セルモノー・リューに生まれ変わった青年の話。   作:黄色いうちわ

8 / 10


  住めば都でした。




 ロストール王国新住民のお話し。

 

 

   ロストール王国に希望を見いだし、旅立った同胞は帰ってこなかった。

 

   ドワーフの場合。

 

   居住地をもらった。いやはや驚いたわい。集団移民としてロストールに行くぞとセルモノー坊主に伝えておいたが、まさか儂らドワーフの住む村を用意してくれてるとはな。もっと驚いたのは、各家庭に専用の鍛冶場を造ってくれた事よ。町の中心部にはこりゃまた大きな炉と鍛冶場があったらなぁ。ドワーフ王国に負けず劣らずの炉と鍛冶場。これで打たなきゃドワーフではないわ。隣村は人間の村でロストール王国随一の酒蔵ときたら、セルモノー坊主に乾杯っ。そういえば、復興後に帰るつもりでいた奴等は、帰らずに逆に家族を呼んで、今は一緒に住んでおるな。良質の鉱山が発見されたし、セルモノー坊主が貴重なキマイラの牙とかを無料でくれるからな。誰だって最高の環境で暮らしていたいだろう。

 

   ボルダンの場合。

 

 

   ボルダンの英雄がいる地だ。そして不敗の王が治める王国だ。闘技場に数多の道場に鍛練場所がある。望むものは全てある。与えられた村の建物が全て大きなのも助かる。酒と美味い飯、歌や劇、強者と強者の戦い。地上の幸せがロストールにあるのに、なぜ他国にいく必要がある?ロストール闘技場で、英雄レーグに勝てたらセルモノー王に挑む権利が与えられるのだぞ?俺達ボルダンにとってこれ以上の栄誉はないぞ。

 

   リルビーの場合①。

 

   セルモノーお兄ちゃんはね、あたし達リルビーからしたら、詩の題材として最高なのっ。だって、王子様なのに、異種族に優しいのよっ。王子様なのに、国王様になっても変わらずに優しくて冒険者しちゃっているし、異種族の子供を子供にするし。エスリン姫と恋仲になるかと期待していた仲間はがっかりしていたけど、エリス様に一途で大切にしているから穏やかな愛の歌のネタがつきないわ。国民や異種族から愛される人間の王様は凄く貴重だから、ロストールに留まっているの。

 

   リルビーの場合②。

 

   セルモノー様にはね、あたしと家族の命を救われたからねぇ。だからかね、あの尊き御方があの清冽な魂を魔王としてしまっても、お側にお仕えして歌を捧げようと思っているんだよ。…最後列のリルビーの一家が、グリフォンに襲われている状況なら、皆が逃げ出すだろう。あたしだって違う奴等が襲われていたなら逃げ出した。だけどね、あの方は違った。たった一人で戻ってきてくれた。戻ってきて、グリフォンを倒してしまわれた。たった一人でだよ。グリフォンを倒してしまえるくせに、衝撃で起きてしまった背負ったネメア様の泣き声に情けなくもあたしに「…ご婦人、いないないばぁで泣き止まぬ場合の対処方法を教えて下さい」と頭を下げられたんだ。むしろ、こんな御方が闇落ちした瞬間に立ち会ってみたいもんだよ。まあ、あたし達リルビーはもともと流浪の民だ。エンシャントに住んでいた時の知り合いも気になんかしていないよ。

 

   リルビーの場合③。

 

  大きな劇場と闘技場があるんだよっ。英雄潭が生まれる場所とぼくたちの活躍できる場所があるんだよっ。ここは差別が少ない尊い場所だ。ダルケニスとダークエルフの店主が深夜の八百屋で値切りあっているのを見たらね、創作意欲が掻き立てられたよ。エンシャントでは人気があった先生もね、こっちに来てからは色んな種族に話を聞いて題材にしているよ。うん、もう帰らないだろうね。

 

   ダルケニスの場合①。

 

