天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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パニックパニック

 喫茶店を出た西南達は、舞台がある広場にいた。

 

 一段下がった場所にある舞台では、サンバのように露出が激しい衣装を着た女性ダンサー達が踊っていた。

 

 ここは飲み物などがタダで、夜中になると一般人も混ざって踊れる無料ディスコのような場所でもある。

 ケネスとラジャウは相変わらず紙袋を被ったまま、ストローを口元に差して器用に飲みながら広場の雰囲気を楽しんでいたが、どう見ても周りからは注目されており、西南は非常に居づらそうだった。

 

 自分だけ顔を晒されているのも恥ずかしいのだろう。

 

 ハリベルは空間迷彩を起動したまま、広場を見下ろせる場所で腕を組んで立っていた。

 目の前にはモニターを起動しており、霧恋達や人間狩りの攻防を観戦している。

 

 といっても、いくら人間狩りのプロでも瀬戸に育てられた霧恋達に勝てるわけはなく、猛スピードで悪質な人間狩り達を示すマーカーが消えていく。

 

 それでも国に雇われたプロもいるようで、霧恋達の動きに気づいて西南の悪運の引力に逆らって脱出する者も数名いた。

 その時、鷲羽から通信が入る。

 

『お疲れ。大変だったね』

 

「……大したことはしていない」

 

『まさか、ここまでとはね~。流石の私も笑うしかなかったよ』

 

「それで? 何の用だ?」

 

『ちょっと相手してほしい奴らがいるんだよ。今動いてる瀬戸殿の部下じゃ逃がしそうでね。逃がすとちょっと西南殿にとって面倒そうでさ』

 

「……分かった。捕縛でいいのか?」

 

『ああ、どっちでも問題ないよ。それが終わったら、引き上げていいってさ』

 

「ああ」

 

 通信が切れると、即座に表示しているマップデータにターゲットが白く点滅する。

 確認したハリベルは即座に高速で飛び出し、10秒もかからずにターゲットが潜んでいる部屋に窓から突入する。

 

「っ!?」

 

「な、なに!?」

 

 部屋の中には2人の男女がいた。

 

 左手で虚弾を放って、女の腹部に直撃させる。

 

「がう!?」

 

 女はくの字に吹き飛んで、部屋の壁を突き破って廊下に飛び出した。そのまま反対側の壁に叩きつけられて、気を失う。

 

「この!」

 

 男が銃をハリベルに向ける。

 

 ハリベルは右手に黒く輝く光剣を生み出して、素早く振るって男の両腕を斬り落とした。

 

「ギャアアアア!! ゴッ!!」

 

 左掌底で男の顎を跳ね上げて倒したハリベルは、迷彩を起動させながら窓から飛び出して次のターゲットへと向かう。

 

 次のターゲットは路地裏にある地下倉庫にいた。

 

 飛んでいた勢いを利用しながら、両足を揃えて体を捻って高速で回転を始める。

 それと同時に黒いエネルギーを足先から纏っていく。

 

「《虚槍(ランサ)》」

 

 黒い投槍となって重厚な扉を蹴り破って、突入する。

 

 中は様々な機材が設置されており、様々なモニターが稼働していた。

 モニターの前には5人の男が座ってコンソールを操作しており、その背後に3人の男がいた。

 

「誰だ!!」

 

「くそっ! どうやってここが!」

 

「データを消せ!」

 

「脱出ポートも動かせ!」

 

 突如破られた扉に、男達は慌てて撤収作業に入った。

 しかし、コンソールを操作している男達が突如真後ろに頭を仰け反らして、椅子から体を浮かせる。

 

 そして、男達の真上にはハリベルが両脚を折り畳んだ姿で浮かんでいた。

 ハリベルは男達の顎を高速で蹴り上げたのだ。

 

「なぁ!?」

 

「くそっ!」

 

「撃て! 奴を殺すのと一緒に壊せ!」

 

 男達は銃を懐から取り出して、銃口をハリベルに向ける。

 その瞬間、ハリベルの左足から黒いエネルギーが噴き出して、足の甲に鎌のような光剣を形作る。

 

