天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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まさかの日間ランキングに載るとは(ーー;)

ありがとうございます。
今後もチマチマとやっていきます。


また一歩、歩み寄る

 朝食が終わり、砂沙美とハリベルが皿洗いをしていると、ノイケが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり、ノイケお姉ちゃん! 朝ごはんは?」

 

「大丈夫よ。帰る途中で食べてきたわ。ありがとう、砂沙美ちゃん」

 

「うん!」

 

「何か問題はあったかしら?」

 

「大丈夫! ハリベルお姉ちゃんが手伝ってくれたから!」

 

 砂沙美は笑顔で言い、ハリベルは我関せずと皿を洗い続けていたが、

 

「……山田西南の入学式に行かなかったのか? 正木霧恋や雨音カウナックは顔見知りなのだろう?」

 

「美守様からお誘いは受けましたが……やはり砂沙美ちゃんだけに家事を任せるのは心苦しくて。それに今、霧恋さんや雨音と会えば、色々と勘繰られそうで……。雨音の直感は本当に鋭いですからね。嘘を簡単に見破るので、下手なことを話せないんですよ」

 

 ノイケは苦笑しながら理由を答える。

 といっても、美星と言う「機密ってなんですかぁ?」という女がいるため、結局はほとんど雨音には知られているのだが。

 

 どれだけ叱っても「え~、でもぉ~」とぐずり、少しの間は我慢するのだが、結局いつの間にか話しているのだ。

 特に雨音は九羅密家とカウナック家とお嬢様同士で美星と繋がりもあり、同じGPであるということもあって仲がいい。

 その関係で美星とタッグを組んでいたノイケとも仲が良い。

 

 なので、雨音の直感の鋭さも実感しているのだ。

 

「霧恋さんは西南さんのこともありますし、雨音もここに来たせいで一級刑事の昇格が消えて、アカデミー講師ですからね。瀬戸様の養女となった私と会えば、色々と愚痴を言われそうで……」

 

「西南お兄ちゃんを宇宙にいるのを認めたのはお婆様だもんねぇ」

 

「けど、霧恋さんは瀬戸様や水穂様に強く抗議なんて出来ないでしょうから……。地球に来る前、瀬戸様の養女になったばかりの頃にはお互いによく愚痴りあっていたので……。今、愚痴を吐き出させると、それはそれで西南さんのことで変に吹っ切りそうで……。西南さんのことになると妙に思い込みが激しくなると月湖さんからも聞いてましたから」

 

 ノイケは小さくため息を吐く。

 それに砂沙美は苦笑いを浮かべるしか出来ず、ハリベルは、

 

「……しばらく柾木アイリの抑え役は九羅密美守だけか……」

 

「そ、そうですが……GPアカデミーは入学式後からも講義がありますし、アイリ様もアカデミーのシステム復旧や例の哲学科サーバーの件、それに昨日の逮捕劇の後始末など仕事がたんまり残ってますから、しばらくは西南さんにちょっかいを出す余裕はないでしょう」

 

 ノイケはそう言うが、その頃のアイリはがっつり着物を着ておめかしをして、西南の保護者として入学式に出ようとしていた。

 元々アカデミー理事長として出席予定だったので、どっちにしろ入学式に行くので水穂も止めることは出来なかった。

 

 更に昨日の後始末をギリギリまでしていたので、徹夜・オブ・ナチュラルハイになっている。

 それもあって水穂も止めるに止めきれなかったのだ。

 そのしわ寄せは全て西南に向かうのだが、そもそもアイリがそうなったのは西南が原因なので、水穂としては諦めてもらうしかない。

 しかも、ここで止めればガス抜きをする機会がなく、爆発した時どう被害が出るか分からないというのもある。

 

 なので、西南には諦めてもらうしかないのだった。

 

 そして、その入学式でも新たな一波乱が起こるのだが、ハリベル達はまだ知らない。

 