  たまたま偶然だったのだ。即位式で沸き立つロストールにいたのも。あの頭のおかしい勅令を聞いたのも。直ぐにでも、ロストールから離れる気でいた。だが、レムオン王子の事が気になった。自分達ダルケニスと人間の間に産まれた子供。素性を全国民に知られてしまったのだ。他国からの使者にもダルケニスの血を引く王族だと知られた同族。彼が不幸になるのは見えていた。優しい王も自分の子が生まれれば変わってしまう。裏切られてしまったら、自分がレムオン王子を王宮から連れ出そうと思っていた。

 

  杞憂だったがな。魔人と人間の子であるネメア王子と人間とエルフの子であるケリュネィア王女が笑顔で暮らしている。レムオン王子も常に笑顔だ。セルモノー王にいたっては《国民投票で次代国王を決めたい。むしろ王政辞めたい》と言い国民からあきれられている。流石、キングオブお人好し。

 

   ダルケニス(ハーフ)の場合②。

 

  恥ずかしながら、僕は死に場所を探していました。生きる事に疲れていたから。最後に受け入れてもらえる夢を見たかった。どうせ捕まって殺されるとわかっていても、暖かな食べ物を食べてから死にたかった。

 

  あっけにとられましたね。住民登録をされて、立派な貴族の館に連れていかれて、たくさんの仲間にあった。ダルケニスに自分と同じダルケニスと人間のハーフ。仲間がたくさんいた事に驚いた。村を与えられて住む家を与えられて、顔をくしゃくしゃにして泣いた。もう、怯えながら隠れながら生きなくていいんだとわかり嬉しくて泣いた。生き別れた母親にも会えた。

 

  普通の人間の様に仕事にありつけた。自分達が耕し日々の糧を得れる様かに土地をもらえた。こんなことはなかった事だ。迫害されない土地に国に皆が喜んでいた。渡された配給カードに首をかしげた。先にロストールに移住していた仲間が教えてくれた。

 

  「このカードをもってロストールの配給所に行くとな、吸血をさせてくれるんだ。ただしくは吸血か血を飲ませてもらえるだけどな。あ、セルモノー様の血は不味いからやめとおけ。ネメア王子も不味いから注意しろ。ボルダンやドワーフもいるが酒を飲んでないかを聞いてから吸血させてもらえよ。あいつら、配給所から出されるお礼の酒目当てで来ているからよ」

 

  「劇場で役者として働くのもおすすめだよ。なんか人間達からしたら私達は美しいみたいでね。ファンが自分で吸血会を開いてくれるんだよ。吸血する事で、新しい血がつくられるからってセルモノー国王が推奨しているよ。あの御仁は、なんか私達とは違う視点をお持ちのようだよ」

 

  「…変わらないでいてほしいですね。母さんと会えたから、この優しい場所で生きていたい」

 

  「そうだね。あの優しい王が優しいまま若いままで王であってほしいね」

 

  配給所に行ったら、同胞がたくさん並んでいた。8列あってどれも大勢並んでいてちょっと困った。

 

  「あ、こっち空いてますよ~。なぜか人気ないですけど、私と息子は健康ですからっ」

 

  「どうぞ。父上も私も健康には自信があります!吸血して下さいっ」

 

  列は10列だった。一斉に顔を背けて聞こえていない風を装う同胞達に察すれば良かった。

 

  のこのこと向かっていった過去の僕をぶん殴りたい。

 

  父親の血を吸血してからの記憶がとんだ。

 

  吸血後にぐんにゃりとして動かなくなったらしい。慣れている同胞達に背負われて、僕はダルケニスの《大使館》に運ばれた。

 

  《大使館》は、それぞれの種族に与えられた館だ。そこで王都やほかの村でトラブルにあった場合、種族の代表に相談する場所だ。代表は対処してくれるが、対処できない場合は《村》の長と《国》に連絡をして対処をする。

 

   …なんか、僕に沈痛な顔で頭を下げている人が考えついたシステムだとは思えなかった。

 

