ま た や ら か し た 。
コアリーグ2回戦、本来なら私とレツがバトルをする予定だった。
しかし私がナナシとバトルしていたせいで遅刻、そのまま棄権扱いになっていたらしい。
私が戻ってきた時には決勝戦でレツとヒメ様がバトルしていて、完全に手遅れだった。
そんな経緯もあり、コアリーグはレツの優勝という形で終わりを迎える。
そしてコアリーグ終了と共に、あの害悪集団が本格的に動き始めた。
「ブラックゴート?」
「それがあの黒い山羊のマークの奴らの名前ね。まぁそのままだけど。何か色々やってるよ」
ブラックゴートが私達に接触してきたのだ。
まぁ正確にはレツ達に、だけど。
私がナナシの心を折っても彼らは変わらず絡んでくるらしい。
レツは既にコレクターとパンクとかいう奴らにバトルを挑まれ、返り討ちにしたそうだ。
ヒメ様やコジローも絡まれてるのに私の方に一切来ないのは何故。
「我らとしても、あのような無法者は放っておけぬ。奴らを根絶やしにするため、策を講じようぞ」
と言うわけで今日は『ブラックゴートを何とかしようの会』として、私とレツ、マドカ、コジロー、ワタル、そしてヒメ様の6人が集まった。
谷姉弟は明らかに戦力不足だが、そこはまあご愛嬌。
「レイが集めた情報の中でも最も重要なことは、あ奴らは勧誘を断った凄腕カードバトラーに嫌がらせをする、というところじゃ。奴らが接触してくるその時であれば捕まえる機会もあろう」
「前置きからして、囮作戦ってことですね」
「うむ、そうじゃ。察しが良いの。と言うわけで我らはこれから合宿を行おうと思う」
「予算は?」
「三葉葵家がもつ」
「ホンットにありがとうございます」
合宿というワードに皆は「ん?」という顔になるが、ゲームで展開を知ってる私からすれば金銭面の方が重要だ。
寄生するようで申し訳ないけど、学生の私達にとって合宿費用は大金なので……。
「明日の朝、三葉葵家のもつ無人島に皆で行くとしよう。食事や寝床はこちらで用意するので、皆は着替えとカードさえ用意すれば良い」
「無人島やて!?」
「えぇ……ヒメの家って、ホントにお金持ちなんだな」
今更三葉葵家の財力に驚いてる男共。
というかレツはゲームのイベントで店ごと買い占めようとしたこと知ってるでしょ……。
「では、朝7時にリゾート海岸に集合じゃ。各々用意を整えるがよい」
◇◆◇◆
コアリーグが終了してから、新たに【爆神】【天醒】【戦嵐】のパックが発売された。
つまりグランウォーデン無双である。
あのゲームをプレイしていた人なら分かるだろうが、ここまで来れば勝ち確、ハンデマッチの変則ルール以外ではまず負けない。
コアリーグやナナシとのバトルで得たGを全て投じて大量買いしましたよ。
おかげさまで私のデッキにはグランウォーデンが3投です。
それにわざわざタワーで引いて、白ジークリも引きましたよ!
グランウォーデン集めるまでに5枚くらい余ったけど。
ちなみにヴァルハランスは不採用だし、そもそも爆神をあまり買ってない。
新デッキを携えて私は合宿に臨む。
合宿といっても結局はブラックゴートをおびき寄せる餌なので特に何かやるわけではない。
何もしなくてもどーせアイツら引っかかるし。
無人島といってもビーチはあるし、三葉葵家のおかげで遊ぶために様々なものが用意されている。
ビーチで遊んで、たまにバトスピしよーぜー、となると思ってた。
「では、これからあの連中が来るまで我らは切磋琢磨して腕を鍛えようではないか。100戦くらい出来たらいいの」
「俺も赤以外のデッキを作ってみたんだ。それも試してみたいな」
「えーホント? じゃあレツ、私とやろーよ」
ど ー し て そ ー な る 。
え、君たちホントに学生だよね?