 皿洗いを終えたハリベルは、鷲羽の研究室に呼ばれていた。

 昨日のウィドゥーとの遭遇についてだ。

 

 ハリベルは記憶データを用意しており、鷲羽に手渡す。

 

「準備がいいねぇ」

 

「鬼姫に渡す予定だったからな」

 

「なるほど」

 

「……死刑になるウィドゥーを使って何をする気だ?」

 

 今朝、天地に話していた『良い素材』とはウィドゥーのことだったのだ。

 

 鷲羽は朝にも見せたニンマリとした笑みを見せた。

 

「あれだけの女が西南殿に会って、悪運に巻き込まれただけで自首したんだ。ただの悪運ってだけで終わらせるには惜しいと思ってね。それに美守殿との会話から、ちょっと気になってさ」

 

「……山田西南が生きる世界で共に在ること、か」

 

「ああ。けど、流石に本人をって言うのは、アイリ殿や水穂殿は複雑だろうからねぇ。だから、アストラルを使う予定だよ。記憶も人格も消してね」

 

「……それでも危険があると思うが……」

 

「それは誰のために使うか、だよ。本気で西南殿と共に在りたいなら、人格と記憶がなかろうが西南殿のためなら問題ないだろうさ」

 

「……随分な賭けのように聞こえるが? それに記憶と人格が消えれば、山田西南への想いも消えるはずだ」

 

「まぁね。けど、そこはもう生まれ変わったウィドゥーと西南殿の問題さ。それに人格と記憶が消えたならウィドゥーでもない。危険ってわけでもないと思うよ?」

 

「……はぁ」

 

 言っても無駄だと理解したハリベルはため息を吐く。

 

「柾木天地が山田西南に謝るようなことにならないようにな」

 

「分かってるよ。っと、それと新しい船はもうすぐ出来るよ。あなたの部下達の義体もね。その子達の義体に関しては、新しい船に積んでおくから。使い方はハリベル殿と同じようにするようになってるからね」

 

「分かった」

 

 ハリベルは鷲羽の言葉に頷いて、居間へと戻る。 

 

 そして、天地と共に畑仕事へと向かう。

 

 もはやハリベルが畑仕事を手伝うことは魎呼と阿重霞も文句はない。

 というよりは、文句を言えない。

 明らかに自分達より力になっているからだ。

 

 畑は天地がかなり力を入れて大事にしていると、魎呼達は理解している。

 いくら嫉妬しても、天地の邪魔だけはしてはいけないとようやく学び始めているのだ。

 

 なので、阿重霞や魎呼は家の周囲や柾木神社の掃除がメインの仕事になっており、ハリベルもノイケと砂沙美から「そこまでは手を出さなくていい」と懇願するように頼まれたため、基本的に畑仕事と鍛錬の手伝いがハリベルの仕事になっている。

 掃除までハリベルに手を出されたら、魎呼と阿重霞は本当にただのニートになってしまう。

 

 流石に愛する男が畑仕事をして、一番年下の妹が料理をしてくれているのに、何もしないのはもはや地獄に等しい。

 

 ちなみにハリベルだが、地味に畑仕事が気に入って来ている。

 

 耕す土の匂いや収穫したニンジンの香り、そして風で漂ってくる木々の香りや葉が擦れる音が心地いいのだ。

 

 力強く、されど繊細に鍬を振り下ろして土を耕し、種を植えて土を整える。

 収穫したニンジンの土と払い落として、籠に入れていく。

 その後、収穫した畑の土をまた耕して肥料を撒き、土と混ぜて土壌の栄養状態を整える。

 

 そして、最近始めた新しい作物の畑を見に行く。

 もちろん、まだ一か月と経っていないので収穫など出来ないが、生育状態を確認するためだ。

 

「う~ん……大根とナスってどれくらいがいいんだろうなぁ……」

 

「正木の村で育ててる者はいないのか?」

 

「米や鶏、キャベツなどを育ててる人はいるんですけど……。大根とナスは西南君の店や家庭菜園程度がほとんどですね」

 