   国王が簡単に頭を下げていいのかなと思った。でも、嬉しかった。口直しにどうぞと言われて吸血したネメア王子の血も僕を意識混濁へと追いやった。長と大使からお説教された。だけど、僕みたいにネメア王子と国王様の血を吸血したダルケニスはまた吸血しにいくらしい。気持ちはわかる。だってなんか悔しい。次こそは具合悪くならないぞと決めて挑んでいる。敗退記録更新中だ。

 

  …レムオン王子にお会いして、「レムオン王子、王子はネメア王子と国王様の血を頂いているのですか?」と聞いてみた。

 

  「いえ。タルテュバやアトレイア、ケリュネィアとエリスお母様からもらっています。父上とネメア、ゼネテスは善意の塊ですが、列には並ばない方が良いですよ。身内が言うのも何ですが、あの三人はダルケニスへの吸血行為に対して実に協力的です。健康に気を付けすぎて、配給所に行く日の前夜から大蒜に生姜に葱にトマトに韮に人参と玉葱とごぼうとミルクをミックスジュースにして飲みホルモン焼きとステーキを食べているのです。昔、旅帰りでもやってから私に血を飲ませてくれていたと話してくれました。…三人の血はダルケニスの意識を刈ります。長年の吸血で耐性のついた私が貧血や立ち眩みをおこすのです。あれはコップにもらってちびりちびりと嘗めるべきものです。ドワーフやボルダンから貰う事をおすすめします」

 

  返ってきた返答に、レムオン王子の悲哀を感じた。

 

 

 

 

   ハーフエルフの場合。

 

  ああ、ロストール王に感謝をしてもしたりない。何処にも居場所を持たなかった私達に帰れる場所を与えてくれた。

 

  私達を受け入れてくれた優しい人間に、同じ追われる立場の種族達がいとおしい。ちょっと、ちょっとだけドワーフが怖いけどっ。あなた方を毛嫌いしているのは私達の片親であって私達ではありませんからっ。ダークエルフやエルフはドワーフに近づかない方が良いですよと忠告してくるけど、私達はできれば仲良くしたいです。怖いけどっ。だけど、ロストールが私達を受け入れてくれた事を考えると、異種族同士手をとりあうべきだと思う。 

 

   ロストールを信じて集まったのは、私達子供だけだった。住む村を用意してくれたけど大人がいなかったから、私達ハーフエルフは大人になるまではノーブル領で暮らす事になった。魔人と人間のハーフも一緒だ。ケリュネィア王女様とネメア王子様が私達の代表になった。魔人のハーフの子供達とは直ぐに仲良しになった。だって、私達はなにもかもが同じだった。親から捨てられた悲しみと憎しみは、拾ってくれたセルモノー様への思慕へと変わった。私達の中で、父親はセルモノー様、母親はエスリン様とエリス様になった。優しい二人のお母様にどうしようもないくらいに優しくお人好しなお父様。暖かさを知れた、優しさを与えられた。帰りたかった場所に帰れた。今が泣きたいくらいに幸せ。

 

  同じ追われる存在のダルケニス達が、お父様とネメア王子様の血が不味いと言っていた。ネメア王子様は魔人のハーフだからかなと思ったけど、何でお父様もなのかな?魔人とのハーフの子供達が「ウルグ様は破壊神だからなぁ。お父様、対子供用のハニーフェイスをつけましょう」と言っていた。えっ?お父様ってウルグ様を宿せているの?何で?お父様人間よね?神様みたいに慈悲深いけど人間でしょ?

 

 

 

 

 

 

   誰も帰ってこない、だが、普通に幸せになれているので心配無用なわけだが、疑心暗鬼になる輩は存在するのである。

 

   ちなみに、エンシャントではロストールに移民すると王都で毎月血を抜かれると噂されているし、リベルダムではロストールでは売血商売が流行りだしたと噂されている。この世の中は真実と虚構が双子みたいにワンセットである。

 

   因みにダルケニス間では、タルテュバ王子とアトレイア王女の血が大人気である。

 

 






   Q なぜだ?そんなに俺・私達の血は不味いのか?

   A 不味いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。