「《虚鎌(グアダニャ)》、《針虚弾(バラ・アグハ)》」

 

 鋭く左脚を横に振り抜く。

 先頭にいた男2人の銃が銃口部分で上下に切り分けられ、左人差し指を一番後ろにいる男の銃に向けて針のように細長いエネルギー弾が放たれて銃口に突き刺さって、銃が爆発する。

 

「ぎゃあ!?」

 

 一番奥にいた男が右手を押さえて悲鳴を上げ、銃を切られた2人は目を見開いて固まる。

 その隙を逃さず、ハリベルは戦闘にいた男2人の首筋に手刀を叩き込み、右脚を突き出して奥にいた男の鳩尾に突き刺す。

 

「ぐぶ!」

 

 男は後ろの壁に叩きつけられて崩れ落ちるが、気を失ってはいなかった。

 ハリベルは左足を男の顎に繰り出して、男は横に倒れて意識を失う。

 

 そして、次に向かおうとした時、

 

「止まりなさい!」

 

 呼び止められて、ハリベルは入り口に顔を向ける。

 

 蹴り破って倒れた扉の上に、鋭い目でハリベルを見据える霧恋がいた。

 

「……ちっ」

 

「……何者?」

 

 霧恋はたまたまこの近くを通りがかり、戦闘の気配を感じて駆けつけてきたのだ。

 

 素早く中に倒れている男達や機材を見渡して、

 

(ここは犯罪組織の拠点……? でも、ここのことはリストに挙げられてない。……樹雷やアカデミーの情報網ですら掴めなかった場所をどうやって……?)

 

 霧恋が考察していると、ハリベルは弱めの虚弾を撃ち出す。

 霧恋は軽々と躱し、反撃に出ようとするが、その時にはすでにハリベルは目の前にいた。

 

「!! (速い……!)」

 

 驚きながらも両腕で頭と胸を庇う霧恋だが、ハリベルはそれ以上攻撃せずに急転換して入り口から外へと飛び出していった。

 

「しまった!!」

 

 慌てて追いかけるが、すでにハリベルは空間迷彩を発動して上空へと飛び上がっていた。

 霧恋は歯を食いしばるも西南を探すことに優先し、GP隊員をここに呼ぼうとしたが、そこにGP隊員達が駆けつけてきた。

 

「ここはお願いします!」

 

 疑問は感じたが、それよりも西南のことが頭でいっぱいだった霧恋はすぐさま駆け出す。 

 

「あっ! お待ち…くだ……さい……」

 

 GP隊員が呼び止めようとするが、すでに霧恋はいなくなっていた。

 ウィドゥー自首について報告しようとしたのだが、目すらも合わせてくれなかった。

 

 GP隊員はため息を吐いて仕事に戻り、ハリベルが倒した犯罪者を捕らえることに専念する。

 ただし、GP隊員もハリベルの存在は知らないので、犯罪者達を倒したのは霧恋だと思い込み、あまりにも一方的だったと思われる倒し方にGP隊員達は「絶対に怒らせないようにしよう」と恐怖を覚え、誤解される霧恋だった。

 

 その後、霧恋は広場で西南を発見し、保護に向け動き出すのだが、色々と邪魔が入って西南を取り逃がしてしまうのだった。

 

 

 

 ハリベルは鷲羽に指示された者達を全て撃退し終え、西南がいた広場から少し離れた高層ビルの屋上に腕を組んで立っていた。

 

「スクランブルの方はもういいのか?」

 

『まだガンガン継続中よ。マスターガードもシステムを占拠したままだし……。まだ大捕り物は続いてるし、困ったもんよ』

 

 アイリはため息を吐く。

 その様子からはウィドゥーの自首については影響がないように見えるが、恐らくまだマスターガードへの対処に意識を向けることで後回しにしているのだろうとハリベルは推測して、話題に出すことはしなかった。

 

「白眉鷲羽に言われたターゲットの排除は終えた。私はここで撤退する」

 

『ええ、ありがとうね。報告はこちらが落ち着いてからでいいから』

 

「ああ」

 