「柾木水穂は?」

 

「え? 水穂様、ですか?」

 

「柾木水穂は樹雷で地球の作物を生育して販売していると聞いたことがある。樹雷皇族が口にするものだ。最高峰の育成レベルは間違いないだろう。その味を参考にし、砂沙美やノイケの意見を取り入れていけばいい」

 

「なるほど……」

 

「ノイケならば、すぐに取引できるだろう。ここのニンジンと交換となれば、向こうも喜ぶはずだ」

 

「そうですね。ありがとうございます」

 

 ハリベルの提案に天地は笑みを浮かべて礼を言う。

 それにハリベルは小さく頷くだけで答える。

 

「そう言えば……水穂様は玲亜さんの結婚式に来るって言ってたっけ……」

 

 ちなみに天地の父、信幸と玲亜の結婚式は数日後である。

 その2日前に来ると言っていたので、今週中にはやってくるということだ。

 

 それに今更ながらに不安を感じる天地だった。

 

「ハリベルさん。水穂様ってどんな方なんですか? 瀬戸様の部下をされているって聞いてるんでですけど……」

 

「……神木瀬戸や柾木アイリに比べれば、真っ当な者だ。『瀬戸の良心』とも呼ばれている。……雰囲気としては、第一皇妃船穂と柾木アイリの中間、といったところか」

 

「船穂様とアイリ様の……」

 

 天地からすれば真逆すぎて上手くイメージ出来ない。

 美人であろうことは想像出来るが、性格が真逆すぎてピンとこないのだ。

 

 それを感じ取ったハリベルは、

 

「……お前の母親を黒髪にした、と言う方が分かりやすいか?」

 

「あ……」

 

 ようやく少しイメージが出来た天地だが、天地が抱える母親の清音のイメージは周囲とは乖離している。

 これは幼い頃に死んだことも影響しているし、その後に母親代わりをしてくれていた玲亜の印象と混ざり合っているためだ。玲亜が天地の初恋であったことも大いに影響を与えている。

 それに清音は天地の前では些細なイタズラレベルしか行っていなかったので、天地には『やんちゃ』というイメージはない。

 

 それで少し前に清音の死因について勝仁と信幸から聞かされた時に一悶着あった。

 それについては解決したが、やはり天地の中の清音のイメージはそう簡単には覆らない。

 

「恐らく2日前に来るのも、お前と話したいからというのもあるのだろう。ようやく大手を振って会えるようになったわけだからな」

 

「そう、ですか……」

 

「もっとも……」

 

「え?」

 

「山田西南がこれ以上何もやらかさなければ、だがな。昨日のような騒動となれば、手が離せなくなる可能性はある」

 

「あ~……あははは……」

 

 全く否定できないのは天地が一番分かっている。

 

「西南君が入学式って、何年ぶりだったかなぁ?」

 

 不運が広く知られてからは、周囲の者、果てには学校からも「来ないでくれないか?」と言われてきた。

 西南も自分のせいで迷惑をかけたくないと思っていたので、自主的に学校行事には関わらないようにしていた。

 

 だからこそ、天地はある確信を持ってしまった。

 

「なにか起こりそうだなぁ」

 

 その呟きにハリベルは何も答えなかったが、その数分後に『入学式で爆発事故があり、その時に重大な事項が判明した』と水穂から連絡があり、2人揃ってため息を吐くのだった。

 

 

 

 ハリベルは畑仕事を切り上げて、鷲羽の元に向かう。

 

 そして、鷲羽と共に実体映像通信で水鏡のブリッジに立っていた。

 

 アイリも実体映像通信で参加しており、瀬戸、水穂も含めていつものようなおちゃらけた雰囲気はない。

 

「ホント……西南殿の悪運は色々と隠し事を暴き出してくれるわねぇ」

 

「ある意味、昨日の騒動のおかげで今回のは大きく広まることはありませんでしたが……」

 

