天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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よろしくお願いします


プロローグ

 宇宙進出は人類の夢である。

 

 地球に住む人類は未だに月より先に行くことが出来ていない。

 

 宇宙の先がどうなっているのか。

 それは果てしない夢物語である。

 

 しかし、その実態は……。

 

 すでに地球人などが介入する余地がないほど、宇宙の勢力図は決まっていたのであった。

 

 宇宙船どころかコロニーや『超空間航行』というワープ技術まで完成しており、寿命など千年単位が当たり前。

 『宇宙海賊』という存在と『ギャラクシーポリス』通称GPという警察組織などまである。

 

 もちろん国家も存在しており、【銀河連盟】と呼ばれる勢力などに大きく影響を与えている。

 

 その中で特に影響力を持つ国の1つ【樹雷】。

 

 その一族が地球で隠れて暮らしていることは、全く知られていない。

 

 

 

 

 太陽系第三惑星【地球】。

 

 衛星軌道上に一隻の宇宙船が、超空間からジャンプアウトした。

 同時に空間迷彩を起動して、レーダーや視覚の認知を不可能にする。

 

「……ここが地球か……」

 

 宇宙船の主は操縦席で腕と脚を組み、モニターに表示されている青い惑星を見つめる。

 

「……全く。いくら命令とは言え……」

 

 小さくボヤくのは、褐色肌に金髪の髪を持つグラマラスで長身の美女。

 左前髪、左後ろ、右後ろに尻尾のように細長く束ねられた髪が靡いている。

 

『本当にやるのかい?』

 

 憂いの表情を浮かべる女性の顔の横に小さなモニターが表示されており、そこには同じく褐色肌に青い髪をした筋肉質の女性、コマチ・京が腕を組んで心配そうな表情を浮かべている。

 

「仕方ないだろう。命令を無視すれば、我々の立場が危うくなる……」

 

『確かにそうだけど……』

 

「安心しろ。この状況で引き際を見誤るほど馬鹿ではない。それより、そちらは大丈夫なのか?」

 

『こっちは問題ないさ。ただ義理で連絡を貰っただけだからね』

 

「なら、いいが……。大変だな。樹雷の鬼姫と外交とは……」

 

『今となっちゃアンタよりはマシに思えてるよ。……死ぬんじゃないよ、ハリベル』

 

「当たり前だ。何も成しえていないのに、こんなところで死ぬわけにはいかない。……私の部下達を頼む」

 

『そっちは安心しな。最悪、樹雷の鬼姫にでも保護してもらうさ』

 

「ふっ……。安心するべきのか、不安に思うべきなのか、迷う提案だな。では……さらばだ」

 

『……ああ』

 

 ブツンとモニターを閉じて通信を終える。

 ハリベルは目を閉じ、背もたれに身体を預けて心を落ち着かせる。

 

 そして、覚悟を決めて目を開き、操縦桿を握って地球へと急降下を始める。

 

 

 目指すは日本、岡山県【正木の村】。

 

 

 

 

 同時刻、柾木家。

 

 今日も青年、柾木天地は畑仕事をしていた。

 

 鍬を振って土を耕し、雑草を抜き、肥料を撒く。

 そして収穫時のニンジンを収穫し、籠に入れていく。

 

「ふぅ……。今日は魎皇鬼がいないから仕事は早いけど、寂しくも感じるなぁ」

 

 普段は魎皇鬼が天地を手伝ったり、周囲で遊んでいるので賑やかなのだが、今日は珍しく別行動だった。

 

 数日前にノイケ許嫁騒動、九羅密美咲生襲撃騒動、そしてZと訪希深騒動がようやく一段落したばかりで、己の身体に起きた変化もようやく慣れてきて日常生活に戻れたところだった。

 

 ノイケは樹雷皇女阿重霞と砂沙美の祖母である瀬戸の養女として、柾木家にやってきた元GPの美女である。

 とても優秀で気配りも出来る存在で、すでに柾木家にはいなくてはならない存在になっている。

 

 畑仕事も手伝ってくれており、軽トラックの運転が出来て今まで大変だったニンジンの持ち運びが非常に楽になった。

 

 家事も万能で、今まで一番砂沙美にほとんど任せきりになっていた料理、洗濯、掃除も完璧にこなしていた。

 

 天地とも少なからず因縁があり、最初は監視として送り込まれたらしいが、すでにとても良好な関係を築き上げている。

 

「また女性が増えて落ち着かないけど、これでしばらくはゆっくり出来るかな……」

 

 しばらく争いごとは御免だと天地は思い、この憩いでもある畑仕事に専念したかった。

 

 しかし、その思いは容易く破られる。

 

「!!」

 

 天地の感覚に突き刺さる嫌な気配。

 

 鍬を投げ捨てて、勢いよく振り返る。

 

 それと同時に1人の女性が一瞬で空中に現れた。

 

 顔の下半分から指先までを覆う襟詰めの白い上着を着ているが、その巨乳の下半分から腹部が大胆に露出していた。両腰にスリットが入った白い袴のようなズボンも黒のベルトだけで固定されており、今にも見えてはいけない部分が見えそうだった。

 その背中には剣が横に携えられていた。

 

 その過激な服装に一瞬頬を赤くしそうになったが、金色の髪とマスクのようになっている襟の間に覗く深海のように静かで冷たい碧眼と目が合った途端、そんなことは頭から吹き飛んだ。

 

 女性、ハリベルは冷たく天地を見下ろしている。

 

「……お前が柾木天地だな?」

 

「……そう、だけど……」

 

「恨みはない。だが、我々が生きるために、お前には犠牲になってもらう」

 