 アイリとの通信を切って、ハリベルはゆっくりと浮かび上がる。

 その時、西南の気配が地下に降りていくのを感じとった。

 

 それに眉を顰め、マップデータを起動する。

 霧恋達はまだ動き回っており、保護されたわけではないようだ。

 

 アイリに連絡を取ると、

 

『ああ、そこならエルマの拠点よ。あの子なら問題ないわ』

 

 ということだった。

 

 エルマと言う名前にハリベルは無意識に眉間に皺を寄せるも、哲学科にいる以上仕方がないことかと諦めることにした。

 

 エルマはリョーコのもう1つの姿である。

 ワウ族の姿をしており、パーソナルすらも誤魔化せる特殊な改造を施している。

 もちろんアイリ達はエルマの正体に気づいており、それを利用してある程度情報を海賊側に流しているのだ。

 

 なので、エルマが西南に危害を加えることはないだろう。

 

 ハリベルは転送ポートに入って、アイリの第一工房に移動する。

 スクアーロンの自室に入って、義体と本体を入れ替える。

 

 すると、水穂から水鏡に来てほしいと連絡が入り、チョビ丸を経由して、水鏡のブリッジへと移動する。

 

 

 

 その頃。

 ようやくリストに挙げられていた犯罪者を全員捕まえた霧恋達。

 

 霧恋は早く西南を追いかけたかったが、それと同じくらい気になることもあった。

 

「玉蓮、火煉」

 

「なに?」

 

「どうしたの?」

 

「アイリ様や美守様から私達以外に誰か派遣したって聞いてる?」

 

 その質問に玉蓮達は首を傾げる。

 

 2人の反応を見て、霧恋は先ほどのハリベルとの遭遇について話す。

 

(けど……どこかで見たことがある気がするのよね……)

 

 流石にそこまでは話さなかったが、霧恋は必死に記憶を探る。

 火煉達も腕を組んで悩まし気に眉間に皺を寄せる。

 

「かなりの実力者だったわ。あんな奴がリストに挙がらないなんて、いくら何でもおかしいわ。リストに乗ってて、私達が見逃したならありえるけど」

 

「美守様の部下……じゃないわよね」

 

「だったら、堂々とGPとして働いてるでしょうしね」

 

「アカデミーにあれだけの者を動かせる奴がいるかもしれない……」

 

 その手はいつか西南に向けられるかもしれない。

 そう考えたら顔が険しくなり、周囲がビビるほどのプレッシャーを放つ霧恋。

 火煉も流石に少しビビりながら、声を掛ける。

 

「霧恋霧恋。とりあえず、報告に行くよ」

 

「私は西南ちゃんを探しに行くわ! あとはお願いね!」

 

「駄目よ。あなたが作戦責任者なんだから」

 

 玉蓮がすばやく霧恋の手を掴んで、引き留める。

 

「放して玉蓮! 西南ちゃんを捜して保護しないといけないのよ!」

 

「西南様なら雨音カウナックさんと一緒なのでしょう? 大丈夫ですわよ」

 

「じゃあ、もう安全じゃないか」

 

「安全じゃないわよ!」

 

「「はぁ?」」

 

 玉蓮と火煉は顔を見合わせる。

 

「教師にあるまじき恰好をした女が連れてるのよ!? 危険に決まってるでしょう!」

 

 先ほど見かけた雨音は胸元が大きく開き、スリットが入っているドレスを着ていたのだ。

 明らかに性欲を煽る服装で、霧恋からすれば気が気ではないのだ。

 

「別に西南様から手を出すわけはないし、雨音カウナックだって教師になるんだし、そこまで節操がない女じゃないだろ?」

 

 雨音はこれまで浮いた話は一切ない。

 それどころか瀬戸のお見合い話を全て躱し続けているほどである。

 天南静竜との婚約話もあるが、それは静竜が勝手に吠えているだけで、いつも雨音に容赦なくブッ飛ばされてるので誰も信じていない。

 

「あら、でも雰囲気に流されるかもしれないわよ? 西南様って……恥ずかしがるととってもそそられるし♡」

 

「なっ!? なんでそんなこと玉蓮が知ってるのよ!」

 