 瀬戸のボヤキにアイリが少しでも場を和ませようとしたが、それでもアイリの顔が晴れることはない。

 

「それにしても脳改造された潜在的スパイとはねぇ。しかも、特定条件下でその記憶を構成するとは念入りなこった」

 

 鷲羽は軽く言うが、その内容は恐ろしい物だった。

 

 入学式で西南の悪運により巨大なスピーカーが爆発音の如きハウリングを起こし、爆発したのだ。

 それにより、気絶する者が何十人と出たのだが、そのほぼ全員が何者かによって脳改造を施されていた。

 

 運が良かったのか、アカデミーの医療システムが使用できなかったため、九羅密家所有の医療艦で治療を行ったことでその情報を統制下に置くことが出来た。

 さらには爆発などの振動波で、その記憶を構成する機能が破壊されたため、事前に防ぐことが出来たのだ。もちろん日常生活にも影響はないので、すぐに解放されたが、しばらくは監視下で生活することになる。

 

 問題はその『脳改造』である。

 

「今回だけってわけじゃないだろうね」

 

「職員にも該当者がいますからね」

 

「問題はその技術がどこからかってことね。……美星ちゃんの事件と同じかどうか」

 

「私達が把握している同様の事件は、美星さんのだけ……ですからね」

 

 美星がGP軍からGP警察に異動した原因となり、美瀾や美咲生が美星のためにチョビ丸を動かして天地を暗殺しようとした理由となった事件。

 

 GP軍にいた美星がスパイと銃撃戦になった後、行方不明になり、発見された時は脳改造が行われている最中だったのだ。

 犯人は逃亡。美星は入院して無事に回復し、色々あって天地の家に行くことになったのだ。

 

 その事件に関しての詳細なレポートは一般公開されていない。

 

「……鷲羽ちゃん、データ解析お願いできるかしら?」

 

「構わないよ」

 

「アイリ殿はアカデミー、私達は樹雷、美守殿は九羅密家とGPアカデミー。そして……」

 

「……私は海賊関係で聞き込みをしてみろ、か?」

 

「可能?」

 

「……私が調べられる範囲では難しいだろう。GPアカデミーの入学式という狭い範囲で数十人規模であれば、確実に組織ぐるみだ。考えられるのは……ダ・ルマーギルドだろう。それ以外で私の耳に届くのであれば、お前達が誰も知らないのはありえん」

 

「そうよねぇ……。そっちも少し探ってみましょうか」

 

「まずは同じスパイがどれだけいるか把握することに集中した方がいいね。まだどんな技術が使われているのか、分かってないんだ」

 

「そうね。ありがと、鷲羽ちゃん。それじゃ、まずは状況把握に努めましょう。急がないと、西南殿の悪運がまた何かを引っ張り出すかもしれないものね」

 

「それはそれで、犯人捜しが楽になるかもしれないけどね。あはははは!」

 

 鷲羽が高らかに笑うが、調査をする面々はため息を吐く。

 

「はぁ~……いつ寝れるかしら?」

 

 特にアイリは昨日のシステムトラブルの回復も終わっていない。

 そのシステム回復をする職員も潜在スパイの可能性もあるのだから、厄介なことこの上ない。

 

 ちなみにその原因である西南は、静竜の基礎体力訓練を受けてヘロヘロになっていた。

 生体強化を前提にした訓練なので、西南がついていけないのは当然なのだが、静竜は以前阿重霞の許嫁として地球で天地と決闘をして、美星に負けるという辱め(本人談)を受けてから地球人が嫌いだった。

 なので、西南の心を折ろうとして陰湿なやり方で追い込んでいた。

 

 生体強化をしようにも、そのシステムも故障しているため、現在復旧待ちである。

 

「信幸君達の結婚式もあるから、人に任せられるところは任せないと駄目よ? お母さん」

 

「分かってるわ。天地ちゃんにも会いたいしね。けど、霧恋ちゃんは流石に無理ね」

 

