私のターン。『ウィンガル』を召喚。不足コストは『機人エムブラ』より確保。『ウィンガル』でアタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
ナナシもその事は分かってるはずだ。
だからこそ、あんなに真剣に、真っ直ぐに勝ちに来てる。
でもね、CPUの呪縛に囚われてる内は私に勝つことはないよ。
「メインステップ。『キングタウロス大公』を召喚。召喚時効果でボイドからコアを1個、『キングタウロス大公』に置く。ターンエンド」
「私のターン、スタートステップ」
ナナシはこのターン『藍紫の虚空』でアタックできない『ヘルスコルピオ』をブロッカーに残して『キングタウロス大公』だけでもアタックすべきだった。
さすがにこれだけカードを見ればナナシのデッキがどんなものか想像がつく。
あのデッキなら、ナナシもさっさと私のライフを削っておかないと対等に殴り合えないのに。
「マジック『ライフチェイン』を使用。『ウィンガル』を破壊して6コアブースト。『鋼人スルト』をLv2で召喚、アタック」
「ライフで受ける」
「ターンエンド」
ライフの数は5対2。
私はナナシにチェックをかけているのに、ナナシは一向に駒を進める気がない。
「ナナシ、1ついい?」
「……なに」
「どうしてブラックゴートなんて作ったの? そんなの作ったって、強さを誇示することはできないのに」
「……ボクは強い。だからみんな、ボクに従ってーー」
「集団でいることで強くなったと勘違いするな」
「なっ!」
今の台詞はとあるゲームの博士のものだ。
害悪集団相手への煽りとして、十分に使える。
「ホントに強いなら、コアリーグでも何でも出ればいい。わざわざ影武者なんて用意する必要もない。と、喋りすぎたかな。バトルを続けよう」
「……そうだね。確かにボクに仲間が多いからって、それが強さと直接結びつく訳じゃない。ボクの強さを示す方法は1つ、キミに勝てばいいんだ! メインステップ『大甲帝デスタウロス』を召喚!」
ナナシは『大甲帝デスタウロス』の転召の対象に『キングタウロス大公』を指定し召喚し、召喚時効果でコアを1個増やした。
「『大甲帝デスタウロス』をLv2に上げる。ターンエンドだ」
どうやっても、変われないものだね。
「『巨神機トール』をLv3で召喚。アタックステップ、『巨神機トール』でアタック」
フラッシュタイミングでマジック『インビジブルクローク』を使用する。
これで『巨神機トール』はブロックされない。
「ライフで受ける」
ナナシのライフは、残り1つ。
「『巨神機トール』の効果、『鋼人スルト』を破壊することで回復する。もう一度アタック。『インビジブルクローク』の効果でブロックされない」
これで終わり。
「ナナシ……キミは別に強くない。むしろ弱い。こんな世界で強いって言っても、所詮井の中の蛙なのよ」
ナナシは囚われている。
ゲームの設定という呪縛に。
彼は自分にはバトスピしかないと、
「巫山戯るな! ボクは……ボクは強い! お前なんかに、負けない! フラッシュタイミング、マジック『デッドリィバランス』を使用! 消えろ『巨神機トール』!」
「ターンエンド」
ナナシは『デッドリィバランス』を使い『ヘルスコルピオ』と『巨神機トール』を破壊した。
それでも、ナナシの残りライフは1。
状況は変わらない、変えれない。
「『魔界七将デスペラード』を召喚。ターンエンド」
だって彼はCPUだから。
どれだけ怒り、追い詰められても結果が変わることはない。
「マジック『ストームドロー』を使用。もう1枚『ストームドロー』。……『巨神機トール』と『インビジブルクローク』を破棄する」
ナナシがどんな人生を送ってきたのかは知らない。
ナナシにとってバトスピがどれほど大事なのかも知らない。
でもそんなこと、私の知ったこっちゃない。
「『鋼人スルト』をLv2で召喚。そのままアタック、フラッシュタイミングで3枚目の『インビジブルクローク』を使うよ」
だってバトスピもこの世界も、結局はゲームなんだから。