「水鏡にいらっしゃった時に接待したって聞いてませんの?」

 

「なぁ!?」

 

「ああ、もう! 早く報告に行くぞ!」

 

 痺れを切らした火煉が霧恋の腕を掴んで引っ張り出す。

 

「放して! 西南ちゃんに何かあったら、西南ちゃんのご両親になんて言えばいいのよ!?」

 

「立派な男になりましたでいいだろ!! アカデミーに入って喜んでるみたいなんだから、そのくらいで悲しむご両親じゃないよ!」

 

「ああああああああああ!」

 

 火煉の言葉に変な声を上げて振り払おうとする霧恋を、火煉と玉蓮は無理矢理車の中に放り込むのだった。

 そして、向かった先で顔を顰めて立っていた雨音を見て、呆然とし、西南といるのは偽装したエルマであると気づいて飛び出すのだが、その時にはすでに西南はエルマの拠点に連れ去られていた。

 

 

 

「お疲れ様」

 

 水鏡のブリッジには瀬戸の他に夜勤のオペレーターと水穂、アパッチ達がいた。

 

 瀬戸はすぐ横のソファを勧めるが、ハリベルは瀬戸の近くで立ち止まる。

 

「相変わらず強情ねぇ」

 

「距離を誤りたくはない」

 

「けど、まさか本当にウィドゥーが現れて、しかも自首するなんてねぇ……。西南殿と何かあったの? 美守殿からも報告は来てるけど、詳しくは聞いてないのよ」

 

「大したことではない。山田西南の理不尽な悪運を、本人の傍で目の当たりにしただけだ。それがウィドゥーにとっては、人生を変える程の衝撃だった。……それだけのことだ」

 

「なるほどねぇ。ウィドゥーは美守殿に西南殿に捕まったと明言したそうよ。これでウィドゥー逮捕の功績は西南殿のもので、彼女の資産の半分が報奨金になるわ。さらに今回捕まえた連中に関しても、西南殿の成果とされるでしょうね。まぁ、そっちの報奨金が出る可能性は低いでしょうけど」

 

「……もし私以外の子飼いの海賊がいるならば、忠告しておけ。山田西南に手を出すな、とな」

 

「……あら」

 

 瀬戸は僅かに目を見開いて、ハリベルを見つめる。

 水穂やアパッチ達も僅かに驚きを顔に浮かべる。

 

「ただの地球人が……あれほどの確率の偏りを持つ中で、あれだけの純粋さを保ち、何より死なずにこれまで生きて来た事実をウィドゥーも私も甘く見ていた。あれは……お前達や白眉鷲羽よりも遥かに恐ろしい」

 

「……」

 

「山田西南の危機回避能力は、頂神という存在であったり、経験の積み重ねという理由では説明できない次元の力だ。ウィドゥーはそこに敬愛を抱いたようだがな……」

 

 己に倒れてくる巨大な瓦礫を前にして、死に支配されず、逆に死へと飛び込もうとした者に手を伸ばす。

 あれはあまりにも理解不能な動きと確信的な表情だった。 

 

 ハリベルのような現実主義者からすれば、『理不尽』ほど恐れるものはない。

 天地や鷲羽のように『頂神、またはそれを超える存在だから』とまだ無理矢理にでも納得出来る理由がある。

 

 しかし、西南にはそれがない。

 

「あれは見極められるモノではない。柾木天地同様、いずれはGPや樹雷などという枠組みでは囲いきれない存在となるやもしれん」

 

「……あなたにそこまで思わせるとはねぇ……」

 

「瀬戸様!」

 

 オペレーターが突如声を荒らげる。

 それに全員が意識をそちらに向ける。

 

「どうしたの?」

 

「人間狩りに捕まった山田西南君のパーソナルデータが疑似人格を得た直後暴走! とてつもない数のウイルスデータに感染したまま、暴走していた33のマスターガードを全て突破!! 哲学科の集積用サーバに侵入して、全データをミラーごと破壊しました!!」

 

「……うわ……」

 

 流石の瀬戸も小声を漏らすのが精いっぱいで、水穂達は絶句するしかなかった。

 