いくらなんでもバトスピに魂売りすぎじゃない???
「ならばレイは妾とやるか。コアリーグでは戦えずじまいじゃったからの」
「いいですけど……せっかくの島ですし、少し遊びません?」
「何を言うておる。ブラックゴートなる輩がいつ来てもいいように気を引き締めておかねば」
「そうだね。じゃあ早速お邪魔するよ」
「! お前たちは!」
私たちが島に到着してからわずか1時間後、ブラックゴートの幹部の皆さんもご到着。
いやいくらなんでも早すぎるでしょ。
待ち伏せでもしてたのか。
「! ナナシ、お前……」
「レツくん、悪いけどボクはコチラ側だ。……ボクにも色々あってね」
お、ゲームの通りナナシもちゃんと来てるのか。
まあ逃げない根性は褒めてやろう。
そういえば、みんなにはナナシがブラックゴートの裏ボスであることは言ってない。
わざわざ教える必要もないと思うし。
「やあ、僕はハッカー。キミたちの代表と話がしたい」
「ならば、妾が話を聞こう。で、何用じゃハッカーとやら。懺悔でもしに来たのか?」
「ハハッ、まさか。僕たちはキミたちを潰しにきた」
「知っておる。それでこんな大勢連れて、どうするつもりじゃ?」
「僕たちはバトスピをしにきただけさ。といっても普通にやっても面白くない。キミたちは6人、こちらも6人だ。1対1で戦い、勝ち点が多いチームの勝ち、てことにしないか?」
どーしてそういう形式で偶数人チームを選ぶのか。
5人チームでいいでしょ。
「……よかろう」
「ヒメ! いいのか!?」
「仕方あるまい。こちらは学生のみ、あちらには1人体格のよい男がおる。バトスピで決着をつけれるだけマシじゃ」
え、なんでみんな護身用の道具持ってないんですか?
三葉葵家の人に頼んだら貰えますよ。
リアルファイトのために警棒くらいは持っておきましょうよ。
「じゃあ、各バトルの前に戦う人が1歩前に出る。1度戦った人は2回戦えない。このルールでいこう。順番決め等、好きに相談してくれ」
なるほど、つまり後半にバトルする人はある程度対戦相手が予測できるってことね。
「で、どーする?」
「ふむ。……まず一勝、確実に取りたい。レツ、頼めるか?」
「えー、私最初に行きたいんだけど」
ヒメ様はレツを指定するが、私はそれに反対する。
「レイか、お主でもよいと思うが……何か訳でもあるのか?」
「あるよ」
「そっか……なら任せたぜレイ」
だって初戦はハッカーが相手なんだもん!
私はゲームで、初戦の相手がハッカーになることを知っている。
いやホントなら全部の順番を知ってるはずなんだけど、昔のこと過ぎて忘れた。
ブラックゴート相手に、普通なら誰が相手でもいいんだけど、あっちには1人ヤバい奴がいる。
モヒカンの男、パンク。
アイツだけはダメだ、変則ルールが鬼畜すぎる。
パンクの変則ルールは「7ターン以内に勝利」が条件だ。
2コスビートならともかく、白デッキでこの条件はかなりブン回らないと無理。
つまり、いつ来るか分からない地雷に運ゲーをするくらいなら、絶対勝てる相手で勝とうということだ。
「じゃあ選手は1歩前に。せーの……」
…………
「へぇ、意外だな。初戦は確実に一勝して、流れを作りにくると思ったのに」
私の狙い通り、相手はハッカーだ。
どうやらハッカーは初戦にレツがくると思っていたようで、少し驚いた表情を見せた。
「私がわがままを言っただけだよ。それよりも、特殊ルールの説明どーぞ?」
「そうだね。ルールは『イッツァ・スモールライフ』。キミのライフは4から始まる、わかりやすいだろう?」
「3でいいよ」
「……は?」
「私のライフは3でいい。2だとさすがに事故した時にリカバリーできないから無理だけど」
「レイ! 何を言うておる! ライフが少ないとはどういうことか、分かっておるのか!」
私の提案にハッカーはもちろん、味方からも野次が来た。
まぁ普通そうだよね。