「西南君の傍を離れたくないでしょうしね。それにシステム復旧を手伝ってもらってるのでしょ?」

 

「GPアカデミーの、だけどね。大助かりみたいよ」

 

 母娘の会話を聞いていた瀬戸は苦笑して、

 

「鷲羽ちゃんのおかげで色々と手っ取り早く終わりそうなんだから、文句言わないの」

 

「そうですけどねぇ」

 

 表向きには昨日の騒動は鷲羽の隠していたシステムの暴走とされ、メインシステムに関しては鷲羽が残していた高性能システムが採用されたのだ。

 そのシステムは水鏡にも使われているものの汎用版と言えるもので、今まで使っていたシステムの数倍で機能向上するため、文句は出なかった。

 

 本来ならば霧恋が手伝うことすら問題なのだが、状況が状況なので文句を言う人間はいない。

 復旧に動いている人間全員が不眠不休状態なのだから。まさに猫の手も借りたいのだ。

 

 その後、通信を終えたハリベルと鷲羽は研究室を出て、昼食を迎える。

 

「また西南君のことで何かあったんですか?」

 

 鷲羽とハリベルが席に着いたところで、天地が心配そうな顔を浮かべて言う。

 それに鷲羽が苦笑しながら首を横に振る。

 

「まぁ、西南殿の悪運が原因ではあるけどね。あくまできっかけってだけさ。西南殿は無事だし、これでどうのこうのはないよ」

 

「そうですか……」

 

 ホッとする天地に、魎呼は呆れを浮かべる。

 

「それにしても西南の奴……ここまで運が悪ぃとはなぁ。地球にいる時はここまでじゃなかったぜ?」

 

「うん……怪我や乗り物のトラブルはともかく……。犯罪者を引き付けるだなんて……今まで一度も……」

 

「いや、実は西南殿が生まれた頃から、地球周辺で海賊が頻繁に近づいてくるようにはなってたよ。そこまで多くないからすぐに捕縛されていただけさ」

 

「え!?」

 

「霧恋殿が宇宙を知ったのだって、生物兵器が正木の村に紛れ込んだのが原因だよ。それも西南殿が生物兵器に襲われそうになったところを助けようとしてね」

 

「そ、そんな……」

 

「まぁ、地球に下り立ったのはそれだけらしいけどね。兆候自体はあったようだ」

 

「……けど、宇宙に行っただけで、そこまで犯罪者が集まるなんて……」

 

「……恐らくは宇宙と地球の環境の違いだろう」

 

 ハリベルの言葉に、天地達は顔を向ける。

 

「地球、そしてこの正木の村周辺は、通信機能や情報収集する手段が宇宙に比べて非常に未熟だ。そのため、犯罪者達が山田西南のことや正木の村の価値を知る術が少ない」

 

 山と農村である正木の村周辺は、監視カメラもなければ居酒屋もない。

 なので、情報を集める術は実際に見に来るしかなく、そうすれば非常に目立つ。

 

 もちろん、これは正木の村の真実を隠すためだ。

 

「宇宙で山田西南が海賊に襲われたきっかけは、悪運による通信傍受だ。そして、九羅密美兎跳が乗っていたことで海賊に降伏できないと判断したこと。昨日の騒動は、海賊の大量捕縛という功績が出来たからだろう。そこから考えれば、海賊や犯罪者を引き付ける要因は、それだけの価値があるものが、山田西南の近くにあることと考えることも出来る」

 

「なるほど……。つまり、海賊が地球に近づいてきたのは……」

 

「樹雷第一皇妃・船穂の出身星と言う情報だろう。他にも正木の村の者達が宇宙で名を馳せた事。可能性があるのは、柾木アイリの娘である柾木清音、孫の柾木天女、正木月湖と言ったところか……」

 

「月湖おばさんもですか?」

 

「正木月湖はアカデミーにいたことがある。それなりに注目を集めていたようだ」

 