「スクランブルは解除され、サーバーは物理的に遮断されましたが、山田西南君のパーソナルは逃げられたようです。現在も捕捉できていません」

 

「となると……アカデミー全体にも影響が出かねないわね……。内部は今回の大量逮捕でそこまで問題ないでしょうけど……」

 

「外からの侵入などは手が足りないかもしれませんね」

 

「水穂ちゃん。兼光殿にすぐに動けるように声を掛けといて頂戴」

 

「はい」

 

「それにしても……疑似人格を植え付けたパーソナルまで、悪運を発揮するとはねぇ」

 

「……ウィドゥーが自首した時点で、山田西南を押さえておくべきだったか……」

 

 ハリベルはため息を吐いて、霧恋に心の底から同情する。

 今、何をしているのかは知らないが、恐らく必死に西南を追っているのだろう。

 そう考えた時、ハリベルはある可能性に思い至る。

 

「……この事実が広まれば、山田西南はアカデミーを追い出されるのではないか?」

 

 大規模戦闘要請を引き起こし、大量の犯罪者を呼び寄せ、トドメにはアカデミー全体に影響を与えるほどのシステム障害だ。

 アカデミーを訪れて、たった1日でこれなのだ。

 それが2年間となれば、いくら瀬戸やアイリ、美守が守ろうとしても、守り切れないだろう。

 

 そして何より、霧恋が追い出すように仕込むかもしれない。

 

「そうねぇ……。ちょっとアイリちゃんに相談してみるわ。鷲羽ちゃんの名前でも使わせてもらうかしら?」

 

「……白眉鷲羽は行方不明扱いなのだろう?」

 

「だからよ。白眉鷲羽なら何かを仕掛けていてもおかしくはないってね! あはははは!」

 

 瀬戸はケラケラと笑う。

 ハリベルはため息を吐いて、アパッチ達に顔を向ける。

 

「スクアーロンに戻れ。チョビ丸に向かう」

 

「……いいんすか?」

 

「むしろ今のうちにここを離れるべきだ。しばらくはアカデミー周辺は厳戒態勢になるだろう。スクアーロンを出しにくくなる。それにこれ以上アカデミーで私達が出来ることはないし、アカデミーに侵入しようとする海賊の相手をするわけにもいかん」

 

「確かに……」

 

「構わんな?」

 

「ええ。問題ないわ」

 

「行くぞ」

 

「「「はい」」」

 

 瀬戸と水穂の了承を得て、ハリベル達はスクアーロンに戻って、アイリの工房を出てチョビ丸へと向かうのだった。

 

 

 

 チョビ丸に到着したハリベルは、アパッチ達に休むように伝え、ハリベルは地球に戻る。

 

 地球は丁度夜明けを迎えたところで、居間に出ると天地、ノイケ、鷲羽がいた。

 

「あ、おかえりなさい」

 

「ああ」

 

「ハリベルさん。私はこれからアカデミーに向かいますので……」

 

「アカデミーに?」

 

「瀬戸様と美守様から、防衛の援軍を依頼されまして」

 

 ハリベルが動けないので、代わりにノイケがということらしい。

 

 ちなみに天地は畑仕事ついでに畑の育成が芳しくない作物の土壌調査に向かうところだった。

 そのため、鷲羽も付いて行くところだったようだ。

 

 ということで、ハリベルも畑仕事に同行することにした。

 

「大丈夫なんですか? 帰ってきたばかりなのに……」

 

「……地球に戻る前に休息は取っている。問題ない」

 

「天地殿。宇宙には加速空間って言う便利なものがあるのさ」

 

 畑に移動した3人は、自然と西南についての話題となる。

 

 ハリベルと鷲羽がアカデミーに到着するまでと昨晩の経緯を、天地に話す。

 話を聞いた天地はやはり顔を曇らせる。

 

「そうですか……。よく無事だったなぁ……」

 

「心配?」

 

「……まぁ、西南君の運の悪さを考えると……霧恋さんがいうように地球の方が安全なんじゃないかって……思います」

 

「だ、そうだよ?」

 

