天地無用!皇鮫后 作:無月有用
ハリベル達は瀬戸に捕まる前に良く活動していた宙域に到着した。
到着と同時に水穂に位置情報を送信する。
これでアイリや美守から襲撃してもいい輸送艦やコンテナ艦が通知される手筈になっている。
ゆっくりと航行をしながら、ハリベルはある者に通信する。
数秒コールすると、目の前にモニターが展開されてコマチの顔が表示される。
『ハリベル! よかった。無事だったんだね』
「なんとか、だがな」
『無事ならいいよ。それで? 通信なんかして大丈夫なのかい?』
「ある程度自由行動は許されている。だが、監視されている可能性は高い。今後はお前との仕事は控えておくべきだと思ってな」
『……そうだね。鬼姫ならダイ・ダ・ルマーを狙ってもおかしくないか……』
「私のことをお前に連絡してきた以上、この会話も予想されているだろうがな。しかし、だからと言ってダ・ルマーギルドに近づくわけにもいかん。ダイ・ダ・ルマーの航行情報を持つ者との接触は今後避けさせてくれ」
『分かったよ。けど、なんかあったら遠慮なく連絡してくれ。あんたが味方になってくれるなら、総統も鬼姫を敵に回しても迎え入れてくれるだろうさ』
「申し出はありがたいが……やめておこう。今、鬼姫に大きく敵対するにはリスクが大きすぎる」
『まぁ、それもそうだね』
「……コマチ。今回の件、ダ・ルマーは?」
『いや、まだ伝えてない。私の部下も知らない。けど、あんたが保護していた難民が樹雷とGPに保護されたことで、何かあったんだろうと感づいてはいるよ』
「そうか……。忠告しておく。今回の件、特に地球に関しては誰にも話さず、手を出さず、目と耳も向けるな。下手すれば……ダ・ルマーギルドは跡形もなく消える」
『っ!? ……そこまでかい?』
「ああ。だからこそ、お前に連絡した。……先ほども言ったが、私がダ・ルマーギルドの最高幹部との接触を避けるのは、鬼姫の望むところではないだろう。それでも、お前には世話になったことがあるのも事実だ。だからこそ、お前には伝えておく」
『……分かった。総統には上手く誤魔化して伝えておく』
「すまない」
『気にしないでおくれ。こっちもあんたには助けられたことも多いからね。それにあんたがそれだけ言うんだ。本当にヤバイのが控えてるんだろうさ。それに手を出して大火傷をするのは、こっちも本望じゃない』
「ああ。では、気を付けてくれ」
『そっちもね』
コマチは力強い笑みを浮かべて通信を切る。
ハリベルは小さくため息を吐いて、艦長席にもたれ掛かる。
恐らくこの通信の内容はリアルタイム、または後程瀬戸達に伝わるだろうとハリベルは推測している。
瀬戸達の性格を考えると、直接文句や忠告してくることはないだろうが、他の事で面倒事を押し付けられる可能性は高い。
しかし、だからと言ってコマチ達を見捨てるのも心情的に難しいので、ここらへんが限界だろうとハリベルは考える。
下手したら鬼姫外交担当でもあるコマチにも被害が行くかもしれないが、ダ・ルマーギルドの良心でもあるコマチを追い詰めるような真似はしないだろう。
瀬戸はそのあたりの加減が分からない為政者ではない。
ハリベルは気を切り替えるように、スンスンに声を掛ける。
「レーダーに反応は?」
「特には。同じように流している海賊達ばかりですわ。……あら? ハリベル様、リョーコさんの船です。向こうも気づいた様でこちらに近づいてきてます」
「あん? リョーコってアカデミー近辺を縄張りにしてなかったか?」
「そんなの仕事によって変わるに決まってるだろ」
アパッチの言葉にミラ・ローズが呆れながら言う。
海賊は縄張りを主張する者もいるが、大半の海賊は拠点がバレないように適度に仕事する宙域を変える。
更にはチームアップでの仕事もあり、超空間ジャンプで逃げるGP輸送艦を追いかけることもある。
「どうされますか?」
「通信を繋いでくれ」
「はい」
スンスンがすぐさまコンソールを操作して、リョーコの船に通信を送る。
着信と同時にモニターが起動し、ウェーブのかかった黒い長髪を靡かせて人懐っこい笑みを浮かべている美女が映し出される。
『ハリベル様。お久しぶりでございます』
「ああ」
『ここしばらくは活動されてなかったようで、何かあったのかと心配していたのです。ハリベル様が保護されていた方々がいる星にGP艦隊が向かったという情報もあったので……。ご無事でよかったですわ』
「動力炉やエンジンを新調していただけだ。あの者達がどう扱われるか確認していたというのもあるがな」
『そうですか……。私の方でも調べましょうか?』
