天地無用!皇鮫后 作:無月有用
いよいよ、瀬戸の【グランギルド】大摘発プロジェクト決行日となった。
ハリベル達はこの数日、『ある宙域にGPの特殊兵器が隠密航行で移動するらしい』という噂を流しまくった。
もちろん、自分達が噂の情報源だとバレないように注意しながら。
もっとも、他にも瀬戸に首輪をつけられた海賊や潜入捜査をしていた瀬戸の部下も噂を流しているので、バレる可能性はほぼないだろうが。
そして、あと数時間で摘発開始と迫り、ハリベル達は作戦宙域から少し離れた宙域で陰影航行で行く末を見守っていた。
「やはりラディ・シャンクの船は姿を見せませんね」
「あいつが獲物が見つかる前に出て来るもんかよ」
「ま、良いとこ取りする気でいるだろうから、近くに隠れてんだろうけどな」
「それにしても、鬼姫の奴もかなり本気だな……」
「あいつのお抱え部隊の4割だろ? GP艦隊も真っ青だよな」
「それでも目標艦全てを捕らえるのは難しいでしょうね。せめて幹部連中の半分、もしくはラディ・シャンクの船を抑えたいですわね」
「流石に今回逃がしたら、すぐにもう1回ってわけにゃあいかねぇしな」
「ラディ・シャンクなら数百年は警戒し続けるだろうな」
スンスン達の会話に内心同意していたハリベル。
海賊達とて馬鹿ではない。
広くない宙域に集まるならば、一か所に集まらないようにする知恵くらい持っているし、幹部を脱出させるシステムや手段は複数準備している。
【グランギルド】は下部組織ではあるが、かなりの規模である以上、それだけ海賊がいるということだ。
経験豊富な者が幹部になっているだろうし、今回のような大規模摘発の逃げ方などは熟知している。
事実、瀬戸もハリベルも、ラディ・シャンクと集まっている三割の海賊を捕まれば、御の字だろうと考えている。
それだけ海賊を捕らえるのは難しい。
そう考えながら、しばらく推移を見守っていると、スンスンがある異変を観測した。
「……あら?」
「ん? どうしたんだ?」
「作戦宙域付近にGPの輸送艦の反応です。護衛艦の反応もないのですが……」
「ないけど?」
「その輸送艦を百近い海賊が追いかけてますわ。今もどんどん数が増えていきます。作戦宙域内の海賊すらも……。まるで引き寄せられるように」
「「はぁ?」」
ミラ・ローズとアパッチは同時に訝しむ声を上げる。
ハリベルも自身のモニターを見つめていた。
スンスンの言葉通り、今も鼠のように海賊艦を現すマーカーが増えていた。
すると、輸送艦がジャンプした。
逃げたかと思ったが、なんとその輸送艦はまだ釣られていなかった海賊の群れのド真ん中にジャンプアウトした。
もちろん、輸送艦はまたすぐさまジャンプしたが、再び別の海賊の群れがいるところにジャンプアウトする。
もはや鼠という表現すらも凌駕する速度で海賊を引き寄せていく輸送艦に呆れるしかないハリベル達だった。
「……なんだ、この船?」
「なんでそこにジャンプするんだよ……」
「恐らく『予想屋』に気づいたのでしょうが……。それが逆に最悪な結果を招いてますわね」
予想屋とはGPのランダムジャンププログラムを解析して、ジャンプ航路を推測する者達の事だ。
GPは少し前に最新版にアップロードしたのだが、すでに解析されていた。
なので、恐らく今度は手動による座標入力によるジャンプをしたはず。
それが全て海賊の群れに飛び込むなど【不運】にもほどがあった。
(……不運?)