 美人ということもあり、更には夫で霧恋の父でもある男性のこともある。

 それなりに地球と言う星は有名だったのだ。

 

「山田西南はこの近くから離れたことがほとんどない。そのせいで地球の犯罪者は近寄る理由を見いだせなかっただけだろう。しかし、宇宙では簡単に情報は広まり、アカデミー生のプライバシーなど哲学士やプロならば簡単に丸裸に出来る。それにより常に山田西南の居場所を知ることが出来る。だから、海賊や犯罪者も群がる、ということだ」

 

「ふむ。それも一理あるねぇ」

 

 鷲羽がハリベルの考察を聞いて頷く。

 

「けど、それはやっぱり西南君が宇宙にいるのは危険ということじゃ……」

 

「地球に戻しても変わらんだろう。記憶も消したという情報を広めたとしても、海賊達にはすでに山田西南を狙う理由がある」

 

「……」

 

(恐らく山田西南の悪運は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう)

 

 無事にアカデミーに美兎跳と行く。そう考えたから、更に海賊を更に引き寄せた。

 早くアカデミーに入りたい。そう考えたから、偽装海賊艦とニアミスして病院送りにされた。

 楽しくアカデミーの夜を過ごしたい。そう考えたから、あの騒動が引き起こされた。

 

 これまでの学校行事なども『行けるなら行きたい』と思っていたに違いない。

 だから、雨や設備のトラブルなどが起こった。

 

 人を巻き込みたくないと思っているからこそ、人を巻き込んでしまう。

 

 ずっと行きたいと願っていた宇宙に来て、瀬戸やアイリに才能と認められた場所を手放したくない。

 

 西南が初めて諦めきれなかった願望でもある。

 

 だからこそ、悪運の振り幅は大きいのだろう。

 

「だが、その悪運をカバー出来るだけの人脈を引き寄せているようにも見える」

 

「グフフフ♪ 瀬戸殿にアイリ殿、美守殿だからねぇ」

 

「オメェもだろ?」

 

「霧恋さんに雨音、瀬戸様の部下も動いてますしね」

 

「ハリベル殿もサポートしてくれてるし、最悪魎呼や魎皇鬼も動かすさ」

 

「……ま、知らねぇ仲じゃねぇしな……」

 

 魎呼は封印されている間、アストラルで天地の事を観察していた。

 もちろんその中には西南の姿もあった。

 天地と西南が仲良く遊んでいる姿もよく眺めていた。

 

 なので、魎呼にとっては西南も子供の頃から知っている可愛い子なのだ。

 

「少なくとも今の所は友人とも仲良くやっているようだよ。それに……グフフフ♪」

 

「な、なんですか?」

 

「入学式の後、先輩の女の子と見つめ合っていたそうだよ? それも去年のミスGPアカデミーの美人さんだってさ」

 

「せ、西南君がですか?」

 

「そんな驚くことじゃないと思うけどねぇ。霧恋殿に雨音殿もいるし、それにアイドル海賊って呼ばれてる子からも誘惑されたそうだよ? 西南殿の護衛についている瀬戸殿の部下もそれに負けない綺麗所だし。おっと、瀬戸殿やアイリ殿もいたねぇ、くっくっくっ!」

 

「アイドル海賊、ですか?」

 

「そっちはハリベル殿の方が詳しい、というよりは顔見知りじゃなかったかい?」

 

「……ああ。リョーコ・バルタという魎呼にあやかって名付けられた者だ。ルールを重んじる者で、GP内でも人気があるようだ」

 

「随分と物好きな方がいるものですわね」

 

「うっせぇ!」

 

「今の海賊達の多くにとって、魎呼のことは完全に伝説だ。性格などは知られていない」

 

「確かに、海賊で700年以上ってのは中々いないからねぇ。ハリベル殿もかなり長い方じゃないかい?」

 

「……そうだな。恐らく現役の海賊としては、古参の部類には入るだろう」

 