「いや、必要ない。どうやら樹雷の自治領に移住したようだからな」
『樹雷の……!? わ、分かりました』
銀河連盟最強国家に保護された以上、無下には扱われないだろう。
そして、樹雷の自治領内を探ろうとすれば、逆にこっちの探られたくない腹を暴かれる危険性があるのだ。
なので、リョーコも大人しく引き下がる。
そのまま通信を繋げたまま、他愛無い話をしながら獲物を探すハリベルとリョーコ達。
ニコニコしながら話すリョーコにアパッチ達も無下には出来ずに相手をする。
リョーコは海賊はもちろん、GPでもハリベル以上に人気で、数えきれないほどのファンクラブが存在する。
遠くから見ればプリンセスのような優雅さと美しさがあり、関わった者からすれば可憐で犬のような人懐っこさで、人の心を射抜くのだ。
ちなみにリョーコの船の部下達は、リョーコとハリベルが並んだ姿を隠し撮りをして目の保養にしていた。
流石に売りはしなかったが、もし売っていたら地球で数百万円で売れた可能性があったのはここだけの話である。
海賊は荷を奪う場合、コンテナを切り離させるだけなので、お互いに顔を合わせることはない。
そして、通信でもモニターで顔を見せることもない。音声通信による警告と停船命令のみなのだ。
なので、ハリベルやリョーコの船だと分かっても、その御尊顔を拝める機会はゼロに近い。
そのため、ハリベルとリョーコのツーショットなど、野郎共にとってレア中のレアといえる。
この写真が流出したら、2人合同のファンクラブが誕生して国家予算レベルの金が払われたことだろう。
部下達はあの時ほど「この船のクルーでよかった……!」と思った時はない。
ちなみにハリベルは隠し撮りに気づいていたが、リョーコの部下達なので特に咎めることはしなかった。
「ハリベル様。GPコンテナ艦の反応ですわ。数は1」
『艦長。こちらも観測しました。まだ誰も狙ってはいないようです』
スンスンが報告した直後、リョーコの副官もオペレーターからの報告を通達する。
それと同時にハリベルの元に美守から偽装艦の位置情報が届く。
それは今ハリベル達が捉えた船であったことから、ハリベルはすぐさまスンスン達に指示を出す。
「久しぶりの仕事だ。狩りに行くぞ」
『ご一緒しても?』
「構わん。ミラ・ローズ」
「了解!」
ハリベルの呼びかけに、ミラ・ローズは即座に船の速度を上げる。
リョーコの船もほぼ同時に速度を上げたが、あっという間にハリベルの船に置いて行かれてしまう。
「速い……!」
「なんと……。もともと船のサイズが違うので、加速では後れを取るのは仕方がないですが……」
「さらにスピードが上がっているわ。あそこまでとなると、動力系は全て一新されているようね。一体どんなエンジンやジェネレーターを……」
「ハリベル殿は独自の技術力をお持ちですからな。もしや最新型のものを改造したのやもしれません」
「そうね……」
リョーコと傍に控える副官は目を見開いて、スクアーロンの改良について推測する。
リョーコの船は一般的な中型戦艦である。
もちろん独自の改良は施しているが、それでも一般の域を出ることはない。
そして、やはり馬力のあるエンジンはサイズが大きくなる傾向があるので、大型艦の方が速度は上がるし、超空間ジャンプの距離も長くなる。
スクアーロンは昔から機動力重視なので、速度に関しては昔から準大型艦並みだったのだが、今は完全に最新鋭大型艦レベルだとリョーコ達は推測していた。
スクアーロンはあっという間にGPコンテナ艦に接近し、警告通信を飛ばす。
それに30秒ほど遅れて、リョーコの船も警告通信を発信する。
GPコンテナ艦は美守から『荷物は大量生産品であり、海賊に遭遇次第明け渡して構いません。これは海賊の分布状況を再確認する撒き餌です』と告げられているため、すぐさまにコンテナを切り離す。
そして、距離を取って、ハリベル達が追ってこないことを確認して、ジャンプで脱出する。
ちなみにコンテナ艦に乗っていた男連中がハリベルとリョーコの名前に盛り上がって、女性陣から白い目で見られていたのはここだけの話である。
ハリベル達はコンテナをスキャニングして、中身の分配を決める。
今回はハリベルとリョーコだけのなので、それぞれ半分で済む。そこからトレードの交渉となり、ハリベルは特に欲しい物はないので、リョーコの望むままにトレードを了承する。
『いいのですか?』
「問題ない。身軽になって、今は自分達に必要な物以外は不要だ」
匿っている者もいないので、物資に拘る必要がない。
それにリョーコは頷いて、頭を下げる。
『ありがとうございます』