 鷲羽はハリベルを見る。

 ハリベルは腕を組んで、天地に視線を向ける。

 

「……地球にいる方が宇宙より安全であることは否定しない。だが……安全であることと幸せであることはイコールではない」

 

「それは……」

 

「一度宇宙を知り、宇宙に残りたいと言った山田西南から、それを取り上げる。例え山田西南の記憶を消去したところで、その事実は消えることはない。その罪を、お前は背負い続けられるのか? 宇宙を忘れた山田西南が『宇宙に行ってみたい』と言った時、お前や正木霧恋は突きつけられる罪に耐え続けられるのか? そして……1人先に老いて死ぬ山田西南を見届けられるのか?」

 

「……」

 

 危険であろうが、弟のように思う西南の人生を大きく捻じ曲げたのであれば、最後まで見届けるべきだ。

 しかも、地球に閉じ込めるのであれば尚更。

 

 柾木勝仁のように擬態して、西南が宇宙の事など考えなくても良いように面倒を見て、悪運からも守ってやり、死ぬのを見届けるのが筋だろう。

 ハリベルはそう考える。

 

 瀬戸やアイリ、美守は少なからず西南の悪運に対して、何らかの対策を考え続けている。

 もちろん西南を危険な目に遭わせてしまうこともあるだろうが、安全策も最大限確保するだろう。

 今回とてハリベルや珀蓮達が派遣されたのがその証拠である。

 

 普通ならば、間違いなく【剣】ではなく【盾】の女官を派遣して終わり、ウィドゥーも逃げ出して終わっていたはずだ。

 

 天地は考え込むように俯く。

 

「何かを奪うならば、何かを与えるべきだろう。身内のように思うのであればな。もしくは、地球に連れ戻した後、山田西南の家族も正木の村の記憶を消して、二度と正木の村に近づかせないことだ」

 

「……そこまで、ですか……」

 

「山田西南が四百もの海賊に追われても、GPアカデミーに入ると決めた。その覚悟をもう少し認めてやるべきだろう。……説得するのを止めろとも言わないがな」 

 

「瀬戸殿やアイリ殿はあの才能を高く評価してるから、そう簡単に逃がさないだろうけどねぇ。くっくっくっ!」

 

「才能……ですか? 海賊や犯罪者を集める能力が?」

 

 流石に鷲羽の言い方に、非難めいた視線を向ける天地。

 これに関してはハリベルも才能という表現が正しいかは疑問なので、口は挟まない。

 

「天地殿……。西南殿はね、とても嬉しそうだったそうだよ」

 

「え?」

 

「瀬戸殿達に礼を言われ、悪運が才能にもなりえると言われた時さ。自分の悪運が誰かの役に立つかもしれないってね」

 

「けど……!」

 

「もちろん、いくら瀬戸殿だって宇宙に居続ける限り命の危険と隣り合わせだってことくらい伝えてるさ。地球に帰るなら、記憶を消すこともね。ちゃんと西南殿に決めさせる機会を与えてる。その上で西南殿は宇宙にいたいって言ったんだよ。アカデミーに到着した後も、地球に帰そうとする霧恋殿の前で、アイリ殿と美守殿にはっきりと入学するって言いきったそうだ」

 

「……」

 

「瀬戸殿やアイリ殿達だって、西南殿の純粋さも大切に思ってるさ。そっちの方がよっぽど価値があるって分かってる。だからこそ、出来る限りの事をしてやりたいって思ってる。後は、西南殿の意思を尊重するか、身の安全を守ってやるかってことさ」

 

 西南を大人として見てサポートするか、子供と見て囲うか、ということだ。

 その言葉の含みを天地は理解し、先ほどのハリベルの言葉と合わせて再び俯いて考え込む。

 

「……でも……心配だなぁ……」

 

 それでもやはり霧恋同様、感情が勝ってしまう。

 こればかりはこれまでの積み重ねが大きく影響しているのだろう。

 

 鷲羽はそんな悲し気な天地の表情に内心悶える。

 そして、ニンマリと笑みを浮かべて、

 

