セルモノー・リューに生まれ変わった青年の話。   作:黄色いうちわ

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   エリス・セルモノーにメロメロなセルモノー・エリス。


 ある、夜会にて。

 

   セルモノー・リューになってから、王族をしています。王公貴族の立ち居振舞いやら常識を身に付けましたが、言えることはただふたつです。平民万歳。民主主義万歳っ。

 

 

 

   しきたりだの貴族の嗜みだのは疲れます。そして王公貴族のおもわず吐き気をもよおす傲慢さっ。セルモノー、ポンポンいたい。生まれは王子様でも中身は平和な日本人(庶民)ですからね。使用人には普通にお礼を言います。自分の学友の貴族と喧嘩みたいになった時にも、自分に非があれば後から謝ります。

 

   何となくですが、当初の目標である気さくで緩い王族にはなれた気がします。

 

   …愛のない結婚をエリスとしたと悔やんでいましたが、エリスは可愛いです。ぶっちゃけ、ゲームのセルモノーがお鈍さんだっただけでした。ていうか、罪作り野郎でした。

 

   普通はさ、第一王子に群れますやん?未来の王妃の座を狙いに、禿鷹やハイエナの様に第一王子の取り巻きになりますよね?エリスは筆頭貴族のファーロス家の娘。有力貴族の御令嬢。彼女を娶れば王になれる事が確定。そんな彼女ですが、兄上の側にはいかないのです。

 

   弟(レムオンとエストパパ)の側にも行かずに、私の座る椅子の近くや立っている壁の近くにいつもいるのです。小さな可愛い女の子の熱視線に照れます。これで気づかなかったって馬鹿かとっ。ゲームでも言ってました。最低最悪の戦況下で、《私には愛する夫と娘がいる。逃げるわけにはいかぬ》と。それなのにセルモノーときたら…。もうね、結婚して翌日に気づけよ《愛せなくても次の日から愛せば良かったのだ》と。うわああああっいまわのきわで気づくなよっ。

 

   「エリス嬢、一曲踊っていただけませんか」

 

   「すみません、足を痛めておりますの。ですから本日は壁の花ですの。また、誘って下さいますか」

 

   「それは失礼いたしました。それでは、また次の夜会で。ごきげんよう」

 

   「ごきげんよう」

 

   本日の夜会で八回目のやり取りでございます。一番最初に私と踊ってから誰とも踊ってません。髭と無気力さと死んだ魚の目で残念なオッサンでしたが、鏡に映るセルモノー・リューは中々の美少年です。おまけに特典で強くて賢いが加算されているので無敵状態です。

 

   「あ、あのう。殿下はもうどなたかとは踊りませんか?」

 

   顔を真っ赤にして聞いてくる。可愛い。

 

   「エリスと踊ったからもう踊りません。エリスと同じで壁の花で料理を食べています。エリス、この果実をどうぞ。これはテラネの特産品ですので珍しいものです」

 

   「ありがとうございますっ。美味しいっ。あの、どちらに置いてありますか?」

 

   「ごめんなさい。これは、私からのお土産です。エリスにだけのお土産だから、エリスだけで食べて下さい。前の、君の従兄弟殿が食べたエンシャントのチョコレートで懲りました。まさかお酒入りだったなんて」

 

   「そ、その節は申し訳ございませんでしたっ」

 

   「ごめんなさいエリス。謝らないで下さい。材料を確認しないで大量に買ってしまい、みんなへと配ってしまった私が悪いのです」

 

   「殿下…。ありがとうございます」

 

 

   あまりにも美味しかったから、金に物を言わせて大量に購入して、家族親戚貴族達と使用人にパーティで振る舞った。パーティに親に連れられてきたエリスの小さな従兄弟殿が手を伸ばして食べてしまい、ちょっとした騒ぎになってしまった。慌てて回復魔法を唱えてしまったのも騒ぎの一因だ。教えていない魔法を唱えたのだから。図書室で見、て興味が湧いたので練習していた事にした。

 

   「殿下、またあのチョコレートを食べてみたいです」

 

   「わかりました。お土産に買ってきますね」

 

   「は、はいっ。ありがとうございますっ」

 

   …可愛いのです。エリスが。つい、口に出してしまったのであろう言葉に、了承の返事をしたら驚いてお礼を言う。照れてはにかむ。可愛すぎかっ。

 

   ああ、でも。エリス、貴女が喜んでくれるのなら、何度でもエンシャントに赴いて買ってきますとも。エンシャントの不思議な冒険者がもつ魔法の箱で荒稼ぎをして、髪飾や宝石を贈るのも良いかな。

 

 

   …賢者の森を抜けて賢者に会えるかなと思って探索していたら、父親の娘(と孫)殺しの場面に遭遇してしまい、父親(バロル)をぶん殴って娘に蘇生魔法と回復魔法をかけてエスケープ。うちに連れて逃げ帰ってきました。

 

   両親に土下座をして、ノーブルをもらってネメアのお母さんをノーブルの代官にいたしました。まともな領地経営をしてくれています。ネメアは元気に生まれて育ってます。母子共に健康です。

 

   さあ、魔神なネメア父よ、早く妻子を迎えに来るが良いっ。ネメアがチラチラと私を見ています。今なら間に合いますよっ。《セルモノーさまはネメアのおとうさまにはならないのですか?》とネメアが言う前にっ。猫屋敷の賢者様でも構いませんよ?英雄の命の恩人と父親役は、私には荷が重すぎます。

 

   …ちみっこネメアが可愛くて、一緒に旅に、冒険に連れて行っていたのが敗因なのはわかっています。しつこく賢者の森をさ迷っていて、ネメアがうっかり泣いているハーフエルフのお嬢さんを見つけて《ネメアが面倒を見ます。だからネメアの妹にして下さい》と言われて快諾した後に、無茶苦茶後悔しましたともっ。これ、賢者様ポジションっ。無理っ。私、魂を指輪に隠したり死んでしまった子猫様の体を借りるなんてできませんからっ。…バロル生きてますかね?ロストールの王子が皇帝を殺してしまったら戦争待ったなしですよね。大丈夫かな?生きていてね。お願いっ。

 





   突然、頭に衝撃を受けて気絶した。気がついたら娘が消えていた。娘婿の仕業か。

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