「だって6人チームでの1対1でしょ? なら3対3で決着、なんてこともある。だから提案なんだけどさ、この勝負、私のライフは3で、勝ち点を2にしない?」
「! ……そういうことか」
ハッカーはどうやら私の言いたいことを理解してくれたらしい。
それが私の要求だ。
「勝てば大きく勝利に近づき、負ければ一気に不利になる。そんな提案をまさかここでするなんてね」
「逆に初戦だからするんでしょ。私が負けても『後の人頑張ってね』で済むんだから」
「待て」
ハッカーが私の提案に乗ろうとした時、自チームの方から待ったがかかった。
声の主はもちろんヒメ様だ。
「いくらなんでも危険すぎる。勝ち星2つのバトルに、ライフを2つもハンデにするなど」
「黙ってなよ、世間知らずなお姫様は」
ヒメ様の台詞を遮ったのは私の対面にいる男。
さっきまでの胡散臭い笑みが消えてマジの顔になってる。
「これは賭けだ。賭けってのはね……死のギリギリに立ってないと意味がないんだよ」
「……!」
「さ、また邪魔者が騒ぎ出す前に始めようか」
「そうだね。やろう」
私たちとブラックゴートの6対6のチーム戦。
その初戦にして大一番、様々なものを賭けたバトルが始まる。
「私の先攻。ネクサス『超時空重力炉』を配置。ターンエンド」
「さて、僕のターン。……『封印獣マルコ』を召喚。ターンエンド」
超時空重力炉はコスト3以下のスピリットの召喚に軽減を使えなくなる。
軽減がなければスピリットの召喚にコアが余計に必要になって横に並べらることはできない。
スピリットを並べなきゃアタックしてこないCPUには、これが効くんだよ。
「メインステップ。『超時空重力炉』の効果で白のシンボルを3つに。4コスト3軽減で『デュラクダール』を召喚。更に『鍵鎚のヴァルグリンド』を召喚。召喚時効果で『封印獣マルコ』を手札に戻す。ターンエンド」
さらに頑張って召喚したスピリットも、白得意のバウンスで除去する。
さすがにライフ3だからアタックはできないし、無駄にコアを与える必要もない。
今はアドを重ねることが大事だ。
「『封印獣マルコ』を再召喚。さらにもう1体『封印獣マルコ』を召喚する。ターンエンドだ」
「メインステップ、『デュラクダール』をLv3に。『デュラクダール』のLv3効果で「系統:神将」を持つ『鍵鎚のヴァルグリンド』は最高レベルとして扱う。『鍵鎚のヴァルグリンド』でアタック」
「ライフで受ける」
「『デュラクダール』はアタックせず、ターンエンド」
本当ならアタックしたいが、ここは我慢だ。
ライフ3で無理する場面でもないし。
「メインステップ、こちらも『鍵鎚のヴァルグリンド』を召喚。召喚時効果でスピリット1体を手札に戻すんだが……『鍵鎚のヴァルグリンド』しか選べないな」
【装甲:白】を持つデュラクダールをブロッカーとして残したのは正解だった。
ヴァルグリンドだったらこのターンで負けてた。
「2体の『封印獣マルコ』をLv2に上げて、ターンエンド」
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ」
引いたカードを見て思わず口元が緩む。
元の世界では入手難度に地域格差があったとされる強カード。
「『超時空重力炉』をLv2にして白シンボル3つとして扱う。『デュラクダール』を転召の対象に『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』を召喚。召喚時効果で2体の『封印獣マルコ』を破壊する」
『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』は召喚時にBP3000以下のスピリット全てを破壊し、その数だけコアブーストする効果を持つ。
未来ならともかく、今の環境ならBP3000以下は大体のLv1スピリットを焼ける。
こちらのスピリットも巻き込まれるとはいえ、コアが増えるから損にならないのもいい所だ。