「まぁ、話を戻して、西南殿は悪運でというよりは、そっちの女関係で妬まれてるみたいだよ」

 

「そ、そうですか……。う~ん……喜んでいいのか……」

 

「霧恋お姉ちゃんは大変そうだねぇ」

 

「みゃあ」

 

 地球ではありえなかった状況に天地達はどう反応していいのか分からなかった。

 

 

 昼食を終えた天地とハリベルは、修行へと向かった。

 本日もハリベルのスパルタが発動して、2時間もすれば天地は大の字で倒れ伏して体に力が入らず、起き上がれなかった。

 

 勝仁は苦笑しながら天地を見下ろし、

 

「まだまだじゃのぅ」

 

「はぁ……はぁ……。んなこと言ったって……」 

 

 ハリベルに完璧に叩きのめされて、全身が痛かった。

 どんなに素早く動いても、完璧に動きを捉えられており、間合いに入った瞬間木刀を叩き込まれた。

 

 それを数える気にもならないほどやられた。

 勝てる道すら見いだせなかった。 

 

 すると、ハリベルは天地を肩に担ぐ。

 

「えぇ!? ハ、ハリベルさん!?」

 

「歩くまで回復するのは時間がかかるだろう。さっさと戻って、白眉鷲羽に見て貰え」

 

「で、ですけど……!?」

 

「嫌ならば強くなれ」

 

 恥ずかしがろうとも力が入らない天地は、抵抗できずにハリベルに運ばれる。

 勝仁はそれを瀬戸やアイリに通じる笑みで見送り、うんうんと頷いていた。

 

 家に戻ったハリベルは、休ませるにも汗と土で汚れたままというのも可哀想だろうと思ったが、鷲羽は研究室におらず、家にはシャワーユニットもないので自動で汚れを落とすことも出来ないことに眉を顰める。

 

 天地は未だに上手く体に力が入らない。

 

「あ、あの! こ、ここでいいですから!」

 

 しかし、何故かその抗議は無視される。

 ハリベルは天地を抱えたまま風呂へと向かう。

 そこにノイケが洗濯物を抱えて現れる。

 

「あら、天地様。ハリベルさん」

 

「……柾木天地を風呂に入れる。手伝ってくれ」

 

「「え!?」」

 

「柾木天地はまだ体を動かせない。しかし、このまま寝かせるわけにもいかないだろう?」

 

「ああ、なるほど」

 

「ノイケさん!? いいですから! タオルをくれれば!」

 

 あっさり納得するノイケに天地は慌てて言うが、

 

「そのままお風呂に入って頂いた方が、洗濯物は少なくなりますので」

 

「そ、そうですけど……!?」

 

 天地の抗議は何故か誰も聞いてくれず、ハリベルとノイケに風呂へと攫われていく。

 

 ノイケの手によって、するすると服と下着を脱がされる天地。

 

 何故かノイケの服脱がしはどうやっても抵抗できないのだ。

 ハリベルもラグリマで服を消して裸になり、天地を抱えたまま大浴場に入る。

 

 ノイケも素早く浴衣に着替えて、手伝いにやってくる。

 

 椅子に座らした天地に、ハリベルは湯を操って天地にかける。

 そして、ノイケが手慣れた動きで天地の背中を洗い始める。

 

 その横でハリベルも汗を流し始める。

 

「ノ、ノイケさん。も、もう大丈夫ですから……!」

 

「まあまあ、そうおっしゃらずに」

 

「……お前は何度も女と風呂に入っているのだろう? 私の裸も一度見ているし、今更恥ずかしがることではないだろうに……」

 

「そ、そんなの慣れるわけ……!?」

 

 ただでさえ、ノイケとハリベルは大人の色気が凄まじい。

 プロポーションも柾木家内でも上位の2人だ。

 しかも、普段は魎呼や美星とは違い、普段は風呂に引っ張り込んだり、紛れ込んだりしてこない。

 