そのキーワードに何か引っかかったハリベルだが、思い出す前に更に状況が変わる。
「は? ジャンプしなくなったぞ?」
「短時間で三回もランダムジャンプしたから、エンジン限界になったんだろ」
「というか、何故逃げるのでしょう? さっさと荷を明け渡せばよろしいのに……」
「なんか特別なモンでも積んでんのか?」
「護衛艦も付けずに、こんな海賊多発宙域に?」
「だよなぁ……」
「ハリベル様、どうされますか? このままでは、というかすでに作戦に影響が……」
「……逆に海賊達が集まりつつある。第二目標艦もほぼ釣られているから、ラディ・シャンクも現れかねん。こちらに来ないようにだけ注意して、観測を続けてくれ」
「はい。……あら、ハリベル様! リョーコさんも釣られましたわ!」
「は? リョーコが?」
「何してんだよ……」
リョーコの名前にアパッチ達は呆れ返る。
あれだけの海賊が集まっているのだから、むしろ警戒して近づかないくらいの危機感が出なければならない。
もちろんそれはリョーコだけでなく、未だにしつこく輸送艦を追いかける海賊達も同じなのだが。
ハリベルも僅かに眉間に皺を寄せる。
しかし、更に状況は混沌へと突き進む。
「!! ハリベル様! 大型艦のジャンプアウト反応! ラディ・シャンクの船ですわ!」
「リョーコの船に通信を繋げ」
第一目標が出てきた以上、瀬戸は動く。
即座にそう判断したハリベルはリョーコだけでも逃がそうと、すぐに指示を出した。
その頃、リョーコの船は異様な熱気に包まれていた。
いつものリョーコや部下達ならば、普段絶対に見せない興奮を曝け出して、目の前のスクリーンに映る輸送艦のみに囚われていた。
「へへっ! 逃がさねぇぞ!」
「連中はもうジャンプ出来ないみたいだな!」
「誰にも譲らないわよ……フフフ」
リョーコは舌なめずりしそうなほど興奮していた。
その時、リョーコの目の前にモニターが起動し、ハリベルの顔が映し出された。
「っ!?!? ハ、ハリベル様!?」
『何をしている。その輸送艦は、四百もの海賊艦で追うほどの物か?』
「それは……!! っ!! 四百!?」
リョーコは一瞬言い返そうとしたが、すぐさまハリベルが告げた事実に興奮が一気に冷め、背筋に強烈な悪寒が走る。
「緊急ジャンプ!!」
「は、はい!!」
ハリベルから位置座標データを受信した直後に、周囲に離脱信号を発しながらジャンプインするリョーコの船。
しかし、他の海賊達はリョーコ達の離脱と送られた信号を鼻で笑い、輸送艦を追いかけ続けるのだった。
その数分後、地獄に落とされることも知らずに。
ハリベルのすぐ傍にリョーコの船が現れる。
額に玉のような冷や汗を浮かべ、艦長席で崩れ落ちたように座り込んでいるリョーコ。
他のクルー達も椅子にもたれかかったり、頭をすっきりさせるために頭を振るなどして、先ほどの異様な状況にようやく自分達がおかしかったことを理解した。
その様子を見ていたハリベルが、落ち着かせるように声を掛ける。
『……興奮は冷めたか?』
「……はい。感謝致します、ハリベル様。何故あのような……」
理性は取り戻したが、先ほどの異様な興奮の原因が分からず、未だに頭の中は混乱していた。
今でもスクリーンには、海賊がドンドン群がり、更にはラディ・シャンクの船を攻撃して撃沈してまで輸送艦を追いかけようとする異常なほど集まった海賊達の様子が映されていた。
ギルドの抗争でもないのに、ギルドの部下からも攻撃を受けて炎に包まれていくラディ・シャンクの船。
これが抗争時や逃走時ならばわかるが、獲物、それも輸送艦1隻を追うだけのために起こることではない。
もちろんラディ・シャンクはそれだけ嫌われていたのも大きな要因だが、もしギルドに戻った後に『裏切った!』と責められても言い訳が出来ない。
本来なら、ラディ・シャンクを援護しなければならないのだから。
そしてギルドに属していない海賊達は、ギルドから報復されてもおかしくない。
それを厭わないのだから、やはり異常な状況だった。
『あの輸送艦の荷を知っているのか?』
