セルモノー・リューに生まれ変わった青年の話。   作:黄色いうちわ

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  愛された子供は強いんだぜ。



 タルテュバ・リューガ君の昔話。  

   

 

    毒を、悪意を呑まされて生きてきた。

 

   《父上の敵をうちなさい》《レムオンに負けてはなりません》《ゼネテスに遅れをとってはいけません》《リューガの真の主は貴方です。第三王子から奪われたリューガ家の全てを取り戻すのです》

 

 

    それらの毒と悪意は、期待に添えなかった自分に向けられる様になった。

 

    《また、敵わなかったのですか。失望しました》《剣も魔法も学問でも敵わない。恥ずかしいと思わぬのですか》《王の慈悲により優秀な第三王子をリューガに遣わされたのですね》《家の恥にならぬようお過ごし下さい》

 

    毒に心を殺されなかったのは、俺が亡くなった母上とセルモノーお父様に愛されていたからだ。愛されていることを解っていたから、毒と悪意を鼻で笑うことができた。

 

   物心ついた頃には、セルモノーお父様に抱っこかおんぶをされて旅をしていた。母上も一緒だったから、両親だと思っていた。

 

   後に、実父の死により、身分の低い母上と母上の子である俺の殺害を企てていた親戚から逃げていたと教わった。

 

   王都の、セルモノー・リュー第二王子の自邸(冒険者セルモノーとして購入した邸宅)に、母子ともにかくまってもらった。

 

   そこで、俺は愛されて幼少期を過ごした。

 

   母上は亡くなった父上の事を話してくれた。俺が生まれる事を喜び楽しみにしていた事。第三王子様とは親友であった事。毒を盛られたのではなく、父上が生まれつき体が弱く、生きるための賭けとして強い薬を飲んだ事。体に合わなくて、衰弱していく父上の為に、第三王子様が中和剤を送ってくれていた。それが真実なのに、貴族の噂話しで歪んでしまったと。当主としての激務に耐えれそうにない父上の代わりに、リューガの当主になり、消えてしまった愛する女性を探す事を諦めてくれたと。病を治したら、貴族を止めて平民として親子三人で暮らそうと最期まで希望に生きていたこと。

 

   母上は俺に身分やしきたりに捕らわれないで自由に、幸せに生きてほしいと何度も言ってくれた。愛していると大好きだと告げて抱きしめてくれた。臨終の際にも、最期まで愛している幸せになってと告げてくれた。俺は両親に愛されている。愛してくれた両親の言葉こそが真実であると思えた。

 

   現に、リューガの当主は俺や母上、お父様に会いに何度も屋敷な来てくれていた。君が成人した折りにはリューガ当主の座は返すからねと話して、お父様にタルテュバ君の意思も尊重しなさいねとたしなめられていた。困って笑った顔がお父様に似ていて兄弟だなぁと思った。

 

 

  お父様は王族としての公務の間に、俺に会いにきてくれて、剣と魔法を、学問を教えてくれた。社会を外を知ろうねと言って、スラムに平民街、農村へと連れて行ってくれた。

 

  ネメアとは直ぐに親友になった。ノーブルで畑仕事の手伝いが終わると泥団子になるまで笑いながら遊んだ。俺がノーブルに行くのとネメアがロストールに来るのは半々くらいだった。ネメアもスラムに衝撃を受けていた。そしてロストール貴族の傲慢さに吐いていた。俺はちょっと貴族の自分が恥ずかしかった。ネメアの背をさすりながら、謝った。俺も俺の実の父上も貴族だ。領民に優しい方でいまだって墓に献花が絶えない。俺もお父様も貴族で王族だ。だが民に優しい貴族や王族であろうと努力している頼む嫌わないでくれと。

 

   「嫌わない。魔人の子の私の手を握ってくれた大切な父上と兄弟を嫌うものか。魔王バロルが私の祖父だ。実の娘の母上を殺害したけだもの。あれと先程の貴族が重なった。嫌悪感と憎しみ、拒絶感で吐いてしまった。誤解をさせてしまってすまなかった。父上が憎しみから遠ざけるために私と母上をノーブルでかくまってくれたのにな」

 

   優しいエスリン殿と兄弟のネメアの事を考えると、強くなりたいと思えた。大切な人になった二人の力になりたい。悲しみに寄り添いたいと自然に思えた。

 

  路地裏で吐いていた少年と、泣きながら背をさすっている少年を心配してくれたスラムの住民達の優しさに、二人揃って泣いた。

 

   「だめだ。きっと水に当たっちまったんだ。セルモノーの兄さんを呼んでこよう」

 

   「俺、平民街の酒場を見てくるっ。エリスお嬢様とセルモノー様が料理を教わっていたのを前に見たからいるかもしれないっ」

 

   「ならあたしは自警団の集会所を見てくるよ。稽古にしょっちゅう参加していたっ」

 

   「セルモノー様ならギルドでしょうよ」  

 

 

   当たり前のように出てきた慈父の名前に噴き出してしまった。

 

   「「お父様・父上ったら…。じっとしていられませんか」

 

   「ああ、セルモノー様の自慢の息子さん達でしたか」

 

   「お使い、お迎えかい。お疲れ様。ここは空気がよくないからねぇ。汚いけど、酒場で休んでいなさいよ」

 

   「年齢からして、ネメア君とタルテュバ君かな?」

 

   「私がネメアです」「俺がタルテュバです」

 

   「「父上・お父様がいつもお世話になっております」」

 

 

   二人揃って頭を下げた。この時以降、俺とネメアはスラムに住む人々から兄弟認識で二人でいちセット扱いになった。

 