 なので、まだこのダブルパンチは天地の理性には厳しかった。

 

 意地で身体の前側を洗われるのを死守した天地。

 しかし、洗い終えるとあっという間に湯船に連れて行かれる。

 

 なんとか腰にタオルを巻いた天地は、顔を真っ赤にしてノイケとハリベルに挟まれていた。

 

 ハリベルは天地に頼み込まれて浴衣を身に纏っていたが、天地は少し後悔していた。

 

(ぎゃ、逆に色気が増した気がする……。ていうか、ハリベルさんって水に濡れてると雰囲気が変わり過ぎるんだよなぁ……)

 

 基本的に女性は濡れると色気が出るが、ハリベルは普段抑え気味なせいか驚くほど存在感と色気が出る。

 

「……ふっ」

 

 天地の様子を横目で見ていたハリベルが、その初々しい反応に思わず笑みを浮かべる。

 

「な、なんですか……?」

 

「あれだけの女の中で、男一人暮らしているというのにな。そこらの男なら、とっくに手を出しているだろうな」

 

「そ、そんなの無理ですよ!? 皆、俺より強いですし、そもそもそんな失礼なこと……!」

 

「失礼、か。男なら、女を侍らせるのが夢だと思うが?」

 

「実際に女性ばっかりになると無理ですよぉ。お姫様とかいますし……」

 

「うふふ。天地様から言い寄るには、魎呼さんや阿重霞さんが喧嘩しそうですからね」

 

「ノイケは柾木天地の許嫁なのだろう?」

 

「それはあくまで建前でしたから。それより、ハリベルさん」

 

「なんだ?」

 

「その……そろそろ天地様を名前だけで呼ばれてはいかがですか? 西南さんもそうですけど、毎回フルネームで呼ぶのは大変でしょうし、妙に距離を感じてしまいますので」

 

 ノイケの言葉に、ハリベルは天地に目を向ける。

 視線が合った天地は頬を赤くしながらも頷く。

 

「一緒に住んでますし……。やっぱり妙に他人行儀なままの感じなのは……」

 

「……分かった。では……私の事も名前で呼べばいい」

 

「えっと……ティアさん、でしたっけ?」

 

「……ああ」

 

 ハリベルはいつも通りの雰囲気で頷くも、内心では少し戸惑っていた。

 

 名前で呼べばいいなど初めて言ったからだ。

 しかも、自然と口にしていたので尚更だ。

 

(……私も馴染んできた、というわけか……。だが……嫌ではない)

 

 ハリベルは胸の中に湧き上がる想いに目を瞑って笑みを浮かべる。

 

 それを見た天地も頬を赤くして、妙に恥ずかしくなってきた。

 

 ノイケはその2人の様子をどこかホッとしたように見つめていたのだが、

 

「こぉら!! ハリベル、ノイケぇ!! なぁに、自分達だけ天地と風呂に入ってやがんだ!!」

 

「みゃあ!!」

 

「抜け駆けは許しませんわよ!!」

 

「う、うわぁ!? み、皆!!」

 

 砂沙美から3人で風呂に入っていると聞いた魎呼達が、慌ただしく風呂へと飛び込んできた。

 

 凄まじい形相で詰め寄ってくる魎呼と阿重霞に、ハリベルはめんどくさげに、ノイケはやや慌てながら言い訳をする。

 

 そして、天地の奪い合い(魎呼と阿重霞の間で)が勃発し、天地がどう逃げようか考えていると、美星が宇宙船で大浴場に墜落してきて、天地達は裸で外に放り出され、ハリベルが天地を抱き抱えて守り、その生々しい身体の感触で天地がのぼせて気絶するという騒動があったが、柾木家としては至っていつも通りの日常が過ぎていくのであった。

 

 もちろん、ハリベルの『天地』呼び、天地の『ティア』呼びでも一騒動起きるのだが、それもまた柾木家の日常として、賑やかに過ぎ去っていくのであった。

 

 

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