「……いえ。ただ……あれだけの海賊が血眼で追っているのだから、と……」
『はぁ? おいおい、リョーコ。本気で言ってんのか?』
『……お前達らしくもない。……いや、お前達だけではないか』
「あそこにいる全ての海賊が……ですね」
「!! あの宙域に高重力波エネルギー反応!! 皇家の船です!!」
「っ!!」
部下の報告に目を見開いて、スクリーンに目を戻す。
直後、GP輸送艦と海賊達の間に、瀬戸の水鏡がジャンプアウトする。
その重力波にその場にいた全ての海賊艦を十数秒間、操艦不能に追い込む。
そして、全ての海賊艦に高出力の通信コードが送られてきた。
表示されたのは『ZZZ』。
樹雷の鬼姫、神木・瀬戸・樹雷の代名詞ともいえる撃滅信号【ジェノサイド・ダンス】である。
その瞬間、四百もいる海賊艦ほぼ全てが、動力炉とエネルギー経路を全て停止させて降伏を示す。
それでも逃げようと足掻いていた十数隻は、一瞬で問答無用で撃沈され、近くにいた降伏した海賊艦にいたクルー達はその音と振動が聞こえて顔を真っ白にして震える。
それは運良く助かったリョーコ達も同様で、ハリベル達も流石に眉間に皺を寄せる。
『……リョーコ、別れて少し離れるぞ。鬼姫の艦隊に気づかれるやもしれん』
「わ、分かりました。お気をつけて」
『お前も、深追いはするな』
ハリベルが通信を切った瞬間、スクアーロンがジャンプインする。
リョーコも冷や汗を拭って、まずは全力で安全宙域まで避難することに意識を集中するのだった。
ハリベルは少し離れた宙域に移動して、陰影航行に移行する。
「ふぅ~……なんかよく分かんねぇうちに終わっちまったけど……」
「ラディ・シャンクだけどころか、リョーコ以外の船全部捕縛・撃沈しちまったねぇ……」
「あの輸送艦、実は樹雷の偽装艦なのでは? もしくはGPとアカデミーの新型兵器ですか?」
「……そのようなものが使われるとは聞いていない。あんなものがあるのならば、ここまで時間をかけて偽情報を広める必要もなかったはずだ」
「……そう、ですね」
「……徒波。あのGP輸送艦の航路を調べろ。特にあの宙域に入る直前の航路だ」
「承知!」
「ハリベル様?」
ハリベルはどうにも嫌な予感が頭から離れない。
その理由を知るための情報を少しでも集めたかった。
そして、そのきっかけは狙い通り徒波から報告される。
「主様! あの輸送艦は直前に予定航路を外れ、地球に寄っておりまする!」
「GP輸送艦が地球に!?」
「なんでだ?」
「……まさか……」
ハリベルはすぐさま地球のノイケに連絡を取る。
『ハリベルさん? どうかされましたか?』
「今すぐ山田西南の所在を探れ。宇宙に上がっている可能性がある」
『ええ!? 西南さんが!?』
「半日ほど前にGP輸送艦が地球に寄っている。その輸送艦が四百を超える海賊を引き連れて、神木瀬戸に保護された。柾木水穂には私が連絡を取る。お前は柾木天地と共に正木の村と山田西南の家を調べてくれ」
『四百!? 瀬戸様に!? わ、分かりました!』
ノイケは慌てて頷いて通信を切る。
ハリベルは小さくため息を吐いて、即座に水穂と瀬戸に連絡を取る。
すると水穂からの通信は遮られ、瀬戸に繋がった。
『なにかしら? ハリベル殿』
「輸送艦に山田西南という地球人はいるか?」
『あら、よく分かったわね。今、水穂ちゃんがお迎えに行ってるわ』
「……本当に上がって来ていたのか……」
『ハリベル殿は会ったことあるの?』
「……ああ。柾木天地の幼馴染で、弟のような存在と言っていた」
『へぇ……』
「異常なほどの確立の偏りの持ち主だ。地球ですら、よく生きていたと思わせるほどの悪運らしい。正木月湖の子供とも特に仲が良いようだ」
『ふむ……ということは、天女ちゃんや正木の村の子達は知ってるわけね。ありがとう』
「……どうする気だ? 生粋の地球人ということは、銀河法に違反するが……」