   お父様に連絡をしてくれたので、お父様が迎えにきてくれた。恩返しをしたいと言ったら、炊き出しをしているからそれを引き継いでくれるかいと言ってくれた。あのスラムをお願いするね。私だけでは追いつかないからとも。

 

   この方は、冒険者で貴族だが、それ以前に王族であられる。王位継承権第二位の王子であられる。

 

   放蕩しまくるロストール貴族や豪奢な暮らしを当たり前の様に享受する王族の中で、唯一人国民に寄り添う方。

 

   いち貴族の子にすぎない俺を救ってくれた。敵国の狂った王から、殺害された皇女を、皇孫を救い育てる。

 

   冒険者として、数多の民を守るために魔物を退治する。

 

 

   手を伸ばせる範囲だけでだよと笑う人のようになろうと、胸に誓った。背伸びをしないで無理をしないで、手を伸ばせる範囲で。それでも、俺は救われた。ネメアもエスリンさんも救われた。お父様に救われたスラムに住む人々は、俺達が困っていると思い手を伸ばして救おうとしてくれた。

 

   人は人を救える。寄り添いあって生きていける。憎むことも妬むこと、そんな事を強いる人間の言葉に揺らぐ事はない。

 

   毒を吐いていた奴等は、お父様を尊ぶファーロスが少しずつ消していった。

 

   「一気にやってしまっても構いませんが、神が悲しまれそうな気がしますからな。いえ、殺害はしてはいませんよ。ちょっと壊して作り直しただけです。フリントが部下が欲しいと言ってましたから再利用して密偵にしました。ウルカーンとエルズに放ったので、リューガには戻りませんよ」とノヴィン氏は語っていた。

 

   この方も大昔は傲慢で愚鈍だったとエリス様が教えてくれた。

 

   セルモノー様の話し相手としてお城に上がったその日に目覚めたと。

 

   第二王子のみに忠誠を誓う、ロストールで三番目に強いと噂をされる騎士。ファーロス家に繁栄をもたらしている有能な能吏。第二王子が信頼している実直な従者。

 

   優しくて気安く付き合ってくれている人が傲慢で愚鈍だったと言われて耳を疑った。

 

 

   でも、スラムに住む人々や平民に聞いてみると、エリス様が言っていた事と同じだった。曰く、セルモノー様の慈悲に触れて改心できた幸運な方だと。本人に向かって、昔は傲慢で愚鈍だったというのは本当ですかと聞いてしまえるネメアは凄いと思った。メンタルが鋼なのかと聞きたくなった。

 

   ノヴィン氏は簡単に、そうですよと照れ臭そうに笑いながら言った。セルモノー様に出会えて、自分の小ささと弱さを知った。セルモノー様の魂に触れて、優しさと強さを知りセルモノー様に終生お仕えすると決めました。セルモノー様の冒険者としての旅のお供をして、世界の美しさと醜さを知りました。人の愛憎に触れて希望と絶望を味わいました。冒険者として世界を自由に生きていけるセルモノー様が、小さなロストールにお戻りになられる理由が、国民への愛や家族への愛と知り、私も優しくなろうと思いました。貴族として騎士として護り導く存在であろうと誓いました。息子、ゼネテスにもそう有れと願っているのですが、どうにもうまくいきませんな。貴族としてもうちょっとまともな着こなしをしないと。

 

   …ゼネテスのあれは、完全にお父様への反抗心ですからね。エリス様に憧れて惚れているから、エリス様が惚れているお父様と、エリス様に惚れていて大切にしているお父様が嫌いと。ファーロスの一族がお父様を敬愛して忠誠を誓っているのも反抗心に火をつけているのでしょう。

 

   俺がネメアとレムオンと遊んでいたりスラムや平民街で働きに行くのを羨ましそうに見ているけど、まざりたいのなら素直に言えよ?まぜてやるからな。だって話し合えば分かり合えるとお父様が言ってらしたからな。現にレムオンとは分かりあえた。分かり合えたからこそ、レムオンは俺とネメアにも秘密を教えてくれた。

 

   《王家の第三王子の子がダルケニスとのハーフというのよりは、リューガ家当主の子がそうであることの方が良い。だからね、私の代わりにリューガ家の当主になって。私はそもそも貴族が嫌いだ。逃げて逃げた末に妻に会えた。連れ戻されて生きてきたけど、子供が生まれたら平民として生きる。捨てる家だからこそ、親友である君と君の子供のレムオン君を救う為に使って欲しい。レムオン君、泣かないで。笑おう。君が私の子供に悪いと思うのなら、私の子供の親友になって。私と君の父上のような親友にね。で、私の子供と笑って幸せに生きるんだよ》父上は幼いレムオンに語っていたと話してくれた。

 

   俺の実の父上も母上も底無しのお人好しだった。で、養父母も似たり寄ったりの人柄だ。だから、まあ、息子の俺もお人好しになろうと思った。

 

   だから、レムオンの血の提供者になった。吸血は絵的にヤバイので、血を抜いて飲ませる形にした。お父様はがっぷりと吸わせていたが、細身でありながらボルダンを片手であしらえるお父様とは同じ土俵入りは無理だ。無理。ちなみにネメアもがっぷりと派だった。俺は採血後に立ち眩みや貧血になる事もあるというのに、こいつは何時だってけろっとしていた。むしろ吸血後のレムオンが俺みたいに立ち眩みや疲労状態になっていた。魔人の血の影響力か?俺はネメアには逆らうまいと思った。

 

 





  タルテュバ=父上>>>ネメア>>>>伯父上です。なんか旅帰りの伯父上の血は最悪でした。

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