 ハリベルは背中の剣に手を伸ばし、柄端についているリングに指を掛ける。

 一気に引き抜いて、鞘から抜けた勢いで回転した剣の柄を見事に掴む。

 

 剣身の真ん中が空洞になっている片刃の段平の剣。

 

 それを見た瞬間、天地は武器を持っていないことを思い出す。

 畑仕事のため、自分と同じ名前を持つ『天地剣』を置いてきてしまったのだ。

 

「……武器を忘れたようだな。だが、それで見逃してもらえるとは思わないことだ」

 

 ハリベルは剣を構えて空を蹴り、天地へと斬りかかる。

 

「っ!!」

 

 天地は歯を食いしばって反射的に横に跳んで、斬撃を躱す。

 しかし、それを見抜いていたように、ハリベルは振り下ろした剣を流れるように横に軌道を変えながら横に跳び、天地を追う。

 

 天地は全力で地面を蹴り、高く跳び上がった。

 

 ハリベルは無理に追撃せず、目だけで天地を追う。

 

 天地は農道に着地して、噴き出してくる汗を拭う。

 

「……なんで俺を……!?」

 

「……不思議な事を言う。お前や周りにいる者達の素性を考えれば、おかしなことではあるまい」

 

「っ!?」

 

「樹雷皇女、伝説の女海賊、世二我の姫、伝説の哲学士、樹雷の鬼姫の養女。そして、その者達を囲い、銀河アカデミーとGPアカデミーの現理事長の孫であるお前。恐ろしくもあるが、嫌がらせを考える愚か者にとってはそれでも魅力的すぎる弱点だ。……私なら殺されても手を出したくはないがな」

 

「……? じゃあ、なんで……?」

 

「それもまたおかしなことではない。自分で手を出して返り討ちに遭いたくない卑怯者が、人質を取って私を脅してきただけのことだ」

 

「そんな……!」

 

「確かに死にたくはない。だが、私は自分の命よりはその者達の命を選んだ。それだけのことだ」

 

 ハリベルは右腕で突きの構えを取り、左手を峰に添える。

 すると、剣の空洞にエネルギーが溜まる。

 

 剣を扱う天地は何をするのか即座に理解して、また全力で横に跳ぶ。

 

「《波蒼砲(オーラ・アズール)》」

 

 ハリベルは勢いよく剣を突き出して、エネルギー弾を撃ち出す。

 エネルギー弾は天地の横と畑の上を猛スピードで飛び、奥の林に着弾して地面ごと木々を吹き飛ばす。

 

「はぁ! はぁ! はぁ!……」 

 

 息を荒げた天地は吹き飛んでクレーターが出来た林を見て、すぐにハリベルに視線を戻す。

 

 ハリベルは天地を見据えながら、

 

「……反応も動きもいい。なのに、恐怖が隠せず、視線や表情で何を考えているのか手に取る様に分かる」

 

 ハリベルが依頼者から渡された情報に目を通した限りだと、それなりの修羅場はくぐっているという印象だった。

 なにしろあの樹雷やGPですら中々手を出せなかった凶悪犯〝神我人〟を倒した張本人だ。

 

 魎呼や鷲羽、津名魅の力もあったとは言え、数名で討伐した。

 さらにDr.クレーも捕縛した。

 

「……光鷹翼は出さないのか?」

 

「っ!!」

 

「皇家の樹も持たないのに、光鷹翼を展開出来る異質の男。物質変換まで可能にしていると情報を得ている。何故使わない?」

 

「……」

 

「まだ扱いが未熟ということか。……無抵抗の者を手にかけるのは、あまり好きではないのだがな」

 

 僅かに不快に目を細めるも、剣を構える。

 

 天地は何か術はないかと考えていると、2人は空から凶悪な殺気が迫ってくるのを感じた。

 

「「!!」」

 

「てんめぇ……! 天地に何してやがる!!!」

 

 飛んで来たのは魎呼だった。

 鬼のような形相で、ハリベルを睨みながら叫び、右手からエネルギー弾を放つ。

 

 ハリベルは両手で剣を握り、迫るエネルギー弾を剣で真上に打ち払う。

 

「ぐっ……!」

 

 エネルギー弾は勢いよく雲を引き裂きながら飛んでいき、ハリベルはその威力に顔を顰めて後ろに滑る。

 

 魎呼はそのままミサイルのようにハリベルに向かって飛び迫り、右手に光剣を作り出して斬りかかる。

 

「おおお!!」

 

「ちぃ!!」

 

 ハリベルは全力でジャンプして、空中へと跳び上がる。

 魎呼はスピードを落とすことなく上昇して、一瞬でハリベルとの距離を詰めて光剣を袈裟斬りに振る。

 

 ハリベルは剣を横にして、魎呼の斬撃を受け止める。

 

 そして、剣の面を魎呼に向け、左手を鍔から切っ先に滑らせて剣の空洞にエネルギーを溜める。

 

「!!」

 

「《虚閃(セロ)》」

 

 魎呼は大きく身体を仰け反らせながら、下に下がる。

 

 直後、その真上にエネルギー波が走る。

 

 エネルギー波は空を走って、山の頂を削る。

 

「……魎呼、か」

 

「あぁん? テメェ……アタシらが誰か分かってて、手ぇ出してきやがったのか?」

 

「当然だろう。でなければ、初期文明の星になど来るものか」

 

「はっ! そりゃそうだ。じゃあ……死ぬ覚悟は出来てるってことだよなぁ!!」

 

 魎呼は凶悪な笑みを浮かべて、拳を鳴らす。

 

 ハリベルも剣を構えて、魎呼を鋭く見据える。

 

 地面にいる天地は唾をのんで、2人の戦いを見守る。

 

 

 のんびりとしている田舎町に、殺伐とした空気が満ちる。

 

 

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