『そこは本人次第ね。何やらその悪運とやらで宇宙に上がったみたいだけど、本人はかなり喜んでるし。それに地球は船穂殿がすでに前例でいるわ。しかも、これだけの海賊拿捕の成果を出したのだから、私が特例申請を書けば、GPやアカデミーも認めるでしょうね』
西南次第と言ってはいるが、瀬戸の顔はニヤケており、明らかに「逃がさない♪」と考えているのが分かる。
ハリベルはまだ一度しか会ってはいないので、止めてやるほど西南の事を知らない。
なので、この場合は天地や月湖達がどう思うかだろう。
しかし、天地や月湖達からすれば、西南が宇宙に残ることを決めれば死別する未来は遠のく。それどころか大手を振って宇宙で会えるのだから、そこまで悪い事ではないだろうとも思う。
「……柾木天地達に恨まれないようにするんだな」
『分かってるわ』
「山田西南が覚えているかどうかは分からんが、私は顔を合わせて名乗っている。私を今後も使うならば、注意することだな」
『ええ、分かったわ』
「では、我々はこれで引き上げる」
『ああ、待って頂戴』
「……なんだ?」
『GP艦をこれから修理させることにしたわ。その後の状況次第では、山田西南殿と美兎跳様を乗せてGP輸送艦だけを先にアカデミーに向かわせるわ。また海賊を呼び寄せるかもしれないから、その時はそのお守りを手伝って欲しいの』
「……はぁ。分かった」
ここで無視して帰って、西南に何かあったら天地が悲しむだろう。
そう考えたハリベルは、ため息を吐いて頷いた。
その後ハリベル達は、徒波に操艦をしばらく任せて、体を休めることにした。
ハリベルは自室に入って一息つくと、もう一度地球に連絡を取る。
『ああ! ハリベルさん!』
「……やはり山田西南だった」
『今、霧恋さんが慌てて出て行きました……。間に合うか……』
「今、GP輸送艦の修理を行っている。間に合う可能性は十分にあるだろう」
『そうですか……』
「神木瀬戸は、山田西南を宇宙に残すつもりのようだ」
『ええ!?』
「捕縛目標だった海賊どころか、宙域にいた四百以上の海賊を摘発出来たからな。あの悪運は神木瀬戸を始め、上の連中にとっては魅力的かもしれん。それに地球の者達と繋がりも深い。柾木遙照の生存公表などに利用も出来るとも考えているのだろう」
『……なるほど』
「山田西南が宇宙に憧れていたという正木月湖の話もある。恐らくは、自分で宇宙にいるように仕向けるつもりだろう。純粋な少年が、数千年生きている妖怪の甘言に勝てるはずはない」
『でしょうね……。こちらの話では、西南さんを送り出したのはご両親なんですよ』
「? 山田西南の両親は宇宙と繋がっていたのか?」
『いえ、純粋な地球人のはずなんですが……。どうやってGPアカデミーの入学パンフレットを手に入れたのか……』
「……どちらにしろ両親は山田西南の悪運を遠ざけたい、というわけか」
『そのようです。実際、西南さんがいなくなってからは盛況ですから』
ノイケは苦笑するしかない。
西南の悪運は、両親の商売にまで影響を与えていた。西南が家にいると、周辺には他に一軒も店はないのに、何故か店に客は来ないのだ。そして、西南が出かけた瞬間、行列が出来るレベルで客が来る。
別に監視されているわけではない。本当に奇跡的にそうなっているのだ。
なので、西南の両親からすれば、西南がいない方が商売は順調になる。
もちろん愛情がないわけではない。むしろ、最大限愛してきた。
だからこそ、引き受けてくれるというならば、追い返されるまで引き受けてもらいたいという思いもある。
そこでうまくやっていけるのならば、西南にとっても自信になる。
追い返されても、今まで通り愛せばいいだけ。
ならば、色んな場所で色んな経験をさせてやりたいのだ。
遠足や修学旅行、運動会や文化祭まで、「来ないでくれ」と言われ続けた西南のために。
ノイケは月湖からそう聞いたのだ。
「……ならば、お前達の方からも神木瀬戸や柾木アイリに釘を刺しておけ。宇宙では私は海賊だ。手助けしたくとも、顔を合わせるのはリスクが大きい」
『分かりました』
「また動きがあれば連絡する」
『ありがとうございます。お気をつけて』
「ああ」
