セルモノー・リューに生まれ変わった青年の話。   作:黄色いうちわ

9 / 10

  強くてニューゲームでも心は折れました。






 セルモノー・リュー第二王子の昔話。

 

 

   ジルオールの世界に、セルモノー・リューとして生まれ変わった。

 

 

   最初の初陣で心が折れました。

 

   だってね、うちの軍にいた兵士さんが大勢捕虜になって、中には私によく仕えてくれた従者や年若い小姓達がいて、私の身柄と交換だって言われたら交換に応じますよねっ。そろそろ元の世界の人間に転生できる準備ができたのかなって思ったし。

 

   ええ、私はまあ死んでも約束がありましたから、そもそも一度死んでいますから元の世界の人間に転生できなくても最期に素敵な夢を見れて良かったなくらいでした。勿論、止められましたけどね。でも、第二王子だし王位継承者はまだ二人もいる。私は王にはならない人間ですからと言ってお目付け役の将軍を説得しました。彼の一人息子は捕虜として捕らわれていましたから。

 

   …この世界では、人の命が軽すぎでした。

 

   城門に単身近づいた私に向けられて、たくさんの物が降り注ぎました。

 

   城門からそれらを投げ捨てた奴等は笑っていました。

 

   「ロストールの腰抜け王子。お前を慕う兵士が役目を果たそうとせずに自害しやがったから首をはねてやったぞ」

 

   「武器も持たずにノコノコと来やがって次は魔法をくれてや」

 

   テレポートで敵の城の上空に移動して、ファイアボールとサンダーボルトとフレイムを詠唱しまくりました。私の甘さが私の国の守るべき存在を死なせてしまった。蘇生魔法を唱えるにはゴミが邪魔だ。敵認識をしたゴミを魔法で一掃しました。

 

   この世界では、人の命が軽すぎる。なら、私の大切な存在は護る。家族に友人に国民、この三つは何を犠牲にしても護る。私の日本人として常識や良心は捨てる。でないと大切な存在を護れない。

 

   地上に降りて、内側から門を開けた。

 

   首を抱き締めて泣いている自軍の兵士と将軍に告げた。

 

   「今なら間に合う。身体を見つけて来い。敵兵は殺したが、まだ残党がいるかも知れないから気を付けろ。…残党は必ず殺せ。これは戦争だ、全ての責任は父上と私が背負うものである。いけ、私の勇敢なる兵士達よ」

 

   兵士達は私に一礼すると、城内へと駆け出した。

 

   次々に運び出されてくる身体。首と繋げて蘇生魔法と回復魔法をかけた。

 

   …ええ、私情に流されてノヴィンを一番最初にしたのが悪かったと今も後悔しております。でも、彼は良いやつなんです。ゲームではかなり嫌なやつですが、実際の彼は生真面目すぎるけど努力家なんですっ。彼が亡くなったままだとゼネテスが産まれてこないのですっ。困りますっ。私はエリスやノヴィン以外にもジルオールのキャラクターに会いたいっ。エリスが悲しむのは嫌なんですっ。ゲームではエリスにがっかりな兄扱いですが、今は仲良し兄妹っ。将来的には私の義兄っ。

 

   でも、蘇生魔法を使えるって、自分みんなに内緒にしていたんや。回復魔法を使えるから君の従兄弟が具合悪くなった時に治せたんだよ。で済んでいたのに。

 

   唯でさえ何故か私を敬愛してくれて忠誠を誓ってくれていたのに、パワーアップは当たり前ですよね。

 

   「…我が忠誠を捧げるはセルモノー様のみってセルモノー様っ?」

 

   蘇生して、第一声がそれな時点で察しますよね。

 

   「…ノヴィン、おかえりなさい。お前は私が一番に信頼している従者なのだから、私の側を離れて勝手に黄泉の王の謁見に向かうのは駄目だよ。さ、父上に殴られて来なさい。殴られたら、私の為に飲み物を用意して下さいね」

 

   「はいっ。あ、でも私は自害して死んだはずで…《父親である将軍から頭に拳骨を落とされた》「愚息がっ!セルモノー様に感謝をせんかっ。祈れっ我らの神にっ。セルモノー様、ファーロスはあなた様に永遠の忠誠を誓い信仰し続けると誓約いたします」「父上、私の前に捕虜になった者達が首を斬られて」「…取り引きをする気は更々なかったか。見ろ、ノヴィン。セルモノー様の慈悲と奇跡だ」「あ、あああっ。か、神よっ…」

 

   ファーロス家の父子のやり取りを最後まで聞いていると、完治したはずの厨二病が再発しちゃうからね。心を無にして蘇生&回復魔法をかけ続けました。兵士と将官全員が私を拝んでいるわけがありませんよっ。

 

 

          ※※※

 

 

 

 

 

   ロストール王国第二王子、セルモノー・リューの初陣は近隣諸国を震え上がらせた。

 

   味方の死傷者ゼロ。敵方、全滅。戦場における死体は確認できたが、城塞においての死体は消滅。セルモノー・リュー第二王子の攻撃魔法の威力は天災そのものである。

 

 

   …ええ、初陣で心が二つの意味で折れましたから、次の戦では魔法を禁止しました。

 

  STR255×500の人間が、ダフルブレードでゲイルラッシュを敵陣に向けて放ったらどうなるのかななんて…後は解るね?敵方わんさかいたのに、静かな原っぱになりました。怖かった。怖かったんや。

 

  苦肉の策で、《仏の顔も三度まで》方針をとることにしました。要は、敵陣に向けて降伏勧告を三回するのです。勧告して降伏したら攻撃をしない。降伏しなかったら攻撃をすると。

 

   攻撃をするはめになったら、徹底的に潰しました。禍根を残すの良くない。そうしないと生かした人間の子孫に滅ぼされますからね。日本人はそういう歴史を繰り返してきましたから。やらないとやられる。護りたいものがあるのなら、躊躇ってはいけません。報いがくることに怯えてはいますけど、なんかこなさそう。そもそも降伏したら助けるんだから、降伏しないほうが悪いんですよ。    

 

 

   ロストール王国に喧嘩をふっかけてくる小国や豪族が減りました。INTとMINも255×500状態ですから、前世では平凡だった私も天才ですからねっ。えげつない戦略や戦術が思い浮かぶ思い浮かぶ。軍隊の指揮能力もアップしていましたからね。ロストール王国では救国の英雄王子で他国からは悪魔や魔王扱いですよ。疲れきった顔を心配してくれた両親と兄弟が、冒険に行って来ても良いよと言ってくれたので、旅に出ました。

 

   こっそりと城を抜け出したのですが、エリスとノヴィンとフリントが素敵な笑顔で待ち構えていました。

 

   豪商の若様と御付きの侍女と従者二人の設定で旅に出ました。

 

 






  最愛の神の御供ができて楽しかったです。エリス・ノヴィン・フリント。

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