「あら? ハリベル様! 付近宙域に重力波多数感知しましたわ!」
「多数……? 隠影航行に切り替えろ。様子を見る。リョーコの船にも伝えてやれ」
「了解ですわ」
スクアーロンとリョーコの船は動力炉をギリギリまで低下させて、レーダーに捉えにくくする。
その頃にはリョーコの船もジャンプアウトの反応を捉えており、最大限の警戒態勢を敷いていた。
最初にジャンプアウトしてきたのは2隻の海賊艦。
その少し後に5隻のGP戦艦がジャンプアウトし、海賊艦に攻撃を開始していた。
「あ~あ。完璧に捉えられてんな」
「あの海賊艦じゃあGP戦艦を振り切るのは少し厳しいだろうねぇ」
「……識別コード称号しましたが、見知らぬ番号ですわ。それにかなり若い番号のようですわね。どうされます?」
「……背後から仕掛ける。私達だけでな」
「「了解!」」
「陰影航行解除します」
スクアーロンは動力炉をフル稼働させて、一気にトップスピードに乗る。
リョーコ達は目を見開いて慌てて追いかけようとするも、その時にはすでにスクアーロンはGP艦隊の背後に回り込んでいた。
「撃墜しないように注意しろ」
「あいさぁ!」
アパッチが力強く返事をして、射撃桿を握る。
そして、二発射撃して、GP旗艦の傍にいた戦艦一隻のエンジン部に直撃させ、航行不能に追い込む。
そのまま、旗艦と攻撃した戦艦の間を高速ですり抜けて、海賊艦を攻撃していた戦艦のエンジン部に攻撃を叩き込む。
スクアーロンは高速で宙返りをして反転し、再び艦隊の背後へと回る。
その速度にGP艦隊の射撃クルーは反撃する暇がなかった。
「は、速過ぎる!」
「艦長! 2番、3番艦航行不能! 攻撃は可能とのことですが……」
「あの速さでは同士討ちになりかねんか……。くそっ! 鮫の女帝め!!」
「か、艦長! 更に海賊艦接近! リョーコ・バルタの船です!!」
「っ!! くそったれ!! 航行停止!! レーザー通信でシグナルを送れ!!」
「りょ、了解!」
オペレーターの報告に、司令官はすぐさま戦闘中断を決めて、ハリベル達にも停戦のシグナルを送る。
シグナルを受け取ったスクアーロンは再び艦隊の隙間を超高速ですり抜けて、そのままジャンプインしてその場を離脱した。
リョーコの船も続くようにジャンプインして、スクアーロンを追う。
司令官は歯を食いしばって、スクアーロンが消えた空間を睨みつける。
「おのれ……! 不意打ちとはいえ、あの速度で追い抜きざまに戦艦2隻を停めるとは……」
「まさに鮫、ですね……」
「孤高の海賊である実力は伊達ではない、か。はぁ……被害状況の確認後、こちらからも修理クルーを送り込め。近くのGP支部に救援要請。1番、4番艦は周囲の警戒を怠らせるな」
「「「はっ!!」」」
司令官は小さくため息を吐いて、迅速に対応を指示する。
部下達もすぐに対応に動き出し、司令官は背もたれに体を預けて、右手で顔を覆う。
「小物を追い詰めるいい練習で終わるはずだったのに……。気づいたら始末書か。はぁ~……やられた船の艦長達にはあまり落ち込まないように言っておいてくれ。あれはいくら熟練のクルーでも結果は大して変わらんかっただろうよ」
「分かりました」
副官に付属艦の艦長達のフォローを頼む司令官。
今回の付属艦の艦長は、艦長になって数日の『ピカピカの1年艦長』達だったのだ。
小物の海賊を主に狙うことで、艦隊行動における艦長の指揮能力を学ばせる練習になるはずだったのだが、ハリベルの参戦でいきなり傷がついてしまった。
艦長は確かに花形の役職ではあるが、付属艦の艦長は自身の船のクルーに指示を出しながら、旗艦からの指示に従わねばならないという難しい立場でもある。
なので、段階的に時間をかけて経験を積ませるのだが、駆け出しで大きな敗北を経験すると、心が折れてしまう者も出る。
司令官も辿った道ではあるが、今回はあまりにも特異な事例だった。
普通、あのような高速航行と精密射撃をする海賊艦などいない。
ただ運が悪かっただけ。
恐らく上層部もハリベルとの遭遇と戦闘記録を見れば、司令官以外は特に問題視しないだろう。
流石に誰も責任を取らないわけにはいかないので、司令官は諦めるしかない。
しかも、それが艦長達の訓練航行なのだから尚更である。
しかし、やられた本人達はそう簡単に割り切れないだろうとも、司令官は理解している。
なので、しっかりとフォローして、今回を良き経験としてやらなければならない。
(もっとも……今のGP艦であの海賊艦の動きに対応できるのは一握りだろうがな。噂以上のスピードと攻撃力だった……。これは対処を考えねば、本当に魎皇鬼と魎呼の再来となりかねんぞ?)