「グフフフ♪ なら、なんとかしてあげましょう。ちょうど、良さげな素材も手に入ることだしぃ」

 

「えっ」

 

 その鷲羽の言葉に天地は憂いの表情を消す。

 ハリベルも訝しむように鷲羽を見る。

 

(明らかにろくでもないことを考えているな……。しかし、良さげ素材とは? ……まさか……)

 

 ハリベルはある推測が頭に浮かんで顔を顰めて、鷲羽に目を向ける。

 その視線に気づいた鷲羽は、顔を向けて更に笑みを深める。

 それにハリベルは推測が当たっていることを理解する。

 

「……本気か?」

 

「グフフフ♪ 意外と上手く行く気がするんだよねぇ。安心しなよ、天地殿。いいお守りを造ってあげよう。この白眉鷲羽がね、くっくっくっ!」

 

「……あの……なにとぞ、お手柔らかに……」

 

「OKOK! ばっちり!」

 

「……私も柾木水穂と連絡を取り、注意しておこう」

 

「……すいません」

 

 嫌な予感しかしないハリベルは天地のために動くことを決め、天地は頭を下げるしかなかった。

 その時、

 

「みゃあ! みゃあ! みゃあ!」

 

 置いてけぼりをくっていた魎皇鬼が泣き叫びながら、猛スピードで走ってきたのだった。

 

 その後はいつも通り畑仕事をして、一度家に戻ったハリベルは台所で1人朝食の用意で動き回る砂沙美の姿を見つける。

 

「……手伝おう」

 

「え? あ、おはよう! ハリベルお姉ちゃん」

 

 ハリベルは包丁を手に取って、並べられている食材を見つめる。

 

「切るくらいならば手伝える。どう切ればいい?」

 

「いいの!? ノイケお姉ちゃんが出かけてるの忘れてたから助かるよー!」

 

 砂沙美は嬉しそうに言い、朝食のメニューと切って欲しい形を伝える。

 ハリベルは手早く包丁を振るい、皮を剥き、鱗を落とし、食材を切っていく。

 その速さに砂沙美も目を輝かせて、調理に集中する。

 

 そこに天地や美星も手伝いに参加する。

 美星が皿を落としそうになった時はハリベルが素早く手を伸ばしてキャッチし、食材や料理が乗った皿を持ったまま転びそうになった時も皿ごと体を支えて美星をサポートする。

 しかし、限界もあるので、

 

「魎皇鬼と遊んでいろ」

 

「ふえ~ん!」

 

 と、面倒になって美星を追い出すのだった。

 

 それに鷲羽は苦笑して、魎呼や阿重霞は呆れを浮かべ、ハリベルの対応がノイケそっくりなのだから尚更だ。

 

 天地も苦笑しながら料理を運び、準備が終わり朝食となる。

 そして、思い思いに食事を食べていると、

 

「……今日はアカデミーの入学式らしい」

 

「え?」

 

 ハリベルが唐突に口を開く。

 それに天地達は顔を向ける。

 

「柾木アイリや柾木水穂に連絡を取れば、見学に行けるだろう。お前は私達とは違って、アカデミーに行っても問題ない立場だ。ノイケも向こうにいるならば、案内や護衛なども問題ない。心配ならば会いに行ってみればどうだ?」

 

「あ……」

 

「鬼姫や柾木アイリ達から、お前の素性は聞いているはずだ。畑仕事ならば私でも出来る。今の山田西南の周囲にいる者や環境を見に行けば、心も落ち着くだろう」

 

 ここで鷲羽などからの報告で一喜一憂するならば、直接会いに行って話をした方がはっきりするとハリベルは考える。

 向こうには天女もおり、天地がアカデミーに行く理由などいくらでもでっち上げられる。

 

 昨日の様子を見る限り、ルームメイトは西南の悪運を知っていても、西南を疎む感じはなかった。

 そういう姿を見れば、天地が抱いている西南のイメージも変わるかもしれない。

 

 天地はハリベルの心遣いに感謝する。

 

「ありがとうございます。でも……今はやめときます」

 

「天地様……。本当によろしいのですか?」

 

