セルモノー・リューに生まれ変わった青年の話。 作:黄色いうちわ
会議前に家族に相談するのが新国王スタイル。
《ロストール王国にて新王即位》
その一報を聞いた他国の者達の反応は二通りに分かれた。
《セルモノー・リュー様でありますように》と《セルモノー・リューではありませんように》だ。
前者は冒険者や一般人。後者はロストールと敵対している国の王や兵士であった。
誰だって慈悲深い王に国主になってもらいたい。自分の住む国で生きづらくなったのなら優しい王が治める豊かな国に移り住みたい。
誰だって敵対している国の国主に内政に有能で臣民から圧倒的な支持を受けていて敵には情け容赦もない戦の指揮が天才で化物みたいに強い男に国王になってほしくない。戦争になってしまったら、必ず敵側が負ける。降伏勧告を三回は必ずしてくれているが、それの三回以内に降伏しないと、王や全ての王公貴族に騎士団長は城壁に首を晒される。女性でも幼い子供でも関係なく処刑される。代わりに国民や兵士は手厚く保護をしてくれる。…そんなこんなだから、大抵は城門は内側から開く。蜂起した民衆の手によって。
兄を慕い弟を愛している冒険者王子が、国王になるはずがなかったが、兄と弟が王位を争った末に相討ちになって倒れてしまった。
ロストール王国と敵対している君主や指導者達は神に祈った。
ロストール王国の新王が、悲しみのあまり兄弟の後を追って亡くなって下さいますようにと。
※※※
王様になって最初に勅令を、
《ロストール王国臣民はドワーフ・エルフ・ハーフエルフ・ダークエルフ・リルビー・ボルダン・コーンス・ダルケニス・半魔の存在を否定せず迫害することなく、これらの種族と友人となり共存共栄を目指す事》と布告しました。
その上で、私の可愛い養子達が魔人と人間のハーフとハーフエルフとダルケニスと人間のハーフであると公表しました。
ロストール王国の住民全員がそうだと知っていれば、将来的になんの弱味にもなりませんからね。
王子に王女が、人間と異種族との間に生まれた子供。人間と暮らしている。その事は隠れる様に暮らしていた存在にとって希望になったのでしょう。移住してくる異種族が増えました。
内乱で人口が減り働き手がいなくなってしまったロストールにとっては渡りに舟でした。自然に人間と異種族との間の蟠りはなくなりました。
ダルケニスとエルフ種は美しいですからね。いままで隠れていた美人さんや美形さんは、内乱で疲弊しきった国民の目の保養になりました。リルビーの可愛らしさと歌声に心が癒されました。ドワーフの技術とボルダンの力に復興が進みました。コーンスだけが来てくれなかったのが残念ですが。
王家の、もう私と幼い子供達しかいませんが、所有領地をそれぞれの種族の住む場所へと提供しました。還れる場所があるという事は、心が擦りきれることがなくなり、拠り所になります。もちろん王都ロストールにも《大使館》を置きました。それぞれの種族の代表が《村》と《国》に連絡をして困っている同族を助ける制度です。
…反対はなかったです。至極当たり前ですよね。最後の王子がこれを了承しないのなら、自分の娘と息子、兄と弟の遺児と可愛がっている子供を連れて出奔しますとえげつない脅しをかけましたから。
唯一無傷だったファーロス家までもが私の考えを支持しますと言ってくれたおかげもありますが。
ああ、本当に国民が異種族を受け入れてくれて良かった。異種族がロストールに来てくれて良かった。ハーフエルフやダルケニス、半魔の子供達がいてくれて良かった。私の大切な子供達が孤独と寒さに潰されずにすむ。
後は、国民が飢えないように自給率の向上。学校や病院も建てないと。娯楽も必要ですね。劇場に闘技場も造りたい。リベルダムに行きたいけど、行けなくなったからには自国で造るしかない。女性が安心して働ける社会にしないと。身分で職業を選ぶのではなく、国民が自分の就きたい仕事に就職できる様にもしたいですね。弱者に優しい社会にしてそうだ点字を普及させよう。この国にはなかったけど、他の国にあるかな?あったらアトレイアちゃんに教えてあげて。あとはファーロス家と生き残った貴族達に私を拝むのを止めさせる事ですね。貴方の事ですよノヴィン?
「ですが神よ、貴方は私の唯一敬愛と忠誠と信仰を捧げる御方。拝むななどとは仰らないで下さい。ところで点字とは何でしょうか?フリント、お前は知っているか?密偵として各国に行っているだろう」
「初めて聞いた単語です」
「ないのかな?点字とは、紙にこういった感じでポチっとします。凹凸ができます。で、一つ一つの形に言葉を当てはめます。あなら・ですね。これを文字板にして覚えて、本や書類の内容にこれをつければ盲目の人にも字がわかります。これと同じで、手話もありますね。手の形やしぐさで言葉を表して耳の聴こえない方や喋れない方の言葉になります。…なかったのは理解しました。二人で私を拝むのを止めて下さい。大臣、至急ですがこれらの普及のために部署を作って下さい。異種族の代表者も交えて…待ってください、冷静になって。国教を《竜教》から《セルモノー教》に変える会議も兼ねますだなんて言わないでっ。私、厨二病治ったからっ。待って!大臣とノヴィンとフリントっ行かないでーっ。戻ってきてっエリスにアトレイアちゃんっ」
「お父様、人世諦めも必要です。ですが、手話と点字は素晴らしいお考えです」
「そうです。アトレイアもエリス母上もあんなに走ってしまう程に喜んでいるではありませんか」
「「(言えない。昔っからスラムで炊き出しをしながら「竜教を止めて俺達の敬愛しているセルモノーお父様・父上を信仰するセルモノー教に入れば肉を多目によそるか二杯目をよそってやる」とタルテュバ・ネメアと一緒に言っていたなんて)素晴らしいお考えですっ。セルモノー教はそのまますぎるからちょっと名前を変えたらいいよな。な、タルテュバ・ネメア(アイコンタクトをし合う)」」
「すばらしいです、おとうさま」
「流石、師匠」
上からケリュネイアちゃん・レムオン君・タルテュバ君とネメア君・エスト君レーグ君だ。相変わらずタルテュバ君とネメア君は仲良しだね。でも改宗に反対はしてくれないんだね。でも絶対に反対されて否決されるよね?いくらなんでもさ。でないと金髪うざエルフの竜教野郎が出てきやがります。一時期執拗に竜王を最初の方の歴史で倒してやっていましたね。翔王に対しても《何様のつもりだ》を選んでましたし。短気なところ直さないとですね。もう私はロストール王国の国王でお父様で師匠なんだから。
あと、《側室は絶対に持ちませんからね》と《王妃はエリスで離婚は絶対にしないですよ》と大臣達と貴族達とゼネテス君に強く言っておかないとですね。
セルモノーはゼネテスにせんせんふこくした。