司令官はそう考えながら、報告書と始末書の作成に入る。
そして数時間後にやってきた救援艦隊の艦長に、「お前らもやられたか。どんまい」と肩に手を置かれて言われるのであった。
聞けば、この宙域に長く勤務している艦長は全員一度はハリベルにやられているとのことだった。
ある意味それが通過儀礼にもなっているようで、誰一人責め立てる者はいなかった。
そのおかげか落ち込んでいた艦長達は全員心が折れることなく、業務を続けることが出来たのだった。
その頃、リョーコとハリベル達は少し離れた宙域にいた。
『もう……驚かさないでください』
リョーコは小さくため息を吐く。
ハリベルは涼しい顔で、
「……別にお前達まで付いてくる必要はなかったのだが……」
『いくらハリベル様とは言え、あの状況で一隻で飛び出されて無視できるわけないです!』
「……そうか」
ハリベルは困惑気味に返答し、ミラ・ローズ達は苦笑する。
リョーコはスクアーロンのあまりにも性能向上について訊ねたかったのだが、流石にマナー違反なので口にはしなかった。
リョーコは知識欲も旺盛で、技術系にも精通している。
なので、今も傍に控えている副官の目には、うずうずと尻尾が揺れているように見えていた。
しかし、ハリベルがもちろん話すつもりはないのも分かっているので、その不満も地味にぶつけているリョーコだった。
『はぁ……。あの海賊達は無事に逃げ切ったようです。どうやら新興の海賊だったのでしょう。これで引退するか、どこかに所属してくれればいいのですが……』
「ここからはあいつら次第だ。船もあるのだから、自分達に適した場所にも行ける」
『だといいですが……』
「この近くには海賊が集まるステーションもいくつかある。その内の1つにでも行けば、お節介な者が現れるだろう」
特に引退した元海賊などは若い海賊を見ると、口や手を出す傾向がある。
確かにもう古い慣習や持論を展開することは多いが、その経験や伝手、技術力は無視できないものが時々あるので、バカにも出来ないのだ。
「私達は今日はこれで終わる予定だ」
『そうですか……。では、我々も今日はここで』
「ああ」
『それでは、また』
リョーコは一礼して通信を切り、ジャンプインしていく。
それを見送ったハリベル達も今日はチョビ丸に帰還して、体を休めることにした。
ハリベルは持たされた重箱を持って、地球へと戻る。
「あ! おかえりなさい!」
「……ああ」
ハリベルはどこか「ただいま」というのが気恥ずかしく、頷くだけに留めて重箱を渡す。
「部下達も喜んでいた」
「よかった! また作るね!」
「ああ」
笑顔で言う砂沙美に、ハリベルも笑みを浮かべながら頷く。
そこに鷲羽がヒョコッと顔を出す。
「おかえり。船は上手く扱えそうかい?」
「……徒波からデータは受け取ったはずだ」
「そうだけどさ。データじゃなくて主観も聞きたいんだよ」
「……流石に十全に扱うには時間がかかる。徒波のサポートがあるにしても、それは私達がある程度扱えるからこそ活かせるものだからな。それに……性能が異常過ぎて使い時がない、というのもある」
「くくくっ! それならそれでいいデータになるよ。新しい船の方にも使うから、適度に暴れておくれ」
「そこは鬼姫や九羅密美守に言え。あまり派手に動けば、向こうの計画に影響が出るかもしれんからな」
「了解」
鷲羽は満足そうに頷いて、研究室に戻る。
ハリベルはそれにため息を吐いて、疲れを癒すために大浴場へと向かうのだった。