「はい。今会うと……やっぱり地球に戻らないかって言っちゃいそうですし。それに……瀬戸様やアイリさんが何か企みそうって言うのも……」

 

「「「あ~」」」

 

 苦笑しながら言う天地の言葉に、阿重霞、魎呼、砂沙美は納得の声を出す。

 鷲羽は苦笑し、ハリベルも小さく笑みを浮かべる。

 

「まぁ、天地殿と西南殿が揃ったら、アイリ殿は確実に暴走するだろうねぇ。アカデミーはアイリ殿のテリトリーだし」

 

「そこにお婆様も飛びつくだろうな~」

 

「下手したら、船穂殿や美砂樹殿達も動きそうだねぇ」

 

「「「「あ~」」」」

 

 今度は天地も納得の声をあげる。

 

「そうなると、霧恋さんが大変でしょうから。ただでさえ、今も一杯一杯でしょうしね」

 

「グフフフ。昨日はアイリ殿に眠らされて、その間に色々と西南殿の悪運が引き起こしたことを隠してたからねぇ」

 

「アイリさん……」

 

「まぁ、西南殿が自分から何かしたわけじゃないし、それに霧恋殿も昨日の騒動の一端に関わってるしね」

 

 霧恋はあの騒動の後、帰宅したところに雨音がアイリから酒をもらったからと会いに来た。

 そして、2人でいがみ合いながらも、酒を飲んだ直後にアイリが仕込んでいたナノマシンで眠らされたのだ。

 

 理由はアカデミーのシステム障害が西南のパーソナルであり、哲学科のサーバーを破壊したことや大量逮捕などの詳細がバレたら、西南はアカデミーを追い出される可能性が高い。

 そして特に問題だった大規模戦闘スクランブルのきっかけは、霧恋の寮のセキュリティーシステムへの不正アクセスでもあるので、霧恋も処罰を受けるだろう。

 そうなれば、西南を推薦した瀬戸の評判も下がり、樹雷の権威にも影響が出る。

 

 しかし、霧恋はそこを度外視して、西南を地球に帰そうとすることは想像に難くない。

 そのため、アイリは手回しが終わるまで霧恋や雨音を眠らせて排除したのだ。

 

「正木霧恋はアカデミーの講師になったそうだ。生体強化をする前に、2人の間で決着はつくだろう」

 

「生体強化する前、ですか?」

 

「生体強化は身体構成すらも変える場所があるからね。寿命が延びるのもそうだけど、病院で検査を受ければバレちゃう可能性があるのさ。西南殿の場合、それは重要だろ?」

 

「確かに……」

 

「まぁ、ぶっちゃけ私が治療すればいいし、医療設備が搭載された宇宙船でも用意しとけばいいんだけどね。霧恋殿からすれば、それも悪運のせいで信用できないんだろうけど」

 

「お前にモルモットにされるって思ってんだろうよ」

 

「ぬはははは!」

 

 鷲羽の肯定の高笑いに、天地はため息を吐くしかない。

 

「けど、西南殿を危険から遠ざけるためには、少しでもデータが多い方がいいのは事実だよ。シミュレーションをしておかないと、予防策を考えようがないからねぇ。まぁ、アイリ殿の部下がパーソナルを取ったらしいから、それを使う予定だけどね」

 

「本当に……お手柔らかにお願いします……」

 

「それは西南殿次第さ。西南殿にとっての『お手柔らか』ってのが、周りにとっては過剰かもしれないからね」

 

「……可能性は高そうだな」

 

 さもありなんとハリベルは思った。

 あれだけの悪運を防ぐためには、人材機材共に超優秀でなければ無理だ。

 

(そういう意味では……確かに正木霧恋と雨音カウナックは適材か)

 

 西南からすれば、美人に囲まれて大変だろうが。

 

 ハリベルの呟きに、天地は違う意味で心配になってきた。

 

 しかし、自分に出来ることはほとんどない。

 ぶっちゃけ、アイリや瀬戸の相手をしてくれて助かるという思いもあったりする。

 

(西南君……頑張ってくれ。……色々と。……ごめん)

 

 と、心の中で小さく謝るのだった。

 

 

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