通信を切り、ハリベルは小さくため息を吐いて服を脱ぐ。
部屋に取り付けられているシャワーポッドに入り、液体状ナノマシンで身体を洗う。
一瞬でナノマシンは蒸発して、体の水気が払われる。
裸のままベッドに横になり、部屋の中を加速空間にして体を休めるのだった。
そして、外の景色は変わらないが、時間的に翌朝。
輸送艦の修理を終えた西南達は、瀬戸と別れてアカデミーへと向かい、レーダーに映らない距離からハリベルと水穂の部隊が護衛をすることになったのだが……。
「リョーコを接触させるだと?」
『ええ。本人も気になってるみたいだしね』
ハリベル達もリョーコの船が西南が乗っている輸送艦を監視していたのは気づいていた。
しかし、流石にここで忠告するのは違和感を覚えさせるので、監視に留めるしかなかった。
そこに瀬戸から通信が来て、西南とリョーコを接触させると言ってきたのだ。
「理由は、意図は何だ?」
『西南殿が海賊と出会ってどう反応するのかを見たい、かしらね。それに彼女ならば手荒い真似もしないでしょうし』
「……山田西南が持つ海賊の印象では、リョーコ相手であろうとも靡かない、か」
『
「!! ……なるほど。……それで、リョーコならばあの船が地球に寄ったのは調べているだろうことも含めて、会えば地球人であることも、確率の偏りにも気づくだろうな。その未来の不安定さも、無知さも、重要性も」
『それを踏まえて、あの子がどう動くか。お手並み拝見ってところね。西南殿にとっても、リョーコ・バルタにとっても、いい経験になると思わない?』
「……それは否定しない。しかし、リョーコにそこまで入れ込む理由は何だ?」
『……そうね。あなたも関係ないわけではないし……。これを見たら分かるかしら?』
瀬戸がそう言うのと同時に、ハリベルの前にモニターが展開される。
中身を素早く読んでいくと、ハリベルは目を鋭くする。
「……事実なのか?」
『まだ確定ではないけれど、可能性は非常に高いわ。彼女は滅んだとされている【バルタギルド】総帥の曾孫。そして、そのバルタギルドは今は樹雷自治領で、貴女が保護していた難民の移住先よ』
「……ダ・ルマーはこれを?」
『まだ知らないでしょうね。けど、いずれはバレるでしょう。だから、もう1つの情報も合わせて、こちらに引き込みたいのよ』
「……山田西南との繋がりを手柄として、バルタに恩を売る、か……」
『少しでも友好関係を築いておきたいのよ。言ったでしょ? もうすぐ王制国家として独立するって。そのお姫様が銀河連盟と敵対する海賊のままにするわけにはいかないのよ』
「……はぁ。海賊よりは似合っているかもしれんが……」
この段階でそれを模索するのはリスクが大きすぎないだろうか。
それでも実行する以上、瀬戸には他にも握っている情報もあるのだろう。
『アイリ殿の秘書課にいる以上、西南殿に接触しようとするでしょうね。だから、私達もそれを利用させてもらうだけよ』
「……分かった。ただし、もしもの時は見捨てずに保護してもらう。山田西南と繋がらなくともだ。それを認めるならば、山田西南に関わることは口出ししない」
『分かったわ。あなたがリョーコ殿を逃がしてくれたから出来た可能性だしね。それにさっきモニター越しで話しただけだけど、私もあの子の事は気に入ってるわ。無下に扱わないように気を付けましょう』
「……ならばいい」
普通ならば確約してほしいところだが、互いの立場的に今の言葉の方がまだ信頼できるのだ。
瀬戸であることがそこはかとない一番の不安材料だが、外交に関しては一番力を持っている以上仕方がない。
今後どうなるか怖くもあるが、上手く行けば確かに目指すに足る未来ではある。
妹分のリョーコが幸せになるのであれば、ハリベルも力を貸すのは嫌ではない。
しかも、その相手が天地の弟分だ。
いずれ天地と自分も含めた4人で顔を合わせて話す時が来るのか。
それを想像したハリベルは、自然と小さく笑みを浮かべる。
口元を隠す詰襟のおかげで、その笑みが瀬戸やアパッチ達にバレなかったのは、不幸中の幸いだった。