「『鍵鎚のヴァルグリンド』をLv2で召喚。召喚時効果で『鍵鎚のヴァルグリンド』を戻す」
増えたコアを使ってさらにスピリットを召喚する。
これでハッカーのフィールドにスピリットはいない。
「『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』でアタック」
「フラッシュタイミング、マジック『ドリームチェスト』だ。『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』をデッキの上に戻す」
「なら『鍵鎚のヴァルグリンド』でアタック」
「そのアタックはライフで受けよう」
せっかくのダブルシンボルのアタックをマジックで躱された。
でも、しっかりとライフを1つ削って3対3。
これでもうハンデは消えた。
「『鍵鎚のヴァルグリンド』を再召喚だ。キミの『鍵鎚のヴァルグリンド』を戻す。Lv2にして、ターンエンド」
「私のターン、『鍵鎚のヴァルグリンド』を召喚。召喚時効果で『鍵鎚のヴァルグリンド』を手札に戻す」
お互いに『鍵鎚のヴァルグリンド』で『鍵鎚のヴァルグリンド』を戻す泥沼展開。
だけどそれなら『超時空重力炉』で軽減を稼げる私の方が有利だ。
「ネクサス『侵されざる聖域』を配置。さらに『機神獣インフェニット・ヴォルス』を召喚。『鍵鎚のヴァルグリンド』の効果でコスト6として召喚する。『鍵鎚のヴァルグリンド』をLv2にあげて、そのままアタック」
「フラッシュはない。ライフで受ける」
「ターンエンド」
これでハッカーのライフの数は2。
私もライフ3とはいえBP7000の『機神獣インフェニット・ヴォルス』をブロッカーに残してる。
もう負けないレベルの盤面だ。
「メインステップ。『機人エムブラ』『ガトリング・スタンド』『鍵鎚のヴァルグリンド』を召喚。『鍵鎚のヴァルグリンド』の効果で『鍵鎚のヴァルグリンド』を手札に戻す」
これはさっき配置したネクサス、『侵されざる聖域』のおかげだ。
コスト8以上の自分のスピリット全てに【装甲:紫/緑/白/黄/青】を与える。
コスト10の『機神獣インフェニット・ヴォルス』に白の効果は効かない。
流石未来の制限カード、ブレイヴない今は対象が限られるとはいえかなり強い。
そして『超時空重力炉』の効果もあって、ハッカーにはもうスピリットを召喚するコアがない。
私のライフは3、ブロッカーが1体。
ハッカーのフィールドにはスピリットが3体。
ハッカーはこのターン、攻めきれない。
「ターンエンドだ」
攻めきれないならアタックしてこないのがCPUの特徴。
もっと早い段階から粉砕覚悟でライフを減らしにきていたらもっと違ってただろうに。
「『鍵鎚のヴァルグリンド』を召喚。召喚時効果で『鍵鎚のヴァルグリンド』を手札に。さらに『鍵鎚のヴァルグリンド』を転召の対象に『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』を召喚」
『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』の召喚時効果でハッカーの『機人エムブラ』と『ガトリング・スタンド』は破壊される。
これでハッカーには、自分のライフを守るスピリットがいない。
「『極帝龍騎ジーク・クリムゾン』でアタック。アタック時BP+5000。ダブルシンボル」
「……フラッシュはない」
「こちらもありません」
「2点、ライフで受けよう」
「はい私の勝ち」
終わってみれば、私の圧勝。
相手が1回もアタックしないなら、ライフ5もライフ3も同じなんだよなって。
とにかくこれで私達は勝ち点2。
チームとしては残り5試合の内、2勝すればいい。
結果ーー私、レツ、コジロー、ヒメ様が勝って勝ち点5。
わざわざ私が危険なことやらなくても4-2で勝ってた。
無駄骨でした。